震撼する異界2
神聖ミリシアル帝国 第零式魔導艦隊
観測員からの報告により、艦隊司令アルテマは上空を見る。
気持ちいいほど晴れ渡った空、美しい写真に黒色インクを落としたかのような、汚れのような斑点が映る。
その斑点は、しだいに数を増やし、大きくなっていく。
「量が多いな……エアカバーの友軍機数は?」
「……11機ほどです。僻地であるため、ベータ2型しかいません。」
対艦、対地、制空を多目的に行うベータ2は、この世界としては強力な戦闘機であり、他に追従を許さないほどの高性能ではあるが、同程度の軍事力を有するグラ・バルカス帝国の飛行機械を相手にするには不安が残る。
群島といった僻地に新鋭の天の浮舟戦闘型があるわけもない。
「せめて、最新鋭制空戦闘機、アルファ3があれば良かったのだが……。」
敵の量に対し、あまりにも少ない味方機の量に彼は不安を覚える。
「司令、作戦行動中の戦艦が撃沈された事例は未だありません。
ご安心下さい。」
「うむ!!」
艦隊司令アルテマは、不安を押し殺し、空を見上げるのだった。
神聖ミリシアル帝国 第零式魔導艦隊上空
魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの、甲高い音が機内に響き渡る。
自らの発する息は荒く、自分が緊張している事に改めて気づかされる。
先ほどの艦隊戦では信じられない事に、味方艦に被害が出ているようだった。
近年、神聖ミリシアル帝国に土をつけた国は無く、友好国である世界第2位の列強国、ムーが可能性としては考えられている。
ベータ2を操る部隊長オメガはかつてないほどの強力な敵に、額から汗がしたたり落ち、
動悸は激しくなる。
敵がどういった戦法をとってくるのかが解らない。
ムーといった、仮想敵国に対しては、速度差を生かした一撃離脱が有効だと軍では教えられており、彼自身もそれが正しいと思っていた。
どの程度の強さを持つ敵か解らない以上、今まで教えられ、繰り返し訓練してきた一撃離脱が最良の選択だと彼は判断する。
部隊長オメガ率いる「ベータ2」11機は、上昇を開始する。
敵の航空機も一部が上昇に転じたようだった。
「な……なにぃ!!」
遥か先にある敵機のうち、約40機が編隊前方に飛び出した後、上昇を開始する。
その速度は、神聖ミリシアル帝国の誇る多目的戦闘型天の浮舟ベータ2の上昇速度を明らかに凌駕していた。
「そんな……我が方の運動性能を凌駕しているというのか!!!」
目の良い彼は、その40機が他の機体と形が異なる事を認識する。
「まさか……制空型に特化した飛行機械か!!!」
敵の上昇した機体はおそらく制空型に特化した飛行機械、であるならば、残った奴らが艦隊に脅威を及ぼすであろう存在、機数の比率、そして敵の高性能機を目の前にして、彼は生きて帰る事を諦める。
「せめて、味方への爆撃を減らしてやる!!!」
彼は魔信のスイッチを入れる。
「あの前に出た40機は無視しろ!!!敵との距離20kmまで上昇、その後、急降下による一撃離脱を実施する。
あの後ろの大編隊に突っ込むぞ!!」
「了解!!」
ベータ2の編隊11機は、敵との距離を上昇しながら詰める。
敵の急降下爆撃機と思われる編隊との距離が20kmに迫った時、彼らは高高度から急降下を開始する。
魔光呪発式空気圧縮放射エンジンは、その後方から青い光を放ち、出力を上げていき、やがて最大出力へと至った。
機内は風切り音と、エンジンの甲高い音が響く。
「ちっ!!来やがったか!!!」
敵の制空に特化した戦闘機も、こちらに突っ込んできており、その距離を詰める。
「残念だが、お前たちが俺に追いつく頃には、貴様たちの守るべき爆撃機は我々の攻撃にさらされる!!」
部隊長オメガは、敵を睨む。
「ん!?」
敵の爆撃機が急降下を開始する。
こちらに狙われている事に、気付いているはずなのに……なめやがって!!!
神聖ミリシアル帝国 天の浮舟 ベータ2 は、最高速度の時速410kmに重力を加え、さらに加速していく。
多目的戦闘機として作られたベータ2、旧式とはいえ、敵の爆弾を抱えた爆撃機程度に追いつく事は、当然できると彼は考えていた。
「あれ!?」
敵機との距離が縮まらない。
「ま……まさか!!」
グラ・バルカス帝国 東方艦隊 空母機動部隊所属のシリウス艦上爆撃機70機は、眼下の神聖ミリシアル帝国第零式魔導艦隊に向け、爆撃を行うため、急降下爆撃を開始する。
神聖ミリシアル帝国 第零式魔導艦隊 ミスリル級戦艦 エクス
「対空魔光砲、自動呪文詠唱完了、魔力充填70%、80%、90%、100%、連射モード切替完了!!属性比率、爆14、風65、炎21、対空魔光砲発射準備完了!!」
ミスリル級戦艦エクスにから多数突き出た棒状のものが、上空を向く。
発射口が、ほのかに赤く光輝き、球状の小さな粒子が発射口に吸い込まれていく。
「対空戦闘開始!!」
「対空戦闘開始!!」
第零式魔導艦隊の各艦から、小さな光の弾が高速で上空に向かい射出される。
各艦から攻撃機に向けて撃ちあがった膨大な数の光弾は、グラ・バルカス帝国の急降下爆撃機に向かう。
一見してとてつもない攻撃に見えるが、高速で突撃してくる敵機になかなか当たらない。
「なかなか当たらんな。」
艦隊司令アルテマは、なかなか当たらない対空魔法に、焦りを見せる。
敵、グラ・バルカス帝国の急降下爆撃機のエンジンとプロペラの合成された轟音は、ドップラー効果によって高音に至り、恐怖を煽る。
「敵機発砲!!」
急降下爆撃機から連続して発射された曳光弾が戦艦に迫る。
金属と金属が激しくぶつかる音を発し、機関銃の弾は、戦艦の厚い装甲にはじき返される。
ヒュゥゥゥゥ……
「敵、爆弾投下!!直撃コース!!!」
「面舵いっぱい!!」
戦艦がゆっくりと向きを変える。
どうやら、直撃は免れそうだ。
ヒュゥゥゥゥ…
ヒュゥゥゥゥ…
ヒュゥゥゥゥ…
連続して爆弾が投下される。
「爆弾多数!!かわせません!!!直撃します!!!」
監視員が、悲鳴のような報告を上げる。
「全員衝撃に備えよ!!!」
戦艦エクスの艦上に猛烈な閃光が走る。
直撃した爆弾はその威力を開放し、激しい炎を伴った猛烈な爆発が起こり、付近海域に爆音が轟く。
大型戦艦が、激しい揺れに見舞われる。
「船体後部に被弾!!火災発生!!」
「消火活動を開始せよ!!」
神聖ミリシアル帝国 第零式魔導艦隊 ミスリル級戦艦 エクスの船体後部に被弾したグラ・バルカス帝国の250kg爆弾は、分厚い装甲に接触し、その威力を開放した。
爆風が吹き荒れ、上部構造物に損傷を与える。
「後部対空魔光砲大破、後部副砲、砲身曲損、使用不能。」
戦艦の近くに落下した爆弾は、海中でその威力を開放し、戦艦周辺に大きな水柱が上がる。
「敵機撃墜、機数2!!」
あまりにも少ない敵機の撃墜数に、艦隊司令アルテマは、歯ぎしりをし、額から汗が噴き出るのだった。
ミスリル級戦艦 エクス 最上甲板
「ちくしょう!!敵機の速度が想定以上に速い!!」
対空魔光砲の砲手、アシアントは、敵機の想定を超える速度に焦りを見せる。
戦艦から打ち上げられる光弾の数はとてつもなく、まるで雨のように見えるが、敵機にはなかなか当たらない。
次々と投下される爆弾、味方艦の被害も徐々に増える。
「こんなところで死んでたまるか!!」
俺は、世界最強と呼ばれた神聖ミリシアル帝国の中でも、最新鋭のミスリル級戦艦に乗艦している。
不沈艦と呼ばれた旗艦エクスが劣勢に立たされる事など、あってはならない事だ。
空気のはじけるような音と共に、彼が照準をおこなった対空魔光砲が敵に向かって飛んでいく。
かれの放った魔光砲は、敵機の片翼に着弾し、翼を吹き飛ばす。
「やった!!ザマぁみろ!!」
敵機が爆弾を投下する。
「退避!!退避!!!!」
誰かが叫ぶ。
彼は、頭の角度をさらに上空に向ける。
黒い点が空に制止しているように見える。
あれは?確か……授業で……。
彼は考えを巡らす。
爆弾が自分に向かって真っすぐに飛んでくる時、その爆弾は、空に制止する点のように見えるとの戦術授業の教えを思い出す。
「まずい!!!」
彼は、本能的にその場所から離れようと駆け出す。
グラ・バルカス帝国、急降下爆撃機の投下した250kg爆弾は、戦艦エクスに着弾し、砲手アシアントは光と共にこの世を去った。
ミスリル級戦艦 エクス 艦橋
火柱と、大きな爆発音が海上に響き渡る。
艦内には、自艦の被害報告と、艦隊の損傷状況が報告され続ける。
「左舷対空魔光砲損傷!!距離測定器大破!!」
「戦艦カリバー被弾、火災発生!!」
「巡洋艦シルバー被弾、被害甚大!!!」
艦隊司令アルテマの元には、被害が増え続ける神聖ミリシアル帝国第零式魔導艦隊の状況が報告される。
「……まずいな。」
アルテマは、艦長インフィールに話しかける。
「味方艦には、大破する艦も出てきています。戦艦は沈む事は無いでしょうが、この状況はよろしくありませんな。
我が国の領海にも関わらず、エアカバーが受けられない事が、最大の問題です。
第4、第5艦隊がすでにこちらに向かっているとの事ですが、本戦いには絶対に間に合いません。」
「どうやって切り抜けるか……。」
「報告!!!」
魔力探知レーダー監視員が、悲鳴のような声をあげ、会話は中断される。
「超低空に、魔力探知!!左舷35方向!!距離……よ……45km!!機数82!!!」
「なんだと!?近すぎる!!!総員、対空戦闘用意!!」
アルテマは、左舷を注視する。
グラ・バルカス帝国のリゲル型雷撃機は、海上から僅か20m上空を、時速370kmで飛行していた。
その数は、82機にも及び、機体下部には、800kgの魚雷を抱えて飛行する。
彼らは、この世界で最強と謳われた、神聖ミリシアル帝国第零式魔導艦隊を滅するために飛行する。
上空に敵機はすでにアンタレス型艦上戦闘機にすべて撃墜され、敵戦艦は我が方の攻撃により黒煙を上げているため、非常に目立つ的と化している。
敵戦艦の対空砲火の射程距離外から魚雷を投下可能であるが、当てるためには肉薄する必要があり、編隊は緊張感に包まれる。
「魚雷投下ポイントまであと30秒」
敵の対空砲火がこちらに向かい、旋回しているのが解る。
死と隣り合わせの恐怖、分隊長パッシムは、生きて帰る事を決意する。
機内には星形エンジンの咆哮が鳴り響き、機体は大きく振動し、お世辞にも乗り心地が良いとは言えない。
「あと20秒」
敵の対空兵器がこちらに向かって飛んでくる。
砲火の数は多く、すべてが曳光弾ではないかと思われるほど多いが、弾は機体のすぐ横を通過しても我が方の近接信管のように爆発する訳ではないようだ。
しかし、当たれば爆発するようであり、すでに1機が撃墜されてしまった。
帝国海軍の機体を撃墜するほどの国がこの世界にあった事自体は驚愕の至りだが、本戦闘における戦力比は比較にならないほど我が方が上だ。
無線からは、適宜指示が流れ続ける。
「…4,3,2,1投下!!!」
リゲル型雷撃機の編隊のうち、40機が魚雷を投下する。
編隊数があまりにも多いため、その雷跡は見たこともないような数にも及ぶ。
重量800kgにも及ぶ魚雷が投下され、一気に機体が軽くなる。
分隊長パッシムは、神聖ミリシアル帝国の対空砲火網を抜け、敵の射程距離から離脱した。
◆◆◆
神聖ミリシアル帝国 第零式魔導艦隊旗艦 戦艦エクス
低空を侵入してくる敵機、水平線に向かって撃ち続ける対空魔光砲、こちらからの攻撃はなかなか当たらない。しかし、敵は爆弾の投射を観念したらしく、距離がまだ開いているにも関わらず、爆弾らしきものを海に多数投棄し、離脱を開始している。
「あいつら、一体何がしたいのだ?」
最上甲板で見張りをしていたケイトはつぶやく。
敵の機数は多い。我が方の対空魔光砲の投射量も凄まじいが、戦力比を考えると、爆弾を投棄して逃げるには疑問が残る。
「臆病風にでも、吹かれたのか?」
戦場で沸いた微かな疑問、彼は海中の異変に気付く。彼は海を注視する。
「何だ?あれは!!」
海中を、白い線を引きながら、何かがこちらに向かって多数向かってくる。
「まっ!!まさか!!!」
彼は、ゴールド級戦艦バリアントが最後に受けた攻撃を思い出す。
次の瞬間、魔信機に向かって叫んでいた。
艦橋~
「本艦に向かい、何かが多数向かってきます!!!バリアントの受けた攻撃に酷似!!方位左37!!距離1000m!!!」
艦橋からも確認できる明らかな雷跡、魚雷の通った後に出来る泡で出来た線が、旗艦エクスに向かう。
その数は、あまりにも多く、加速、減速、面舵、取舵、どの方向に向かっても、確実に何発かは着弾する。
旗艦エクスの艦長インフィールは叫んでいた。
「着弾するぞ!!魔素展開!!装甲を強化セヨ!!!」
「魔力回路出力最大!!全魔力を左舷に集中!!!装甲強化完了まで、18秒!!」
旗艦エクスをほのかな青色の光が包み込む。
魔力により、固さが変わる合金が反応し、金属がより固くなる。
「装甲強化完了!!敵海中攻撃、着弾まであと12秒!!」
艦長インフィールの頬を汗が流れる。
ゴールド級戦艦バリアントは、この敵の海中攻撃で撃沈された。その威力は、あまりにも大きく、魔導砲よりも船体に対するダメージが多いようだった。
果たして、装甲強化を行ったところで、どこまで耐えられるか?
海中を走る矢のように、それはまっすぐとこちらに向かってくる。
「総員衝撃に備えよ!!!」
インフィールが吠える。
次の瞬間、巨大な戦艦が大きく揺れ、左舷に7本水柱が上がる。
彼は、頭を壁にぶつけ、額が割れ、頭から血がしたたり落ちる。
「くっ!!損傷個所を報告せよ!!」
艦内には、あらゆる種類のアラームが同時に鳴り響く。
「左舷7箇所に破口発生!!多数の浸水を認める!!」
左舷に浸水した海水は多く、戦艦エクスの巨体は、大きく左に傾き始める。
「右舷注排水システム、起動!!右舷注水中……ダメです!!このままでは、早期に注水限界に達します。」
左に傾いた戦艦は、戦艦右側に注水することにより、一時的に角度を戻すが、注水区画が限界に達し、すぐにまた左に傾き始める。
戦艦の角度はやがて30度にも達し、さらに傾き続ける。
「ま……まさか!!こんな……こんな事が!!!戦闘行動中の最新鋭戦艦が、航空機ごときにやられるとは!!!」
艦隊司令アルテマは、あまりの出来事に、放心状態となる。
「司令!!総員退艦指示を出します!!総員退艦!!総員退艦!!!」
戦艦からは、脱出者が出始める。
角度はすでに50度にも達し、さらに傾き続ける。
「艦長!!このままでは、カートリッジ型の爆裂魔法回路が、衝撃に晒されます!!!」
「それはまずい!!退艦を急がせよ!!お前も、もうここはいいから、退艦しろ!!」
「艦長も、早く退艦されて下さい!!」
上空を飛び交う敵機、他の戦艦も、巡洋艦も、攻撃を受け続け、艦隊はすでに壊滅状態に陥っていた。
爆発音、轟音が戦場を包み込んでいる。
「俺は……責任を取る立場にある。いいから、お前たちは、早くいけ!!!」
戦艦エクスは、傾斜をさらに増し、転覆してしまう。
艦内では、カートリッジ型爆裂魔法回路があちらこちらで転がり、その威力を開放する。
爆圧は四方八方へと突き抜け、同艦は、船体が真っ二つに折れ、大きく爆発、きのこ雲を形成する。
戦艦エクスは艦隊司令、艦長、そして逃げ遅れた乗務員と共に海中へ引きづり込まれ、轟沈した。
世界最強と謳われていた、神聖ミリシアル帝国の第零式魔導艦隊は、西方の文明圏外国家、グラ・バルカス帝国東方艦隊、空母機動部隊の攻撃により、1隻も残らず撃沈され、壊滅した。
◆◆◆
神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス
外務省統括官リアージュは、困惑していた。
港街カルトアルパスで開かれていた先進11ヵ国会議、数日にもわたるこの会議は、初日で実務的権限を有している外務官同士で話が行われ、そして最後の2日で外務大臣級会合が行われて正式決定となる。
初日で、グラ・バルカス帝国の外務担当官が、あまりのも傲慢な態度を示し、外務大臣級会合前に、自分たちの一方的な要求のみ伝え、退席している。
しかし、明日も明後日も、重要な会議が控えており、外務大臣の相手も必要なこの時期に、緊急会議があるため、帝都ルーンポリスに戻るように司令を受ける。
このような、重要案件のある時期での緊急会議とは、よほどの事があったのだろう。
彼は、緊張して、指定された会議室の扉を開ける。
扉を開けると、外務省の幹部と、軍の幹部、そして国防省のアグラ長官までもが着席していた。
根回しも何もないこの状態で、これだけのメンツがそろうのは、よほどの事があったのだろう。
会議が始まる。
「それでは、これより緊急会議を開催いたします。」
軍の担当が話し始める。
各人にレジュメが配られ、プロジェクターのようなものを起動し、担当者が話を始める。
配られたレジュメに、目を配るリアージュ、その中には信じられない記載がされていた。
「概要を説明いたします。本日早朝、本国の西方にあるカルアリス地方の群島付近で訓練中の第零式魔導艦隊が、正体不明の艦隊と、航空機による攻撃を受けつつあるとの連絡を最後に、音信不通となっております。
また、同群島にある地方空軍基地も、攻撃を受けつつあるとの連絡を最後に、音信不通となりました。
陸軍離島防衛隊のみ、通信が出来る状態であり、同所からの報告によると、信じられませんが、敵艦隊及び航空攻撃により、第零式魔導艦隊は全滅、空軍基地も、敵航空攻撃により全滅したとの連絡が入りました。
敵の国旗を確認したところ、グラ・バルカス帝国と断定いたしました。」
全員に、衝撃が走る。
「ちょっと待ってくれ、第零式魔導艦隊が全滅しただと?彼らは、数は少ないが、新鋭あのみで構成された艦隊だったはず。
その力も、同数であれば、世界一だ。
いくら、グラ・バルカス帝国が強かろうが、どれだけ数で押してこようが、損傷ならともかく、全滅は……本当なのかね?」
外務省統括官のリアージュは、あまりの情報に、説明途中で質問をする。
日頃は必ず人の話を最後まで聞く彼にとって、説明途中で言葉を遮って質問に出るほどに、同事象は信じられない情報だった。
「これは、おそらく事実です。今回の敗北は、敵艦隊に対し、我が方が小数だった事、また、地方の群島であり、エアカバーが不十分だった事などが可能性として考えられますが、今回の議題はそこではありません。」
彼は続ける。
「陸軍離島防衛隊の報告によりますと、艦隊を破った敵は、離島空軍基地に艦砲射撃を行い、空軍基地を破壊、その後、東へ向かったとの報告があります。」
「東!!東だと!?ま……まさか!!!」
「はい、想定されるのは、我が国の首都、ルーンポリスもしくは、先進11ヵ国会合中の港町カルトアルパスです。」
全員に衝撃が走る。
「防衛体制はどうなっている?」
「離島防衛に向かわせていた第4、第5艦隊を、帝都防衛のため、呼び戻しています。
帝都は第4,5,6,7艦隊で防衛を行うため、万全といえるでしょう。
問題は、港町カルトアルパスですが、現在東方展開中の第1,2,3、艦隊を、カルトアルパス周辺に展開させるように手配を行っていますが……離島からの距離を考慮すると、敵の方が速くカルトアルパスに到着する可能性があります。
今カルトアルパスを守れる艦隊は、地方隊の巡洋艦クラス8隻のみとなります。
戦闘型天の浮舟は、迅速にカルトアルパス空軍飛行場に移動させますが、艦隊が間に合わない可能性が高い。現在カルトアルパスでは、先進11ヵ国会議が行われているため、外務省統括官の意見も伺いたいと思い、今回の会議にお呼びしました。」
一瞬の沈黙。
「じょ……冗談じゃない!!!世界最強であり、世界に敵なしと謳われる神聖ミリシアル帝国が、その国の威信をかけて警備を行っている先進11ヵ国会議の開催期間中に、蛮族に攻められ、守り切れないかもしれないので、避難してくださいなどと、言えるものか!!!
そんな事を言ったら、文明圏外属国が大量に離反し始めるし、列強や文明圏外国も、我が国を軽く見始める!!
国体や、繁栄の維持のためには、強さを見せる必要があるのだ!!!
そんな事を各国に伝えるくらいならば、まだ大艦隊に奇襲を受けたと、被害が出てから発表する方がましだ。
奇襲を受けて被害が出るならば、まだ各国も対グラ・バルカス帝国でまとまるだろう。
攻めてくる事を知っていて被害が出たのならば、各国は我が国をグラ・バルカス帝国よりも弱い国と見るだろう。」
国防省長官が手をあげる。
「外務統括官様、たしかに、おっしゃるとおり、今回の第零式魔導艦隊が敗れた事は、想定外であり、恥ずべき事です。
ただ、奴らは強い。
蛮族と、侮ってはいけない相手だと私は認識いたしました。
このままでは、最悪先進11ヵ国会議がめちゃくちゃにされる可能性が高い。
各国の外務大臣級がすべて殺されでもしようものなら、何故接近を探知できなかったのか、その方が我が国の能力を疑われます。
我が国の能力で、探知できないはずはないと、各国は思うでしょう。
わざと攻撃させたとまで考えられるかもしれません。
ここは、正直に話し、会議の延期を申し入れ、各国に一時避難を促すべきかと思います。」
「国防省長官は、気楽だな。そんな事をすれば、本当に我が国の能力を疑われかねない。
艦隊が間に合わないのならば、古代兵器、海上要塞パルカオンを使用する事は出来ないのか?
あれを使用すれば、グラ・バルカス帝国がどのような大艦隊で来ようが、全滅出来るだろう?」
国防担当幹部は、額に汗を浮かべ、沈黙する。
「古代兵器パルカオンは、我が帝国に、たったの1隻だけ残っている、国家存続の危機がある場合のみ使用可能な古の魔法帝国の超兵器です。
ただ、まだ50パーセント程度しか解明できていないため、良く分からない兵器が多数あり、本来の力がほとんど出せていない。
それでも、グラ・バルカス帝国の艦隊程度なら殲滅できるでしょうが、皇帝陛下の決裁が必要であるし、この程度の事象で投入する事は出来ないでしょう。
これは、来るべき古の魔法帝国に唯一通用する我が国の切り札となる兵器であるため、この程度の事象で出す事は出来ないし、万が一損傷でもしたら、治せない。」
会議は深夜にまで及び、明日の夕方までに、各国の代表に対し
○ グラ・バルカス帝国の大艦隊が迫っている。
○ これは奇襲的に行われる攻撃であり、我が国の現在の展開している戦力では、うち漏らしが起こる可 能性がある。
○ 万が一の被害防止のため、各国は港町カルトアルパスから東方都市カン・ブラウンに一時移動をお願 いしたい。
旨伝える事を決定した。




