駆け抜ける衝撃3
コミック1巻及び書籍1~5巻発売中です。
手に取った事の無い方は是非よろしくお願いします。文章大幅是正、大幅加筆してます。
グラ・バルカス帝国第4師団
空洞山脈の最前線を戦車が進む。
同戦車の車内で、戦車長のマルタと部下が話す。
「あと少しで空洞山脈を抜けますね」
「全く……冗談のような地形だな……」
上を見上げると、石が立体的な編み目のように展開している。
しかし、地面は平野となっていた。
「ムー国の大砲は初速が遅い。我が方を射撃しようと思えば相当に近づかなければならない。
先に我らが見つけ、戦車砲をたたきつける事になるだろうな。
仮に先手を取られても、ムーの大砲ならば我が戦車の装甲に簡単に跳ね返されるだろう」
空洞山脈には上空には網目状の岩石構造があるため放物線を描く榴弾砲、そして上空支援は使えない。
直線的な攻撃が主となるならば、戦車は圧倒的なアドバンテージとなりうる。
そして、他国に戦車を運用している国は把握されていない。
つまりは帝国が最強であり、彼らは圧倒的な自信を深めていった。
戦車長は上部ハッチを開け、外を見渡す。
付近は等間隔で戦車が並び、後ろには装甲車や自動車が続く。
その数は多く、見慣れた彼でさえ圧倒される……。
「帝国はやはり無敵だ。この行軍を止められる者はこの世界に存在しないだろう」
率直な感想。
不意に、前方で光が走る。
「ん?」
付近は光が漏れ出る程度の薄暗さがあり、視界はおよそ1kmといった状態、そのさらに先で何かが光る。
次の瞬間、前方を走る戦車が振動し、金属と金属がぶつかるような音がこだました。
「攻撃か!!!」
攻撃を受けたであろう戦車は突然糸の切れた操り人形のように停車する。
特に爆発した訳では無いのに、突然の停車。
次の瞬間、同時に他10台に同様の現象が起き、停車した。
「な……何が起こった!!」
爆発した訳でも無いのに突然の停車……。何が起こったのかも解らず、隊長車からは状況確認の無線が飛ぶ。
停車した戦車からは応答が無い。
司令を受けた車長のマルタは前方に停車している戦車の側に停車し、同戦車を確認した。
「あ……穴が開いている!!!」
戦車の乗務員室部分に、大きな穴が開いていた。
穴は後ろにも貫通している。
「攻撃だ!!全部隊に無線を流せ!!」
「はっ!!第2戦車小隊から各局、現在攻撃を受けつつあり!!現在攻撃を受けつつあり!!」
無線を流している最中も攻撃は続く。
10式戦車は弾頭をAPFSDS(徹甲弾)からHEAT-MP(多目的対戦車榴弾)弾頭に換え、撃ち続けた。
「何だ!!敵はいったい何台いるんだ!!!」
立て続けに戦車が猛烈な爆発を起こす。
敵の位置がつかめていないが、最前線の戦車たちは、訳もわからずいろいろな方向に砲撃を開始した。
第4師団長ボーグは、味方の混乱する無線を聞いて戦慄していた。
山脈に砲撃音及び爆発音はこだまし、緊張感を増す。
「第1戦車小隊、全滅!!」
「第3戦車小隊、全滅!!」
観測員から緊迫した無線が流れる。
「どうなっている!!何が起こっているんだ!!」
「敵位置、未だ確認出来ず!!なお、砲撃の威力は我が砲を遙かに上回り、正確無比な射撃でほぼ全弾命中しています!!
被害なおも拡大中!!!」
「し……信じられん!!!」
グラ・バルカス帝国の戦車は、前世界においても圧倒的火力を誇っていた。
時速38kmで走り回り、大砲をぶっ放す。
歩兵や非装甲物に対しては重機関銃2機で対応し、1台いるだけで敵は恐れをなす。
正に無敵の地竜であり、相当な戦力と言えた。
今世界においては、向かうところ敵無しであり、量産を行っている。
そんな、無敵であるはずの戦車が……連続して吹き飛ばされる。
「なんて火力だ!!」
これほどまでに戦車が立て続けに沈黙する。全弾命中などという報告は、戦場の混乱から起きたものだろう。敵は、想像を遙かに超える大部隊である可能性があった。ボーグは魂から震える。
付近の地面に爆発は無い。
戦車のみが爆発炎上している現象を見て、戦っている兵らは全弾命中していると判断する。
無線は混信し、戦場に混乱は拡大する。
敵がどこから撃っているのか解らない。
しかし、攻撃してくる大体の方向は理解出来た。
第4師団は大部隊、後退する訳にもいかず、ボーグは決断する。
「全部隊!!全速前進!!!敵を量で踏みつぶせ!!!」
仮に敵が戦車であれば、前進よりも後退の方が遅いはず。
数の暴力で追いつき、敵を殲滅しようと考えた。
グラ・バルカス帝国第4師団の戦車部隊は、友軍が連続して爆発する中、死の行軍を開始した。
「み……見えたぞ!!」
敵戦車に偶然にも、山脈を透して漏れ出た光が差す。
第2小隊、マルタの乗る戦車が敵戦車を発見した。
未だ精強を誇った友軍戦車は爆発し続ける。いきなり人生が終わる可能性という恐怖。
「おいおい、嘘だろ!!」
「信じられない!!!」
敵の量は少数、形はどう見ても戦車だった。
望遠鏡越しに見る敵戦車はどれも帝国の誇る戦車よりも遙かに大きく、大口径砲を搭載している。
しかも驚くべき事に、敵は徐々に後退しながら……そして走行しながら射撃を行っている。 通常の戦車では考えられないような連続射撃、しかし動目標から動目標に、砲が当たるはずがない。
地面は完全な平らではなく、戦車で走ると砲も上下に揺れる。
通常、動く目標に対しては、じっとこちらは静止し、狙いを定めて砲撃する。
それでも動く目標に当てるのは、ベテラン砲術士でも至難の技だ。
しかし、敵戦車は後退しながら……しかもこちらから狙われにくいように、スラロームしながら砲撃をしてくる。
スラロームなどして、砲が当たるはずが無かった。
「そ……そんな、そんなバカな!!!!」
当たるはずの無い砲撃、なおも連続して友軍に着弾する。
恐怖の中、マルタは有ることに気がついた。
「着弾が……重複していない!!!」
通常、攻撃をすれば的は重複する。
混乱する戦場、しかも多数の敵を撃たなければならない状況の中で、大まかな攻撃範囲は設定出来ても、多くいる的が1つも重複する事が無いなど、決して考えられない事であり、どれだけ練度が高くても、実現不可能な現象が眼前で起きていた。
軍事的常識が崩れる。
ボーグは戦慄の中、命令を飛ばした。
「敵の展開面積は狭いぞ!!制圧射撃実施、各自散開して砲撃せよ!!我が方が、物量は圧倒的だ!!
敵の戦車をぶち壊せ!!」
グラ・バルカス帝国の誇る戦車は時速38kmで進軍し、47mm砲を撃つ。
百両を超える戦車が散会し、砲撃が放たれた。
砲弾による暴風……その物量は圧倒的であり、帝国の誇る戦車砲、47mm主砲は、まさに暴風のように吹き荒れた。
友軍が爆発炎上する中、戦車がいるであろう方向に……恐怖のままにただひたすら発射した。
付近には猛烈な爆発音が、こだまし、土煙があがる。
「どうだ……これが面制圧射撃だ!!」
敵が展開しているであろう陣地……指定された場所の面積すべてに攻撃を加える面制圧射撃、物量のなせる技であり、グラ・バルカス帝国必勝の攻撃方法でもあった。
敵戦車のいた方向付近の土は上空に舞い上がり、前方は煙に包まれた。
ゴゴゴゴ……ゴゴゴ……
砲撃音が山脈にこだまし、不気味な音を発す。
「何者か知らんが……さすがに勝ったか」
強敵だった。味方戦車の被害は途轍もない量に上るだろう。
もしも敵戦車が同数いたら、勝負にならなかっただろう。
「強い敵だった……一体何者……」
マルタの考察は強制的に中断する。
右後方を走っていた戦車が爆発と共に四散した。
「ば……バカな!!」
まだ土煙が敵を包んでいるはず。しかし、煙を裂いて砲弾が飛翔し、味方戦車を
砕く。
正確無比な射撃であり、散開して逃げようとした友軍戦車も爆発炎上する。
「どうなっている!!いったい何が起こっているんだ!!!」
自分の軍事的常識ではあり得ない事態が起こっている。
連続して爆発する友軍……。死の恐怖……戦車長のマルタだけでは無く、同乗していた全員の胃がキリキリと痛んだ。
グラ・バルカス帝国陸軍第4師団は恐慌状態に陥った。
「がっ!!」
戦車長マルタの乗る戦車に10式戦車の主砲が直撃する。
強大な運動エネルギーを持った120mm砲弾は、堅い戦車の装甲を何事も無く突破、車内でメタルジェットが暴れまわる。
結果、弾薬に引火し、そのエネルギーを解放する。
急激に膨張した空気は行き場を失い、弱い所へ向かった。
戦車は砲塔が吹き飛び、さらに運の悪いことに、搭載していた砲弾にも引火した。
戦車長マルタとその部下は、猛烈な光に包まれこの世を去った。
陸上自衛隊10式戦車のスコープは悪天候でも、夜でも……さらに霧が立ち込めていても、はっきりと敵を認識する。
優秀な砲安定装置により、揺れる大地を疾走しても、敵から照準を外す事は無い。
スラロームのような動きをしていても、砲塔は常に敵を向く。
FCS射撃管制システムにより、砲の飛翔速度と自分、そして敵の動きを正確に把握し、敵の未来位置に向かって砲弾を発射する。
搭載された120mm滑腔砲の初速はライフル砲を遙かに上回り、その運動エネルギーは強大な破壊力を生み出す。
陸上自衛隊第7師団所属、10式戦車3個小隊12両はグラ・バルカス帝国第4師団の先行戦車部隊200両と交戦、135両を破壊した。
同戦車は作戦目標を達成したため、撤退した。
◆◆◆
戦車大隊は、正体不明の敵に対し、制圧射撃を実施した。
しかし、着弾したのか……もしくは敵が耐えたのかは不明であるが、土煙の中から猛烈な反撃を受ける。
戦車部隊は混乱した。
敵付近に立ち込めていた土煙が晴れた時、すでに敵の姿は確認出来ず。
偵察部隊が付近を捜索するも、敵の発見には至らなかった。
第4師団長ボーグの元に、今回の戦闘状況詳細、そして被害状況の詳細が入り始める。
「なんだとっ!!では、敵の規模、車両等全く解っていないのか!!!」
「詳細を確認出来た者はいません。ただ、敵は戦車を使用していたとの目撃情報はあります。
確認された範囲では、戦車は10両ほどだったとの事です!!」
「その他の敵が確認出来ないというのか」
敵の規模すら判明していなかった事実に愕然とした。
「なお、被害にあっては……」
報告は続く。
戦車は今まで無敵を誇っていた。故に先行させていたが、同戦車ばかりが、135両も大破したという事実、第4師団は半数を超える戦車を失ってしまった。
「師団長、ご決断を!!」
空洞山脈は空から攻撃することが出来ない。
ムー国の航空機であっても、制空権の無い状態で攻撃されると大きな脅威になる。
故に、陸軍としては航空機が介入する余地の無い空洞山脈では大した被害は出ないと試算していた。
ムー国の出来る事と言えば、大砲を隠蔽し、近づいてきたら撃つ。その程度だった。
今回の正体不明の攻撃による被害は甚大、正に「想定外」であり、今後の指示が待たれる。
「まもなく空洞山脈を抜ける。作戦どおり、部隊は侵攻するぞ!!ただし、侵攻速度を落とし、バイクによる偵察部隊を、増員、最大の警戒をもってあたれ」
「了解!!」
敵の規模が解らない。行く先にはさらに強大な敵が待ち受けているかもしれない。
しかし、ただそれだけの理由で撤退するなど、帝国軍人には許されてはいなかった。
ボーグにより、部隊指揮は降される。
部隊は警戒しながら進む。
数時間後、グラ・バルカス帝国第4師団は敵と会うこと無く、空洞山脈を抜け、キールセキ前にある大平野に部隊展開を完了した。
万が一ムーの攻撃機が襲来した場合はすぐに空洞山脈に逃げる予定だ。
陸軍は隠れる場所の多い空洞山脈と異なり、平野部では部隊の数がものを言う。
空は晴れ、視界も遠くまで見通せるため、先ほどのような至近距離からの奇襲は受けにくい。
少しだけ気分が楽になった。
しかしー。
「通信士、まだ基地からの返信は無いのか!?」
何度も無線を飛ばしている。
予定では、キールセキ及び敵陸軍へ空爆し、敵戦力を削っているはずだった。
「無線は不感地帯もしくはこの星特有の磁気嵐がふいているのかもしれません。
侵攻続行か、中止か……連絡機が来ないのも我々の到着が、予定よりも3時間遅れたため、かもしれません」
通信士が感想を述べる。
グラ・バルカス帝国の最前線基地、バルクルスは日本国の空爆及びムー国航空隊の攻撃により、壊滅的被害を受けていたため、連絡機を飛ばす余力すらなかったのだが、このとき彼らが知るよしも無い。
「しかし……まもなく1時間か……」
連絡機が指定の時間に来ない場合、無線による連絡を行う事となっており、無線不感地帯の可能性もあるため、1時間ごとに最低1機はアンタレス型戦闘機による連絡航空機が飛ぶ予定であった。
しかし、まだ来ない。
先ほどは想定外の攻撃を受け、そして今回も基地と連絡が付かないという想定外の事態……不安がよぎる。
◆◆◆
ムー国 キールセキ西側
キールセキの西側には僅かな平野があり、その先に標高429mの山が存在する。
さらに西へ行くとおよそ22km平野部が続き、そのご空洞山脈に至る。
ムー国陸軍西部方面隊司令ホクゴウは、眼前に展開する部隊を見てため息をついていた。
鉄道基地があるキールセキを守るため、そしてムー国内陸部への侵攻をここで食い止めるため、眼前に部隊が展開する。
装備も最新式であり、かつてないほどの量、そして質を誇る、ムー国最強の精鋭部隊といっても差し支え無いだろう。
しかし、その西部方面隊のさらに前方に、日本国陸上自衛隊第7師団が部隊配置を終えていた。
「ホクゴウ司令、これより陸上自衛隊第7師団は、グラ・バルカス帝国陸軍に対して面制圧射撃を実施いたします」
第7師団長、大内田和樹がホクゴウに説明する。
ホクゴウの眼前にはムー国では設計すらされていない自走榴弾砲が整然と並び、その大きな砲口を西側に向けていた。
さらに、多連装ロケット弾システムと呼ばれる兵器も、多数西を向く。
「グラ・バルカス帝国陸軍を、我々はすでに捕捉しており、まもなく攻撃を開始します」
「帝国の展開は約30km先でしたよね?」
ホクゴウは確認する。
「はい、間違い有りません」
山の向こう側に展開する敵兵、しかも30kmという広大な射程距離を陸の砲が飛翔するという事事態が現実離れしいている。
しかし、彼らの強さはあらゆる方面からの情報で確認している。
見えない位置、そして完全に自分の射程圏外から攻撃される気持ちはどんなものだろうか……。
敵はムーのアルーを落とし、残虐な行為をしたと聞く。
しかし、今から気づく事すら無く死す兵が多数いると思うと、少しだけ心が痛んだ。
グラ・バルカス帝国最強の第4師団は、自己の持つ最大射程陸砲22kmが、前世界においても今世界においても超える者がいなかったため、さらなる長射程による攻撃は想像の外側であった。
彼らの索敵範囲の外側に展開する自衛隊。
陸上自衛隊第7師団長 大内田和樹は、砲撃前に黙祷を捧げた。
目を見開く。
「攻撃開始!!」
「てーーっ!!」
轟音の後、砲から煙りが上がる。
整然と並んだ155mm榴弾砲が砲撃を開始した。
その先では、後ろから炎を吐いてロケットが連続して飛翔する。
たったの1機でサッカー場6面を制圧射撃出来ると言われる多連装ロケット弾システム、MLRSも射撃を開始した。
陸上自衛隊第7師団は西側約30kmに展開するグラ・バルカス帝国第4師団に対し、砲撃を開始した。
ブログ くみちゃんとみのろうの部屋 でなろうより不完全版ですが、数話先行配信してます。
良ければ覗いてみて下さい。
これからも日本国召喚をよろしくお願いします!




