表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/155

閑話 忘れられた世界8

岡は、バイクを走らせ、予備庫から武器を満載して戦場に戻っていた。


「間に合ってくれよ……。」


 魔獣ゴルアウスによるものと思われる大規模爆裂魔法による城壁の破壊は、初撃の3発のみであり、その後は行われてはいないようだった。

 あんなものを何発も立て続けに喰らっていれば、王国のカルズ地区に破滅的な被害をもたらしただろう。

 魔物の侵入も、最初のみであり、何とか城壁で食い止めているかのように、遠目には見える。


 岡が城壁に戻ると、兵達が体制を立て直し、なんとか狭い場所からの侵入を防いでいるようであった。特に銃士ザビルの活躍は凄まじく、無駄弾を撃たないために、たったの1発でオークキング等の強力な魔物の心臓を打ち抜き、雑魚は兵の弓や隊列を組んだ兵の槍で倒しているようだった。


「岡殿、待ちくたびれたぞ!何とか侵入は防いでいるが、このままでは持たない……本来ならば、知将バハーラと魔獣ゴルアウスを打ち取れば終わりだが、魔獣ゴルアウスはこの銃では倒せん。どうする?」


「そのために予備の武器庫に足を運びました。私に考えがあります。一時城門から単体で打って出るので、支援射撃をお願いします。」


 岡はそう言いながら、銃士ザビルに弾薬を渡す。


「承知した……岡殿、死ぬなよ。次に飲む酒は勝利の酒だと決まっている。」


「はい!!ではお願いします。」


 ダダダダダダ……。


 連続した炸裂音が鳴り響き、城門付近にいた魔物が次々と倒れていく。城門付近の直線状の魔物が倒され、外への穴が開く!!

 岡は、ギアを2速につなぎ、アクセルを全開にした。

 バイクは咆哮をあげ、土煙を後方に噴出しながら城門から飛び出していく。その速度はこの世界の馬を遥かに超えるものだった。


◆◆◆


 今回のエスペラント王国の侵攻を任された、鬼族の知将バハーラは、戦場を見回し、勝利を確信していた。

 最初にあったような連続した光弾は、ゴルアウスの爆裂魔法により沈黙している。おそらく、数に限りのある兵器だったのだろう。

 強固な城壁に3箇所空いた穴には、魔軍が殺到しているが、なかなか内部に侵攻することが出来ずにいるようだったが、送っているのは主にゴブリン等のザコであり、漆黒の騎士の騎兵部隊が行けば、すぐにでも突破出来るだろう。


 バハーラは、いくらでも変わりの聞くゴブリンを、もう少し相手の戦力を削るために使うつもりであった。


「ん?」


 城壁を攻めていた魔軍が立て続けに倒れる。あの谷で、絶大な被害をもたらした攻撃だろう。

 響き渡るエンジン音、しかし、エンジンを知らないバハーラにとって、何かが唸っているようにも聞こえた。


「なんだあれは?馬?」


 城門から飛び出して来たそれは、彼の知る馬の速度を凌駕し、後方に土煙を挙げながらこちらに近づく。

 おそらく、敵が単騎で撃って出たのであろう。


「……速いな……小賢しい。」


 魔獣ゴルアウスの口が開かれ、光の粒子が口内に吸い込まれていく。その粒子は徐々に収束し、口の前に金色の球を作り出す。


「滅せよ。」


 魔獣の口に集まった球は、岡へ向かって射出された。




 超高速の光弾は、彼に迫る。偶然にも同時期、直線攻撃に対する回避行動を開始した岡の横を光弾がすり抜ける。

 熱を感じるほどの距離を光弾が通過した。


「うおっ!!あ……危なかった……。」


 横を通過した光弾は、城壁に当たり、猛烈な爆発と煙を噴き上げ、カルズ地区への穴を1つ増やした。


「あとちょっと……。」


 岡は、魔獣ゴルアウスに攻撃するため、射線上に遮蔽物が無い角度に向かう。現時点では背の高い岩の近くに敵がいるため、攻撃が出来なかった。


「よし!!!」


 岡は、猛烈な速度で走り続けるバイクのハンドルを手放す。そのまま後席に括り付けていた、重量17.5kgにも及ぶ01式軽対戦車誘導弾を構える。

 対戦車誘導弾のバイクに乗っての走行間射撃など、訓練でもした事が無かったが、彼は命をかけてその作業を行った。

 敵の魔獣にミサイルがロックオンされる。


「今!!!」


 ロケットの射出音と共に、ミサイル本体が射出される。ミサイルはロケット噴射により、猛烈に加速して敵魔獣へ向かい飛翔していった。




 変な馬に乗った敵は、魔獣ゴルアウスの爆裂魔法を回避した。あのタイミングで当たらなかった事にバハーラは苛立ちを覚え、次は低威力の連続攻撃により、小賢しいハエを滅する事を決める。

 彼が魔獣に指示を出し、ゴルアウスが敵に連続した低威力の爆裂魔法を射出しようとしたその時、敵が何かをこちらに向かって構えた。

 先ほども、城壁の上から攻撃があったが、全く効かなかったため、今回も大したことは無いのだろう。

 次の瞬間、敵から猛烈な速度で何かが射出された。


「!!!!」


 本能的に恐ろしく危険なものであると、一瞬で判断した彼は、連続した爆裂魔法でそれを撃ち落とそうと指示を出す。

 魔獣ゴルアウスの角から放たれた光弾は、まるで雨のような量射出され、発射されたミサイルに向かう。流星のごとき攻撃が、空を舞った。

 しかし……。


「!!!!バカな!!当たらぬ!!!」


 発射されたミサイルは、高速で飛翔し、目標に正確に着弾し、これを打ち抜いた。


「ぐあぁぁぁぁぁっ!!!」


 知将バハーラは、本能的に着弾の瞬間に魔獣ゴルアウスの陰に隠れる。ミサイルの着弾により、ゴルアウスの体は爆散し、飛んで来たゴルアウスだったものの一部に当たり、バハーラは吹き飛ぶ。

 吹き飛ばされたバハーラは、付近の岩に頭をぶつけ、額に埋め込んであった宝石が四散した。


「う……うがぁぁぁぁっ!!!」


 頭を押さえて転げまわるバハーラ、一方魔軍は将たるバハーラが討たれた事を知り、ゴブリンやオーク、オークキングやリザードマンは、驚きの咆哮をあげて逃げ始める。


 圧倒的な量の魔軍が土煙を挙げて、悲鳴を上げて敗走する。その姿は、エスペラント王国兵の脳裏に焼き付く。



「お……俺はいったい何を……?はっ!!」


 バハーラは、現状把握が出来ずに混乱している。

 漆黒の騎士の一人がバハーラの元へやって来た。


「神降ろしの聖者バハーラ様、我々は一体何をしていたのでしょう?記憶が……ありません。他の部隊の者も、記憶が無いと申し立てております。我々を制御出来るのは、神降ろしの聖者バハーラ様だけであります。」


「操られていた……そうか、この俺を操りやがったか……おのれダクシルドめぇぇぇ!!!」

 

 彼は怒りのあまり、拳を地面に叩きつける。

 

「エスペラント王国には、随分と悪い事をしたな……よし!!」


バハーラは、決意したように漆黒の騎士たちに向かい、はっきりと宣言する。


「これより我らは基地へ戻り、憎きアニュンリール皇国のダクシルドを捕獲する。姫様の幽閉位置については、拷問をして吐かせよう。最後に、奴が本国に連絡を取ると姫様の身が危ないので、吐かせた後は、殺処分する。」


「ははっ!!」


「こんなものを我が額に埋め込みおって!!!」


 彼は額にある割れた宝石の欠片を取り出し、地面に叩きつける。その時だった。


「動くなぁぁぁ!!!」


 まだら模様の汚い戦闘服を着た人間の男がバハーラの前に立ち、黒い魔杖をこちらに向けて叫ぶ。

 爆発の影響で、のたうち回っており、接近に気が付かなかったようだ。

 他の漆黒の騎士たちが剣を持ち、人間に向かおうとするが、バハーラがそれを手で制止する。


「貴様……エスペラント王国兵か?勇敢だな。」


 バハーラは、一見野蛮人にも見える兵を見た。肩の部分に白地に赤丸の書かれた布が縫い付けてあるのを確認し、驚きの形相をうかべる。


「いや、貴様はエスペラント王国兵ではないな……その肩の紋章……人間が使えるとは思えぬ威力の爆裂魔法……貴様は太陽神の使いの末裔か?」


「太陽神の使い?何かと勘違いしているようだな。」


「ほう……お前は自覚が無いのか。ならば、末裔ではなく、太陽神の使いが再び召喚されたのか……いずれにせよ、我々がエスペラント王国を攻める事はもうない。済まなかったな。」




 岡は、眼前の男が何を言っているのか解らなかった。01式軽対戦車誘導弾で、魔獣ゴルアウスと呼ばれれる魔物を撃破した。その時、敵将は魔物の後ろに隠れたようであった。

 岡は撃破したかどうかの確認と、仕留め損ねている場合は確実に止めを刺すために、バイクで接近していたが、城攻めをしていた魔物たちがチリジリになって敗走しているようであったため、撃破を確信する。

 魔物の敗走は、将の撃破を意味する。

 死体を確認するために近寄ったが、どうも様子がおかしい。敵将は健在で、さらに(ダクシルドを殺す)などと言っている。確か、敵の親玉の名前だったと記憶していた岡は、混乱し、それらを確かめてからでも敵を撃破出来ると判断し、銃を向け「動くな!」と叫んだ。

 敵は、自分に語りかけて来る。意味も解らず、岡は会話を行う。


「良く意味が解らないが、エスペラント王国を攻めないという事か?」


「そうだ。」


「何故?」


「我々は、魔族ではない。鬼族だ。魔力特性が似ているから、貴様ら人間には良く魔族に間違われるがな。」


「しかし、今お前たちは、魔物と共にエスぺラント王国を攻めていたではないか。信用できないな。」


「信用はしなくて良い。ただ、俺たちは、エスペラントを攻める理由が無い。」


 知将バハーラは、岡に説明を開始する。要約すると下記のとおりであった。

〇 知将バハーラと漆黒の騎士は、魔族ではなく、鬼族と呼ばれる種族であり、魔力特性が魔物とよく似ているが、異なる種族である。

〇 鬼族は、エスペラント王国よりも遥か北側に国を作り、暮らしているが、人口の少ない単一民族国家である。

〇 知将バハーラは、鬼族の中では「神降ろしの聖者」と呼ばれ、その圧倒的ともいえる魔力の器で、他の鬼を操る事さえ可能な特別な家系の直系である。

〇 ある日、訳あって、アニュンリール皇国のダクシルドと呼ばれる者によって、額に魔族制御の宝玉を埋め込まれ、本当に必要な記憶を消された。


 よって、鬼族は他種族や魔族とは関係が無いため、エスペラント王国を攻める理由が無いという。

 要は操られていたと……。

 都合の良い話のように思えた。自分が不利になった途端に安全に撤退するための都合の良い方便にも聞こえる。


「ぐっ!!なっ!!こ……これは……まさか!!!」


 バハーラの隣に立っていた漆黒の騎士が、頭を押さえ、狼狽し始める。


「バハーラ様!!この感覚はまさか!!!」


「ああ……間違いない!!おのれダクシルドめ……この禍々しい気……まさか、祟り鬼神を復活させようとは……しかも、数がとんでもない量だ、1,2,3,4,5……約600体はいるぞ!!」


「これほどの量とは……まさか……まさか……。」


「ああ、幻獣封呪郷の遺跡に手を出し、封印を解いたのだろう。歴代の鬼族の努力を無に帰す行為……でなければこれほどの祟り鬼神の説明がつかぬ。」


「ま……真っ直ぐこちらに向かって来ます!!」


 岡を無視して話が勝手に進んでいく。


「どういう事だ?何を言っている!!!」


 バハーラはゆっくりと振り返り、岡に説明を開始する。


「魔族も人間族も関係なく、自分の種族以外は無差別に殺す祟り神、鬼の祟り神とも言われる化け物が600体、こちらに向かってきている。神と名が付くだけあって、この化け物は現世と幽世の狭間の存在、歴史上1体で我が国の集落が消滅した事は何度もあり、その圧倒的な力と防御力から倒すのは困難を極めるとされている。

 過去の我が先祖たちは、集団で1体に対応し、命をもって封印する術を編み出し、幻獣封呪郷と呼ばれる場所に、出現のたびに多大な犠牲を払いながら封印していったのだ。

 過去の歴史の中で、我が鬼人族が「祟り鬼神」を倒した事は、1回しかない。

 祟り神は、お前が倒した魔獣ゴルアウスよりも大きく、防御力、力、そして操る魔力も高い。古の魔法帝国も一時は使役を検討していたらしいが、成功には至らなかった化け物だ。」


「物理的な攻撃で倒せるのか?」


「ああ、お前が魔獣ゴルアウスに使ったような爆裂魔法があれば、ゴルアウスよりも遥かに固く、素早い動きをする祟り神も倒せるかもしれない。しかし、今向かってきているのは約600体だ。1体2体の話ではない。はっきり言おう……エスペラント王国は終わりだ。」


「……どうやってこちらに向かうように操っているのだ?」


「……解らぬ。推測だが、私を操る宝玉が割れた事を認知したダクシルドが、王国ごと滅し、更地にする方向に方針転換したのだろう。」


「何故エスペラント王国を攻撃していた?更地ならばいっぱいあるだろう!」


「古の魔法帝国復活のためのビーコンが王城付近の地下に埋まっているらしい。万が一にでも掘り起こされないために、エスペラント王国攻略は開始された。我々鬼人族や、魔族を制御する実験も兼ねてな……しかし、それが失敗に終わったと判断したため、魔軍、そして王国ごと消滅させるつもりなのだろう。

お前も1刻も早く、城壁内に避難した方が良い。操られていたとはいえ、貴様ら人間に多大な迷惑をかけた事は間違いない。我ら程度の戦力では止まらぬだろうが、せめて我ら鬼人族が誇りをもって祟り神と戦おう。僅かな時間の延命しか出来ぬだろうがな。」


 バハーラは立ち上がり、漆黒の騎士たちに指示をしていく。

 本戦いで生き残っている約70名の漆黒の騎士たちは、エスペラント王国を背にして谷に向かい、隊列を組む。


 安易に信じる事はおかしいと解っている。しかし、彼らには岡を攻撃しようとする意志は全く感じられない。そして、他の魔族が敗走したが、漆黒の騎士とバハーラだけは正気を保ち、谷に向かって隊列を組んでいる。

 仮に彼らの言う事が本当ならば、それを防ぐ手立ては無い。武器も弾薬も全く足りない。岡は思考をフル回転させる。


『……セヨ、応答セヨ』


 !!!!!!!!!!!!!!

 岡の持っていた無線周波数に入る微かな声、無線の通話状態は良くないが、聞きなれた文言だった。岡は上空を見る。


「ひ……飛行機雲!!!!」


 この無線周波数で語りかけて来た事に感謝しつつ、遥か上空に飛行機雲が引かれているのを確認した岡は、すぐに無線に応答する。

 一時のやり取りがあって……。


「バハーラ……だったな?」


「何だ?」


「私は今から城壁内に一時撤退する。」


「賢明な判断だ。」


「お前たちも来い。」


「な……何だと?正気か?我らは今までエスペラント王国に刃を向けていたのだぞ?我々も行ったら、お前は反逆罪に問われ、殺されるぞ?」


「どうせ祟り神の前では王国は抗する事は出来ぬのだろう?」


「それはそうだが。」


「お前たちの言う通り、化け物が数百体こちらに向かってきているのを確認した。王国に謝罪の意志があるのであれば、まずは城壁内に避難し、共に戦え。それが無理ならば、西に向かって逃げろ。」


「逃げるなど、誇り高き鬼人族に出来る訳がなかろう……解った、我らが命、元より祟り神の前では無いも同然、お前の言う通り、城壁内に赴こう。そこで恨みにより殺されても致し方なかろう。」


 彼らは城壁の中に向かう事となった。


◆◆◆


 岡は銃士ザビルに状況を無線で送り、敵将を一時避難させる旨を伝える。銃士ザビルからそれを聞いた王国騎士団は敵将が来るという事で右往左往したが、魔物の急な撤退、そして鬼神のごとき活躍をした岡のいう事なので無碍にも出来ず、敵の知将と漆黒の騎士70名の城壁内へ来ることに対する許可を行った。


 岡を先頭として、次にバハーラが馬で続く。

 事情を知らない騎士たちは、岡が敵を降伏に追い込んだと思い込み、歓声が沸きあがるのだった。

 



 王国騎士団詰所 会議室


 王国騎士団長モルテスは緊張に包まれていた。

 眼前に、あれほどまでに憎んだ魔軍の知将バハーラが立つ。


「先ほど報告は聞いた……祟り神が押し寄せてきているというのは本当か?」


「ああ、本当だ。言いにくいがエスペラント王国は本件侵攻で消滅するだろう。せめて、僅かな時間でも延命できるよう、我らが先陣を切って戦おう。勝てるとは思えぬがな。」


「祟り神とは……あの鬼神の祟り神か?」


「そうだ。」


 モルテスの顔が青くなる。祟り神伝説は、エスペラント王国にも広く広まっており、過去の侵攻ではたまたま通りかかっただけの祟り神1体で2区画が消滅した。

 天災のような存在であり、それが600体も王国消滅のために進軍してくるという事実に、彼は無力感を覚える。

 あれほど脅威に思っていた漆黒の騎士が70騎もいるにも関わらず、全くもって勝てる気がしない。


 そんな緊張した空気の中、岡が申し訳なさそうに話始める。


「その件ですが、モルテス様、国王陛下に、祟り神を消滅させるために、空の往来の自由と、日本国による王国領地内での重火器の使用並びに空爆を許可して頂きたいのですが。」


 岡は、今までも魔軍を攻撃していたが、今更何の許可がいるというのか……。


「私は本件侵攻に対して国王陛下から全権を頂いている。攻撃のための許可であるならば、許可するぞ。なんでもやってくれ。」


「了解いたしました。早急に連絡を行う必要があるため、少しの間失礼します。」


 岡は退室していった。


「しかし……祟り神、しかも鬼神とは……なんたる不運。」


 はっきり言って手に負えない。人間ではなく、祟り神は読んで字のごとく、神に分類される。

 圧倒的すぎる魔力、速力、防御力を兼ね備え、1体で天災、神話でも登場するたびに、集落を滅した。

 600体など、及びもつかぬ数。


 騎士モルテスと、バハーラは作戦を詰める。


 不意に、ドアがノックされ、先ほど退出した岡が飛び込んでくる。


「本国に連絡が取れました。敵の侵攻速度から言って、4時間20分後に谷の出口付近に達すると思われますが、今から約4時間15分後には、戦闘機が上空に達し、空爆を開始します。間に合います。」


 二人は岡が何を言っているのかが解らない。


「空爆……空爆……どこかで聞いたことが……はっ!!」


バハーラは、岡を向き、目を丸くする。


「モルテス殿、彼は太陽神の使いか?」


 バハーラがモルテスに尋ねる。


「い……いや、空から落ちて来た異国の者とだけ聞いているが……。」


「貴殿は空爆が使えるのか?」


 バハーラが意味不明な事を聞いて来る。


「使える?」


「鬼族の文献にもあったぞ、「空爆」とは、「太陽神の使い」が使用した、空を飛ぶ神の船と地上部隊との連携によって生み出される超大規模広域殲滅爆裂魔法の事であると……。広範囲に及ぶ魔王軍を圧倒的な火力で焼き払ったとも。貴殿はやはり太陽神の使いなのだろう?そう考えないと、我が指揮した魔軍の損耗率の説明がつかない。」


「太陽神の使いというのが良く解りませんが、空爆は実施され、十分な火力がそろいます。間違っても戦場には行かず、城壁の中で待機をお願いします。」


 岡は、彼らに念を押すのだった。


◆◆◆


 祟り神が集団で500体以上が侵攻してきている。

 騎士たちに恐怖が伝染していく。誰もが震えあがり、誰もが絶望し始めていた。

 この事実は住民たちにも伝えられ、すでに避難が始まっていた。絶望が全身を貫く。

 邪神ともいえる鬼の祟り神、それが500体以上、噂では600体も、エスペラント王国を滅するために向かってきているという。祟り神の前では城壁は意味をなさない。

 終わりの時、終末の時が近づいていた。


「き……ききき来たぞーーっ!!!」


 城壁の上で監視していた者が、遠くの方から出る土煙を確認する。

 谷の間に土煙があがり、それが徐々に近づいて来る。その量は増え続ける。


 岡真司も、城壁の上で谷を監視していた。すでに無線機により、間もなく上空に友軍が達する事を知っていた彼は、余裕の表情を崩さない。


「岡殿、本当に大丈夫か?祟り神は今までの敵とは強さが別格だぞ?それが600、そんな数の撃破が可能なのか?」


 銃士ザビルが話しかけて来る。


「どの程度の装甲かによるでしょうが、おそらくは可能と判断します。ほら、来ましたよ。」


 岡は南の方向を指示する。

 矢じりのような飛行物体が、超高速で彼らの上空に迫る。後方に炎を1本吐き出しながら、それは近づく。


「なんだあれは!!!」


 それは超高速で上空を通過し、直後に耳を覆いたくなるような大きな咆哮が体を揺らす。

 本能的に恐怖する兵士たち、その矢じりのような物体は、谷に向かった後に、何かを落とし、急上昇する。

 猛烈な上昇速度でそれは飛翔し、短時間で空へと消えた。

 直後、谷の大地が盛り上がり、雷鳴の轟きと共に広範囲が消滅、上空へ土を運ぶ。


 噴火 という言葉が最も近い言葉であろう。

 連続した噴火によって、あまりにも広範囲の爆発が発生した。


 数度に渡って飛来したそれは、大地を焼き尽くし、 先ほど侵攻の土煙が上がっていた付近は数度の爆風に見舞われる。

 空を飛ぶ剣は、戦場に恐怖をもたらし、飛び去って行った。

 

 唖然……。


「い……いったい何が起こった……。」


 騎士団長モルテスは、あまりの出来事に唖然と戦場を眺める。


「ほ……北西方向から、祟り神と思われる者3体出現!!!」


 谷を通過せずに来たであろう祟り神3体が、北西方向の目視範囲に現れる。

 たったの3体でも王国を滅ぼすには十分の戦力であるそれの出現に、一度は緩んだ緊張が急激に高まった。


 次の瞬間、南から流星雨が上空を通過、煙を吐きながら飛ぶ連続した光弾は祟り神に当たり、猛烈な爆発と共にこれを滅していく。


 南から、空を叩く音が聞こえ、空より現れた数騎のそれは、上空を通過し、谷へと飛行する。

 その機体には、白色の丸の中に赤の丸が描かれていた。


「まさか……まさか……。」


 騎士団、そして住民たちは、災厄を祓った空の物体を見つめる。

 空を飛ぶ神の船、大地を焼く強大な魔導、そして導きの戦士……。


「創始者預言……救いの章!!!」


 住民たちは感動に打ち震える。



 サフィーネは、岡を探していた。先ほど空を飛ぶ剣のような物体は、おそらく岡が言っていた戦闘機というものなのだろう。

 岡が戦闘機を戦場に導いたのであれば、まだ生きている可能性があった。


「いた!!!」


 サフィーネは、岡を見つけ、走って近づき、彼に抱きついた。


「良かった!!生きていて良かった!!!」


 彼女は涙を流しながら、再会を喜ぶ。

 次の瞬間、預言を思い出し、頬を赤らめた。

 

 


  創始者預言 第7章 救いの章


 魔が総力を結集し、王国に襲いかからんとする時、エスペラントは滅びの危機に瀕す。

 空より現れ、傷ついた導きの戦士、その鬼神のごとき強さをもって、王国を救わんとす。

 勇敢に戦うも、強き、数多き魔軍の群れを前に誰もが諦めし時、再び奇跡は起こる。

 導きの戦士によって導かれ、太陽神の使いは再び舞い降り、その強大な魔導をもって魔軍を滅す。

 王国は太陽によって導かれ、長きに渡るエスペラントの黒き時代は去り、誰もが明日に希望を持つ国となり、光の時代が訪れるだろう。

 導きの戦士は傷を癒さんとした乙女を伴侶とし、王国の繁栄の一助となるだろう。




 

 出血多量により気絶していたジャスティードは、自衛隊に救助され、一命をとりとめる事になる。


◆◆◆


 鬼人族の神降ろしの聖者バハーラは、岡の国に「太陽神の使い」がいるもしくは岡のいる国が「太陽神の使い」の国であると確信していた。

 彼は、岡に近づき、語りかける。


「岡殿、お願いがある。」


「何でしょうか?」


 バハーラはその場にひれ伏す。


「なっ!!ちょっと何を!!」


「頼む!!!頼む!!!!お前は強い!!そして、お前の国も強い!!!現在アニュンリール皇国に幽閉されている鬼姫を、救ってほしい!!姫様は……我らが光、我らが希望なのだ!!!姫様の命をちらつかされ、私はダクシルドに従った。

我らが奴の制御から外れたと解った今、姫様の命が危ないのだ!!頼む。我らが持つ情報はすべて渡す。姫様を!!アニュンリール皇国から救い出してほしい!!!

 お前たちを襲った私が頼むのは、おかしい事も承知している。恥であるとも感じている。しかし!!!お前に、お前の国にすがるしか方法が無いのだ!!!

 奴らは、突如我らが国にやってきて、姫様をさらい、魔族からの防御結界を砕いた。

 神の巫女、2600年続く女系の直系である姫様が不在になり、防御結界の再構築が出来ない。我らが国にも魔族が入り込み、国は衰退し続けている。

 皇国が陸続きであれば、我らが刃も届いたであろう。しかし、皇国は海の遥か南にある国、我らではどうしようも無いのだ。

 また、アニュンリール皇国は、古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国の復活を目論んでいるかの国が復活すると、全種族に絶望が訪れる事になる!!」


「いや、私は1自衛官にすぎません。そんな国の大それた事は……。」


「ならばっ!!上司に伝えてほしい。そして、上司にも上に伝えるように働きかけてほしい。」


「解りました。上司には伝えます。」


 後日、日本国政府は、エスペラント王国と国交を結び、また鬼人族の国とも国交開設に向けて交渉を開始する事となる。



◆◆◆


 エスペラント王国 王城


 市民たちは一列に並び、衛兵たちはラッパの音を鳴らす。2階や3階の窓からは紙吹雪が舞い、人々は沸き立つ。

 列の真ん中には馬車に乗った者が2名、救国の英雄、銃士ザビルと異国の兵でありながら、死の危険性があるにも関わらず、必死で戦い、そして本国から救援の兵を呼び寄せる事によって王国を救った岡真司、彼ら2名は馬車に揺られ、歓迎を受けながら王城へ向かった。


 同日 夜


 王城の迎賓の間において、戦勝の宴が催されていた。

 参加者の中には岡真司の他、自衛隊幹部や外交官数名が混じる。

 人々は喜び、王国滅亡の危機を救った英雄の2名をたたえる。


「いやはや、助かりましたぞ、岡殿!王国の危機を救ってくださってありがとうございます。」


 1人の男が岡と外交官がいる席に近づいてきた。確か……彼は魔軍侵攻の司会を務めていた男だ。

 名前が思い出せず、岡は作り笑いをして答える。


「いえいえ、自分の信念に従っただけです。」


「そういえば岡殿、約束でしたな……。」


 彼は丁重に巻物を取り出し、席に広げる。中には見覚えのある戦艦の写真がカラーで写っていた。

 これほど鮮明なカラー写真は歴史の資料でも見た事が無く、外交官や自衛隊幹部は困惑する。何故この写真をこの異世界の王国、しかも外界から隔絶された国の重役が持っているのか?


「これは?」


 岡が彼に尋ねる。


「ほら、戦いの前に約束したでしょう?これは我が国に残る国宝です。鮮明な魔写で写した太陽神の使いが使用した鋼鉄の神船です。彼らの放つ「カンホウ」と呼ばれる超大規模広域爆裂魔法はあまりにも威力が高く、魔軍を消し去ったと言われています。」


「こ……これが過去にあなた方を救ったのですか?」


 外交官が興奮して聞く。


「はい、我が国に神話として残る歴史です。」


「ば……バカな!!」


「旭日旗まではっきりと写っているぞ!!」


「全く意味が解らない!!」


 日本国の各人は、見覚えのあるその写真を見て、どうやって政府に説明するか、悩む。

 彼らの前には、カラーで旭日旗までもが鮮明に映る、歴史上世界最大の戦艦、大和の写真があった。

 




 日本国召喚一 ~導かれし太陽~ 発売中です。Web版よりも大幅な加筆と文章修正を行っております。どうかよろしくお願いします。


 また、ぽにきゃんBooksさんが、15秒程度のプロモーションビデオを作ってくれました。

 ぽにきゃんBooksさんのホームページの他、ユーチューブで日本国召喚で検索したら見れますので、参考までに宣伝致します。


 これからも日本国召喚をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いや~、実際にカラーで、見たら感動するでしょーねぇ。
[一言] 宇宙ではない異世界戦艦大和
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ