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外伝 竜の伝説5

 王都アルクール 上空


「おのれぇっ!!!ここまでかき回されるとは……敵はたったの1騎ぞ!!」


 敵には空で戦える戦力など、無いと思っていた。

 しかし、1騎の龍が戦場をかき回す。


「ええい!!何をやっておる!!!」


 マウリ・ハンマンは吠える。

 戦場は、こうも思いどおりにはいかないものか。

 敵は速度差による1撃離脱を繰り返している。

 すでに見える範囲だけでも5騎も撃墜された。

 敵はたったの1騎、こちらはまだ50騎以上が健在だ。そのうち、敵もスタミナ切れを起こすだろう。

 本戦いに勝つ事は間違いないだろうが、あのような化け物が存在するならば、世界の外へ侵攻する場合は、航空兵力を整える必要がある。


 マウリ・ハンマンは、今後の展開を考察する。



「くそ!やはり数が多いな。」


 すでに7騎を落としたが、未だ50騎以上の敵騎が空を舞っている。

 急加速、急旋回、そして導力火炎弾の使い過ぎで、相棒がバテてきているため、このままではワイバーンの体が持たない。

 ムーラは圧倒的な数の差に焦りを感じ始める。


 理解はしていた。想定もしていた。

 しかし、実際に乗騎する龍が体力切れを起こしはじめると、やはりつらいものがある。


「まずいな……どうする……?」


 ワイバーンの動きが徐々に鈍くなる。

 ムーラの体力も限界に近づく。


 一瞬の見落とし、1騎の敵が太陽を背に急降下し、体当たりを仕掛けてくる。


「し……しまっ!!」


 敵の足の爪がワイバーンの頭に当たる。

 鈍い音。


 竜はきりもみ状態になり、落ちていく。

 全身を駆け巡る死の恐怖。


 何とか竜にしがみつくムーラ、顔に叩きつけられる合成風、過去の出来事が走馬灯のように頭を駆け巡る。

 一瞬、妻と子供の笑顔が脳裏に浮かび、その顔は泣き顔に変わる。


「死んで……こんな所で死んでたまるか!!」


 彼は、決して生を諦めない事を決意し、竜の手綱を強く握り込む。

地面が近づく。


「上がれぇぇぇぇぇ!!!」


 次の瞬間、何とか意識を取り戻したワイバーンは、地面への衝突を回避した。


◆◆◆


 有翼騎士団長メッシュは、勝利を確信していた。


 彼は思い返す。


 世界最強の鳥、火喰い鳥を乗りこなすという偉業、その圧倒的に強き鳥を……世界最強の騎士団を率いるという誇り、彼の騎士団は、あの精鋭王下直轄騎士団をも倒し、王国軍主力を撃破した。

 そして、今回の国盗りの陣においても、城門内の敵を撃破し、アルクール王城をも炎に包む事に成功した。

 さらには、王の首を取るという偉業も、有翼騎士団だからこそ成しえた事だった。


 正に我が軍は世界最強であり、私はその主力騎士団のトップにいる。

 何人たりとも、私の行軍を止める事は出来ない。


「ザコどもめ!!」


 逃げ惑う王国兵を、民間人ごと焼き払う。


「弱き者は死ね!!」


 命乞いをする者を焼き払う。

 そう、弱いからいけないのだ、弱き者は死ぬ。

 ただそれだけだ。


 マウリ・ハンマン様は、私に最高の兵器を下さった。

 その期待に私は答えよう。


 そう思った時、たった1騎の伝説上の生物、龍が現れる。

 人の操りし龍は、我が騎士団の飛行速度よりも速く、そして強力な武器を持ち、短時間で5騎以上が奴の餌食になってしまう。

 しかし、私は組織的動きを指揮し、伝説の化け物を追い詰める。


 有翼騎士団長メッシュは勝利を確信する。


「ギュォォォォォォーーン!!!」


 再びドラゴンの咆哮が轟く。


「な……何だ?」


 声のする方向を見る。


 空には先ほどの龍より一回り大きく、そして速い龍が12騎……。


「な……仲間がいたのか!!あんなに……。」


 戦慄。


 敵龍は次々と、先ほどの龍よりも長射程、高速、そして高威力の火炎弾を打ち出す。

 高速の火球が連続して有翼騎士団を襲う。

 正確に、あまりにも正確に火球が着弾し、鳥たちは断末魔をあげ、落ちていく。


「そ……そんな!!!速すぎる!!!ギャァァァ!!!」


 味方の騎士は、次々と敵の攻撃を食らい、まるでハエのように落ちていく。

 敵の龍とすれ違う間に、25騎以上、実に半分以上の友軍が失われる。

 戦慄するほどの被害。

 最強と思っていた軍団の、あまりにもモロイ姿。


「我が最強の騎士団が!!!

 奴らはいったい何者だ!!!」


 誰も、彼の疑問に答える者はいない。


 有翼騎士団長メッシュは、パーパルディア皇国軍竜騎士団長レクマイアの放った導力火炎弾が直撃、火だるまになり、落ちていった。


◆◆◆


「いったい何が起こった!?」


 マウリ・ハンマンと、大魔導師オルドは、眼前で起こっている事態が理解出来ずに混乱する。

 多くのコストをつぎ込んで作った有翼騎士団、その戦いぶりはまさに鬼神のごとき強さを誇っていた。

 それが、先ほど現れた竜の騎士たちによって、あっという間に、短時間に、まるで虫のように次々とすべて撃墜され、今、空には正体不明の龍13騎が乱舞している。


 あまりにも一方的な暴力に、彼は恐怖を覚え、今まで苦労に苦労を重ねて築き上げてきたものが瞬時に壊され、怒りがこみ上げる。


「お……おのれ!戦車に空の敵を撃破するように伝えろ!!」


 マウリ・ハンマンは怒りに燃える。



『敵、全騎撃墜、損失はゼロ、保護対象者、ロウリア王国の竜騎士ムーラを確認、制空権の確保に成功しました。』


 部下からの報告があがる。


「日本国以外と戦った場合、皇国軍はやはり強いな。」


 レクマイアは、つぶやいた後、魔信のスイッチを入れる。


「日本のヘリが到着する前に、空の敵はすべて片づける事が出来た。皆よくやった。」


 彼は部下を労う。


「ん!?」


 地上から火炎弾が連続して上空に向かって飛んでくる。

 高速移動しているため、当たる事は無いだろうが、発射元が20箇所近くあり、狙われているとストレスがたまる。


 竜騎士団は急降下し、上空に攻撃を行っていた物に対して導力火炎弾を打ち出した。


 ワイバーンよりも強大な魔力で打ち出された導力火炎弾は、地上にあったマウリ・ハンマン配下の魔炎駆動式戦車に着弾し、大きく爆発した。


「な……に!?」


 魔炎駆動式戦車は何事も無かったかのように、上空に攻撃を続ける。


「全く効果なしか……。」


「敵の攻撃は当たらないが、我が方の攻撃は効かぬか。

 まったく。

 悔しいがあれは日本軍に任せるか。」


 地上の敵に効果が無い事に対し、レクマイアはプライドが傷つけられたような気分になる。

皇国の竜騎士団は、体力の温存のため、攻撃を控える。


◆◆◆


 空には正体不明の龍が乱舞しているが、地上は我が戦車や魔獣が制地権を確保している。

 

 王国軍は、体制を立て直しつつあるようだが、このレベルの戦いに、今更ザコが出てきたところで、どうしようもあるまい。


『間もなく、戦車隊は第2の城門に達します。』


 部下から報告があがる。


 第2の城門は、2重城壁となっており、城壁と門がそれぞれ2つずつある。

 城壁と城壁の間は200mほど離れており、その間遮蔽物は何も無く、平地が広がるのみである。

 仮に強固な1つ目の門を突破したとしても、2つ目の門が敵の侵入を阻止し、城壁から矢が雨のように飛ぶ。

 城門を抜けると、そこには高級貴族や王族の住まう地区となっている。


 第2の城門の鉄壁ともいえる守りが、アルクールを城塞都市たらしめ、歴史上も多くの外的の侵入をあきらめさせてきた。

 しかし……。


 大魔導師オルドは邪悪な笑みを浮かべる。


 遺跡発掘調査によって得られた超技術、魔炎駆動式戦車の突破力と防御力の前では、今までの軍事的常識など、簡単に覆る。


 我々にとって城門なぞただの木の扉であり、2重城壁の間の平地なぞ、ただの道路だ。


『戦車隊、第2の城門外壁に攻撃を開始しました。』


 部下からの報告があがる。

 戦車は、敵の弓矢、そしてバリスタの矢をはじき返しながら、城門に火炎弾を撃つ。

 城門は簡単には燃えないが、やがて木製部分が燃えはじめ、鉄の部分は熱を帯びる。

 頃合いを見計らい、超魔獣ジオビーモスを投入し、城門に体当たりする。


 この時代の突進力からは隔絶した力の加わった城門は、カンヌキが折れ、大きな音をたてて開かれる。


『戦車隊、外壁側城門の破壊に成功しました。』


 陸上における作戦は順調に進む。


◆◆◆


 ウィスーク公爵邸


「敵の燃える戦車は、第2の城門外壁を破壊いたしました。

 内壁の門に向かい、敵がなだれ込んで来ています。」


「王国軍、反撃の体制が整いました。

 内壁城門が破壊された場合、こちらから撃って出る予定です。」


「敵、火喰い鳥の騎士団は、南から現れた正体不明の龍の軍によって全滅しました。

 彼らは敵か味方か不明ですが、今のところ攻撃してくる気配はありません。」


 ウィスーク公爵の元に情報が集約される。

 次々と重要な報告があがり、場は騒然としている。


「北村どの、敵は西側の第2の城門を破壊しに来ています。

 まさか、1諸侯がこれほどの力を持っているとは思いませんでした。

 間もなく、第2城門は破壊され、この居住区にも敵が流れ込んでくるでしょう。

 我らに……あの戦車に抗する術は無いようです。

 どうか、なるべく東に避難して下さい。」


 ウィスークは、北村たちに避難を促す。


「私たちを危機から救うためという名目ではありますが、我が国は今回の敵に対し、あなた方カルアミーク王国と共に戦う事を実質的に決意しました。

 ……あなた方は今、国家存亡の危機にあり、命をかけて戦っている。

 このようなギリギリの状況下で、危なくなったという理由で、私たちだけが逃げ出した場合、どうやって貴国と信頼のある同盟が結べましょうか?」


 北村の言葉にウィスークは目を丸くする。


「しかし……龍の騎士たちの、あの強大な魔法攻撃をも、あの戦車には効果がありませんでした。

 おそらく、あの戦車は超古代文明の遺跡を解析して作られたものだと思います。

 龍の大魔法をはじき返す者が敵なのです。

 残っても滅びが待つだけです。

 我が国の都合で足止めをしてしまった。

 早く!早く逃げて下さい。」


 北村はフッと笑い、時計を見る。


「ウィスーク公爵閣下……。どうやら我が国の守護者、自衛隊が間に合ったようです。

 我々の戦いを、その目に焼き付けていただきたい。」


 南西の方から空気をたたく音が聞こえる。

 王国の民は、その特殊な音を出しながら空を飛ぶ物体を見る。


「あ……あれは何だ!!」


「また、新たな敵かっ!!」


 爆音を轟かせ、下に向かって空気を吐き出しながら飛ぶ「それ」は、9機の編隊を組む。

 黒く、無機質な物体は、第2城門の方角へ向かい、飛んでいる。


 王国の民は、恐怖を覚えるのだった。



 王都アルクール 第2城門付近


 魔炎駆動式戦車にバリスタが当たる。

 しかし、バリスタは戦車の厚い装甲に跳ね返され、打ち返される火炎弾により、城門の上から戦車に向かって大きな矢を放ち続けていた発射台は沈黙する。

 城門の上から射続けていた矢も、火炎弾の連続発射により、徐々にその密度を減らす。

 自分たちの攻撃手段が、全く効果が無い事を知り、王国軍の士気は低下する。


「ちくしょう!!化け物どもめ!!!」


 城門の警備を任されていた城門警備隊長サントは、敵のあまりにも圧倒的な、今までにない攻撃に、悪態をつく。

 

 城門の上からの矢は効果が無く、バリスタでさえも、跳ね返される。

 敵は、さらに超大型魔獣や、強力な12角獣、そしてその他の多くの下位魔獣たちも第2の城門外壁から、流れ込んできており、外壁と内壁の間の土地に展開する。

 総数数百匹にも及ぶ魔獣たちは、内壁の城門が破壊されたら、一気になだれ込んでくるのだろう。

 絶望的な戦力差。


「もう持ちませせん!!!内壁の城門が……間もなく壊れます!!!魔物が多すぎます!!」


 城門の警備隊も、すでにその数を大きく減らし、部下は50パーセントも戦死していた。部下からの絶望的な悲鳴のような報告、もうだめか……。

 城門が突破されたらすべてが終わる。王国の終わりを、このような形で実感する事になるとは、思ってもみなかった。

 隊長サントは心の中であきらめる。


 ん?

 

 空気を叩くような音が連続して聞こえ始める。


「なんの音だ!?」


 彼は音の方向を見る。


「あれは……なんだ!!!」


 遠くの方に、黒い虫のような物体が見える。

 その姿は、魔獣のように見え、少なくとも王国軍が所有している武器でない事は間違いなく、敵である可能性が高い。

 新たな敵の出現に、彼はさらに絶望するのだった。



「あれが敵か。」


 陸上自衛隊の攻撃ヘリは、攻撃目標の魔獣と戦車を正確に補足していた。

 第2の城門の外壁と内壁の間にほぼすべての戦車と大型の獣、そして意味不明な気持ちの悪い生物が多数展開している。

 守るべき王国軍と混戦になっていない事は幸いだった。


「攻撃を開始する!」


 陸上自衛隊の攻撃ヘリ、AH64Dアパッチ3機とAH1Sコブラ5機は、第2城門付近に展開していたマウリ・ハンマン配下の古代遺跡を解析して作られた魔炎駆動式戦車に対し、対戦車ミサイルを発射した。


 ミサイルは後部から壮大な炎を発し、敵戦車に向かい飛んでいく。

青空に発生した多数の炎、火炎弾よりも遥かに速く、空気を裂き、長距離を飛んでいく。

ミサイルは正確に戦車に向かって突き進み、着弾する。


 戦車に接触したミサイル(HEAT弾頭)は、その弾頭部分から超高速のメタルジェットを発生させ、あっさりと戦車の装甲を貫通、内部を焼き尽くす。


 戦車内部に突入したミサイルは、その威力を開放、爆発は上部を突き破り、大きな火柱が上がる。


 正確に多数着弾したミサイルは、連続して爆発し、多くの戦車に火柱が上がる。


 それは一瞬で……あまりにも短期間に行われた破壊だった。

 現場は戦車の墓場と化す。


「な……なんだ!!あの強大な魔導は!!」


 いままで王国軍が手も足もでなかった敵が、正体不明の物体の攻撃で、赤子の手をひねるかのように破壊されていく。

 警備隊長サントは、自分の目を疑う。



 攻撃ヘリの編隊は、ロケット弾を連続して発射する。

 多数の攻撃ヘリから連続して打ち出され、轟音を発し、高速で飛んでいくそれは、王都上空の景色を変える。


 着弾。


 着弾したロケット弾は、連続して爆発し、内壁と外壁の間は猛烈な煙に包まれる。


 全長20mを超える大型魔獣もロケット弾の攻撃を食らい、断末魔をあげ、大地に横たわる。

 魔獣から噴き出た大量の黒い血が大地を染める。

 警備隊長サントはあまりの光景に絶句し、声が出ない。

 生き残った魔獣たちの顔は、恐怖におののき、パニックとなり、一か所に固まる。


さらに、攻撃ヘリは、前部から機関砲を、密集体系あるに魔獣に向かい発射する。


 ブオォォォォォォン


 発射弾数が多すぎるため、発射音は低音の唸り声のようにも聞こえる。


 人間が触れたならば、蒸発するほどの威力を持った機関砲が連続して着弾し、爆発、土煙が連続してあがり、密集体系にあった魔獣を細切れにしていく。

 

 城門の上からその光景を眺めていた王国兵と、警備隊長サントは、驚きをもって、その光景を眺めるのだった。



「ば……バカな!!そんなバカな!!」


 先ほどは有翼騎士団が失われ、今度は戦車と超魔獣、そして配下の魔獣の半分以上が倒された。

マウリ・ハンマンと大魔導師オルドは、味方の切り札がすべて失われた事を理解する。


「あのような魔導……見たことがありませぬ。

 古代の超文明を解析した力をもってしても勝てぬとは……信じられません。」


 唖然……絶望……。


 ウォォォォォ

 内壁城門の方向から男たちの怒声と、馬たちが大地をかける音が聞こえる。


 後刻、城門から撃って出た王国軍によって、街の魔獣たちは駆逐され、マウリ・ハンマンと、大魔導師オルド、その他の者たちは王国軍に捕らえられた。


◆◆◆


 夜~迎賓館


 今回の戦争で被害が無かった迎賓館で、戦勝祝賀会が開かれていた。

 外務省の北村、ロウリア王国の竜騎士ムーラは元より、今回攻撃に参加した自衛隊員、そしてパーパルディア皇国竜騎士団。


 実に多国籍であり、迎賓館の外の広い庭には、ヘリや竜が駐機するといった奇妙な光景が繰り広げられる。

 すでに挨拶は終わり、各々が食事をしながら交流する。


「ムーラさん、あなたの敵有翼騎士団に対する単騎突入は、正直痺れました。

 物語ではなく、実戦であんな事をする人がいるとは……しかも、我が国では架空の生物だった竜に乗っている。

 まるで神話に出てくる戦いが、眼前でくり広げられているようで、何度も目を疑いました。」


「ありがとうございます。ええと……。」


「あ、失礼、私は近衛騎士団長のラーベルといいます。」


 交流は進む。


「ムーラ殿、ムーラ殿!!」


 今度は酔っぱらったウィスーク公爵が話しかけてくる。


「私は……大事な1人娘、エネシーを君の嫁にやっても良いと考えている。」


「え!?いや、私は……。」


「エネシーもそれを望んでいるしな。君にとっても悪い話ではなかろう。」


「いや、しかし……。」


「遠慮しなくていいのだよ。エネシーは美人だろ?」


「まあ、美人ではありますが、私には……。」


「よし!なら決まりだな。」


「ちょっと話を聞いてください!!

 私には、ロウリア王国に大切な妻がいるのです。可愛い子もいます。

 ご厚意はうれしいのですが、今回の話はお断りします。」


ウィスーク公爵の顔が変わる。


「ム……ムーラ殿、エネシーにはその話はまだしていないね?」


「はい。」


「では、帰国するまでその話は伏せておいてくれないか?」


「え?でも、それだとエネシーさんに悪……。」


「いいから!!!

とりあえず、帰国するまでは、結婚延期という形にしようと思う。」


「な……何でですか?」


「あの子は……絶対にあきらめないぞ!もし妻がいる事を知ったら、ロウリア王国まで行って、君の妻から君を奪おうとするだろう。

 君のためだ。

 結婚延期という形にして、帰国後事故か何かで死んだと伝えておくよ。

 で、娘には新しい男を幾人も紹介する。

 そのうち気に入る者も出てくるだろう。

 救国の英雄の幸せを、自分の娘が奪ったら、冗談にはならないからね。」


(じ……地雷女だったのか。)


 ムーラはしぶしぶ了承した。


◆◆◆


 後日、日本国とカルアミーク王国は、正式に国交を結ぶ事となる。


 また、大魔導師オルドの身柄は日本国に引き渡され、カルアミーク王国内の古代遺跡の研究は、日本国主導で行う事となった。


 3カ月後~


 ロウリア王国の竜騎士ムーラは、その後の報告のため、日本へ行き、様々な報告書や、状況に関する事情聴取があり、ようやくロウリア王国に帰国した。


「長くなってしまったな……。」


 家族には、企業から遅くなる旨の連絡済みとの事であったため、久しぶりの愛する嫁と、可愛い子供との再会が近づいて来ていると思うと胸が熱くなる。


 コンコン……。


 自宅のドアをノックする。


「あなた……おかえりなさい。」


「パパ!!おかえり!!!」


 子供が胸に飛び込んでくる。


 ムーラは幸せな気分に満たされる。


 やはりこれだ。家族との幸せな家庭がすべての基本だ、おれは、このために生きているんだ。


 ムーラは、笑顔でほほ笑む。


「ただいま!!!」


 突如として、ムーラの背筋に悪寒が走る。

 戦場で向けられたかのような殺気が、近くから……自分では無い者に向かって発されている。

 彼は、本能的に殺気のする方向へ振り返る。


「な!!!え……エネシーさん!!!何故ここに!??」


 ムーラの背筋は凍り付いた。




 次話「間話 それぞれの考察」は、くみちゃんとみのろうの部屋http://mokotyama.sblo.jp/

 で先行配信中です。

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― 新着の感想 ―
本来、地雷とは動かずに敵を待ち構えているもの。 が、自らやって来たときは、どーすれば良いのでしょーか(笑)
[一言] ナイスボート な展開ですね
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