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終わりの始まり

日本国召喚第5巻は、2019年1月に発売される予定です。よろしくお願いします。

また、コミック第1巻も、同月に発売されます。よろしくお願いします。

ムー国 国境の町アルー


 少し高原に位置する国境の町アルー。

 この高原には平野部が多いが、町はやや小高い丘に作られている。

 近代戦では用がなくなった古い城壁の外側は、丈の低い草が生え、所々土がむき出しになっていた。

 小高い丘の上部にわずかにある森、その中に設置された砲兵陣地で、2人の兵が話をしていた。


「なあ、聞いたか?グラ・バルカス帝国とムーが衝突した場合、このアルーが最前線になるらしいぜ」


 同僚の発するこの言葉に、砲兵アーツ・セイは身震いする。


 突如としてムー大陸の西から現れたグラ・バルカス帝国

 周辺国家を瞬く間に制圧し、列強レイフォルをも打ち破る。

 それでも、ムー国は余裕を持って対応していた……しかし、神聖ミリシアル帝国カルトアルパス沖合において、ムー国の誇る最新鋭艦隊が、壊滅的な打撃を受ける。

 軍部に激震が走った。


 さらに、神聖ミリシアル帝国さえも参加した世界連合とグラ・バルカス帝国の戦い。

 神聖ミリシアル帝国と、ムー国は……世界1位と2位の強国の意地とプライドをかけて戦った。

 しかし、結果は痛み分け……神聖ミリシアル帝国に至っては、古の魔法帝国の超兵器を投入したが、それさえも撃沈されたと聞く。

 軍上層部は絶望的な技術格差を埋めようと、躍起になっているらしい。

 一般兵の間では、自分が戦わなくてはならず、伝説的な強さを誇るグラ・バルカス帝国は恐怖の対象となっていた。


「敵は強いだろう……それでも……アルーの民の守護者は我々だ!!砲兵として、絶対に敵に当ててやる!!!

 いかに敵が強いと言えど、同じ人間だ。

 砲が当たれば必ず死ぬし、陸上で砲が通じぬ武器など、あるわけがない!!!」


「でもな……この前日本国の本が、ムーでも販売されていたが、戦車と呼ばれる、装甲を持った車みたいなのが、砲をつけているという変な兵器が日本にはあるらしい。

 この装甲は、ムーの放つ砲をはじくほどに強いらしいぞ。

 カルトアルパス沖海戦で、グラ・バルカス帝国に日本の巡洋艦は撃沈された。

 帝国は日本よりも強力な可能性があると言うことだ。

 ……もしも、戦車と呼ばれる兵器、敵が投入してたら……」


 砲兵たちは、戦う意思を固めながらも、まもなく来るであろう圧倒的ともいえる敵の影におびえるのだった。



◆◆◆


 アルー西側、ムー国陸軍第24任務部隊 


 アルーから西に伸びる塹壕、長く、蛇のようにうねった塹壕は、アルーから20km近く伸びている。

 塹壕とは、地面よりも低く掘られた人間の通れる溝のようなもので、中を兵が通ると、砲撃や銃撃戦において、弾が頭の上空を通過するため、普通に地面を進むに比べ、生存率が劇的に上がる。


 その塹壕の中で、最前線にいた歩兵、ケイネスは、国境方面を双眼鏡でにらんでいた。


「な…何だ?あれは!!」


 見通しの良い地平線の向こう側に、土煙が上がっている。

 その数は多く、やがて煙の下からは、黒と緑かかった色の車が現れた。

 少し旧軍が好きな者がそれを見たならば、九七式中戦車に似ていると考えることだろう。

 見慣れぬその物体に、ケイネスが本部に報告しようとした矢先……


 重低音のような地響きと、炸裂音が後方から聞こえた。

 彼は振り返る。


「つっ!!!」


 街では連続して砲弾が炸裂し、所々で猛烈な土煙をあげる。

 砲撃が着弾した建物は、ガラガラと音をたてて崩壊していった。


「大砲の着弾!?ばかなっ!!完全に目視圏外だぞ!!!」


 驚愕……。


『敵襲!!敵襲!!総員戦闘配置に付け!!!』


 遅れてくる警告。


 守るべき街が砲撃にさらされるなか、ケイネスは前から来る敵に備えるのだった。



 砲兵陣地


 上空では敵航空機が現れ、我が物顔で飛行する。

 時々狙いを定めて投下される爆弾は強烈で、アルー防衛基地からは多くの炎が上がっていた。

 空を見上げると、ムーの誇る最新鋭機マリンが参戦し侵略者たちをたたき落とそうと、勇猛果敢に戦う……しかし……迎撃に上がった友軍機はたちまち後ろにつかれ、曳光弾を交えた機銃でたたき落とされる、燃え上がる友軍基地から時々上がる対空砲火もむなしく空を切っていた。

 幸いにも日本国の指導により、上空から見ると森に溶け込むように偽装された砲兵陣地は敵に見つかっていないらしく、攻撃は受けていなかった。

 しかし……砲兵陣地は蜂の巣をつついたような状態となっていた。


『敵黒色車両、おそらく戦車と思われる。これよりあれを戦車と称する、砲撃用意!!繰り返す、砲撃用意!!!』


 砲兵アーツ・セイは迅速的確に準備を行う。

 まだ敵戦車はこちらの射程距離に入っていなかったが、その戦車よりもはるか後方から砲撃してきたグラ・バルカス帝国の砲撃……アルーの守護者たる自分が反撃出来ない悔しさ……砲兵アーツ・セイは、技術格差を感じざるをえなかった。


◆◆◆


 ムーの町アルー


 砲弾が着弾する。

 町の所々で悲鳴が上がり、人々は絶命する。

 着弾箇所では、猛烈な爆発と共に、建物が瓦礫となって崩れ落ち、土煙をあげていた。

 防空壕も無いこの街では、住民が「当たればいきなり死ぬ」というかつて経験した事の無い恐怖から、逃げ惑う。


 度重なるムー国政府からの避難勧告があった、しかし、住民単位では、世界第2位の列強国本土には絶対に攻撃をしてこないだろうと、根拠無く思い込む者が多く、そういった者たちの言葉を信じた住民、そして家族たちは、避難が遅れ、今に至る。

 自由を重んじたため、政府の力は住民に対して弱く、強制力を発揮することが出来ない政治体制の弊害が、現れていた。


 町はパニック状態となる。




「イネス、私たちの判断ミスにあなたを巻き込んでしまってごめんなさい、あなた達を先に……避難させるべきだった」


 イネスと呼ばれた娘の母親は、涙を流して後悔の念を抱く。


 アルーに住まう貴族、パーメル家……政府から避難勧告が出た後、住民を先に避難させようと、奮闘した……彼らの働きかけによって、考えが変わった住民も多く、万単位の住民は救われているだろう。


 しかし、鉄道が未だ整備されていない国境の町、自家用車を持っている者も少なく、政府が出した車両でもなお足りず、自分たちの避難を後回しにしてしまったため、戦火に巻き込まれる事となった。


「イネス、オートバイの乗り方は解るわね?」


「うん」


「もうここは危ない!!今すぐメルンをつれて逃げて!!」


 16歳の娘、イネスは父のオートバイに乗る姿にあこがれ、やがて自分でも運転できるレベルに達していた。


「でも……でも、お父さんとお母さんを置いてはいけないよ!!!」


「ごめんね……でも、このままではみんな死んでしまう。今すぐにげるの!!」


「ムーは世界で2番目に強いんでしょ!!基地も近くにあるし、なんとかしてくれるはずよ!!!」


「ムー国軍は強い、でもグラ・バルカス帝国もとてつもなく強いの、神聖ミリシアル帝国でさえも手を焼くほどに……古の魔法帝国の超兵器でさえも落とすような……化け物みたいな相手なの、お願い、あなたとメルンは私たちパーメル家の宝物、命に代えても守らなければいけないもの……いきなさい!!!」


「イネスは、目に涙を浮かべ、走り出す。6歳の妹、メルンをバイクの後部座席に乗せ、エンジンをかけた」


「東へ逃げなさい!!空洞山脈を抜け、ハルゲキの街に向かうの、そこで叔父さんを訪ねなさい、きっと力になってくれるから!!」


 街の所々は、砲撃にされられ、爆音がこだまする。

 イネスは妹、メルンをバイクの後ろに乗せ、ゆっくりとアクセルを開けつつクラッチをつないだ。

 270CC単気筒のバイクはタタタタといった音をたて、加速を開始する。

 パーメル家の娘、イネスは妹メルンと共に、アルーの街を脱出したのだった。


◆◆◆


 最前線……塹壕


「テーー!!!」


 轟音と共に、歩兵が携帯していた小型の砲が火を噴く。

 曳光弾を交えて発射されたそれは、敵戦車の近くに着弾し、土煙を巻き上げる。

 動目標に対する砲は、なかなか当たらなかった。


「う……撃てーーっ!!撃て撃て撃て撃てーー!!!」


 砲に限らず、機関砲も発射される。しかし……曳光弾を交えて発射された機関砲は、大きな金属音と共にはじかれ、あさっての方向にとんでいく。

 大口径弾は当たらず、小口径弾ははじかれる。

 にもかかわらず、敵の進軍速度は衰える事無く、あまりにも速いその進軍速度に、ケイネスは戦慄した。

 

 敵戦車は土煙を巻き上げ、進軍してくる。

 やがて、敵戦車が発砲した。


「ぐぁぁぁぁぁ」


 誰かが叫ぶと共に、近くの塹壕が削れ、数人が死亡する。

 次々と、死者の報告が入っている。

 しかし、守護者たる自分達が引く訳にはいかない。


 ケイネスは、絶望的な気分の元、砲を撃ち続ける。

 やがて、戦車のエンジン音が聞こえるほどの距離となった。


「があっ!!」


 様々な場所で悲鳴があがり、やがて塹壕からの攻撃は止まる。


 近くに砲が着弾し、朦朧とする意識の元、ケイネスは塹壕から空を見上げる。

 体のどこをどう撲ったのか解らない。

 全く体の感覚が無く、意識だけはある。


 先頭の戦車がケイネス達のいた塹壕を越えていく。

 次から次へと来る戦車は、まるでそこに何も無かったかのように塹壕を超え、自分たちの陣地を超えて街への向かう。


「だ……だめだ……そちらには街が……」


 薄れゆく意識のなか、ケイネスは声を絞りだした。


◆◆◆


 砲兵陣地 


 砲兵陣地は、敵の猛烈な攻撃にさらされていた。

 うまく欺罔された砲、しかし、敵戦車に向けて砲撃を行った瞬間、空から敵戦闘機による攻撃を受ける。

 ようやく敵戦闘機の攻撃が収まったと思った次の瞬間、大地が舞い上がった。

 

 連続したグラ・バルカス帝国からの砲撃により、アーツ・セイ隊の持つ砲以外の砲は破壊されつくし、死体が散乱する。


 そんな中、アーツ・セイの所属する砲兵隊は、敵に一矢報いるために砲撃準備を行っていた。

 1両でも撃破したら、少しは敵の攻撃が緩むかもしれない。

 陸戦においてムー国人が、敵を全く撃破出来ないことなど、あってはならない。

 そんな思いの元、準備を進める。


「砲弾装填よし!」


「よく狙えよ!!!」


 砲兵アーツ・セイは人生最大の集中力を発揮する。


「……今!!!」


「てーーっ!!!!」


 轟音、そして壮大な煙が大砲より吹き上がる。

 現代の砲に比べ、燃焼効率の悪い過去の砲撃は、燃焼エネルギーがうまく砲弾に伝達されず、煙が多く、見た目はとても強そうに見える。


 砲弾は飛翔していく。

 奇跡的に、敵前列から2番目を行く戦車に着弾した。


 いやな金属音のすぐ後に続けて、猛烈な爆発音と共に煙りが上がる。

 敵戦車は煙に包まれた。


 しかし……。


 次の瞬間、何事も無かったかのように、戦車が煙の中から飛び出してくる。


「ば……バカなっ!!当たったはずだっ!!」


 戦車砲が旋回してこちらを向いた。


「つっ!!」


 轟音と共に、敵戦車から57mm砲が放たれる。

 砲弾は自らを回転させながら弾道を安定させ、まっすぐにこちらに向かってくる。


「ヴァッ!!」


 砲は着弾し、アーツセイは意識を絶った。


 ……この日、アルー防衛隊は全滅、街は蹂躙された。

 多くの捕虜が出現し、多くの者が処刑され、アルーの街にすんでいた者の末路は凄惨を極める。

 街にはグラ・バルカス帝国旗が掲げられ、版図は広がった。




◆◆◆


 ムー国東側約20km 海上


 一見空母を連想させるような平べったい甲板、輸送艦おおすみの先端で、男が一人、前を向き、徐々に見えてきたムー大陸を眺めていた。

 海は透き通るほどに青く、心地よい海風が体を冷やす。


「陸将、本国より通信が入りました」


 陸上自衛隊第7師団陸将、大内田和樹はゆっくりと部下に向く。


「グラ・バルカス帝国陸軍がムー国に侵攻しました。国境の町アルーは戦場となり、ムー国陸軍守備隊は全滅、アルーの街は落ちました」


 大内田は目を瞑る。

 通信員は続けた。


「アルーの街では略奪、暴行、処刑が行われ、凄惨を極めているとの事です」


 大内田の目つきが変わった。


「間に合わなかったか……」


 陸上自衛隊第7師団長 大内田和樹、彼は人事異動により、一度は師団長から別の部署への異動内示を受けていたが、情勢が一変したため、異動は一時保留となり、前回のロウリア王国での実戦経験を買われ、このたびはムー国を救うため、再び師団長の任を受けていた。


 民間船を徴用し、迅速にムー大陸に上陸する。

 上陸後はムー国各地に設置された駐屯地を経由しつつ、燃料の補給を受け、アルーの街方向に向かう予定であった。

 

「空自は?」


「はい、まもなく準備が整うとの事です。我が隊が戦場に着くまでには間違いなく準備が整うとの報告を受けています」


「そうか……」


「上陸後はムー国軍司令との会談の後……」


 部下は今後の予定を話始める。



 

 日本国最強の機甲師団 陸上自衛隊第7師団は、この日、ムー国を救うべく、ムー大陸に上陸した。




 ブログ、くみちゃんとみのろうの部屋では、自由に掲示板に書き込めます。

 また、現在は話が数話先行しているので、気になる方はどうか来てください。

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[気になる点] >「イネスは、目に涙を浮かべ、走り出す。6歳の妹、メルンをバイクの後部座席に乗せ、エンジンをかけた」 [一言] 地の文が「」のせいでセリフになってて、緊迫した親子の会話がなんだか残念な…
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