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外伝1-3 クワ・トイネ公国女騎士 イーネの受難

日本国召喚の第2巻が8月17日に発売されます。よろしくお願いします。

■ クワ・トイネ公国 経済都市マイハーク


 小さな石畳の上を、馬車や陸鳥が離合する。

 街は活気に溢れ、行き交う人々の顔も明るい。

 私服で歩くマイハーク防衛騎士団団長のイーネ、今日は休日である。

「はー……」

 昨日のことを思い出し、イーネはため息をついた。

 聞いてしまった……いや、聞こえてしまったのだ。隊員たちの本音が。


「――だよな」

「ああ、受付のミーちゃんは確かに可愛い。狙うならあの子だな」

「でも身近にも美人はいるじゃないか。団長はどうよ?」

「イーネ団長? 可愛いけど、ちょっと無理かな……気が強いし、男を立てるという必要性がわかってない。やっぱり女は一歩引くくらいが良いよ」

「気が強いのは団長の立場上だろ? 2人きりになると上目使いで猫のようになるかもよ」

「いや、立場上だけではないのは見ていれば解るだろう。やはりコルメス公爵家の娘だからかな……あれは行き遅れるに違いない。すでに27歳でやばいけど……40代でも独身だったら、きっと鬼団長になるぞ――」


(失礼な奴らだ。特にキースの奴め、鬼団長だと? 「行き遅れる」なんて言いすぎだ! 私だって……私だって男の1人や2人くらい……)

「はー……」

 やっぱり自信がない。団長職について十数年、色恋沙汰と無縁に生きてきて、もはや殿方の心の掴み方など、わからなくなって久しかった。

(このまま行き遅れるのかな……。ええい!! せっかくの休日に悩んでいても仕方ない。買い物でもしよう!!)

 イーネは裏道に入った。少し入り組んでいて、先を曲がると彼女のお気に入りの服屋がある。

「ん? あれは……」

 緑色のまだら模様を着た人物が、焦った雰囲気でキョロキョロと何かを探していた。

 ロウリア王国の魔の手から我が国を救った、日本国の兵だろう、確か親善訪問をしていると聞いていた。

 兵にしては高齢に見える。40代中盤から後半といったところだろうか――

「――ん!?」

(やばい!! 顔がドストライク!!!)

 あの年でまだらの服を着ているということは、出世できなかった兵だろう。顔は好みだし、ちょっと引っかけて男の気持ちを理解する練習台にはちょうど良いとイーネは考えた。

 どうせ異国の兵だ、恥があったとしてもすぐに国に帰る。

(まずは話しかけて……おっと、女は1歩引いて、だっけ。ミーちゃんが良いとあいつらも言っていたな。ミーちゃんみたいに……ミーちゃんみたいに……)

「あのぉー……何かお困りですかぁー?」

 満面の笑みと上目遣い、そしてちょっと語尾を伸ばしつつ甘ったるい声で、イーネは日本人に話しかけた。

「え? あ、はい……帰る方向……マイハーク青年宿舎の方向がわからなくなってしまいまして」

「それは大変~。何時までに帰らなきゃいけないんですぅ?」

 自分で話していて、この言葉使いは鳥肌が立つ。我ながら気色悪いと思いつつ、話し始めたらあとには引けない。――ミーちゃんはいつもこんな気分で話しているのだろうかと不穏なことを考えていた。

 もう辞めてしまいたいが、男に慣れなければ……一生独女なんて嫌だ……と、イーネは必死だった。

「17時までに帰れれば問題ないのですが、大体この街の雰囲気もつかめたし、帰ろうかと」

「そうなんですねぇ~。ところでおじ様ぁ、マイハークの有名な観光場所なのですが、ディスウール教会はもう行かれましたぁ?」

「いえ、行ったことはありません」

「じゃあー……お時間もあるようなので、寄り道しませんかぁ? お帰りの場所と同じ方向なんですよぉ~」

「え……ええ、ありがとうございます」

 イーネは日本国の兵と思われる者を、有名なデートスポットへ半ば強引に連れて行った。


■ 数日後


「イーネ団長、本日は日本国自衛隊員の幹部たちと、マイハークに住む貴族たちの晩餐会が開催される。晩餐会にはロウリア王国との戦争で自衛隊の救援部隊を指揮していた日本国の猛将、大内田和樹陸将も参加される。マイハーク防衛騎士団の団長として、君も参加してくれたまえ。あと……騎士キースをエスコートに使うといい。キースもあれで貴族の出だ、作法は心得ているだろう」

 国の軍務担当からの依頼により、彼女は晩餐会に参加することとなった。


 空気は澄み、2つある月がはっきりと見える。

 晩餐会会場に向かう外廊下で、イーネは騎士キースに釘を刺す。

「キース、くれぐれも失礼のないようにな」

 イーネの言葉を聞いていたのかいなかったのか、若き騎士キースは胡乱な目を彼女に向けた。

「イーネ団長……私、見てしまいました」

「何をだ?」

「……甘い声で異国の兵を逆ナンパする団長の姿です。オフでは凄く行動的だったんですね、公私の差が激しくてびっくりしました……」

「ッッ――――!!!」

 イーネの顔が引きつり、あまりの恥ずかしさと衝撃に声にならない悲鳴を上げた。

「い……いや、あれは……」

「団長、部屋に入りますよ」

 キースにエスコートされて、彼女は晩餐会の広間に入る。

 しかしイーネは内心慌てふためき、晩餐会どころではなくなっていた。

(やばい!! キースに見られた!! やばい!!!)

 すでに司会が何かを話始めているがほとんど耳に入っていない。

「――では、我が国を救った猛将、大内田和樹陸将の登場です!!」

 割れんばかりの拍手が巻き起こり、40代くらいに見える男性が広間に入ってくる。

 イーネは彼の顔を見て、血の気が引くのを感じた。

「あ……あ……あの人は!!」

 ミーちゃんの真似をし、恥はかき捨てとばかりに生まれて初めて逆ナンパした男性。その彼が、檀上で講演を始めている。

 講演後には大内田陸将との挨拶を控えている。イーネ団長は慣れないことをするものではないと、一時卒倒してキースに抱えられた。


 顔から火が出る思いをした団長イーネだったが、後日、大内田和樹陸将と国の垣根を超え、いじらしくも親密な関係に発展していくのだった。



特典情報

 〇 メロンブックス様 イーネの受難の続き

 〇 とらのあな様   1巻書籍限定キャラ 竜騎士ターナケインのお話

 〇 アニメイト様   ガイとエレイのその後(書籍もウェブ版より変わっているため、書籍を読んだ           後に見る事をお勧めします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 時系列を無視した外伝は前話で告知等の配慮があった方が良いと思います。前話の続きとして次話をクリックした身としては困惑します。 [一言] 応援してますので是非ご一考頂きたいです。
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