列強のプライド
神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス 帝国文化館
本日も行われる実務者級の国際会合、神聖ミリシアル帝国から各国に対し、至急連絡があるとの打診があった。
開催よりも少し早く帝国文化館に到着した日本国使節団は、ロビーにおいて、アニュンリール皇国の使節団を発見する。
アニュンリール皇国、事前に得た資料によれば、魔法文明を基礎とし、文明圏外の南方世界を治める長として、毎回先進11ヵ国に参加している国とある。
文明圏外の島国ではあるものの、南方世界に2つある大陸の多くの国家を実質的に支配していると言われ、本土に上陸した者はいない。
外交窓口は本土の北側にある四国の半分ほどの大きさの島、ブシュパカ・ラタンと呼ばれる土地に限定されており、実質的に、日本国で言うところの鎖国状態であった。
文明圏外に属していると考えられており、本会議において彼らに興味を示す者はいない。
広大な土地を支配している「だけ」の蛮族といった位置づけで彼らはこの会議に招かれていた。
しかし、日本国政府は、彼らに非常に高い関心を寄せていた。
人口衛星の写真によれば、鎖国の窓口、ブシュパカ・ラタンには、夜の明かりはほとんど見られない。
しかし、本土に関して言えば、神聖ミリシアル帝国や、グラ・バルカス帝国と同じような多くの人工的な明かりがあり、昼間においても、高度に発展した都市が写真に写る。
港町カルトアルパスへやってきたアニュンリール皇国の船は、あまりにも効率の悪い、帆船の艦隊であり、他国と比べると遥かに性能が落ちる事が一目瞭然であるが、本国の整備された港には、神聖ミリシアル帝国の魔導艦隊と同クラスの戦艦がある事を日本国政府は把握していた。
人種は人ではなく、背中から翼が生えている。
その翼は、片方が白く、そしてもう片方が黒い。
近藤は、機会があれば、同皇国に探りを入れるよう政府から指示を受けていたため、アニュンリール皇国使節団に話しかける。
「初めまして、アニュンリール皇国の方ですね?」
「ああ……。」
感情の無い顔、目の奥底には、人に対しての興味の無さと、蔑みの感情が見て取れる。
「私は、日本国の外交官の近藤と申します。日本国政府は、貴国に大変高い関心を有しています。
今後は、国交開設も視野に踏まえて、お付き合いしていきたいと考えておりますので、どうかよろしくお願いします。」
「そうですか、もう知っているかもしれませんが、我が国は国交を北の島、ブシュパカ・ラタンに限定しております。
国交開設の際は、同島にお越し下さい。
また、南方世界の我が国配下の国との交易は、禁止しておりますので、南方世界との交流も、同島をご利用下さい。」
言葉は丁寧であるが、彼らは日本国に対して無関心であることが、見てとれる。いや、ここ数日の会議の状況を見るに、この先進11ヵ国会議でさえも、無関心であるように見える。
「ところで、貴国はどの国も、国交は北の島に限定しているのですか?」
「はい、本国は規定により、他国の者の侵入を許可しておりません。」
「その島でも、貴国の文化を味わう事は出来ますか?」
「はい、ブシュパカ・ラタンは我が国と南方世界の窓口ですが、我が国の一部です。もちろん、文化は変わりませんが、何故そのような事を?」
近藤は一呼吸おく。
「いえ、貴国は、窓口の島よりも、本国のほうが、遥かに発展してらっしゃるようなので、ふと疑問に思いまして……。」
アニュンリール皇国使節団の目の色が変わる。
『まもなく、先進11ヵ国会議実務者協議を開催いたします。皆さま、着席をお願いします。』
帝国文化館に、放送が流れ、会話が途切れる。
「時間ですね、また、ご挨拶に改めて伺いますので、よろしくお願いします。」
近藤は、アニュンリール皇国使節団の元を立ち去り、会議室に入場した。
残されたアニュンリール皇国使節団はつぶやく。
「人種の分際で……日本国、奴ら何者だ?」
同使節団も、会議室に入場した。
◆◆◆
神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス 帝国文化館
「これより、先進11ヵ国会議実務者協議を開催いたします。」
司会進行の言葉と共に、本日の会議が始まる。
「本日は、議長国の神聖ミリシアル帝国から、皆さまへ連絡がございます。先日、現在グラ・バルカス帝国の艦隊が我が国の西の群島に奇襲攻撃を行い、地方隊が被害を受けました。」
神聖ミリシアル帝国は、国益のため、第零式魔導艦隊が壊滅した事を伏せ、奇襲されたといった偽情報を伝える。
地方隊とはいえ、神聖ミリシアル帝国の部隊に被害を与えた事に、場が衝撃に包まれる。
議長は続ける。
「テロ対策として、本港カルトアルパスには、巡洋艦クラスが8隻警備についておりますし、空港から空軍がエアカバーを行いますので問題はありませんが、グラ・バルカス帝国が万が一、我が国本土に攻撃を加えた場合の事も考慮し、万全を期するために、本日の夕方までにカルトアルパスから全艦隊を引き上げていただき、開催地を東のカン・ブラウンに移したいと思います。
事前に通告していた場所とは異なりますが、ご理解いただきたい。」
一瞬の沈黙の後、第一文明圏列強エモール王国(竜人の国)の使者が、立腹し、話始める。
「あの新参者であり、かつ無礼者が攻撃してきたからといって、世界の強国会議ともいえる、国々が尻尾を巻いて逃げるというのか?
堂々と会議をすればよい。
我が国は陸路だが、ここに来ている者たちは、何処もそれなりの規模の艦隊を連れてきているのだろう?
そのための、外務大臣級護衛艦隊だろう?
魔力数値の低い人族のみで構成された、しかも文明圏にすら属していない国を相手に、強国が多数、戦わずして逃げるのは、情けないと思うぞ。
我が国は、陸路で来ているため、艦隊は無いが、控えの風竜22騎ならば、を投入してもよいぞ。」
「おお……。」
列強エモール王国の風竜騎士団、空気抵抗を抑えるべく、小さな翼に進化した風竜は速く、その最高速度は時速500kmにも達し、人間では絶対耐えられない空気抵抗も、強靭な肉体を持つ竜人ならば耐える事が出来る。
神聖ミリシアル帝国の制空型 天の浮舟 アルファ3型 に匹敵する性能があるとされ、各国が一目置く列強エモールの精鋭部隊の投入表明に、場は静まる。
「わ……我が国の戦列艦7隻も、無礼なグラ・バルカス帝国の軍を退治ためならば、喜んで手を貸しますぞ!!
奇襲で神聖ミリシアル帝国の艦が被害を受けたとのことですが、正直奇襲以外で文明圏外国家に、中央世界の我が国が遅れをとるとは思えませぬ。」
中央世界のトルキア王国も、会議の移動を反対する。
「我が第2文明圏では、グラ・バルカス帝国が我が物顔で暴れまわっている。中央世界と共に戦えるならば、我が艦隊も参戦いたします。」
第2文明圏内国家、マギカライヒ共同体も参戦を表明し、第2文明圏はそれに続く。
日本国外交使節団の横に座っていた第3文明圏内国家パンドーラ大魔法公国は、目を輝かせながら日本国使節団に聞いてくる。
「対パーパルディア皇国での貴国の数々の伝説は伺っています。日本国はどうされるのですか?」
正直なところ、世界会議に出席するためだけに来ているため、護衛艦は付近にいない。
神聖ミリシアル帝国からの事前情報では、開催国までの航路と自主警備は任せるが、開催国内での警備は安心して任せてほしいとの事だった。
確かに、自主警備の規模は任せると伝えられていた。
地球基準で考えたとして、世界会議に自国の艦隊を派遣する国など、何処を探してもいないし、歴史上もそんな事は1度もない。
しかも、世界会議参加国にグラ・バルカス帝国の名があったのならば、帝国は会議に来ているのであって、戦争に来ているのは無いと判断するのが普通だ。
まして、会議襲撃の可能性など、想定外もいいところだ。
第2次世界大戦時の日本のような兵器を持っている艦隊を相手に、海上保安庁の巡視船1隻では、話にならないだろう。
圧倒的な戦力不足。
ミリシアル帝国は万全を期すために帝国は東方都市カン・ブラウンに移動しようと言っているのに、それを断る理由が近藤には理解出来なかった。
「開催地変更についての意見は、本国に問い合わせます。」
近藤はそう答える他なかった。
アニュンリール皇国の使者が手をあげ、議長が発言を許可し、発言を行う。
「我が国は、文明圏外国家です。突然東方都市への移動といっても、対応できませんし、もしもこのまま戦うと足手まといになりますので、本年の会議はこれにて失礼します。」
経済力、技術力、軍事力、すべてが低い南方世界は、慣習的に会議に呼ばれていただけであり、いてもいなくても良いとの認識から、全員が認め、アニュンリール皇国は退室した。
◆◆◆
日本国 首都 東京 首相官邸
首相官邸では緊急会議が行われていた。
外務省幹部が報告を行う。
「以上、グラ・バルカス帝国が、現在先進11ヵ国会議が開催中の神聖ミリシアル帝国、港街カルトアルパスに強襲を行う可能性が極めて高い状態にあります。
ミリシアル帝国は安全のために東方都市カン・ブラウンに移動するよう求めていましたが、やはり種族が異なると常識も異なるようで、各国の外交大臣護衛艦隊で迎え撃つ方向で話が進んでいます。」
場が静まる。
「今すぐに、現地外交官と大臣を引きあげさせるべきだ!!」
防衛大臣が外務副大臣に外交官引き上げを求める。
「いや、各国が一丸となって、自衛のためにグラ・バルカス帝国と戦う意志を示している時に、日本だけが逃げ帰ったとなると、心証を害する可能性がある。」
外務副大臣が反論する。
「防衛大臣、グラ・バルカス帝国は、昔の艦隊なのでしょう?新鋭の海上保安庁の巡視船でどの程度戦えるのですか?」
女性の環境大臣が、防衛大臣に問う。
「グラ・バルカス帝国は昔の艦隊とはいえ、大日本帝国時代の戦艦と空母機動部隊の大艦隊を相手にするようなものです。
しきしま型1隻では、間違いなく撃沈され、多くの死者が出るでしょう。
外務副大臣、各国が一丸となってとおっしゃっていましたが、間違いなく大量の死者が出ます。
元々、海賊からの護衛程度の戦力で送り出しているのですから、避難しても問題は無いのではないですか?
神聖ミリシアル帝国の空中戦力がどの程度まで膨れ上がるかにもよって変わりますが、艦隊のみでの力量であれば……このままでは会議参加国の艦隊は全滅するでしょう。」
話はつづく。
「念のため、防衛省では現在2個護衛隊群の派遣準備をしておりますが、どう考えても今回の侵攻には間に合いません。
航空機に関しても、残念ながら飛行場が各国に完成するのが来月です。
まだ燃料備蓄すらありませんので、現時点ではどうしようもありません。」
場が静まる。
「外務副大臣!!」
環境大臣が外務副大臣をにらみつける。
「パーパルディア皇国の、フェン王国軍祭奇襲といった前例がありながら、何故今回海上保安庁の巡視船のみの護衛としたのですか?
自衛隊がついていけば、今回国益を大きく得る事が出来たのではないですか?」
外務副大臣は、一呼吸おいて、環境大臣の問に答える。
「神聖ミリシアル帝国は、帝国内での警備は自分たちに任せ、帝国までの警備と規模は、参加国に任せると伝えて来ました。
海賊対策として、護衛の海上保安庁巡視船派遣は、それだけでもオーバースペックというのが、我々の考えでしたので、各国が、自国の精鋭艦隊規模で派遣していたことは、正直、想像すらしておりませんでしたので、調べてもいませんでした。
前世界、地球で仮に護衛隊群を国際会議で派遣していたら、何と言われたでしょうか?
各国の非難を浴びるのは、間違いないでしょう。
また、国際会議参加を表明していたグラ・バルカス帝国が、世界に向かい配下に入れなどと言うのは、全く想像の範囲外であり、さらに国際会議中に強襲をかけてくる可能性があるというのは、このような言い方はしたくありませんが、想定外でした。」
話はつづく。
「グラ・バルカス帝国が強襲をかけてくる可能性があるのならば、早期に避難させる事も、外交官や外務大臣の命を考えるとやむをえませんね。」
「そうですか、では、防衛大臣に問いたい。我が国には、現在偵察衛星が4基稼働中のはずですが、グラ・バルカス帝国の、神聖ミリシアル帝国に対する強襲を察知する事が出来なかったのは、何故でしょうか?」
「たしかに、現在防衛省では偵察衛星4基が稼働中でありますが、たったの4基では、地形や大きな動きは解りますが、詳細な位置を監視するには衛星の基数が足りません。
ただでさえ、惑星が地球よりも大きいのです。
常時監視を行うためには、30基くらいの人口衛星を打ち上げる必要があります。
ところで、我々はあまり悠長に議論をしている時間はありません。
早期に意思決定を行い、現地に伝えないと、港町カルトアルパスは、内海から外海に出る際にある、たった14キロメートルの幅の海峡を封鎖されてしまえば、彼らは艦隊を倒さない限り、外には出られなくなります。
今すぐにでも避難指示を連絡するべきです。」
緊急会議は混迷を極める。
後刻、日本国政府は、人身の安全のため、先進11ヵ国会議、港町カルトアルパスから外務大臣及び外交官の引き上げを行う事を決定した。
◆◆◆
神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス
港町カルトアルパスは、神聖ミリシアル帝国南部に位置している。
同街の東と西には南北に延びる半島がそれぞれ突き出ており、約60kmの内海、そして幅約14kmの小さな海峡を通過した後に、外海に至る事が出来る。
外海と異なり、内海は嵐の日でも比較的穏やかであり、また第2文明圏と第3文明圏交流の拠点として栄え、今に至る。
そんな港の一角で開かれている先進11ヵ国会議、同会議は紛糾していた。
「と、いう訳で、やはり万が一の安全を考え、早期に移動をお願いしたい!!
仮にカルトアルパスに強襲してきた場合、本当に時間がありません。
ここで、のんびりと話をしている場合ではないのです!!」
アニュンリール皇国が退室した後、すでに4時間が経過している。1回の休憩を挟んだとはいえ、まとまらないにもほどがある。
危険だから、大規模戦力の無い今、避難を行う。
そんな単純な事が何故出来ないのか、近藤は理解に苦しむ。
しかし、避難を反対する参加国にもそれなりの事情はあった。
各国は日本国のように、来るための最低限の戦力を送り込んで来た訳ではなく、砲艦外交の意味合いも込め、国内で最新鋭もしくは練度の極めて高い艦隊を送り込んで来ていた。
日本に例えると、イージス艦を含む2個護衛隊群を込んで来ているようなものであり、それが10ヵ国もいるのに、そろいもそろって文明圏外の蛮族の脅迫で逃げると、国家の威信が地に落ちるだけではなく、国内の批判にもさらされかねない。
様々な事情から会議は空転する。
「……近藤大使!!」
部下の井上が話かけてくる。
「何だ!?」
「本国から連絡です。議長国に連絡した後、迅速にカルトアルパスから避難せよとの事です。
すでに客船に乗船中の大臣には連絡済みであり、後は私たちがいかに早く切り上げるかの問題となります。」
「解った。」
近藤は会議を退席し、避難を行うため、議長国に連絡しようと手を上げる。
不意に、議長の顔が苦渋に包まれる。
「皆さま、静粛に!静粛に!!これより重要な伝達事項があります。」
場が静まる。
「先ほど、我が国の哨戒機がカルトアルパス南方約150km地点を北上するグラ・バルカス帝国の戦艦群を発見いたしました。
なお、空母はまだ発見出来ておりません。
これより航空戦力で攻撃を行う予定ですが、このままでは、カルトアルパス南方60kmの海峡に至ります。
グラ・バルカス帝国の船速と、ここから海峡までの距離を考えると、もう避難は間に合わないでしょう。
皆さまの案、急遽連合軍を組織し、迎え撃つ事になってしまいましたが、あなた方外交官と外務大臣の身の安全だけは、我が国の義務として身の安全を確保させていただく。
早急に鉄道で北に避難していただきます。」
近藤は頭を抱える。
会議は
○各国一丸となって、自衛のためグラ・バルカス帝国を迎え撃つ
○外務大臣及び外交官に関しては神聖ミリシアル帝国の避難誘導で避難を行う。
事となったが、日本国については、国内の憲法上の問題から集団的自衛権を認めておらず、自衛のためのみに戦力を行使し、可能ならば戦場から離脱する事を伝えた。
客船については少数の乗務員を残し、他の勤務員等は帝国の鉄道で避難を行い、海上保安庁の巡視船「しきしま」については、万が一拿捕された場合に機密情報が漏えいする可能性があることから、海戦発生の隙にに海峡を突破する事に全力をかける事となった。
◆◆◆
港町カルトアルパス
港湾管理者ブロンズは恐怖と期待が入り混じった感情に襲われていた。
彼が見たことも無いような巨大戦艦を操る国が、世界最強の神聖ミリシアル帝国に攻め込んでくるという。
先ほどから上空を見上げると、我が国の多目的戦闘機ベータ2が何機も編隊を組んで南の空に消えている。
おそらくは本当の事だろう。
しかし絶望的な危機にもかかわらず、彼は冷静だった。神聖ミリシアル帝国という国に、テロではなく艦隊が攻め込んでくるという事自体が現実性からほど遠いように彼は思えた。
目線を港に移すと、世界の強国と言われる国々の艦隊が続々と出港している。
「マギカライヒ共同体、機甲戦列艦隊出港!!」
第2文明圏の雄、マギカライヒ共同体の機甲戦列艦隊7隻が出港を開始している。
マギカライヒ共同体は、規模でこそ第2文明圏列強だったレイフォルに劣っているが、技術と単艦あたりの性能は、レイフォルよりも上である。
ムーの機械文明と魔法文明を上手く融合させており、その機甲戦列艦隊の強さは第2文明圏の中では突出して高い。
「アガルタ法国、魔法船団出港!!」
中央世界のアガルタ法国魔法船団6隻が出港する。
「ニグラート連合、竜母艦隊出港!!」
第2文明圏ニグラート連合の竜母艦隊、戦列艦4、竜母4隻が出港する。
竜母には、ワイバーンロードが各12騎、4隻合計48騎が搭載されており、士気は高い。
「ムー、機動部隊出港!!」
第2文明圏の列強国、ムーの艦隊、戦艦2隻、装甲巡洋艦4隻、巡洋艦8隻、空母2隻が出港する。
今回の派遣艦隊ではおそらく最強だと思われる列強国の艦隊に、各国の期待は高まる。
「日本国、巡視船出港!!」
戦場では目立つであろう白く塗られた美しい機体、ムーのラ・カサミ級戦艦よりも大きく、我が国の巡洋艦並みの大きさの日本国の船、おそらく1隻のみで派遣してくるあたり、相当戦力に自信があるのだろう。
日本国の伝説的強さは、パーパルディア皇国戦ですでに噂となって知れ渡っている。
化け物のような戦艦を持つグラ・バルカス帝国にどこまで通じるか解らないが、パーパルディア皇国戦での数多の伝説が本当ならば、この白い船は相当に強いだろう。
港湾管理者ブロンズは、ワクワクしながら強国たちの出港を見守る。
今回の派遣艦隊の戦力は、要約すると下記のとおりとなる。
○ムー(第2文明圏列強)
戦艦2、装甲巡洋艦4、巡洋艦8、空母2
○日本国(文明圏外、第3文明圏東側)
海上保安庁巡視船しきしま 1隻
○トルキア王国(中央世界)
戦列艦7
○アガルタ法国(中央世界)
魔法船団6
○マギカライヒ共同大(第2文明圏)
機甲戦列艦7
○ニグラート連合(第2文明圏)
戦列艦4、竜母4隻
○パンドーラ大魔法公国(第3文明圏)
魔導船団8
総勢53隻にも及ぶ大艦隊、なお、戦力としては、これに中央世界列強エモールの風竜騎士団22騎と、神聖ミリシアル帝国の巡洋艦8隻が加わる。
つまり、艦隊としては各文明混合であるが、61隻にも及び、エアカバーは神聖ミリシアル帝国と、列強エモール王国が行うとあって、各国の担当者は自信を持つ。
海上保安庁の巡視船しきしま 船長の「瀬戸 衛」は、不安をもって、出港していく艦隊を見つめる。
これだけ数がおり、エアカバーもあるのならば、敵艦隊にも隙が生じ、その間に海峡を突破する事も出来るかもしれない。
しかし、敵の技術水準は第2次世界大戦レベルの日本クラスとの情報もあり、その場合は、第1次世界大戦以下の艦隊がいかに集まろうと、烏合の衆でしかないだろう。
神聖ミリシアル帝国の巡洋艦は第2次大戦クラスの性能があるらしいが、たったの8隻で迫りくる艦隊に挑むのは、どうしても戦力不足のようにも思えた。
かといって、離脱できる可能性があるにも関わらず、技術保護だけの目的で、しきしま型巡視船を自爆させる訳にもいかず、船だけ置いて逃げる訳にもいかない。
船長 瀬戸 衛 は、部下を死なせてしまうかもしれない恐怖を理性で押し殺し、港街カルトアルパスから出港した。




