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閑話 忘れられた世界5

王国式の銃では難しいとされる距離での射撃、彼はこの距離においても皿を正確に打ち抜く。

 そして、岡もあっさりと皿を打ち抜いた。


「2人ともすごいな。」


「しかし、ザビル様の方が、発射炎が多く、威力も高そうだ。」


「お!?次は100m先だぞ!」


 100m先に皿が出る。ザビルは緊張の面持ちで銃を構える。

 一時的に呼吸を止め、銃のブレを極限まで少なくし、引き金を引く際のブレも起こらないよう細心の注意を払ってゆっくりと指を絞り、射撃を行った。


「ちっ!!」


 ザビルの銃弾は的を外れる。しかし、1分以内に撃破すれば点数は入るため、彼は迅速に銃口の中を掃除し、次弾を装填、落ち着きをもって構え、射撃する。


~パアン~


 乾いた音、弾は皿の右端に当たり、破壊する事に成功した。

 その光景を見て王はつぶやく。


「銃士ザビル……さすが天才だな。凡人であれば、あの大きさの皿、そして距離であれば10発に1発当てる程度がやっとだろう。

 たったの2発で命中させるとは……。さて、異国の兵はどうかな?」


 王の眺める前で、岡と名乗る兵が構え、射撃する。

 軽快で大きく、そして乾いた音がした後、たったの1発で皿が破壊される。相変わらず発射炎は少なく、銃への給弾作業は無い。

 王と会場の者達は、岡の実力に気付き始めるのだった。


◆◆◆


 人類最後の楽園、エスペラント王国、その国で1番の名工と呼ばれるランザルは異国の兵の射撃を見て唖然としていた。

 横にいる彼の弟子が話しかけて来る。


「異国兵の銃は発射炎が非常に少ないですね。命中率は高そうだが、弾の威力は少なそうです。」


「馬鹿者!!お前は何年儂の元で修行してきた!?お前はあの異国の銃がどれほど高性能か解らぬのか?」


 弟子は驚きの表情を浮かべ、師匠に尋ねる。


「ランザル様、どういう事でしょうか?」


「まずあの兵、もう2発撃ったというのに、全く装填作業をしていない。

 火薬と弾があの中に内包されているという証拠だ。戦場においてこの圧倒的ともいえる装填速度の差は大きな兵力比となって現れるだろう。

 それに……発射炎が少ないのは効率的に燃焼しているからだ運動エネルギーへの返還ロスも少ない。ここから見えるかぎりでも、弾の威力も高い。」


「そんな……。」


 彼らの会話中も競技は進む。


◆◆◆

 

 銃士ザビルは焦りの表情を浮かべる。


(くそっ!何とか150m先の皿を割ったが……はっきり言って運が良かった。

 岡と言ったか……異国の兵は未だ1発も外していない!!!)


 名工ランザルの作りし銃に彼は絶対の自信を持っていた。異国の兵が、火薬を装填しなくても良い銃を持っていた事には正直驚いたが、まさか命中率にこれほどまでに差があるとは思っていなかった。

 しかし自分は天才、そして王国1番の使い手であり、焦りを周囲に悟られる訳にもいかない。

 負けるわけにはいかなかった。


『次は200m先です!』


 司会は簡単に言うが、はっきり言って的は点にしか見えない。いくら正確に狙いをつけようが、球形弾の空気のブレだけで外してしまう可能性が高い。

 異国の兵がもしもこれを1撃で当てたならば、弾道を安定させる技術が銃に施されているとしか思えなくなる。

 彼は射撃線に付く。


「ぐっ!やはり小さいな。」


 手振れで僅かに揺らめく銃口……1mmのズレで着弾地点は大きく外れる。

 銃のブレを抑制するため彼は息を止め、ゆっくりと引き金を引いていく。


「当たれよ……。」


 大きな炸裂音、そして煙が上がり、彼の銃から弾が射出された。

 弾の弾道が空気でブレる。


「ぐっ!!!」


 命中せず……ザビルはすぐさま次弾を装填して構え、そして撃つ。


「ちいっ!!」


 2発目も外し、射撃開始から1分が経過したため、時間切れ、命中無しの判定が出る。


『おおっと!さすがの天才も距離200mは難しかったようです』


「そんな……ザビル様が外すなんて……。」


「いくらザビル様でも無理よ、あの的点にしか見えないもの。」


 人々は様々な感想を述べる。

 岡の出番となり、彼は射撃線に付く。

 近くの的と同様、彼は1撃で的に当て、粉砕した。


『おおっと!!信じられません!!銃士ザビルが負けてしまいましたぁっ!!!』


 場がどよめく……。


『ではこれは当たるか!?』


 岡だけが競技を続ける中、的は300m先となり、1つではなく7つもの的が同時に現れる。

 彼は射撃線に付き、連射モードに切り替える。


 タタタタタ……。


 軽快な発砲音が連続してこだまし、曳光弾を交えて射出された銃弾は、見事に7つすべてを叩き割った。


「な……何だと!!!」


 彼の常識を遥かに超える銃の性能に、銃士ザビルは固まる。

 ここにおいて、場にいた者たちすべてが銃の性能差が違いすぎる事に気付く。


「何だあの兵器は!!すごい性能だ!!!最初から反則的な性能だ!!」


「そういえば、最初に異国の兵って司会が言っていたけど、異国って街の地区の事ではなくて、本当に国の事?」


「ばかな、司会が盛り上げたかっただけだろう。そういえば異国といっていたけど、エスペラント王国以外に国は無いはず……。」


 場がざわつくが、王が手をあげたため、場が静まる。

 王は会場に向け、話始める。


「会場に集まった臣民の方々よ、知っての通り、我が国は創設以来、魔物に怯え続けた生活を余儀なくされている。しかし!!我々は1人では無かった。そう、もう気付いた者もいるだろう、今銃士ザビルと戦った兵は、異国の兵なのだ、つまり外の世界にはこのエスペラント王国以外の国があるという事になる。」


 突然すぎる歴史を覆す王の発表に、場は静まり返る。王は続けた。


「彼らの国の名は「日本国」、日の本……太陽を国旗とした島国という事だ、我が国に迷い込んで来たのは事故だが、少しの間、魔物退治に協力してもらえるとの約束を取り付けた。」


「まさか……まさか……。」


 場のざわつきは最高潮に達する。王は続ける。


「もうお気づきの方も多いだろう。これは……我が国に伝わる救いの預言に酷似している。私は民が平穏な暮らしを取り戻せるよう、全力で国を導く事をここに誓う。」


 王の演説は終了した。




◆◆◆


 控室


「お疲れ様!!岡君すごいね!!」


 まさか銃士ザビルを圧倒するとは、思ってもみなかった。

 そして王の発言、言われてみれば確かに救いの預言に酷似している。しかし、彼が導きの戦士だとしたら……。

 サフィーネは頬を赤らめる。


「なあ、サフィーネ……。」


「えっ!!ななな何?」


「何オドオドしてるの?まあいいや。さっき王様が言った救いの預言って何?」


 サフィーネは最後の1行だけ隠し、岡に説明を始める。

 概要は下記のとおり


 創始者預言 預言 第7章 救いの章


 魔が総力を結集し、王国に襲いかからんとする時、エスペラントは滅びの危機に瀕す。

 空より現れ、傷ついた導きの戦士、その鬼神のごとき強さをもって、王国を救わんとす。

 勇敢に戦うも、強き、量の多き魔軍の群れを前に誰もが諦めし時、再び奇跡は起こる。

 導きの戦士によって導かれ、太陽神の使いは再び舞い降り、その強大な魔導をもって魔軍を滅す。

 王国は太陽によって導かれ、長きに渡るエスペラントの黒き時代は去り、誰もが明日に希望を持つ国となり、光の時代が訪れるだろう。


 創始者預言は全7章からなり、第1章から第6章まではすでに的中し、第7章のみがまだ当たっていないという。

 あまりにも古い預言であり、教科書に載るほどで、王国の誰もが認知しているが、自分の生きている時代にそれが当たった訳ではなく、人々はそれを物語としてとらえており、誰も本気にしていなかった。

 学者の中には、第7章が無いとあまりにも絶望的預言ばかりとなり、希望を与えるために後で追加されたと分析する者もいるほどである。


「ふーん……予言ねぇ。」


「岡君の国には預言は無いの?」


「俺はあまり信じていないな……実は、今から15年以上前に、ノストラダムスの大予言っていうのが流行ってね……世界は滅亡するとか言っていたのだけど、結局何も起こらず、そして次は西暦2012年……まあ、俺たちの国で使っている歴だけど、その時に世界は滅亡するとか言われ、結局何も起こらなかった。

 俺たちの国で、破滅的な地震があり、津波に多くの人が飲まれた事があったけど、その地震を預言出来た人は、一人もいなかった。

 地震が起こった後で、「実は予言してました」とかいう人物は多く現れたけどね。

 まあ、インターネット掲示板に未来人と名乗る者が地震前に現れ、「山に登れ」といっていたのは印象的だったけどね。」


「そっか……。」


 サフィーネは「インターネット掲示板」だの、所々解らない部分はあるが、岡が預言の類を信じていないという事に納得する。


「しかし、銃士ザビルさんって凄いね。火縄銃であれほどの命中率を誇るなんて……正直びっくりした。もしもこの89式自動小銃を持たせたら、たぶんすごい事になる。」


「そうなの?」


「ああ、俺よりも命中率は圧倒的に上がるだろうな、凄いよあの人。」


 会話が一瞬途切れる。


「さて……では、有害鳥獣から街を守るために、動かなきゃね。」


 試合後の王の謁見のため走り去っていく姿を、サフィーネは特別な感情をもって眺めるのだった。


◆◆◆


 王城~


 岡は王城に入ると、使いの者に案内されて移動する。

 謁見の間で再び謁見が行われると思っていたが、彼が通された場所は重厚な扉の前であった。

 扉の前には衛兵が二人、槍を持ち、微動だにせずに立っている。


「どうぞ中にお入り下さい。」


 使いの者の誘導により、彼は中に入る。

 部屋の中は大きく、中央部に円卓があり、その先には王が座る。

 10人以上が席に着席しており、1席だけが開いていた。


「そこに座りたまえ。」


 初老の男の言を受け、岡は席に着席する。


「さてと……揃ったな。」


「異国の兵、岡真司よ。先の銃による遠当て、実に見事であった。そなたが真に力を持った国の兵という事を理解した。これから現在の戦況と、作戦会議を始める。

 本来であるならば、国の重要な部分であるため、仮に異国が友好国であったとしても、王前作戦会議には出席できないが、今回の事態は急を要し、君の働きにより、国民の死亡率が大きく変わって来るため、特別に作戦会議にも参加してもらう。」


 流れが急であり、岡の頭はフル稼働する。

 事態を把握しない事には始まらないので、岡は黙って話を聞く事にする。


「では、これより王国の存亡をかけた防衛作戦会議を始める!!」


 司会進行役が、作戦会議の開始宣言を行う。


「私は情報統括を担当しているザンザスといいます。先日帰って来た密偵の情報を示します。」


 地図が円卓に広げられる。

 同地図は、王国とその周辺の状況が記載されており、所々文字が書かれている。(岡は読めない)


「見てのとおり、カルズ地区北側の休火山火口に魔物は集落のようなものを作っていますが、火口南側に物資を集結させつつあります。

 岡殿のために補足すると、火口は大きな町も入るほどの面積があります。

 集落における魔軍の数は、どんどんと膨れ上がり、想定ですが……規模は5万に達するでしょう。

 ゴブリン等のザコで5万であれば、問題ありませんが、この中にオークキング1000体、そしてオーク5000体を確認しています。また、今まで数体しか確認されなかった漆黒の騎士も、すでに200体を確認しています。

 この状況からですが、おそらく1週間前後で侵攻が開始されると想定されます。」


「ぬぅぅぅぅ……。」


「なんという戦力!!!」


 皆の顔が暗くなる。


「そして……何よりも問題なのですが、魔獣ゴウルアスを1体……確認いたしました。これは皆さん知ってのとおり、伝説級の魔獣です。」


「な……なんだと!?ゴウルアス?あの魔帝の遺産と言われたゴウルアスが確認されただと!?これも火口にいるのかね?」


「はい……今回の魔を束ねているダクシルドが使役しているようです。」


「あれを……使役できるのか……伝説が本当ならばどうしようも無いぞ!!」


 話がどんどん先に進む。岡は、ここで聞かないと期を逸すると判断し、皆に尋ねる。


「すいません。ゴウルアスとは一体何でしょうか?」


「君たちの世界には、あまり神話が残っていないようだね。」


 司会進行係の者が岡にそう伝え、話始める。


「ゴウルアスは、古の魔法帝国陸軍で過去に採用されていたとされる魔獣だよ。転移直前は別の兵器に取って代わっていたようだが……全長が5mほどで、全高は2mと比較的低いが、恐ろしいのはその放出する魔力だよ。

 まず鋼のような体毛に覆われた肉体に、回復魔法がかかり続けるから疲れを知らない。主に使用される魔法は2種類あって、角から連射される爆裂魔法、これの連射力は相当なもので、1騎で歩兵大隊を一瞬で壊滅させる事が出来るほどの魔力投射量だとされている。

 そして、何よりも恐ろしいのは口から放たれる球形の爆裂魔法、避ける事が困難な速度で飛翔し、当たればほとんどの物を破壊するとされる。おそらく城門など、一撃で吹き飛ぶだろう。

 現に神話によれば、魔帝亡き後に行われた、種族間連合を滅亡寸前に追い込んだ魔王軍の進行に、このゴウルアスは40体も投入された。

ゴウルアスは太陽神の使いが使用していた鋼鉄の地竜でさえも、数騎がこの爆裂魔法によって怪我をし、走る事が出来なくなったとある。」


 戦車のような兵器に、岡は身震いする。


「40機もあった戦車……いや、魔獣は、太陽神の使いたちによって破壊されたのでしょうか?」


「そうだな、太陽神の使いが使役していた鋼鉄の地竜が放つ爆裂魔法も相当に強力で、何体かはそれで吹き飛ばしたと記載されているが、大部分は魔王軍が決戦のために集結している時に、海に浮かぶ鋼鉄の神船による「カンホウ」と呼ばれた超大規模広域殲滅爆裂魔法の投射によって、一瞬で全滅したらしい。」


(カンホウ?もしかして艦砲射撃かな?)


 岡に僅かな疑問が生まれるが、神話に艦砲射撃があるわけがないと、考えを流す。


「岡殿、君の国には本当に神話が正しく残っていないようだね。戦闘後、この国が存続していれば、鋼鉄の神船の魔写の複製が残っているので、期会があればお見せしよう。」


「ありがとうございます。」


 岡は、日本国はこの世界に転移して来たと伝えていたが、あまりにも信じないため、反論を諦めていた。


「ゴルアウスについては理解してもらえたかな?」


「はい。」


「では話を先に進める。今お伝えした戦力が火口に集結しつつあります。この戦力がこのまま我が国に侵攻してきた場合、これを防ぐ手立てはありません。エスペラント王国は滅亡いたします。」


 場が静まる。


「……しかし、魔獣ゴルアウスを除いて、岡殿が強力な魔獣だけでも倒してくれると、我が国は数個の街を放棄する事にはなり、数万人が犠牲になりますが、存続可能です。ただ……魔獣ゴルアウスだけは人の手でどうにかできる相手ではありませんので、頭の痛いところです。」


 魔獣ゴルアウスは人の手に負えず、漆黒の騎士は200体、そしてオークキングが1000体もいる。単体で戦況を覆すような魔獣が多数存在し、場は沈む。


「こちらの布陣についてですが………。」


 エスペラント王国サイドの布陣が説明される。岡は黙って聞いていたが、戦略も武器も中世であり、確かにこの状態で戦っても壊滅するだろうと納得した。


「次に、岡殿の配下に銃士10名が付きます。」


 説明が始まる。

銃士ザビル以下計10名が自分の配下として協力をしてくれる事が判明した。


「次に、魔軍の進行ルート想定です。現在この火口の集結地点から考えて、3つの進行ルートを予想します。」


 侵攻ルートとその理由が地図に示される。

 すべての想定ルートが、カルズ地区を目指していた。


「すいません。3案すべてこの部分を通過するのでしょうか?」


 質問が出る。


「ここは深い谷になっており、横は断崖絶壁です。通常であれば、この上から攻撃したいのですが、絶壁過ぎて登れません。ただ、出口では何らかの作戦を実行する事が出来ると思います。」


 会議は深夜まで続いた。


 結論として、岡の隊はその武器の威力から自由な行動が許される。

C-2に搭載し、王国が管理していた武器等はすべて岡の管理下へ置かれる事となった。




◆◆◆


 エスぺラント王国 カルズ地区北側


「谷の出口がカルズ地区の城壁に近くて助かりました。」


魔物が侵攻するであろうルート上の谷は、幅約13mであり、その出口はカルズ地区の城壁から約1kmの距離であった。

ミニミ軽機関銃であれば、殺傷能力を保ったまま届く距離であり、岡を少し安心させる。


「しかし……貴殿は人が悪いな。このような超高性能銃を持っていれば、王国の銃を持つ者に勝のは当たり前だ。もっとも、これで王国は救われるかもしれないから感謝はしている……。」


銃士ザビルが岡に話しかける。

訓練のため、89式小銃をザビルに撃たせたところ、岡よりもはるかに命中率が上であり、彼は本当の天才だった事が判明した。

ザビルは小銃の威力と命中率、射程距離に驚愕し、岡から明かされる数々の兵器とその使用方法、威力を知り、魔軍撃退に自信を深めつつあった。


「相手は戦車のような兵器を持った者もいる。油断は命を奪います。私たちが行うのは、目先の勝利ではなく、人々を1人でも多く救う事です」


「他国の民を命をかけて救おうとするのは感心だね。」


ザビルと会話しながらも、岡は、一生懸命に罠を作成する。


「くそ!本当は城壁の中から爆発させたいけど……無理だな。」


 岡は谷にC4(プラスチック爆薬)を埋めていくが、リードの長さが足りず、城壁内までは伸ばせなかった。

 敵は戦車様の兵器を持っており、下手な事は出来ない。

 岡は谷の出口でひたすら地面を掘り、銃士も岡の戦い方の趣旨を理解していたため、スコップを片手に必死で地面を掘り返していた。




「あの人たちはいったい何をしているんだ?谷の出口に穴ばかり掘って。」


「……さあ、落とし穴でも作っているのかな?魔族の量と跳躍力はすごいから、あまり意味は無いと思うが……。」


 城壁を守護する兵は、岡達の不可解な行動に頭を悩ませるのだった。


◆◆◆


 エスペラント王国北側 バグラ休火山


「ダクシルド様、準備が整いました。」


 知将バハーラがアニュンリール皇国の有翼人ダクシルドに話しかける。

 バハーラの後ろには漆黒の騎士が整列していた。


「ほう……漆黒の騎士をこれほどまでにそろえる事が出来たとは……さすがだな。」


「本件侵攻で、エスペラント王国は壊滅いたします。圧倒的な戦力比でございます。」


「うむ!」


 ダクシルドは満足そうに笑う。


「知将バハーラよ……魔獣ゴルアウスの使役は、お前に任せる。全軍を率いてエスペラント王国を攻略してこい。」


 バハーラの顔が喜びに満たされる。


「ダクシルド様、よろしいので?」


「ああ、それだけお前を信頼している。俺はここで戦闘結果報告を待つとしよう。」


 魔族において、力は絶対である。ダクシルドが魔獣ゴルアウスの使役を任せるという事は、トップを譲られたも同然であり、バハーラは驚愕と喜びに包まれる。


「ははっ!では、良い報告をお待ちください。」


 鬼の将、知将バハーラと漆黒の騎士は退室した。

 誰もいなくなった部屋で、ダクシルドはつぶやく。


「フフフッ、精神制御はうまくいっているようだな……鬼姫を捕らえたのは正解だったな。」


 魔軍の群れと、エスペラント王国は、決戦を迎えようとしていた。




3月17日に、ぽにきゃんブックスから「日本国召喚~導かれし太陽~」が発売されます。

また、『閑話忘れられた世界6』をブログ「くみちゃんとみのろうの部屋」で、先行配信しています。

 

※ 書籍表紙の公開許可が出ましたので、ブログ「くみちゃんとみのろうの部屋」で公開しています。

(小説家になろうでも公開したいのですが、やり方が良く解らないのでとりあえずブログでアップします。)

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[気になる点] ずっと気になってたけど魔族の量、人の量ではなく 魔族の数、人の数が正。 最初、質量の意味で大きいって言ってるのかと混乱しました
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