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列強のプライド4 前編

神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス南方海峡 上空


 中央世界列強エモール王国 風竜騎士団


 空気を裂き、ワイバーンや、ワイバーンロードよりも明らかに大きい生物が空を飛ぶ。その速度は、生物の常識を遥かに超える時速500kmにも達し、あまりにも速いその速度に、人間程度の騎士では乗騎する事ですら、決して耐える事が出来ないだろう。

 スリムなデザイン、流線形の体を持つそれは、翼をほのかに光輝かせ、風を押しのけて空を飛ぶ。

 トカゲとは異なり、高い知能を持つ風竜を操り、竜人族のみで構成された国、エモール王国の精鋭竜騎士団は戦いに身を投じていた。


「ぐっ!!小癪な!!」


 竜騎士団長ウージは、また1騎落ち行く部下を見て、吐き捨てる。

 人口の少ないエモール王国は、質を重視し、風竜はその卓越した性能から、1騎当千と言われており、ウージ自身もそう思っていた。

 事実、模擬空戦では他国に引けを取った事は無く、列強ムーの最新鋭機ですら、我が竜騎士団の前では赤子同然であり、竜が魔法を使用しない機械なぞに負ける事はあり得ないと信じている。

 今回の出撃にしても、相手はたかが文明圏外の新興国家で、しかも、魔力の少ない人族ごときが作った国であり、あっさりと制空権を確保できるものと思っていた。


 しかし、旋回性能や、上昇能力では我が方が上だが、敵の最高速度は、風竜すらも凌駕し、しかも数が多かった。

 同数ならば、負けはしないだろう。しかし、「数」の差により、たかが文明圏外の蛮族どもの航空機に対し、風竜のキルレシオは1対1にも及んでいる。


「また来やがった!!」


 彼は、敵の鉄龍の光弾を、急上昇でかわし、一度急減速を行い、後ろを取る。


「くらえ!!」


風竜の口の中に火球が形成される。ワイバーンロードとは、隔絶した魔力をもって放たれる竜のブレスは、魔力のほどんとを火球の弾速に使うため、ワイバーンたちとは比較にならない速さで火炎弾が放出可能であった。

狙いを定め、発射準備が完了する。


「後方上空注意!!!」


 仲間の注意喚起によって、一度発射体制を崩し、回避行動に入る。

 次の瞬間、先ほどまで自分のいた位置に、敵の光弾が多数通過する。


「ええい!!鬱陶しい!!!」


 ウージは、数に押され、戦い辛さを感じる。

 かつてないほどの強敵を前に、エモール王国竜騎士団は苦戦するのだった。




 同空域で行われる戦闘は、熾烈を極める。

 グラ・バルカス帝国空母機動部隊、第2次攻撃隊の、アンタレス型艦上戦闘機を操る小隊長サルトは、爆撃機を守るため、迎撃のため上がって来た神聖ミリシアル帝国の戦闘機及び列強エモール王国の風竜を相手に空中戦を行っていた。

 神聖ミリシアル帝国の戦闘機は、加速性能と旋回性能が我が方に圧倒的に劣るようであり、ドッグファイトとなった場合、あっさりと相手の後ろに付き、射撃することが出来る。

 しかし……。


「くそっ!!また来やがった!!あの竜には気を付けろ!!」


 サルトは部下に指示を出す。

 彼の部下が、前方に位置する風竜に機関銃の照準を定め、20mm機関銃を発射する。

 竜は、高い機動力を発揮し、生物とは思えないような急激な上昇を始め、曳光弾は、大きく外れる。


「ちっ!!」


 部下が、竜を追い、上昇を開始しようとする。


「まてっ!!」


 部下は、サルトの指示を聞かずに竜を追う。アンタレス型艦上戦闘機は、竜の上昇能力に着いていけず、距離が引き離され、やがて、諦めた戦闘機は、反転下降を開始する。

 竜は反転し、我が方に、火炎弾を発射し、命中させる。


「ちくしょう!またやられた!!」


 キルレシオは1対1、しかし、こちらの方が圧倒的に数の多い状況で1対1であるため、実質的に、空の戦いでは負けている。

 たかが生物ごときに栄えある帝国の主力戦闘機が撃墜され、サルトのプライドは打ちひしがれるのだった。



◆◆◆


 海上保安庁巡視船しきしま


 しきしまに設置された魔信機からは、どんどんと戦況が流れ続ける。


『敵機、急降下を開始した!』


 空戦の隙を縫い、比較的密集体系にある各国の連合艦隊に向かって急降下爆撃機が降下を開始する。


『アガルタ法国、魔法船団、艦隊配置で六芒星を形成、艦隊級極大閃光魔法の準備を開始した模様』


 聞きなれない言葉を聞く。


「艦隊級極大閃光魔法って何だ?なにか情報はあるか?」


 船長の瀬戸は、副長に尋ねる。


「いえ、全く。」


 彼らが話している間に、前を行くアガルタ法国の、船が光り始め、6隻がほのかに光り、六芒星を形成する。

 次の瞬間、艦隊によって形成された、六芒星の中心部から、上空に向かって閃光がほとばしる。日本人がそれを見たならば、目視できるレーザーのようにも見える。

 アガルタ法国魔法船団から発射された閃光魔法は、直線に飛ぶが、魔素の位相変化により、超高速で、発射方向を変える。

 上空をなめるように移動する閃光により、2機の敵機が炎に包まれる。


「おお!!すごいな!!まるでフェイズドアレイレーダーが攻撃をしているようだ。」


 瀬戸たちは、希望をもってそれを見る。


「ん?」


『魔法船団魔力枯渇、再充電まで368秒』


 希望は一瞬で絶たれる。

 グラ・バルカス帝国の急降下爆撃機は、多数が降下をはじめ、艦隊に向かって機銃掃射が始まり、被害が拡大する。

 艦隊は、神聖ミリシアル帝国の巡洋艦も加わり、神聖ミリシアル帝国の対空魔光砲、ムーの対空砲が入り混じる。

 空に打ち上げられる曳光弾は、凄まじい数にのぼり、幻想的ですらある。


「我が方に降下開始!!」


「正当防衛射撃を実施!撃墜せよ!!」


 巡視船しきしま前方に設置されたエリコン社製35mm機関砲が上空を向く。

光学照準で敵を捕らえ、砲弾を発射される。曳光弾を交えて発射された弾は、正確に敵機を捕らえ、降下を開始していたグラ・バルカス帝国の航空機に着弾、機体は、穴だらけになり爆散する。


 戦場には、機銃掃射により爆発する船も出現しはじめ、神聖ミリシアル帝国の魔導巡洋艦にも、急降下爆撃機の爆弾が直撃する。


『アガルタ法国、魔法船、被害甚大!!』


『神聖ミリシアル帝国、巡洋艦ニーケルに爆弾命中!』


 艦隊の被害は拡大していくが、敵機の被害は、アガルタ法国の魔法船団が撃墜した2機、神聖ミリシアル帝国の艦隊が撃墜した2機、そして日本国海上保安庁が撃墜した2機、計6機に留まっていた。


◆◆◆


 艦隊は、空からの攻撃に被害を出しながらも、カルトアルパス南方の海峡出口に向かう。

 元々航行速力が遅いにも関わらず、空からの攻撃を避けながらの進行であるため、艦隊隊列は無茶苦茶であり、速力も遅い。


 神聖ミリシアル帝国南方地方隊の魔導巡洋艦隊の旗艦アルミスの艦橋で、艦隊司令のパテスは苦悶の表情を浮かべながら、横にいる艦長ニウムに話しかける。


「ニウム艦長、戦況をどう見る?」


「はい、敵の航空戦力がこれほどまでとは、正直思いませんでした。我が方の最新鋭制空戦闘機があっさりと撃墜され、まさか、エモール王国の風竜騎士団があれほどの頻度で撃墜されるとは……。

 しかし、我が方も敵の急降下爆撃機を撃墜していますし、アガルタ法国の魔法船団も、2機、そして日本国の巡洋艦も2機ほど敵航空機を撃墜しています。

 正直、日本軍の対空能力がこれほどまでとは思いませんでした。見ている限り、無駄弾の数が極端に少ない。

 いずれにせよ、海峡封鎖に向かっている敵の超弩級戦艦グレードアトラスターを追い返すか、撃沈しなければ、カルトアルパスに甚大な被害が出る可能性があるため、この戦力で死守しなければなりません。」


「うむ、それにしても、まさか我々がカルトアルパスの最終防壁になるとはな……。不幸は重なるものよ。」


 彼らの会話中も、魔信機からは通信が流れ続ける。


『ニグラート連合、竜母スラグート、ヘドグル、轟沈!!戦列艦パラグル大破!!』


『ムー装甲巡洋艦ラ・シルム中破!!』


『西方低空から敵機接近!!機数24!!』


 海峡西側の山を超え、雷撃機24機が姿を現す。


「低空!低空だと!?何をするつもりだ!!!」


 航空機は、どんどんと艦隊に近づく。


『ムー国、射撃開始!!』


 対空火砲が水平を向く。外れた多数の弾が、海面をたたき、多数の小さな水柱が上がる。


『日本国巡洋艦!射撃開始!!』


 巡視船しきしまも、射撃を開始する。

 しきしまに搭載された、エリコン35mm連装機銃、そして20mm機銃2基が、最大能力を使って射撃を開始する。

 しきしまが射撃を開始した途端に、敵3機が火だるまとなって海上に叩きつけられる。

 海へと落ちた敵機は、魚雷が誘爆し、壮大な水柱が出現する。

 神聖ミリシアル帝国の魔導巡洋艦隊においても、射撃が開始されようとしていた。


「右舷対空魔光砲、魔力充電完了!自動呪文詠唱開始、射撃可能まであと8秒、7,6,5,4,3,2,1、自動呪文詠唱完了、対空魔光砲発射準備完了!!」


 魔導巡洋艦隊の対空砲の発射口が、ほのかに赤く輝き、砲口に粒子が吸い込まれる。次の瞬間、多数の魔光弾が、連続して敵機に向かって発射される。


 グラ・バルカス帝国の雷撃機も、機銃掃射をしながら魚雷の発射可能位置へ向かう。

 艦隊は雑然とし、比較的密集している。

 帝国の雷撃隊は、多数が撃ち落とされながらも、魚雷を投下していく。魚雷を投下し終えた雷撃機は、早急に戦場を離脱する。


「水中から何かが向かってきます!!!」


「回避せよ!!!」


 魔導巡洋艦アルミス艦長ニウムは、それが何なのかが理解出来ないが、何らかの危険を察知し、回避行動を下命する。

 我が方よりも後方右舷にいる日本国巡洋艦も、海に走る白い線を回避しようとしていた。

 雷跡は、旗艦アルミスの前方をかすめるように通り過ぎる。

 後方で、爆音が轟く。


「巡洋艦スーズに被弾!!」


 魔導巡洋艦スーズの右舷に2本、大きな水柱が上がる。同艦の速力が見る見るうちに落ちていく。

破孔から侵入した大量の海水は、スーズの浮力を失わせ、短期間で海底に吸い込まれていく。


「スーズ轟沈!!巡洋艦ア―イン被弾、自走不能!!」


 航空機の攻撃によりあっさりと沈む巡洋艦、あまりにも高威力の攻撃に、艦橋の者達は沈黙する。


『ムー、装甲巡洋艦ラ・シルム轟沈!!』


『ニグラート連合戦列艦パラグル轟沈!!』


『前方海峡出口付近に艦影、艦種確認……グラ・バルカス帝国、グレードアトラスター型!!』


 各国の艦隊は、たったの幅14kmしかない海峡の出口から少し離れた位置にいる敵の超弩級戦艦を確認し、被害を受けながらも士気が上がる。


「対艦戦闘用意!!艦隊は最大船速へ!!!敵は巨大な戦艦だが、我が世界最強国家の意地を見せつけるぞ!!!」


「了解!!」


 神聖ミリシアル帝国の南方地方隊の魔導巡洋艦隊の残りの6隻は、艦隊行動としては最大船速である30ノットまで加速する。

 同帝国艦隊は、ムーの艦隊や、日本国海上保安庁巡視船、そして他の戦列艦隊等をあっさりと置き去りにして、敵艦に突入を開始した。



◆◆◆


 海上保安庁巡視船しきしま


「神聖ミリシアル帝国の艦隊加速!速度約30ノットでグレードアトラスター型戦艦に向かっています。」


 部下からの報告が上がる。


「敵艦の位置は?」


「海峡出口から約7km南方です。」


「海峡出入口が約7kmあるという事は、敵も動くだろうが、単純に約8.3km以内を通過しなければならないのか……。」


 船長の瀬戸は、通過目標があまりの至近距離であり、絶句する。


「ムーの艦隊も増速しました。艦隊速力約18ノット!」


 各国の艦隊も、加速を開始している。

 瀬戸は、しばし考え込む。


「よし!ムーの後をついていくぞ!!海峡付近に達したら、速力を最大船速の25ノットまで増速し、砲弾の回避行動をとりながら、離脱する!!」


「了解!!」


 しきしまのエンジン音が上がる。船は増速を開始するのだった。




 神聖ミリシアル帝国 南方地方隊 魔導巡洋艦隊 旗艦アルミス


「敵艦との距離、約15km!!」


「後方ムー艦隊との距離、6km」


 6隻の艦隊は、約30ノットで海上を爆走する。

 敵グレードアトラスターとの距離は、すでに15kmまで迫っていた。

艦隊司令のパテスは目を見開き、指令する。


「対艦攻撃、準備開始!!準備が完了しだい、各艦の判断で攻撃せよ!!敵を撃沈するのだ!!!」


 すでに、最大射程距離には入っていたが、命中率を向上させるため、距離15kmで対艦戦準備を開始する。


「砲弾の魔力回路起動、主砲弾に魔力注入開始!!属性爆23パーセント、炎43パーセント、空44パーセント……砲弾の魔力注入完了、続いて主砲撃発回路に魔力充電開始……70%、80%、90%、100%魔力注入完了、敵艦との相対速度計算中……左舷4度、仰角36°」


 魔導巡洋艦の前部に設けられた連装回転砲塔が、ゆっくりと照準を行う。


「主砲発射準備完了!!」


「てーーっ!!」


 艦長ニウムの号令により、轟音と共に、主砲弾が放たれる。

 次の瞬間、敵艦が煙に包まれる。


「着弾か!?」


「いえ、早すぎます!!敵艦の発砲煙です!!」


「取舵いっぱい!!!」


 艦隊は、敵の主砲を避けるべく、回避行動を開始する。


「我が方の主砲弾、着弾まで4.3.2.1、今!!!」


 敵戦艦の少し離れた所に多数の砲弾が着弾し、付近に大きな水柱が上がる。


「くそ!外したか!!」


 次の瞬間、旗艦アルミスの周りに大きな水柱が6本上がる。


「うおぉぉぉぉ!!」


 艦が大きく左右に揺れる。尋常でないほど上空に打ち上げられる水柱、かつて彼が見たどの水柱よりも、その高度は高かった。


「初弾でこれほど至近距離に詰めてくるか!!!」


 さらに、敵巨大戦艦から大きな煙が上がる。


「敵艦さらに発砲!!副砲と思われます!!」


「くそ!装填が速いな!!」


 各巡洋艦は、すでに敵戦艦に対し、射撃を開始している。

 不意に、敵船から黒煙が上がった。


「命中!!!」


 艦橋に歓声が響く。我が方が先に命中弾を出した。これで、敵の砲撃能力が少しは削がれるだろう。


「敵、さらに発砲!!」


 砲撃速度が遅くなった様子は無い。巡洋艦の大口径魔導砲を食らっても、何事も無かったかのように攻撃を加え続ける敵を見て、艦隊司令パテスは唖然とする。


 神聖ミリシアル帝国の魔導巡洋艦の放った魔導砲は、グラ・バルカス帝国超弩級戦艦グレードアトラスターの重要区画装甲に直撃し、爆発した。

 同戦艦の分厚い装甲は、巡洋艦の砲撃をあっさりと防ぐ。


「まさか、まさか効いていないのか?」


 帝国の巡洋艦の砲撃が効かないなど、前代未聞であるため、誰もが沈黙する。

 

「いや、そんなはずはない。このまま砲撃を……ぬおっ!!!!」


 艦が大きく揺さぶられる。

 突如前方で起こった閃光、そして猛烈な爆発は、旗艦アルミスは大きく揺れ、艦隊司令は構造物に頭をぶつける。


「な……何が起こった!?」


 頭から血を流しながら、パテスは問う。


「ぜ……艦体前部に被弾!前方……消滅!!」


 艦の前方に、大きな煙が上がる。不可解な報告に、パテスが前方を見る。

 絶句……。

 旗艦アルミスの前方は、グレードアトラスターの46センチ砲により、艦の原型を留めないほどに消滅していた。

 海水が一気に艦内に流れ込む。


「総員退艦!!!」


 兵たちが海に飛び込む。

 巡洋艦は、逃げ遅れた兵を乗せ、海に沈んでいく。


 神聖ミリシアル帝国南方地方隊所属、魔導巡洋艦隊旗艦アルミスは、グラ・バルカス帝国、帝国監査軍所属超弩級戦艦グレード・アトラスターの主砲、46cm砲の直撃により、短期間で海水に引き込まれ、轟沈した。

 



列強のプライド4は少し長くなりましたので、前編後編に分割します。

なお、後編は本日午後6時頃に投稿いたします。

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