表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/155

外伝2-1 虚構の英雄

『虚構の英雄』


■ ロウリア王国 王都ジン・ハーク


 ロデニウス大陸統一を目論んだロデニウス戦役は、失敗に終わった。

 北方の海域に突如出現した日本国が参戦し、その圧倒的な魔導を前にロウリア王国軍は壊滅的被害を受け、王が日本国に逮捕されたことにより力の統制が崩れた。

 ロウリア王国は各諸侯が所領の統治権を回復し、にらみ合う事態となっている。パーパルディア皇公国への返済、クワ・トイネ公国と日本国への賠償に追われ、王国の国力は疲弊し始めていた。

 敗戦の混乱が次第に落ち着き、共和制への移行が進む中、戦争の経緯などを知らない国民や兵士たちは、相次ぐ増税に苦しんでいたものの、とりあえずは食うに困らない程度の治安と経済状況を保っている。

 軍は将軍パタジンが中心となって、大幅に削減された軍事費で必死に再建に取り組んでいた。


「ターナケイン! 軍部のお偉いさんが呼んでいるぞ!」


 竜舎の施設課長が、竜騎士団唯一の生き残り、ターナケインを呼んだ。


「はーい! すぐに行きます!」


 ターナケインは戦後、紆余曲折あって、ロウリア王国軍竜騎士団の総長に最年少で昇格した。新たなワイバーンと竜騎士の育成のため、毎日必死で職務に明け暮れている。


「お前は王国兵で唯一、日本軍に一矢報いた竜騎士だからな。何か褒賞でも出るんじゃないか?」


「どうですかね。軍部の窮状を知っている以上、あまり楽観できませんよ」


「それもそうだなぁ……候補生はどうだ?」


「……まだまだですね。テストライダーを正式採用したいぐらいです」


「この国の未来はお前たち若者にかかっているからな。何とか頑張ってくれよ」


 課長に苦笑いで返し、竜騎士団本部を出るターナケイン。軍の迎えの馬車に乗り、片道約2時間のハーク城へ向かう。


■ ハーク城 王都防衛騎士団 幹部会 議場


 王都防衛竜騎士団は、王都防衛騎士団の下部組織である。防衛騎士団の上位にロウリア王国軍があり、三大将軍などは王国軍の所属である。パタジンは王国軍将軍と、防衛騎士団総長を兼任している。

 つまりターナケインは竜騎士団の総長だが、中間管理職なのだ。

 防衛騎士団本部の最奥にある、議場の重厚な扉を開いたターナケイン。

 中には厳しい顔をした軍幹部が座っていた。


「よく来たな、ターナケイン君。掛けたまえ」


 ターナケインが椅子に腰掛けると、幹部はためらいがちに口を開く。


「単刀直入に言おう……日本国が君を捜している。この意味がわかるな?」


 日本国の鉄龍に唯一有効打を与えた兵を、日本国が探している。おそらく搭乗者が被害を受けたか、もしくは搭乗者が貴族か。いずれにせよ、いい話では決してなさそうだ。


「……私はどうすれば?」


「拘束せよという命令は来ていないので、しばらくは普段通りに過ごしていいそうだ。後日、案内が届くらしい。それに従って日本に行ってくれるか」


 国のために、侵攻してきた敵を相手に命をかけて戦った。

 そして敗北の結果がもたらしたのは、敵国への身柄引き渡し。

(組織は個人を守りはしない。都合が悪くなれば切り捨てるのみか……)

 勝てばいい。しかし、負ければすべての権利が奪われる。それがこの世界の常識である。


「すまない……勝っていればこうはならなかった……」


 幹部は若き竜騎士に、申し訳なさそうに謝罪した。


■ 数日後


 ターナケインの家に、一通の封書が届いた。

 ロウリア王国で出回っている物とは明らかに異質な紙に、大陸共通言語で無機質な文字が書かれている。


「ん? 『式典』のご案内?」


 手紙を読み進めると、送迎の日時やその後の行程が詳細に書かれている。しかも不可解なのが、帰国の日時、そして場所までが記載されていた。


「どういうことだ?」


 ターナケインは一瞬淡い期待を抱きかけたが、歴史上、こういった甘言で要人を誘い出して処刑した例はいくらでもある。

 引き継ぎ作業を進め、その日を待った。


■ さらに数日後


 育ててくれた親に今生の別れを告げ、ターナケインは日本国の用意した『自動車』と呼ばれる乗り物に揺られていた。

 馬が牽いているわけでもないのに、荷馬車のない馬よりも速く地面を疾走する。

 国境を越えてクワ・トイネ公国に入ると、荒れた大地が急に緑に覆われ、大穀倉地帯が姿を現す。

しばらく走った場所に、大量の墓地が見えてきた。


「あ……あれは?」


「ギムの住民のものですよ。ほとんどの住民があなたの国に虐殺されたので、町の近くに墓地を作ったんです」


 日本人の運転手は、抑揚のない声で答えた。続けて、ロウリア王国がこれまでに侵略戦争を繰り返していたことも語って聞かせた。

 絶句するターナケイン。

 今回の戦いは、本来自分たちのものだった土地を取り戻すための、正義の戦いだと聞いていた。

 しかし、非戦闘員を一方的に虐殺しているなんて知らなかった。

 彼は、「これはいよいよ命はない」と覚悟する。

 

 城塞都市エジェイに到着し、自衛隊の基地で一泊したターナケインは、翌日、今度は『飛行機』と呼ばれる物体に乗せられ、日本国に向かって飛行していた。

 眼下には地面に張り付くような雲が見え、凄まじい高度と速度で飛行していることを実感する。

 絶対迎撃不可能領域。

 おそらくは列強国ですら、この乗り物を墜とすことは不可能であろう。身をもって感じる国力差である。相手の力を分析せずに戦いに走った上層部に、怒りすらも感じてしまう。

 搭乗して4時間ほど、ようやく飛行機が高度を下げ始めた。

 驚きのあまり体感時間は短かったが、機内説明では本当に、たったの4時間で着いてしまったらしい。

 機が徐々に高度を落とし、見たこともない町の景色が広がる。やがて王国では考えられないほどの、広大で長い滑走路に着陸した。

 ターナケインは瞼を閉じる。人生を振り返りながら、クワ・トイネの民への謝罪や先に逝った先輩たちの顔を思い浮かべる。


(間もなく最期を迎えるのか……親父もおふくろも泣いていたな……)


「よし!」


 覚悟を決め、日本人に案内されて外に出る準備をする。途中、同行していた日本人が何かを説明していたようだが、頭の中がいっぱいで、何を言っているのかよく聞き取れなかった。

 ガコンッという音とともに、飛行機の重厚な扉が開かれる。


「くっ……!」


 太陽の光が強く差し込み、ターナケインは目を細めた。


「――え!?」


 盛大な拍手と歓声が湧き起こる。

 日本人の歓迎を受けたターナケインは驚いて、後ろに人がいるのかと振り返った。


「ターナケインさん、ようこそ日本へ。さあ、どうぞこちらへ」


 連続する閃光を浴び、何が起こっているのか理解できないまま、彼は案内に従って飛行機から降りる階段を歩く。


『今回のロウリア事変で、単騎で戦闘ヘリの編隊に突入し、一矢報いたロウリア王国の竜騎士……ターナケインさんです!!』


 大きな声が流れる。

 やがて見覚えのある鉄龍の前に誘導された。鉄龍の前部が一部焼け、塗装が剥げている。その前に2人の男が立っていて、にこやかな表情を浮かべていた。


「パイロット……操縦士の山根です。貴方があのときの竜騎士さんですか」


「……はい」


「勇敢な方ですね。まさか単機で、戦場の煙に紛れるほどの低空飛行で飛んでくるとは思いませんでした」


 山根が手を差し出す。

 先輩たちを殺し、相棒を葬った憎き敵のはずなのに、何故か憎悪の感情は生まれなかった。

 日本の軍人も、命令で国のために動いていたに過ぎないからだろうか。

 3人は堅い握手を交わす。

 ターナケインはこの時、日本国が自分を殺すことはないと悟った。敵国の兵を「勇敢」と称えるなど、日本国民は他の国の者たちとは完全に異なる考え方をしているのだろう。

 実際は、政治的意図があって開催された行事であったが――


 後日、ターナケインは日本国の軍事戦術を学び、現代戦におけるワイバーンの効果的な航空戦術を編み出すことになる。



 日本国召喚第3巻は、11月17日に発売されます!!

 是非よろしくお願いします!!!

 また、4巻も制作が決定し、現在制作中です。


 ここまで来れたのも、皆さんのおかげです。

 今後とも日本国召喚をよろしくお願いします。

 また、現在ブログでは2話先行配信しています(ちょっと数値的なものが不具合があるかもしれませんが、なろう投稿までには是正予定)

 ちょっと不完全でも良ければブログにもお越しください

(掲示板もあり、熱い議論がされています)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
航空戦術云々よりも、自国の傲岸不遜っぷりを恥じて、まともな外交ができるように活動すべきじゃないのか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ