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古の超兵器

遅くなりました。ブログストックを放出します。

後書きに、報告を載せますので、ぜひ後書きもご確認下さい


グラ・バルカス帝国 第1打撃群 旗艦ベ・テルギス


 日本人が見たならば、旧日本軍の長門型戦艦に似ていると感じるだろう。

 そんな戦艦ベ・テルギスの艦橋では、慌ただしくサイレンが鳴り響いていた。


 ウゥ―――……ウゥ―――


「総員戦闘配備!!総員戦闘配備!!!」


 不安を掻き立てるサイレンの音と共に、艦内には伝令官を通じて戦闘配備の指令が流れ、兵たちは慌ただしく走り回る。


「左舷第3高角砲配置完了!!」


「左舷第4高射機関砲配置完了!!」


 艦橋には次々と配置完了の報告が届き、艦隊は戦闘配置に移行していった。


「司令、艦隊は戦闘配備を完了いたしました。この相対速度であれば、あと20分ほどで接敵する事になるでしょう」


 全長が250m超にも及ぶ飛行要塞……空中戦艦といっても差し支えないほどの敵が迫る。 

 前世界、ユグドにおいても空飛ぶ戦艦など、聞いたことが無い。

 少なくとも攻撃を仕掛けていた飛行部隊が全滅している事を考えるに、一筋縄ではいかないだろう。

 かつてない敵が迫る現実に、参謀バーツは焦りを隠せない。


「焦るな、バーツ。貴君の焦りは兵へ伝搬するぞ」


「はっ!!失礼いたしました」


「して……どう見る?」


「どのような物体が来るのか……見当もつきません。全く……魔法というのが存在する世界は理解に苦しみます。敵が強いのか……弱いのか……装甲がどの程度あるのか……どのような兵器を使用してくるのか……

 すべてが不明で、いきなり命をかけた戦場でそれが判明する。

 戦力分析が出来ない敵に、どう戦えば良いのか全く解りませぬ」


 バーツは純粋に不安を口にした。

 司令カオニアは僅かに笑う。


「そうだな……どういった敵か解らない以上、我々の王道的な戦い方で行くしかあるまい」


 司令カオニアは、海を眺める。

 戦艦8、重巡洋艦8、駆逐艦20、計36隻もの艦隊が海を割き、進む姿は壮観そのものであり、重厚な帝国艦隊を眺めていると、決して負ける事は無いという自信さえも出て来る。

 しかし、敵、神聖ミリシアル帝国と我がグラ・バルカス帝国はすでに海戦を経験している。にも関わらず、単艦で突っ込んでくるという圧倒的な自信、彼は決して油断してはならぬと心を強く持つのだった。




 空中戦艦パル・キマイラ


 様々な機器が並べられ、作業員の前の空中には先進的な魔法具を使用したディスプレイに映像が浮かび上がる。

 今の日本人がそれを見たならば、先進的なSFに出て来る艦橋のように見えるだろう。

 艦長席前に写る大きなディスプレイには眼前の風景が映し出され、上下とも鮮明な視覚画像として映し出される。


「メテオス様、あと10数分ほどで接敵いたします。敵はミスリル級戦艦ほどの艦が2隻、ゴールド級戦艦ほどの大きさの艦が2隻、一回り小さい艦が4隻、さらに小型戦艦8、魔法船ほどの艦20、計36隻で構成される艦隊です」


 報告する者も、報告を受ける者も、種類は違えどマスクをかぶり、一見して異様な風景が広がる。


「そうかね……全滅したまえ」


「ははっ!!!」


 圧倒的な自信、戦力分析などまるで意味をなさない事、敵戦力など最初から眼中にないかの如く、艦長メテオスは言い放つ。


「艦長、戦闘配備に移行いたします」


「許可する」


「総員、戦闘配備!!システム確認を行え!!!」


 職員が慌ただしくディスプレイを叩き、戦闘システムをチェックしていく。


「全システム異常なし」


「戦闘モード起動」


「魔力回路出力上昇」


 無機質な声が艦内に流れる。

 かつて、全世界を支配し、他種族を恐怖のどん底に突き落とした古の魔法帝国……ラヴァーナル帝国の使用していた戦闘艦、空中戦艦パル・キマイラは、神聖ミリシアル帝国の意志により、異界の敵、グラ・バルカス帝国の戦艦部隊を滅するため、単艦で突き進む。



 14分後~


「く……くるぞ!!!」

 

 司令カオニアは吠える。

 すでに対空レーダーにははっきりと捕捉していた空中戦艦、その戦艦が、はっきりと北東の空に見える。


「本当に浮いている!!!」


 事前の情報として知っていても、実際に浮く「それ」を見た者は、感嘆する。


「主砲用意!!弾種対空弾!!」


 艦隊の主砲に時限信管を装着した主砲弾が装填される。

 時間を調節し、空中で爆発させることにより、空の敵を撃つ。


「右13度、仰角27度、主砲発射まであと1分22秒」


 敵との相対速度が計算され、各艦で主砲の角度が振り分けられる。

 旗艦べ・テルギスに設置された41cm連装砲はその巨体をゆっくりと動かし、敵空中戦艦を向いた。


「最上甲板の兵は退避せよ」


 主砲発射時の爆炎で、兵が死なぬよう、むき出しになった部分にいた者達が最上甲板から艦内に退避した。

 

「司令、対空主砲弾は計算とその時のタイミングが命です。司令の発言前に、時間が来たら発射する……それでよろしいですね?」


 参謀バーツは司令に確認をとる。


「もちろんだ」


 彼は向き直り、はっきりと指示を出す。


「対空主砲弾、最適タイミングで各艦攻撃開始!!」


『最適タイミングで各艦攻撃を開始セヨ』


 司令は無線で迅速に伝達される。



「主砲発射まで、あと5.4.3.2.1……撃てーっ!!!!!」


 轟音と共に、旗艦べ・テルギスから巨弾が射出される。

 重量1.5トンにも及ぶ巨弾を打ち出した45口径41cm連装砲2基は空気を震わせ、その発砲炎は海上をも振動させた。

 べ・テルギスから発射された時限信管を搭載した主砲弾は着弾まで1分以上を要する。


「敵、回避運動を始めました」


 直径が250mにも及ぶ円盤状の敵は、僅かに進行方向を変える。

 しかし、時速200km以上の速度で進行しているため、僅かな角度のズレでも着弾予想地点から大きく外れてしまう。


 やがて、主砲の時限信管が作動、猛烈な爆炎が放射状に広がり、空に大きな花を咲かせる。

 

 各艦の発射した主砲弾も、同様に着弾まで時間を要し、空に巨大な爆発が多数出現する。

 爆発箇所では轟音がこだまし、直下の海上を震わせた。


 ドドドド……ゴウォォォォォ……


 付近に響き渡る轟音。

 なおも侵攻する敵空中戦艦……。

 同艦の直下の海は、ヘリコプターの猛烈なダウンウォッシュを受けたかのように波うち、侵攻してくる。


「やはり対空用を謳っているとはいえ、主砲弾で空にいる敵を相手するのは無理がありますな」


 参謀バーツは司令カオニアに話しかけた。


「そうだな……対空火砲で迎え撃つか……ん!?あれは何だ?」


 すでに艦隊まで20kmほどまでに近づいた敵空中戦艦……同艦のリング状の部分下部に設置された三連装砲らしき物体が、艦隊を向く。


「攻撃が来るぞ!!!」


 カオニアが吠えた次の瞬間、敵が何かを発射した。

 青い尾を引く敵の三連装砲は、多少の時間のズレをもって連続して3発を発射した。


「な……なにぃ!!」


 光弾はカオニアの乗艦する旗艦べ・テルギスを飛び越え、後方を航行していた重巡洋艦リゲールに3発すべてが着弾、猛烈な爆発をあげる。

 少し遅れて高音交じりの発射音が付近にこだました。


『リゲール被弾、現在被害確認中』


「しょ……初弾で当てて来やがった!!!!」


 カオニアは全身に電撃が走るほどの衝撃を受けた。


「バ……バカな!!!」


 どうやったらそんな芸当が出来るのか、理解が追い付かない。


『敵艦のリングが回転を始めました』


 見張り員の報告なしでも見える。

 敵艦は中央部を固定したまま、周りのリング部分が回転を始めていた。

 よく見ると、リング部分下部には先ほどリゲールに対して攻撃を行ったのと同様の兵器が全部で6つ付いているようだった。

 同兵器が艦隊を向く。


 次の瞬間、再び敵艦が発砲し、消化作業中のリゲールを捕らえる。

 再び爆炎に包まれるリゲール……攻撃は続き、9発もの直撃弾を受けた重巡洋艦リゲールは、大きな火柱を上げ、真っ二つに折れて海上から姿を消した。


『リゲール轟沈……』


 旗艦べ・テルギスの艦橋は沈黙に包まれた。

 

 戦闘開始からあまりにも早い重巡洋艦の轟沈。

 かつてないタイプの敵、そして考えられないほどの正確な射撃を前に、艦橋にいる誰もが衝撃を覚えた。


『敵艦、進路を変えます!!』


 むやみに近づいてくれば、対空火砲をお見舞いする手もあっただろう。

 しかし敵は、我が艦隊から一定の距離を取り、旋回するように飛行しながら対空火砲の射程外から攻撃を加えて来る。

高射砲は射程圏外であり、届く艦は主砲をもって応射しているようだが、時速200kmもの高速で飛翔する敵艦には全く当たらない。


『駆逐艦タイタン、重巡洋艦エララ轟沈!!』


 敵との距離を詰めたいが、速度が違いすぎる。

 海のように平面ならばまだ手があるだろう。

 しかし、三次元……立体的に飛ぶ艦に対し、放物線を描いて飛翔する砲弾は、全く当たらなかった。


「足の速い駆逐艦は、敵に進路を取れ!!」


 前世界、そして今世界においても無敵を誇ったグラ・バルカス帝国海軍は、神聖ミリシアル帝国の発掘した、古の超兵器、パル・キマイラ1機に翻弄される。




 空中戦艦パル・キマイラ


「敵、中型艦轟沈……次のターゲットに移ります」

 

 無機質な報告が艦内に流れる。

 艦橋に設置された大型ディスプレイにはこちらの攻撃を受け、爆発炎上する敵艦が写っていた。


「古の魔法帝国……やはり古代兵器は恐ろしいな……」


 メテオスは一人つぶやいた。

 

 周辺国家を瞬く間に制圧、列強レイフォルをあっさりと倒し、そして世界第2位の列強国であるムーを圧倒、さらに我が帝国で最強と呼ばれし第零式魔導艦隊すらも破った敵……。

 我が国の本国艦隊ですら手を焼く出来が、発掘兵器であるたったの1艦に翻弄される。

 超兵器を操る側からすると、ひどく弱い軍隊にさえも思えて来る。


 このような恐ろしい兵器群を作り出した古の魔法帝国……。

 いかに神聖ミリシアル帝国が偉大であったとしても、古の魔法帝国が……圧倒的な魔力量を誇るかの国が復活すれば、とても敵わないだろう。

 人類の敵が復活した時、いかに戦うのか……その最前線にいるのが自分達だと思うと、来るべき敵の強大さに頭が痛くなる。

 

 メテオスが一人思いに耽っていると、後から細身の男が近づいてきた。

 一応ルールなので、仮面をつけているが、顔から突き出る耳はエルフのそれであり、仮面がやけに似合っている。

 艦の技術を統括する技術部長コルメド……。


「メテオス様、やはり古の魔法帝国の超兵器はすごいですね」


「砲の飛翔速度、我が方の速度、そして敵の速度を相対的に計算し、敵の未来位置に向かって行う射撃……我が軍と同等の敵での実戦運用は初めてだがこれほどまでに当たるとはね……」


 空中戦艦下部に設置された15㎝3連装魔導砲から放たれる砲弾は100発100中とまではいかないまでも、かなりの確率で命中弾を出していた。

 下部に設置されているため、水平方向以上上には向かないため、射程距離は限られるが、海抜高度200mから撃ち下される砲弾は、通常の水平射撃よりもはるかに射程距離を伸ばしていた。

 メテオスのつぶやきに対し、技術部長コルメドは、ゆっくりと自分の考えを述べる。


「古の魔法帝国の魔導演算装置は、まだ解明出来ていません。我が国の演算装置を高性能化し、そして敵との距離を3次元で正確にとらえ、自らの移動状態を確実に把握できるのであれば理論上我が国にも作れるはず……実用化すれば戦力は比較にならないほど向上するでしょう。

 しかし……」


「そう……まだ実験段階ですらない兵器、理論と実験、実験と実戦配備にはとてつもなく大きな「差」が存在する。古の魔法帝国は我が国の現在の技術水準の遥か上を行く」


「はい、我が国が実用化するのは遥か未来です……それにしても、この超兵器と戦わなければならない敵は哀れですね」


「ふん……バカな猿は自滅する運命なのだよ……私の慈悲で生き延びる機会は与えてやった。まあ魔法無しでこのレベルまで達する事が出来るのは、驚愕に価するが……古の魔法帝国の兵器と教えてやったにも関わらず、向かってくるのはただの愚か者だ。

 私はね……バカは嫌いなのだよ」


 ディスプレイに写る敵艦が炎上する。

 特に小型艦は、防御力が弱いらしく、撃ったそばから轟沈していく。


「敵の中心を撃ちたいな……」


 ここにいる小さな軍を滅した後、敵艦ひしめく本隊に突入する予定がある。

 今戦っている敵は現在のように、射程外から撃ち続けていれば滅する事が出来るだろう。

 しかし、相手が敵本隊となると、そのやり方では時間がかかりすぎる。

 

敵砲の射程内での戦闘行動を、本隊衝突の前に想定しておく必要があると、彼は考えた。

およそ軍人からすると、有り得ない決断を下し、彼は乗務員に指令した。


「敵旗艦を攻撃したまえ」


「それでは、敵対空砲の射程に入りますが、よろしいので?」


「構わぬ。本隊との衝突前に小規模戦闘として経験しておきたいからね……。付近に敵航空機はいないな?」


「レーダーに反応なし」


「魔素を展開、下部の装甲を強化し敵旗艦を攻撃したまえ!!」


「了解」


 空中戦艦パル・キマイラは艦隊外周からの攻撃をやめ、あえて危険の伴う旗艦への突撃を開始する。



◆◆◆


「駆逐艦ディオネ、轟沈!!!」


 また1隻の駆逐艦が爆発、炎上して多数の死者を出す。

 主砲が届く艦は応射はしているものの、空を飛ぶ敵には全く当たらない。


 司令カオニアと参謀バーツは、その圧倒的とも言える単艦の戦力差になす術が無く、敵を睨みつけるのみだった。


「敵、進路を変えます!!」


 敵艦が進路を変え、旗艦に向かい始める。

 このまま進むと、外周にいる駆逐艦の対空砲射程圏内に入るのは明らかだった。

 

 微かに訪れた勝機。


「引きつけろ!!必ず射程距離に入った後に射撃を行い、必ず当てるんだ!!!」


 指示が飛ぶ。


「やっと射程内に敵が入りそうですな」


「砲が当たらぬから慢心したな……対空砲で必ず落とすぞ!!!」


 なおも続く進撃、やがて敵は駆逐艦フェ―ベと巡洋艦ヒペリオンの対空砲射程圏内に到達した。


「馬鹿め!!撃て―っ!!!」


 グラ・バルカス帝国にとって、海戦とは艦攻、艦爆などの艦にダメージを与えうるほどの航空機との戦いである。

 そのような飛行機との戦いに特化したグラ・バルカス帝国海軍は、ついに空中戦艦パル・キマイラに向けて射撃を開始した。



 巡洋艦ヒペリオン


 対空銃座に座る兵、ダフニスは、照準器をはみ出す大きさの敵艦を正確にとらえていた。

 感覚的には敵が大きすぎて、本来の射程距離に入る前に射程距離に入ってしまっていたような錯覚を覚える。


「これだけ的が大きければ、必ず当ててやるぞ!!!」


 化け物討伐の一番槍は俺がもらう!!!


『撃てぇ!!』


 攻撃指令が聞こえる。ダフニスは、逝った友軍に祈りを捧げつつ、発射ボタンを強く押し込んだ。


 

 艦隊から火線が空に向けて走る。

 巡洋艦ヒペリオンの放った40mm機関砲は、正確に空中戦艦の下面に命中する。


 曳光弾を交えて発射された光線は、空中戦艦に着弾、激しい音と共に、斜め後ろに跳弾する。


「まさか!!奴は堅いのか!!!」


 近いからはっきりと見える。

 当たった曳光弾は弾かれ、着弾部分がほのかに波打っている。


「ば……化け物め!!!」


 艦に設置された40口径127mm高射砲も射撃を開始している。

 時限信管が作動し、空中戦艦近くで爆発を起こすが、効果が薄いようだった。


 兵が慌ただしく動く。

 高射砲の弾種を通常砲弾に詰め替えているようだった。


 戦場には怒号がこだまし、高射砲が火を噴く……しかし……しかし、絶望的なほどに当たらない。

 これほど近いのに……これほど大きいにも関わらず、全くと言って良いほど当たらなかった。

 

「くそっ!!」


 連射される機関砲は当たるが効果は無く、効果が高いと思われる高射砲は当たらない。

 やがて、パル・キマイラは機関砲弾を弾き返しながら艦上空を通過した。


◆◆◆


 炸裂する対空砲弾……信管作動の爆圧では効果が無く、機関砲弾も跳ね返す。かと言って通常弾ではとても当たらない。

 厄介な敵は、機関砲弾をはじき返しながら旗艦べ・テルギスに向かってきた。


「撃ち続けて当てるしかない!!」


 カオニアは覚悟を決めた。


「敵艦、リング回転開始!!!」


「攻撃が来るぞ!!!」


 カオニアは吠える。次の瞬間、敵艦が発砲した。

 耳をつんざく轟音、敵から放たれた砲弾は、旗艦べ・テルギスの重要区画装甲に着弾し、その威力を開放、しかし40cm砲もの大口径主砲弾の直撃さえも耐えるように設計された、グラ・バルカス帝国技術の結晶は、敵の攻撃に耐える。


 しかし、攻撃は1発では無く、何度も何度も連続して被弾する。


「左舷第3高角砲大破!!」


「右舷第11機関砲大破!!」


 非装甲部分の上部構造物が破壊されていく。

耳をつんざく轟音……爆発し、激しく振動する艦橋……しかし船の重要な部分は装甲が厚く、敵の攻撃を跳ね返し続けていた。


「お……おのれっ!!爆炎が多すぎて何が起こっているのか解らん!!」


「しかし、敵の攻撃は思ったよりも威力が弱いですな、べ・テルギスであれば耐えきれるかもしれません!!!」


 重巡洋艦や、駆逐艦は倒せても戦艦は倒せない。

 カオニアに、微かな自信が生まれるのだった。



 空中戦艦 パル・キマイラ


『魔砲撃、20発が命中、効果確認のため一時射撃を中断します』


 たまたまではあるが、風向きが敵艦と並走するように吹いているらしく、艦を覆った煙はなかなか晴れない。

 着弾の爆炎に包み込まれる敵艦。


 今までの敵中型艦であれば、爆炎の中にあっても、砲の爆発とは明らかに異なる内部からの「爆発」が認められたため、敵の被害が解りやすかったが、この旗艦については内部からの爆発は無く、砲弾の爆発煙のみが艦を包み込んでいた。


「……内部からの爆発が無いようだねぇ」


 メテオスがつぶやく。


「もしかすると、燃料に引火しにくい構造なのかもしれません……しかし、これほどの攻撃を食らい続けている。魔素展開による装甲強化技術を持たぬ者達であれば、上部構造物は無くなっていることでしょう」


 技術部長コルメドが返答した。


 時折下部に当たる敵の対空火砲が不快な音をたてるが、強力な魔力により強化された金属による装甲は、敵対空火器をはじき返していた。

 やがて、戦艦を包み込んでいた煙を割き、敵艦が出現する。


「おお……お……」


 無機質な勤務員に感情が宿ったかのように、艦橋に驚愕の声が響く。


「なんという硬さだ……致命傷を与えていないではないか!!」


 驚愕するメテオス。


「魔素による装甲強化技術を使用せずにこの硬さ……信じられません」


 技術部長コルメドの額にも、驚きのあまり汗が流れた。


 画面に映る敵は、脱出用ボートや、高射砲等の非装甲物は壊れていたが、主砲や艦橋は健在であり、小破程度のダメージしか負っていないようにすら見える。


「なるほど……第零式魔導艦隊に土を付けただけの事はあるようだねぇ……敵戦艦を倒すには、魔導戦艦の主砲並みの火力が必要という事か……」


 一瞬の沈黙。


「ジビルを使用したまえ」


 艦橋がざわつく。


「よろしいのですね?」


 コルメドが確認を取る。


「もう一度言おう。ジビルを使用して敵艦を消滅させたまえ」


「はっ!!」


 古の魔法帝国の技術を解析し、近年実戦配備に結び付ける事が出来た超大型魔導爆弾「ジビル」古の魔法帝国のコア魔法に比べると、大幅に弱いが、現在の神聖ミリシアル帝国の中では最大にして最強の爆弾だった。

 通常の天の浮舟では重すぎて運ぶ事が出来ず、空中戦艦パル・キマイラに搭載した帝国の切り札的な存在……。

 パル・キマイラはグラ・バルカス帝国の戦艦ベ・テルギスの直上に進出し、空中に停止した。


◆◆◆


 旗艦べ・テルギス


 ゴウン…ゴウン……ゴウン……


 不気味に上空に停止する敵空中戦艦……。


「くそっ!!一体何をするつもりだ!!!」


 敵艦は上空に停止している。

 本艦の高角砲や対空機銃はさきほどの攻撃で大破し、使い物にならない。

 主砲や副砲は仰角が足りないため、撃つ事が出来ずにいた。


「くぅ……あまり言いたくは無いが……今各艦の判断で攻撃を控えていますが、今が絶好の的ですね……」


 参謀バーツがつぶやく

今直上に停止している艦……艦隊程度に低速になった物体は、絶好の的であり、指示すれば、確実に有効弾を与える事が出来るだろう。

しかし、この旗艦よりも大きい飛行物体が落ちて来る……確実に死の覚悟を伴う命令を出さなくてはならなかった。


 もちろん、直下から離れるために、旋回を行う等の努力はしている。しかし、上空にいる敵艦の運動能力は我が方を明らかに凌駕していた。


「……皆、すまんな……あの敵は明らかにグラ・バルカス帝国の脅威となり得る。数がたったの1艦というのは、奴らにとっても虎の子である証拠だ。奴らは強い……この機を逃すと、確実に帝国に仇をなす存在となろう。今は各艦の独自の判断で攻撃を控えているようだが……帝国の未来のため、私は各艦に攻撃指示を出す」


 司令カオニアの心は、乗務員への懺悔で満たされる。

 しかし、このまま奴を生かすと、今までよりも遥かに多くの帝国民が犠牲になる事だろう。

 彼に反論する者はおらず、皆覚悟を決めた。


「各艦へ指示、攻撃を続行せよ!!!!」


 各艦に指示が伝達された。



 

 派遣艦隊巡洋艦ピペリオン


『撃ち方やめ!!撃ち方やめ!!!今撃つと旗艦に落ちる!!!』


 べ・テルギスの上空で停止する敵艦、一時艦長の判断で攻撃中止の指示が飛ぶ。


「何をするつもりだ!!!」


 上空に停止したそれは、ゴウン……ゴウン……といった、重低音のような音を響かせ、停止している。

 狙いやすい、しかし落ちれば確実に旗艦は沈むだろう。

 べ・テルギス上部の対空火器は、すでに先ほどの攻撃で沈黙してしまっている。


『各艦旗艦上空にいる今が絶好のチャンスだ。攻撃を続行せよ』


 艦橋に、旗艦からの指示が流れた。

 このまま攻撃すれば仲間を殺す事になる……しかし、この空中戦艦を放置すると、帝国の脅威となるのは目に見えて明らかだった。

 

 攻撃指示を行おうとしたその時、ピペリオンの艦橋から敵を眺めていた艦長は、空中戦艦に異変を感じた。


「なんだ!?」


 敵中央部の艦橋から、とてつもなく長い何かが下に向かって落ちる。


「!!!」


 グアッ!!ズオォォォぉ!!!!!!


 投下されたそれは、旗艦べ・テルギスに当たると同時に猛烈な光を放つ。

 次の瞬間、旗艦よりも遥かに大きな火球が出現し、旗艦を包み込む。

 遅れて凄まじいまでの衝撃波と、見た事も無いほど大きなキノコ雲状の爆炎が出現した。

 海上が衝撃波で波打ち、音響がこだまする……やがて、大音響の後に爆炎の煙の出現とは裏腹に、静粛があたりを支配した。




 パル・キマイラ


『敵旗艦、艦内の魔力反応すべて停止、全滅した模様です』


 乗務員が全員死亡した事を伝えるその報告。


「フン、当たり前だ。ジビルが直撃したのだよ、もう跡形も残ってはいまい」


 煙が晴れる。


『おおお……ば……ばかな!!!』


 艦橋に驚きの声が走る。

魔力反応が無いため、中の乗務員は死亡している。

 しかし、敵べ・テルギスは船の形を保ち、海に浮かんでいた。


 旧日本帝国海軍の戦艦長門に酷似した船体構造はとてつもなく強いものであり、ビキニ環礁での2回にもわたる核実験の直撃を受けてもなお、すぐには沈まなかった艦である。

 強力な船体構造は、神聖ミリシアル帝国の超大型魔導爆弾ジビルの直撃にも耐えていた。


「どうやら……敵に対する評価を少し改める必要があるようだねぇ……一時的射程圏内から離脱、旋回しつつ、敵を攻撃し、1艦ずつ撃沈せよ」


「了解」


 一度離脱し、各艦に砲撃を加え、各個撃破していく。

 40分後……グラ・バルカス帝国第1打撃群36隻は神聖ミリシアル帝国、空中戦艦パル・キマイラ1隻を前にして全滅した。

 第1打撃群を滅したパル・キマイラは、本隊に向けて飛行を開始するのだった。

◆◆◆


 グラ・バルカス帝国海軍 本隊 戦艦グレードアトラスター


「旗艦から入電、敵空中戦艦と第一打撃群36隻は本日1011時に合敵、1112時、通信途絶、全滅した模様、なお、敵空中戦艦は本隊に向かって進行しつつある。との事です」


 艦長ラクスタルの目が光る。


「航空部隊も落とされ、打撃群もたったの1隻に全滅させられたか……副長、どう考える?」


「はっ!強力な敵です。決してなめてはならないかと……しかし、数が違う、勝つでしょう」


「そうだな」


「間もなく、第8打撃群42隻が、敵の数だけは主力の艦隊に到達するでしょう。海戦はますます複雑になりますね」


「世界連合……だったかな?本当に数は多いようだな。しかしこの敵はこの世界そのものと言って良い。勝てば我が国に敵はいなくなるだろう」


「東の果ての国……日本国は考慮しないのですか?」


「ああ、あの対空砲が優れていたあの国か……装甲が紙のようだった……巡洋艦であのような設計思想をもっているならば、現有艦は恐れるに足りんだろう。

 ただ、研究期間を得れば、帝国の脅威となりうる艦を作れるかもしれんな……軍上層部もそれは承知しているだろうから、数年以内には決着をつけるだろう」


「いずれは日本国ともぶつかる事になるのでしょうな」


「そうだな……そして、いつものように我が国が勝つ」


 帝国最大にして最強の戦艦に乗艦するグレードアトラスター艦長ラクスタルは、空中戦艦パル・キマイラを待ち構えるのだった。


◆◆◆


 ムー大陸北側 ムー国艦隊旗艦ラ・エルド


『敵艦42隻を捕捉、世界連合艦隊西側約120kmの海域です。まっすぐこちらに向かって来ます!!!』


『第2文明圏連合竜騎士団、全500騎を使用して敵艦に攻撃を加える模様』


『各艦隊は、戦闘配置に移行中!!!』


 先の戦闘で、多くの味方機を落としたグラ・バルカス帝国、今度は艦隊がやって来る。


「艦隊決戦か……」


 敵はとてつもなく強力であることは間違いないく、レイダーの胃が痛む。


「総員戦闘配備!!!帝国艦の数は少ない、連合艦隊で敵を撃ちとるぞ!!!」


 世界連合艦隊は、総力戦に移行するのだった。








 読者の皆様に、2つ報告することがあります。

1 3月17日に、 日本国召喚4 崩れる均衡

  が発売されます。是非よろしくお願いします。


2 な……な……なんと!!!

  コミカライズが決定いたしました!!!!!

  気持ちを表すと

「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」

 です(^^♪


 本当、読者のみなさんのおかげです。

 コミカライズの詳細について、及び4巻発売に伴う情報公開詳細については、まだ許可が出ていないので、話し合って後日公開出来ればと思っております。

 今特典書いてますので、まだ次話を書けてませんが、なるべく早く書ければと思います。

 これからも日本国召喚をよろしくお願いします。


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