バルチスタ沖大海戦2
更新遅くてすいません。現在3巻書籍作業と、特典作成を行っています。
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世界連合艦隊
ウゥゥゥゥゥゥーーー
けたたましくサイレンが鳴り響く、ムーの開発した機械式サイレンの音が静かな海上にこだました。
各国の艦隊は空に注意を向け、ムーの誇る空母5隻からは次々と戦闘機が発艦し、ニグラート連合の竜母4隻からはワイバーンロード竜騎士隊が発艦していく。
各国の艦隊がそれぞれ独自の技術をもって対空戦闘の準備を行っていく。
「対空戦闘準備完了!!」
ムー国艦隊旗艦ラ・エルドも戦闘配備が完了する。
「第2文明圏連合竜騎士団が艦隊上空支援に到着するまでの時間は?」
司令レイダーは艦長に尋ねる。
「メルティマ小隊が会敵後、すぐに基地を飛び立ったようですが、敵の侵攻速度が速すぎます。
敵が艦隊上空に到達後、今しばらく時間がかかるものと思われます。」
メルティマの報告後、すぐに支援要望を出していたが、基地からの距離を考えると、もう少し時間がかかりそうだった。
やがて、澄み渡った空に黒い点が多数現れる。
その方向へ向かって飛び去る迎撃機は敵の急降下爆撃を警戒して上に上がった。
戦艦ラ・エルドに新たに設置された多数の20mm機関砲には人員が配置され、緊張した面持ちで上空を眺める。
ムー国艦隊司令レイダーは、横に立つ艦長に話しかける。
「艦長……第2文明圏連合竜騎士団がいるのは陸の基地だ。
グラ・バルカス帝国からすでに攻撃を受けて壊滅した可能性は無いな?」
「確かに、滑走路等はありますが、船団攻撃のために偽装されていますので、空から簡単には見つかりますまい。
現在まで攻撃を受けたという報は受けていないため、無事と判断いたします。」
「うむ……。」
戦場は動き続ける。
ニグラート連合竜騎士団長モレノールはワイバーンロードの限界高度4200mから急降下を開始していた。
高度3000m付近に敵が侵攻していくのを認めたためであるが、おそらく敵は気付いていないであろう事に、顔がにやける。
「憎き帝国め!!目にものを見せてやろうぞ!!!」
連合のワイバーンロードは他国と異なり、その体色が空に溶け込むように見えるため、模擬空戦でもおよそ先に敵を見つける事が多かった。
眼下侵攻中の敵は約20、我が方は15であるが、奇襲出来れば戦闘は有利になるだろう。
団長モレノールの合図で各竜たちは翼を広げ、首を伸ばす。
徐々に口内に火球が形成されていった。
「ん!?」
敵の1機がバンクし、散開を始めた。
護衛機のようだ……だがっ!!!
「今更気付いても遅いわ!!導力火炎弾、発射!!」
空を翔る無数の火球、15発もの火球が青き空に炎の線を引く。
必中のタイミング……。
「な……なにっ!!」
各自散開したグラ・バルカス帝国の航空機はニグラート連合竜騎士団の放った火球をすべて回避した。
「くそっ!!何て運動性能だ!!!」
彼は驚愕しつつも体制を立てなおす。
敵はすでに遥か先まで進んでしまった。
「速い!!」
モレノールは導力火炎弾を再度放つために機首を敵に向けようとしたその時。
「隊長!!左後方から敵機!!」
彼が振り向くと敵戦闘機が自分の後方につこうとしていた。
「ぬぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
頭を下に向け、急降下を開始する。
光弾による線が一瞬前まで自分が飛行していた場所を通過、少し遅れて「タタタタ……」といった乾いた音が響く。
僅かな判断ミスをしたら死んでしまうという事実に、モレノールの背中にどっと汗が流れる。
敵はすぐに機首をこちへ向けた。
「し……しまっ!!ちくしょう!!なんて速さだバケモノめぇぇぇぇぇ!!!!」
敵は自分よりも遥かに速いだけではなく、とんでもない旋回性能をもっているようだった。
迫り来る光弾……そして……今まで共に戦ってきた愛騎に連続して大きな穴が開き戦友を貫く。
ワイバーンロードはのたうち回る暇も無く即死する。
「がっ!!!」
ニグラート連合竜騎士団長モレノールはグラ・バルカス帝国東方艦隊第1次攻撃隊の護衛戦闘機、アンタレス型艦上戦闘機と交戦し、その命は大空に散った。
◆◆◆
世界連合艦隊 神聖ミリシアル帝国地方隊 旗艦 ブロンズ型魔導戦艦セインテル
艦橋には緊迫した戦況報告響き渡る。
「ムーから発艦した戦闘機隊、全滅!」
「ニグラート連合竜騎士団、全滅!!」
「現在第2文明圏連合竜騎士団170が艦隊に接近中、しかし到達まで約15分!!」
「本隊からは、しばらく耐えるように司令あり」
「あと2分ほどで敵、目視範囲に入ります!!」
艦長レルジェンは瞼を閉じて報告を聞く。
「副長!我々は捨て駒にされたな……。」
「はい、間違いなく。」
世界連合という名の、数は多いが超旧式、いや、骨董品と言って良いほどの軍が眼前に展開する。
第2位列強国のムーでさえも科学文明船とはいえ、性能的に神聖ミリシアル帝国の旧式艦よりも遥かに古い。
そして弱い……神聖ミリシアル帝国のシルバー級魔導戦艦と同等の強さを持つと思われるグラ・バルカス帝国を前にしてみれば、正直彼らは弾除けに過ぎなかった。
それでも数百隻もの艦隊は目を引く。
「我らは生き残れると思うか?」
「旧式とはいえ、船の数は多い……敵はより狙いやすいソフトターゲットに向かう可能性も高く、後15分ほどすれば数だけは多い第2文明圏竜騎士団が直上に現れます。
総数は500騎ですが、とりあえず170騎が上空支援に到達する。
最初の1撃は耐える事が出来るでしょう。」
「2回目以降は解らぬか……ん?」
ブオォォォォォ……ン
海上に鳴り響く微かな重低音、目を双眼鏡に当て、空を見た。
前部にムーの飛行機のようなプロペラが付き、ミリシアル帝国のような低翼を採用している。
美しくもある見慣れない航空機が目に飛び込んで来た。
「来たか!!対空戦闘用意!!」
艦長の命により、迅速的確に対空戦闘の準備が行われていく。
「魔導エンジン、出力45%から上昇開始!!」
「動力振り分け45%を維持しつつ攻撃回路へ接続」
「接続完了」
対空魔光砲への魔力充填開始……80%……90%……100%……対空魔光砲、エネルギー充填完了!」
「残魔力、装甲強化のためコンデンサへ」
「対空魔光砲、魔力回路起動!属性分配、爆48、火22、風30、対空魔光砲発射準備完了!!」
魔導戦艦セインテルの対空砲の砲口に粒子が吸い込まれていく。
火器は上空を向き、やがて艦隊上空に進入してきたグラ・バルカス帝国の航空機を照準機に捕らえた。
帝国の急降下爆撃機は高度4000mから急降下を開始、何らかの攻撃をしようとしているのだろう。
降下を開始した急降下爆撃機、その音はドップラー効果により高音に至る。
「対空魔光砲発射!!!」
砲口に粒子が吸い込まれた後、爆音と共に光弾が空へと向かった。
空へと打ち上げられる連続した光弾……一見凄まじいまでの攻撃が空へと向けられているように見える。
しかし、近接信管も無く、手動で行われる照準ではいくら連射しているとはいえ、攻撃はもどかしいほどに当たらない。
最初に急降下してきた敵が機銃掃射の後、爆弾を投下した。
◆◆◆
マギカライヒ共同体 機甲戦列艦隊 旗艦バルテルマ
「敵機、我が艦隊に向かって急降下開始!!!」
簡単に攻撃を許してしまった事に、艦長テルンは眉間にシワを寄せた。
見張り員から報告直後、敵の機体が高音を発し始める。
まるで死神の悲鳴のようにも聞こえる音と共に、敵は機首を我が艦隊に向けた。
「対空戦闘開始!!!」
比較的小型の魔導砲が空を向き、射撃を開始する。
空へと打ち上げられる光弾は単発であり、全く敵に当たらない。
「くそっ!!」
次の瞬間、敵が光弾を発射した。
急降下爆撃機から発射された機銃弾は、木製の船体に大きな穴を開け、上から下に貫通する。
「船底破損!!浸水!!!」
「なっ…何だとぉ!!」
空を飛ぶ兵器からのたったの1射で船が破損した事に驚きを隠せず、敵を睨みつけるテルン。
「あれは何だ!!!」
敵は黒い何かを落とし、機首を上げて離脱する。
ドバァァァァァッ……ドゥゥゥゥゥ……
グラ・バルカス帝国の急降下爆撃機から放たれた爆弾は、マギカライヒ共同体機甲戦列艦隊旗艦バルテルマの内部でその能力を開放、炎は内部にある火薬へと引火、爆圧は放射状に広がる。
海上には猛烈な閃光と爆発音が発生し、同船は木端微塵に粉砕されてこの世から消えた。
◆◆◆
ムー機動部隊 旗艦 戦艦ラ・エルド
空を我が物顔で飛び回る敵機……。
ムーや神聖ミリシアル帝国艦から打ち上げられる対空兵器はとんど敵を捕らえる事が出来ず、逆に艦内には悲壮感溢れる報告がなされつづけていた。
「マギカライヒ共同体、旗艦バルテルマ、轟沈!!」
「トルキア王国戦列艦隊、ヘルマ、ぺクノス、ジェイアード、轟沈!!」
「中央ギリスエイラ公国魔導戦列艦、ナーノ、ピルコ、ミーリル轟沈!!」
増え続ける被害……海上の各所で炎に包まれる友軍……数が多いため、全体としてはまだ数パーセントの損耗ではあったが、青い海の上で発生し続ける赤い炎はそこにいる兵たちの心に恐怖を植え付けた。
すでにムーの空母も2隻が爆弾を受け、消火活動中である。
ムーの準備した対空兵器は、たったの3機撃墜したのみであり、数十機が乱舞するこの戦場において、戦果はひどく小さいもののように思えた。
「これほどまでに差があるというのかっ!!」
ムー国艦隊司令レイダーの手は強く握られ、その拳からは血がしたたる。
多くのもの達が高空から急降下してくる敵に注意を向けた。
「低空に敵機!機数4、空母トウエンに向かっています!!!」
レイダーの背中に汗が噴き出す。
日本国の資料で読んだことがある攻撃……水中を進み、船の喫水線下を攻撃、爆圧の逃げにくい水中で爆発するため、船体に多大な被害をもたらす兵器……確か……魚雷!!!
「い……いかん!!奴を空母に近づけるな!!!全火力を集中してでも奴を落とせ!!」
レイダーの指令の後、ムーの対空火砲が水平を向く。
流星雨の如き光弾の嵐が吹き荒れ、海上には的を外れた弾丸が着弾し、飛沫を上げる。
一言で表すならその光景は「猛烈」であった……。しかも!!
「敵、何かを投下、4隻とも上昇、離脱開始!」
「海を良く見ろ!!水中をかける攻撃が来るぞ!!!」
魚雷投下ポイントから空母トウエンに向かって白い雷跡が伸びる。
「回避しろ!!それは強力な攻撃だ!!!」
空母トウエンはゆっくりと旋回を開始、しかし焦っている彼から見るその光景は、もどかしいほどにゆっくりとしたものに見えた。
最初の1撃が空母をかすめる。
「よし!」
1発を回避したことにより、僅かな希望が生まれた次の瞬間、トウエンが震えた。
ドーン…ドーン…。
轟音と共に2本の水柱が出現する。
「「おおおおおっっっ!!」」
それを見ていた者達は、あまりの光景に驚きともなんとも言えない声を発した。
グラ・バルカス帝国の雷撃機から放たれた魚雷は空母トウエンに着弾し、その船底を破壊、艦は一瞬大きく振動した後、急速に傾き始める。
「トウエンから通信、船底から多量の浸水を認める。」
目に見えて船速が落ちていく。そして誰が見ても明らかにそれは沈み始めた。
「ちくちょう!!やられた!!!」
レイダーは吠える。
「空母トウエン、マシガ艦長、総員退艦を指示。」
多くのもの達が見守る中、第二文明圏の機械技術大国ムーの誇る空母トウエンは、ゆっくりと海に沈む。
空母周辺は水流が渦をなし、沈んでいく……脱出できなかった兵を巻き込みながらムーの誇る空母は海へと消えた。
世界連合艦隊を混乱に落としいれたグラ・バルカス帝国空母機動部隊の第1次攻撃隊は、一通りの攻撃を終え、帰投していった。
第二文明圏連合竜騎士団が現場空域に到着した頃には、すでに敵の姿は無かった。
◆◆◆
グラ・バルカス帝国 海軍連合艦隊 旗艦グレードアトラスター
戦艦グレードアトラスターは帝国監査軍所属であったが、その能力の高さから、今回連合艦隊旗艦としての役割を与えられていたため、本来乗艦しないはずの帝国海軍東方艦隊司令長官カイザルが乗艦していた。
「第1次攻撃隊から入電、第2次攻撃の要あり、戦果……」
艦橋では第1次攻撃隊が敵に与えた大戦果が報告される。
一方我が帝国の損害は極めて軽微であった。
カイザルは目を閉じて考える。
「やはり弱敵とはいえ、数が多すぎるな……よし!!
航空攻撃を反復させつつ、戦艦を中心とした打撃部隊を送るぞ!
伏兵の可能性も考慮し、編成は……」
グラ・バルカス帝国海軍連合艦隊は、その大艦隊の一部を……艦隊決戦として、世界連合艦隊殲滅のために差し向ける事を決定したのだった。
◆◆◆
バルチスタ海域 北側
神聖ミリシアル帝国 第1魔導艦隊 旗艦 ミスリル級戦艦 ロト
「数が多いため、数パーセントとはいえ結構やられたな……。」
艦隊司令レッタル・カウランが、艦長タグスに話しかける。
「はい、今回の攻撃ではムーの空母に轟沈と大破が出ています。やはり侮れない敵ですね。」
「しかし主力は我々だ。今回の戦力比は我々が95%、残り5%が世界連合艦隊と言っても差し支えない。」
「報告します!!!」
話を遮るように通信員が声を上げる。
「第6偵察隊より入電!!敵艦隊発見!!戦艦10、空母9、巡洋艦約40、小型艦多数!!大艦隊です!!!」
艦隊司令レッタル・カウランの口元が吊り上がる。
規模からしておそらくは敵の主力……。
「ついに見つけたぞ!!よくやった!天の浮舟発進!!敵を……殲滅セヨ!!」
現代の日本人が見ても一見して先進的に見える空母……。
その空母から多数の攻撃隊が発艦してゆく。
様々な思惑を載せ、戦場は動き続ける。
現在3巻書籍化作業と特典作成を行っています。
現在1・2巻発売中です。
これからも日本国召喚をよろしくお願いします。




