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閑話 忘れられた世界4

エスペラント王国 王城


 王城に住まう王、エスペラントは、謁見の間で王国の頭脳、学者セイを救った異国の兵を待っていた。


「モルテス、どんな騎士が来ると思う?」


 王は、金色の鎧に身を包み、マントを羽織り、魔剣を操る歴戦の勇者の姿を思い浮かべながら王の傍らに立つ騎士モルテスに話かける。

 威厳のある歴戦の老騎士モルテスは、少し難しい顔をしながら、


「そうですな。報告から異国の兵の武器を推察するに、最近王国で開発された銃に近いものがあるのではないかと思います。銃士ザビル殿の方が、詳しいかと思います。」


 モルテスは、同じ王の謁見の間に立つ銃士ザビルの方向を即す。

 銃士ザビル……少しやせ形であり、緑色の服を着た紳士であり、最近開発された銃と呼ばれる新兵器に精通し、その命中精度は王国一を誇る。


「陛下、話に聞いた異国の兵は、黒い杖を敵に向け、連続して発射された神速の光弾で敵を貫き、倒したと伺いました。確かに、神速の弾……という意味では、銃に近いものがあるのかもしれません。しかし、連続して発射というところと、光を放つ弾という所が良く解りません。

 銃は威力の高い兵器ではありますが、連続で撃つ事はもちろん、30秒に1回放つ事ですら難しいでしょう。また、弾は光りませんし……似て非なるものと私は認識しています。

 どんな兵が来るのかは解りませんな。」


 ザビルは銃の可能性を否定する。


 やがて、配下の者が、謁見の間をノックし……。


「間もなく学者セイ様と、異国の兵が参ります。」


 各人は、少し期待をもって、扉を眺める。


「陛下!!帰ってきました!!彼を通してよろしいでしょ?」


 相変わらずの口調でセイは王に話しかける。言葉使いについては、セイに関して彼らは諦めている。


「失礼いたします!!!」


 緑色のまだら模様を着た汚らしい兵が、部屋に入って来る。

 王都の謁見という格式高い場で、その汚らしい姿に、その場に居合わせた各々は顔を曇らす。


「な……なんと!!」


 皆、その優雅さの欠片も無い服を見て、唖然とする。しかし、王は礼をもって話しかける。


「その方名前は?」


「はい、日本国陸上自衛隊所属、岡 真司 といいます!!!このたびは、私を王宮へお招きいただき、真にありがとうございます!」


 岡は、敬礼をして王に向く。

 そのキビキビとした動きに、彼らは少し感心する。


「そうか、私はこのエスペラント王国の国王、エスペラントだ。このたびは魔族の攻撃から我が王国の頭脳であるセイを助けてもらった事を感謝する。」


「ははっ!!」


「ところで……あの漆黒の騎士を倒した君の兵器はなんという兵器なのだ?」


「はい、89式自動小銃と言います。」


 岡が答えた後、学者セイが王の方へ向く。


「陛下、これは銃ですよ。我々よりも、高度な技術を使った銃です。」


「銃?聞いていた兵器の特徴を少し違うようだが……。」


「いやはや、これは凄まじい力を発揮する銃です。」


 セイの話す言葉に、銃士ザビルの顔が少しだけ曇る。


「なるほどのう……。」


 王は、この岡と名乗る異国の兵の力が見たくなった。


「岡よ、お前の力が見たい。」


 唐突な発言。


「といいますと?」


 王は自分の横に立つ緑色の服を着た者を指さす。


「こやつは銃士ザビルという。我が国で開発された銃に精通しており、この国一番の使い手と言っても差し支えない。

 この者と遠当て……遠くの的に当てる競技があるのだが、それで競ってみてほしい。」


 王の申し出に対し、岡は困った顔をする。


「申し訳ありません。私は日本国の自衛隊員です。

 日本国においては、武器の使用は厳しく制限されており、私の判断のみで特に状況も差し迫っていないのに勝手に使用する訳には参りません。」


 岡は王の申し出を断り、王の側近たち異国とはいえ1兵卒が王の申し出を断ったという事実に唖然とする。


「そうか……なかなか固いのう。では、岡殿、お願いがあるのだが……。」


「何でしょうか?」


「実はな、我が国の北側にバグラという休火山がある。その火口付近に……考えられない事ではあるが、魔物が街を作っている事が解ったのだよ。

 奴らはその数を増やし続け、明確な戦闘準備をしている。

 今回の敵の規模は、過去の侵攻とは比較にならないほどの規模であり、戦力比を冷静に分析した結果、今回敵が本格的に侵攻を開始した場合、良く見積もって王国の80%は奪われ、民は殺されるだろう。通常の見積もりであれば、王国は滅亡する……すべての壁は突破されるだろう。」


「え!????」


 岡と共に同席していた医師バルサス、そしてサフィーネが王の前であるにも関わらず、驚きの声を発す。


「しかし、滅亡を回避するための光が……王国にとっての光が空から舞い降りて来たのだよ。

 岡殿、君はあの……とても手に負えない漆黒の騎士を単体で、ただ1人で倒したと聞いた。君が強力な魔物だけでも狙って倒してくれるなら、我が国の被害は国民の半数、15万人で済むだろう。」


 絶句するほどの被害。


「魔物と呼ばれる生物の侵攻経路の想定はありますか?」


「地形、状況、そして防御力から考えて、間違いなくカルズ地区が最初の標的となるだろう。

 この地区については、岡殿が強力な魔物を倒す事に協力が出来る出来ないに関わらず、戦力比から考慮して、落ちる。この地区の国民は、残念ながら全滅するだろう。」


 サフィーネが居ても立っても居られなくなり、無礼であると解っていても王に意見する。


「へ……陛下!ではすぐにカルズ地区の住民を中心部へ避難させてください!!!」


 王、そして側近は苦しい顔をする。


「カルズ地区の娘か……。すまない、心苦しいがそれは出来ぬのだ。」


「何故ですか!?」


「食料だ。カルズ地区は農業地域、王国の食料生産地の1つ、しかしここは戦力比からして、必ず落ちる。

 仮に同地区の住民を他の地区で保護した場合、戦える日数が激減する。

 長期戦になった場合の被害はカルズ地区を国民ごと放棄した場合に比べ、2万人も増加する。つまり戦いが始まれば、非情なようだが門は閉められ、再び開く事はないだろう。

 これはカルズ地区に限らず、最初の侵攻でおそらく3つの地域を放棄する必要が出て来るだろう。」


「そ……そんな!!!」


 サフィーネが崩れ落ちる。


「……お主らは、今のうちに王都へ移り住んでも構わぬぞ。少人数ならばなんとかなる。」


 彼らの会話中、岡の頭は全力で回転していた。

 自分が参戦しなければ全滅、参戦したとしても、国の半数は死ぬというエスペラント王国側の試算、とんでもない話だ。

 自分が守らねば……自分を助けてくれた、命を助けてくれた優しいカルズ地区の人々は命を落とす。

 岡は決意する。


「陛下……。」


「何だ?」


「私は1人の人間として、有害鳥獣の駆除に協力をしようと思います。しかし、自分1人ではどうしようもならない場合があります。」


 話はつづく。


「敵の状況、数、特徴、特性、侵攻予想ルート、何故そこを予想するに至ったのか等情報をすべて私にもいただきたい。また、現在王国の管理している我が国の墜落した飛行機に積んである装備品のすべて返却して頂きたい。」


「良かろう。」



 王は即答する。


「そして、この国には銃士と呼ばれる方々がいるのという事を聞きました。

 この銃の取り扱いに慣れた者を最低10名、私に貸してほしい。指揮下に入るという意味です。」


 この言葉を受け、銃士ザビルの目が見開かれる。エスぺラント王国において、大音量と共に煙を発し、敵を倒す圧巻な兵器は貴族のみが使いうる特別なもの、それを異国の平民の指揮下に入れるなどとは……銃士ザビルの血が湧く。


「異国の兵殿……我が国の銃士を「使う」つもりであれば、国王陛下が仮に許可したとしても、やはり力を見せていただかないと、私には無理だ。

 失礼だが皆が言うように、君はすごいようには見えない。」


 岡は少し考える。


「解りました。数万人の命がかかった緊急事態です。私の武器の使用も、説得のための措置として、何とかなるでしょう。」


 ザビルは岡を見て不適に笑う。


「勝負は銃の遠当てだ。1分間のうちに、何発撃っても良いが、指定した皿を割ると点数になる。この皿は、徐々に遠ざかっていき、遠くの皿ほど高得点となる。

 君は君の国の武器を使うがよい。

 私はもちろん、我が国の匠が生み出した最高傑作の銃を使わせてもらうよ。」

 

 ザビルは王に向く。


「陛下、岡殿が助けて下さる事は非常に喜ばしい事ですが、彼の実力が陛下の思われている想定以下であれば、彼には魔族と単独、もしくは銃士以外の兵の貸し出しという形で対応したいと思いますが、よろしいでしょうか?」


「うむ、了解した。」


 その他話したい事は多々あったが、王の前で岡が力を見せた後に、最後に謁見が開かれる事とし、その日の謁見は終了した。


◆◆◆


 2日後


「ねえ、あんな事引き受けて、本当に大丈夫なの?」


 本日開かれる的当て大会、射撃場で銃士ザビルとの的当て対戦、サフィーネは不安を感じ、岡に話しかける。

 最近は慣れて来たようで、年齢が近い事もあり、岡もサフィーネも互いに敬語を使わなくなって来ていた。


「大丈夫だよ……。」


 銃士ザビルの銃は、練習風景を見たところ、装飾はされているものの火縄銃であり、球形の弾を銃口から入れ、発射のための火薬をわざわざ注いでいる。

 自分がいつもの実力を出せば銃の性能差で勝つだろう。

 しかし、サフィーネとしては、銃士ザビルは王国最強の銃の使い手、「ザビルの右に並ぶ者なし」と言われ、「天才」と呼ばれている。

 彼の持つ銃は名工ランザルの最高傑作と言われているため、確かに漆黒の騎士を倒した岡の実力は認めているが、「試合」という形だとどうしても不安があった。

 

 彼女は岡が勝つと、カルズ地区の被害が少しでも減ると考えていたため、神に祈る。


「お願い!勝って!!!」


「ああ!!」


『間もなく御前試合が始まります。精鋭の戦士2名を紹介いたします。』


 アナウンスが聞こえ、準備の整った岡は試合会場に向け、歩き始めた。


◆◆◆


 王立新兵器実験場


 約1万人は収容できようかという客席は満員となり、各種貴族の眺める中、王が登場する。

 王は住民たちの息抜き、そして強力な成果を出した場合、異国の兵に対して協力する正当性を示す意味も込め、同実験場を一般に開放していた。


『お集まりの皆様、選手を紹介いたします。

 我が国の誇る最高の銃と呼ばれる新兵器、その最強の使い手、神の才を持つと言われた男!!銃士ザビル!!!』


 会場に大きな拍手と歓声が沸き上がる。


「キャー!!ザビル様-!!!」


 いわゆるイケメンであるザビルに対し、貴族の娘たちの黄色い声が多数こだました。

 ザビルは中央部まで進み、王に一礼する。

 歓声が最高潮に達した時、アナウンスが流れる。


『次に登場の者は異国の兵、その類稀なる力で、あの「漆黒の騎士」を単騎で倒した男!日本国の誇りし兵、岡 真司!!』


 会場に歓声が沸き起こる。しかし姿を現した男の見た目によって、声は沈静化していく。


「な……何?あれが異国の兵!?」


「なんという汚らしい格好……。」


「本当に漆黒の騎士を倒したのか?」


「これは……ザビル様の圧勝ね!」


 特に何の根拠もなく、観客たちは、予想を開始するのだった。


「やあ、君とこの時を迎える事が出来、うれしいよ。」


 ザビルが岡に挨拶する。


「私も、他国との競技会が出来る事は光栄です。」


 岡が答える。


「私はね……ライバルという者がいなくなってしまってね……強すぎるというのも孤独なものさ。」


「そうですか……羨ましい。私はライバルだらけです。」


「ハハハ、凡人は大変だね。」


『それでは、競技を開始します!!』


 約50mほど先に直径1mほどの皿が現れる。あまりの的の近さと大きさに、岡は唖然とする。


「え!?あれですか?」


「ハハハ……驚いたかい?殺傷距離220m、必中距離は50mと言われる名工ランザルの銃……しかし、的はたったの1mだ。

 なに、君が凡人であっても、鍛錬をして達人の域に達していれば、当たる距離だよ。」


『それでは、競技はじめ!!』


 約50m先の的に1分以内に当てればクリアとなる。

 射撃は1分ごとに当たり、はずれを判別され、交互に行われる。


「行くよ……。」


 エスペラント王国最高と言われた銃士ザビルが射撃線に付き、準備を開始する。

 球形の弾を込め、火薬を注ぎしっかりと構え、引き金を引く。

 火縄の撃鉄が火薬を打つ。引火した火薬は瞬く間に燃え広がり、空気を爆発的に膨張させた。


 パァン!!


 大きな音と共に火縄の接した付近と、銃口から派手な白煙が上がり、球形の弾が射出される。

 発射された弾は空気でブレながら高速で飛翔し、50m先に設置された皿を1撃でたたき割った。


「おおおおおーーー。」


 会場にざわめきが巻き起こる。


「うむ!見事だ!!」


 王が納得する。


「は……初めて見た!!」


「なんて恐ろしい武器だ!!」


 まだエスペラント王国に多く普及していない銃、そのあまりの威力に人々は驚きの声を発する。


『皆さま、これが名工ランザルの作りし銃と、天才ザビルでございます。

 この兵器は、今回の的までの距離で射撃した場合、鎧を貫通いたします。

 現在量産に向けて取り組んでおり、これが正式に実用化された場合、オークキング等の鎧を着た魔物に対し、有効な武器となるでしょう。』


「おおおぉぉぉ!!」


 会場がどよめく。

 

『続いて、異国の勇敢な兵、岡 真司です。彼らの国、日本国にも銃があり、彼は一般兵との事ですが、天才銃士ザビルにどこまで抗する事が出来るのか、皆様ご期待ください。』


 岡は射撃線に付く。


『では……はじめぃ!!』


 彼は迅速的確に89式自動小銃を的に向かって構える。

 単射である事を確認し、照星照門が一列になるよう、狙いをつける。

 至近距離射撃、外すはずがない。


「ん!?」


 ザビルは岡が火薬を入れていない事に気付く。


(おいおい、緊張しているのは解るが、火薬を入れ忘れるって、そりゃないだろうう。)


 彼は岡が練度の低い兵と感じ、肩を落とす。


「これは……相手にならないな。」


 ザビルがつぶやいた時、会場に乾いた音が鳴り響く。

 89式自動小銃より発射された弾は銃内のライフリングにより弾が回転しながら飛翔する。

 弾は空気を裂き、安定して飛行し、標的の皿を叩き割り、遥か先の地面に落下、小さな煙を上げた。


 どよめく会場。


『お見事です!さあ、次は70mだ!!』


 70m先の位置に直径1mの皿が現れた。


「ほう……思ったよりもやりますね……。しかし、次は70m、さらにきつくなりますよ。フフ…。」


 銃士ザビルが射撃線に付き、彼は火縄銃を構える。





3月17日に日本国召喚~導かれし太陽~が発売されます。

大幅加筆しております。

なお、書影の公開許可が出ましたので、なろうへのアップロードの仕方が良くわからないのでブログにアップしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 1mの皿って高価ではないのか
[気になる点] この小説の一番悪い点は、「何々だろう。」で会話をするところ。これで一気に小説の雰囲気が予言の言い合いになる。もう少し人間味の有る会話をしてほしいですね。
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