列強のプライド4後編
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巡視船しきしま
「神聖ミリシアル帝国と、敵艦が混戦状態となっている。今のうちに、海峡をすり抜け、戦場を離脱するぞ!!」
海上保安庁巡視船しきしまの船長、瀬戸は各隊員に激を飛ばす。
大和級戦艦の直近を通り過ぎるという恐怖、各隊員は死の恐怖と戦い続ける。
「最大速力で左方向へ進行!!一気に切り抜けるぞ!!!」
巡視船しきしまは、速度を上げ、進行する。
グラ・バルカス帝国 超弩級戦艦グレードアトラスター
戦艦は、巨体で海水を押しのけ、海を割り、進む。
46cm砲3連装を3箇所に設置、計9門の主砲はこの世界ではあらざる威力の砲弾を射出し続ける。
重厚な艦、中央部には城のような艦橋がそびえ立ち、空へと向けられた3連装高角砲はハリネズミのように設置されている。
前世界においても、今世界においても最強であるこの戦艦の艦橋で、艦長ラクスタルは海を睨む。
「ほう、1発で沈んだか。」
艦長は副長に話しかける。
「はい、やはり、主砲……46cm砲は威力が高いですね。交戦距離も、たったの十数キロであるため、砲弾も当たりやすい。」
砲の威力は口径の3乗に比例すると言われている。
話している間にも、敵船に再度煙が上がり、着弾した艦は、猛烈な火炎と共に、艦が真っ二つに割れて沈んでいるようだった。
「先ほど、敵弾が着弾した時は、少し肝が冷えましたが、被害は擦過痕のみであり、凹損すらしていませんでした。」
「やはり、さすが不沈艦だな。」
轟音と共に、レーダーにより照準された主砲、45口径46cm3連装砲塔から巨弾が射出される。
最大射程距離40kmにも及ぶ主砲は、比較的近距離の10km前後に展開する敵に向け撃つ。
「敵、ミリシアル帝国巡洋艦に命中!!」
敵からは黒煙が上がり、艦の速度が落ちる。
「あれも倒しておくか……ん?」
神聖ミリシアル帝国のいる場所から離れた所に、戦場に似つかわしくない白く塗られた船が見える。
先ほど外務省の課長シエリアという女性から、外交的配慮で撃沈してほしいと依頼を受けた、日本国の巡洋艦だった。
進行方向からして、離脱しようとしているようにも見える。
「さて、外務省東部異界担当課長殿から指示のあった、白い巡洋艦を攻撃するとするか。」
旧式艦の後ろにいた白い巡洋艦は、加速して前方に出ていた。
「シエリア殿から指示のあった、日本国の艦艇ですね。我々と同じような、転移国家、その艦艇ですね。事前の情報のとおり、砲の口径が極めて小さいようですな。」
副長は双眼鏡を眺めながらつぶやく。
「対空戦闘には、突出したものがあるようだったが、あれだけ砲が小さいとは……。随分と平和な世界から転移してきたのだろうな。」
「よし!後部主砲及び副砲を使用し、距離7km以内に近づいてから攻撃を開始しろ!!それまでは、脅威度の高い神聖ミリシアル帝国の船を攻撃せよ!!」
「了解!!」
艦長ラクスタルは指示を出す。
◆◆◆
巡視船しきしま
「気付くなというのは無理だろうが、このまま行かせてくれ!!」
船の動きから、おそらく離脱しようとしている事は解るはず……。
船長瀬戸は、思いを込めて敵艦を睨みつける。
最大船速の25ノット、機関の音は大きいが、なかなか進まないようにも見える船、僅かな時間であるが、瀬戸には永遠に感じられる体感時間が過ぎる。
「敵艦後部主砲及び副砲が我が方に向かって旋回しています!!!」
部下が大声で報告する。
「なにっ!!!面舵いっぱい!!」
操舵員が、素早い動きでいっぱい右に舵を切る。
巨大な船が右に動き始めようとしたその瞬間、敵艦に大きな煙が上がる。
「敵艦発砲!!!」
もどかしくなるほどにゆっくりと、巡視船しきしまは右方向に旋回する。
しきしまの前部を、ブォンという風切り音を出し、砲弾が通過していく。前方を通過した砲弾多数は、同船左前方の海水上に着弾し、大きな水柱を上げる。
「ぬぉぉぉぉ!!!!」
水柱は、彼の想定した海抜高度よりも、はるかに上に上がる。
「舵を切っていなければ危なかった!!」
冷や汗。
「全火力をもって、敵艦を射撃し続けろ!!残弾は気にするな!!1発でも喰らえば終わりだぞ!!!」
瀬戸は吠える。
敵艦との距離5km-
敵は、神聖ミリシアル帝国艦隊と交戦しつつ、こちらにも砲撃を指向させてきている。
しきしまに設置された、エリコン35mm連装機関砲、そして20mm機関砲が敵戦艦に向く。
海の警察機構として異例の戦力ともいえる、海上保安庁最大の巡視船しきしまは、もてる全火力を超弩級戦艦グレードアトラスターに向け、指向する。
敵が、第2射の攻撃を行う前に、こちらからも攻撃を行う必要があった。
「全火力、発射準備完了!」
「正当防衛射撃開始!!!!」
軽快な音を出し、曳光弾を交えて射撃が開始される。連続して発射される光の弾は、放物線を描き、敵戦艦に向かい、飛行する。
敵に着弾した弾は、大きな金属音と共に、重厚な装甲にはじき飛ばされ、着弾した曳光弾は、明後日の方向に飛んでいく。
「命中!!命中!!」
部下が大声で報告する。
「射撃を続けろ!!敵に反撃の隙間を与えるな!!!」
巡視船しきしまは、なおも射撃を続けるのだった。
◆◆◆
超弩級戦艦グレードアトラスター
先ほどから連続して小口径の弾が当たっているが、すべて分厚い装甲によってはじき返していた。
「右舷第3高角砲破損!!」
「右舷第5ボート大破!!」
艦自身に被害は無いが、上部構造物の装甲が弱い所から、少しづつ被害の報告が上がる。日本の艦は、小口径砲を交互に連続して射撃しているようであり、弾幕が途切れない。
艦橋では、不気味な金属音が鳴り響き、艦内にいる者達を不快にさせる。
「日本艦の攻撃、あまりにも小賢しいな。ミリシアル艦に対する攻撃を一時中止し、全火力をあの日本艦に指向せよ!!」
「はい、主砲を使用します。主砲発射用意!!弾種、徹甲弾!!!」
戦艦の装甲をぶち抜く徹甲弾が装填される。
戦艦に搭載された3連装主砲3基がゆっくりと日本の艦に向く。
「距離5km、右55仰角13°、主砲発射準備完了!!」
「てーーっ!!!」
轟音と共に、人の背丈ほどもある砲弾が射出された。
巡視船しきしま
敵が再度主砲を発射した。
巡視船は先ほどから、右、そして左に旋回を続け、なかなか敵から遠ざかる事が出来ず、焦りが広がる。
こちらからの攻撃は、予想通りであるが、全くと言って良いほど効果が無い。
不意に、激しく鈍い金属音が船に鳴り響く。
瀬戸は金属音のした方向を振り返る。
「な………。」
唖然。
艦橋上部と、下部に、直径が70cmほどの穴が開いている。
下に空いた穴を見ると、海が見える。
幸いにも、角度が浅く、穴は喫水線よりも上に空いていたため、船の航行に支障は無いようであった。
「貫通したか……人がいなくて助かった。」
巡視船しきしまには、2発の主砲弾が命中していたが、いずれも船を貫通している。
爆発していたら、自分たちは消し飛んでいた。そんな恐怖を覚えながら、彼らは攻撃を続けるのだった。
戦艦グレードアトラスター
「何故だ!!今のは命中したはずだ!!!」
艦長ラクスタルは叫ぶ。
「もしかして……艦長、もしかして、日本国の艦の装甲は、我々が考えているよりも、はるかに薄いのかもしれません。でないと、主砲が命中して爆発しなかったはずがない。艦長、通常弾と、副砲による攻撃を進言します。」
「うむ、解った。」
戦艦は、弾種を通常弾に切り替えるのだった。
巡視船しきしま
彼らは攻撃を続けるが、全く効果の無いように見える敵の硬さに、隊員たちの心は恐怖に包まれていた。
神聖ミリシアル帝国の巡洋艦の弾は、先ほどからほとんど当たっていないように見える。
ムーの艦艇も砲撃に加わり始めたが、上空からの攻撃により火力が落ちた彼らの艦隊は、有効弾を出せてはいなかった。
「敵、全砲門がこちらに向きます!!!」
敵戦艦の重厚な回転砲塔がゆっくりとこちらに向いてくる。前部と後部にある副砲も、砲塔をこちらに向く。
主砲9門及び副砲6門の計15門は、ほぼ同時に発射する事によって、命中率を上げる一斉射を行う。
巡視船しきしまの中央部、艦橋に光が走った。
戦艦グレードアトラスターの発射した主砲弾、重量1360kgにも及ぶ46cm砲弾は巡視船しきしまの艦橋に直撃、内部で信管が作動、砲弾に内蔵された61.7kgの高性能火薬に点火、その威力が開放される。
爆圧は四方八方に広がり、やがて上部天井を吹き飛ばし、上に突き抜ける。
艦橋を吹き飛ばしてもなお収まらない爆圧は、しきしまの上部に巨大な火炎柱を出現させた。
船はあまりの砲撃の威力に耐え切れず、真っ二つに折れて沈んでいく。
生き残った隊員たちは、海に飛び込む。
グラ・バルカス帝国帝国監査軍所属、超弩級戦艦グレードアトラスターは、日本国海上保安庁巡視船しきしまに対し、全砲門を開放し、攻撃を実施、同艦を撃沈した。
本戦いにおいて、船長瀬戸以下100名が死亡、30人が海を漂流する事となった。
◆◆◆
戦艦グレードアトラスター艦橋
「日本国巡洋艦撃沈!!」
「日本の巡洋艦はもろいな……装甲が、紙のようだ。
砲も小口径砲、船速も我が方よりは遥かに遅い。設計思想がなっていないな。同じ、転移国家といっても、これほどまでに差があるのか。」
目の前で、爆散し、沈みゆく日本国の艦をみて艦長はつぶやく。
「あのような紙装甲を見ると、大口径砲が発達しなかったのかもしれません。それに、きっと平和な世界だったのでしょう。戦争に明け暮れ、磨かれた我々の兵器と、彼らのそれでは性能が段違いになるのも仕方ない事なのかもしれません。
しかし、対空戦闘は、目を見張るものがありました。凄まじい命中率で、我が方の急降下爆撃隊や、雷撃機があの船に撃墜されています。
ロウリア王国のワイバーンの波状攻撃を、艦隊で防いだという逸話も、あれを見ると信憑性が上がりますね。」
「対日本政策を行う時は、空母よりも戦艦が役に立つだろうな。まあ、その方が我々戦艦屋にとっては都合が良い。」
「そうですね、しかし同じ転移国家として、どれほどのものか、多少の不安はありましたが、巡洋艦のレベルがあの程度でしたので、正直少しほっとしました。
外務省のシエリア嬢にも、戦闘終了後、報告するとしましょう。」
「さてと……。」
艦長ラクスタルは戦場を見る。
神聖ミリシアル帝国の巡洋艦は、航空攻撃と戦艦合わせて、すでに8隻中5隻を撃沈し、残りの3隻も炎をあげている。
日本国がいなくなった事により、敵の対空戦闘能力は急激に低下し、放っておいても航空攻撃で全滅しそうだった。
「ザコを片付け、仕事をするとするか。」
艦長ラクスタルは、戦場を見て微笑むのだった。




