外伝 竜の伝説2
外伝は4か5で終了します。
竜騎士ムーラは、若い女性が何か魔物のような生物に襲われているのを目撃した。
「良かった、間に合いそうだ。」
まずはワイバーンの咆哮により、魔物の注意をそらす。
魔獣の動きが一瞬だけ止まる。
その間に、彼は女性と魔獣の間に割って入る。
「人間を襲うなんて、お仕置きが必要だな。
相棒、火炎放射だ。」
人間とは隔絶した魔力によって放たれる、竜の炎。
魔獣はその獄炎に焼かれ、火だるまになる。
たった数秒の放射で、6本足の魔獣は動かなくなった。
「食ったらマズそうだな。」
竜騎士ムーラは素直な感想を漏らす。
振り返ると、女性が自分を見上げ、震えている。
怖がる女性には、まず警戒心を解くことが必要だ。
ムーラは、ワイバーンから地面に降り、女性の前に立つ。
戦闘用の金属製ヘルメットを脱ぎ、笑いかけ、手を差し伸べる。
「無事か?ケガは無いな?」
女性は少し固まっている。
命が危なかったのだ、無理もない。
女性はゆっくりと手を出す。
「あ……ありがとうございます。」
彼女は手をとり、ゆっくりと立ち上がり、ムーラを見る。
何故か女性の頬はほのかに赤く、目が潤んでおり、やけに見つめられるが、気にしない事とする。
戦いが終わった後、日本国の自衛隊員たちが、地をかけてやってくる。
この走りにくそうな地面を、重い荷をもって走ってきたにも関わらず、ずいぶんと早い到着。
ムーラはその身体能力に関心する。
「大丈夫ですか?」
「ああ、この女性を襲っていた魔獣はかたづけた。」
ムーラは、黒焦げになった魔獣を指さす。
「……すごいな。」
自衛隊員は、素直な感想を漏らすのだった。
◆◆◆
エネシー視点
私が死を覚悟し、神に祈った時、神様は私に1人の騎士様を遣わしてくださった。
普通の騎士様が現れても私は心を奪われたことだろう。
しかし、私の前に現れた騎士様は、伝説や物語でしか見たことのないドラゴンに乗っていた。
竜の騎士……ドラゴンナイト様。
竜の騎士様はドラゴンを操り、私を襲おうとした強い魔獣をたった1騎で、しかもわずかな時間で滅した。
その御力は人間の力を大きく超えている。
騎士様は私の前に降りてきて、私を想い、声をかけてくださった。
その声は少し低く、包み込まれるようであり、声をかけられただけで、とろけてしまいそう。
しかも頭に装着した防具を脱いだ素顔……イケメン!!
竜の騎士様の差し伸べた手……少しゴツゴツして男らしい。
エネシーはもうあなたのとりこです。
私が想いをもって、竜騎士様を見つめていると、森の先からまだら模様の服を着た汚らしい格好をした男たちが数名やってきた。
その格好は1言で言えば、野蛮であり、「森の蛮族」と命名したほどだった。
「大丈夫ですか?」
私と騎士様に声をかけてくる。
ああ、なるほど、竜騎士様の配下の者か。
しかし、竜騎士様はこんな野蛮な者たちでさえ、嫌がらずに食べさせるために養うなんて、なんと心の広い方なのだろうか。
やがて、きっちりとした服を着た男が一人、息を切らしてやってくる……何者?
まあ良いわ。
私と竜騎士様を神様は引き合わせた。
この運命の出会いの場に、配下の下々の者たちは似つかわしくないが、旅は一人ではできない事も承知している。
まずは、ウィスーク公爵家の娘として、きちんとお礼をしなければ。
エネシーは、ロウリア王国の竜騎士ムーラと、その仲間たちに話始める。
◆◆◆
エネシーは、ムーラを見つめ、話始めた。
その目は何故か潤んでいる。
「あの……竜騎士様、助けていただいて、ありがとうございます。」
上目使い。
「いや、いい。」
短い言葉で伝えるその御姿が……以下略。
エネシーは遅れてきた自衛隊や、外交官たちの方向を向く。
「竜騎士様の配下の方々、私は王国3大諸侯、ウィスーク公爵家の娘、エネシーと言います。
竜騎士様に助けていただいた事を感謝し、是非お礼に家でご一緒にお食事をと思っています。
配下の方々も良ければご一緒にどうぞ。」
「は……配下の方?」
外交官の北村は説明をしようとしたが、女は続ける。
「ここの先を抜けると城門があります。
何処の国の方かは存じませんが、あなた方は私の命の恩人です。
是非いらして下さい。」
北村は、良好なファーストコンタクトにほっとする。
公爵家の娘の命を助けたとあれば、心象も良いだろう。
今回の出来事が切り口となって、外交が良好に推移していく可能性も高い。
エネシーは続ける。
「竜騎士様、お名前をお聞かせください。」
「ああ、ムーラという。」
「ムーラ様、素敵なお名前……。」
エネシーは小さな声でつぶやく。
「私の将来の旦那様にふさわしいお名前。」
つぶやきが聞こえた一同は沈黙する。
「?好意をもってくれるのはうれしいが、私にはつ……。」
「あばびぶばぶぶば!!!」
ムーラの発言を北村が制止する。
北村は、ムーラに小声で話しかける。
『ちょっとムーラさん!!外交の糸口が見えた時にそれをつぶすような真似はやめて下さい!!!』
『いや、しかし私には妻がいるし、きちんと断っておかなければ彼女にも悪い。』
『外交に私情は不要なのです。』
『私は外交官ではありませんよ。』
『ぐっ……!!あなたがもしも、意図的に日本国政府に不利益になる行動をしたら、ロウリア王国にとっても良くない結果になるかもしれません。
ね……ちょっと、公爵と接触するまでの間だけでも良いから、この機会をつぶさないでください。
お願いします。』
ムーラはしぶしぶ応じる。
「やん!好意を持ってくれるのがうれしいだなんて!!」
どうして良いのか解らないムーラをよそに、一行はカルアミーク王国の王都アルクールへ向かうのだった。
◆◆◆
カルアミーク王国 霊峰ルード東側約50km とある遺跡
その遺跡の周辺には、簡易的に作られた人口の集落があった。
森の中に忽然と現れる集落、行きかう人々は皆黒いローブを羽織っている。
その中に、似つかわしくないほどの派手な装飾を施した服を着る男が1人、傍らの魔導師と話をしていた。
「マウリ様、魔炎駆動式戦車が完成いたしました。」
魔導師は、カルアミーク王国三大諸侯、マウリ家の名を出す。
「そうか……して、性能は?」
「人間の放つほとんどの攻撃魔法をはじく事が出来ます。
装甲も、鉄にし、車輪も鉄にしていますので、この魔装炎戦車を止められる者は、この世におりません。」
「ほう……して、遺跡の解析はどこまで進んでいる?」
「正直、高度過ぎて、ほとんど進んではいません。
しかし、わずかに解った情報で作ったものであっても、今回の戦車のような超兵器が生まれます。
手足となって操ることが可能な魔獣の作成も、遺跡の「知」によるものです。」
「魔装炎戦車はそれほどか?ちょっと見てみたいな。」
魔導師は邪悪な笑みを浮かべる。
「そう思いまして、ラーガを捕らえてあります。
中央闘技場で、ラーガと戦車を戦わせてみようと思いますので、是非ご観覧下さい。」
「ラーガ?あの魔法剣士ラーガか?よくあんな化け物を捕らえる事が出来たな。」
「家族を人質にとって、言う事を聞かせました。
どうぞこちらへ。」
王国の3大諸侯、マウリ・ハンマン公爵と魔導師は、集落の中央に設けられた中央闘技場に向かった。
過去に様々な魔獣たちの実験が行われた闘技場、そこは広く、円形であり、実に簡単な作りである。
貴賓席に、マウリ・ハンマンは腰掛ける。
「魔法剣士ラーガの戦いが見られるのは、楽しみだな。」
カルアミーク王国最強の男と言っても過言ではない魔法剣士ラーガ、彼の先祖が過去に遺跡から持ち帰った伝説の剣と鎧を使いこなし、その強さは国民の憧れである。
彼が1人いれば、200人の騎士団がいても勝てないと言われる伝説級の強さを持つ。
「まずは、魔獣を差し向けます。
ラーガの強さも図れますし、魔装炎戦車の圧倒的強さをお見せ出来るでしょう。」
魔導師が合図をすると、1人の男が闘技場に連れ出される。
男は手錠と首輪を取り付けられている。
手錠と首輪が外され、男の前に運ばれてきた箱が置かれる。
「これを開けろ。」
男は箱を開く。
「これは……いいのか?装備品が戻れば、お前たちを殲滅することなど、造作も無い事だ。」
「……それを行えば、お前の家族は死ぬ。
まあ……良かったな。今回の戦いに2回勝てば、お前を自由にし、家族も開放され、さらに一生暮らせる金をやるように言われている。」
「完全装備を行った俺に勝てる者などいない。」
ラーガは、さっさと2回勝ち、家族の安全を確保した後、人質をとるといった行為をした者たちに制裁を加えるつもりでいた。
彼は、自身の装備を装着する。
古より伝わる伝説の魔剣ビルーンを操り、さらに伝説のリーンの鎧を持ち、実装した場合、規格外の強さを持つとされている。
ラーガの準備が整ったころを見計らい、会場にアナウンスが流れる。
「お集まりの皆さま、本日はなんと、あの魔法剣士ラーガの試合を見る事が出来ます。
最初の相手は……。」
太鼓が鳴り始める。
「かなり強力な魔獣、12角獣だ!!!
鋼のような固い毛を持ち、剣をはじく12角獣、倒すなら1個騎士団が必要!!さあどうなる!!!」
「はじめ!」
ラーガのいる場所の対面の扉が開かれ、中からは目の血走った12角獣が姿を現す。
「フシュー……フシュー」
魔獣は明らかに殺気立っている。
ラーガは魔剣を高らかに上げ、魔力を込める。
剣に刻まれた紋章が青く光り、やがてその光は全体を包み込み、一見して剣が青い光をまとったかのようだ。
「ほう……。」
マウリ・ハンマンは初めて見る魔法剣士の戦いに魅入る。
「ギュルアァァァぁ!!」
魔獣はその固い角を突き出し、ラーガに向かい突進を始める。
彼は、ゆっくりと剣を構える。
「はっ!!」
初撃……。
ラーガに接触することが出来なかった魔獣の体は、その勢いを壁にぶつける。
重たい音が、闘技場を揺さぶる。
魔獣は、頭と胴体を切り離され、地面に伏せる。
「た……たったの一太刀で!?」
まさに瞬殺、そのあまりの強さに会場はざわめく。
「おい、例の兵器は本当に大丈夫なのか?あんな化け物でも倒せるのか?」
マウリ・ハンマンは隣の魔導師に話しかける。
「はい、ご心配せずとも結構です。
魔装炎戦車は、動かすために魔導師が4人も必要ですが、その力は圧倒的にございます。」
考え込むマウリ。
「それでは、次の試合です!!!」
先ほどとは別の門から、それは現れる。
現代人が見たならば、それは砲の無いかなり小型の戦車のようにも見えるだろう。
「何と面妖な。」
ラーガは正直な感想を漏らす。
「はじめ!!」
合図と同時に、突然戦車が炎をまとう。
ラーガは、先ほどと同様に、剣に魔力を込める。
「何が出てきたかは知らんが、この魔剣に斬れぬものなど無い!!」
炎をまといし戦車は、ラーガに向かい突進を始める。
その速度は、人が走る速度よりも遥かに速い。
彼は、かろうじて戦車の突進を躱し、魔剣の一撃をたたき込む。
鳴り響く金属音……。
「な……何!?」
魔剣の刃が欠ける。しかし、敵の戦車に傷は無い。
戦車はラーガを通り過ぎるとくるりと向きを変える。
「ヌゥゥゥゥ!!!」
ラーガは唸りはじめ、剣の炎が泡立つ。
「あれは!?」
「おそらく、爆裂魔法を剣の先に集め、貫通力に特化した技、魔突にございます。」
「はぁぁぁぁっ!!」
気合の入った声、ラーガは戦車に向かい走り出す。
「フォォォォォッ!!!」
剣の先端に青い光の玉が輝き、体重を乗せ、神速の突きを繰り出す。
この魔法で増強された突きで、貫けぬものなど無い。
敵戦車に対し、己の磨きあげ続けた技をたたき込む。
爆発……。
土煙があたりを覆う。
「なんて威力だ。最強の戦士の称号は伊達じゃないな。」
会場にいた者たちの、誰もが思う。
勝負は決したと。
「ハァ、ハァ、ハァ。」
ラーガは焦りの表情を浮かべる。
「バ……バカな!!」
土煙が晴れる。
魔法剣士ラーガの一撃を受けた魔装炎戦車は、何事もなかったかのように動き続ける。
「マウリ様、あの戦車はただ動くだけではございませぬ。」
マウリに説明をしていた魔導師が手をあげると、戦車の炎がより一層強くなる。
「いったい……何をするつもりだ!!」
低い音を出しながら、炎を纏った戦車から、球状の炎がラーガに向かい射出される。
「ほう、火炎弾か!」
戦車はおおむね5秒に1回、火炎弾を発射する。
「チッ!」
ラーガは火炎を避け続けるが……。
「はっ!!しまっ!!!!」
火炎を射出しつづけながら、突進した戦車はラーガを轢過する。
彼の体は、人形のように地面を転がる。
沈黙……。
「なんと……あっさりと、あのラーガを倒してしまった。」
凄惨な光景……。
「フ……フハハハハ!!!よくやったぞ!!」
「ハッ!お褒めにあずかり、光栄にございます。
この世に戦車に勝てる者はございません。
今の鉱石量では、20機作るのがやっとではありますが。」
「ほう、あんな化け物が20機も我が手に入るのか!
十分だ。
20機の数が整いしだい、行動に移るぞ。
……イワン候領の街、ワイザーを落とすぞ!!
あそこはたんまりと魔鉱石をため込んでいるようだしな。
王国を我が手に!!!」
マウリ・ハンマンは手を高らかに挙げる。
「マウリ様、ラーガの家族はいかがいたしましょう。」
「ああ、どうせ作成した魔獣のエサにするつもりだったのだろう?好きにいたせ。」
「ははっ!!」
カルアミーク王国の3大諸侯、マウリ・ハンマンは王国転覆の計画を着々と進めるのだった。
◆◆◆
カルアミーク王国 王都アルクール ウィスーク公爵家
いったい何なんだ?
王都3大諸侯の1人、ウィスーク公爵は娘の説明を聞き、頭を抱える。
内容を整理しよう。
○本日、娘エネシーは、私がダメだと言ったにも関わらず、王国の建国祭りの飾
として花を、王都城壁の外側に勝手に取りに行った。
とんでもない問題だ。
○そこで、この付近では活動が確認されていない12角獣と出会う。
命の危険が生じたという事だ。もう護衛をつける以外に外出は認めぬ。
○そこに、颯爽と竜に乗った騎士が現れ、12角獣をあっさりと滅し、エネシーを
助けた。
物語にしてもタイミングが良すぎる。出来すぎだ。
そして……目の前にいる緑のまだら模様をした汚らしい者たち……一言でいえば蛮族。
竜騎士の配下の者らしい。
今、眼前でまともな格好をしているのは2人、娘が自信満々に説明したムーラという竜騎士と、北村という名の異邦人。
話によると、竜は森に置いてきたという。
まあ、娘の命の恩人にきつくは当たれない。
「娘を助けて下さって、ありがとうございます。
お話は中で、食事でもしながらお話しましょう。」
竜騎士とその配下の者を屋敷内に通す。
「エネシー……何だか、変なのを連れてきたな。」
ウィスーク公爵は、あきれ顔でボソリとつぶやくのだった。
食事会~
「……と、いう訳で、その時のムーラ様は強く、素敵でとてもかっこよかったのですわ、お父様!」
「はいはい。」
娘の話を聞き流す。
何をしたのかは知らないが、竜なぞ、本でしか知らない。まして、人が乗れるなど、聞いたことが無い。
胡散臭いな……。
「お父様、聞いてるのですか!?」
「ああ、何だったかな?」
「ムーラ様に、庭のお花畑を見せて差し上げたいのですが、席をはずしてよろしいですか?」
「ああ……良いぞ。」
ムーラとエネシーは席を外す。
「さて……と。」
娘が席を外した事で、こやつらが娘に近づいた意図を探るべく、この者たちに色々と尋ねる事を決める。
今までの経験上、褒美という言葉をちらつかせて尋ねる事が、効果的だ。
「娘を助けてくださって、ありがとうございます。
さて、お礼をしたいと思うのですが、何かほしい物はありますか?」
「物ですか……物は特には必要ありません。」
「ほう……無欲な。しかし、知ってのとおり、私はこう見えても、王国3大諸侯の1人です。
娘の命を助けていただいた恩人に何もしなかったでは、ご先祖様に顔向け出来ません。
そういえば、見慣れない服ですが、どちらの地区のご出身でしょうか?」
「ウィスーク公爵閣下。」
さきほど北村と自己紹介していた者が立ち上がる。
「あらためて、自己紹介させていただきます。
私は日本国政府外務省の北村と申します。
日本国は、この国から南西方向にある島国です。
国交を開設する事を目的として、その事前の接触、ファーストコンタクトをとるために、やって参りました。
もしよろしければ、この国の外交担当部署にご紹介いただければ幸いです。」
ウィスーク公爵は目を見開く。
「……外交担当に取り次ぐ事はできましょう。
しかし、国交がそれで結ばれるかの保証はいたしかねます。
これは、他国を排除しているという意味ではなく、国交開設のため、貴国の出す条件や、貴国がどんな国かを理解しないと無理だろうという意味です。
また、海の先から使節団が来た事例が無いため、失礼ながら、本当にあなた方の言われる国から来たのかの審査もあると思います。」
日本国がどんな国なのか知らず、そしてどんな条件を出てくるのか不明の状況下にあって、それはごく自然の発言だった。
不平等条約を押し付けられたのでは、たまったものではない。
「はい、承知しております。」
「しかし……海の先から使者が来るのは、本当に驚きですな。
ご存知のとおり、この世界は海へ降りるためには崖をくだらなければなりません。
過去に、何とか小舟を作り、崖を降ろして海に調査団が出た事がありました。
が、かなりの距離を走った後、不毛の地で構成された大山脈が現れ、なんとか山を超えましたが、さらに広大な海が広がっていたと……。
海の先に人が住む土地があるかもしれないという指摘はされていましたが、人が外部から来たという公式記録は1度も無く、まして軍を送る事なぞ不可能。
今我々が「世界」と言えば、この島の事を指します。」
「そうですか……我々と国交を結ぶ事が出来れば、その自然の壁を簡単に突破する事が可能になります。
公爵閣下にも、日本の事を知っていただきたいと思います。」
北村は、持ってきたノートパソコンを起動し、ウィスーク公爵の前に置く。
ウィスーク公爵はその画面に魅入るのだった。
その日のウィスーク公爵の日記より
今日、私の世界観が変わった。
何という事だろうか。
今日、私の元に、世界の外から来た人々が訪れた。
しかも、彼らは娘の命を救った。
彼らの国の自己紹介、映像の映る魔法具を見せられたが、その国はあまりにも発展していた。
もしも見せられた映像が真実ならば、王国が千年たっても追いつけないかもしれない。
日本国との外交は、王国が発展するという一点においては、とんでもないチャンスだ。
しかし、日本の出方によっては、王国は存亡の危機にさらされるだろう。
明日、外交局に話を通すつもりだが、私はこれから国に起こるであろう変化を考えると、あまりにも刺激的であり、面白く、そして怖い。
この国はいったい何処に向かうのだろうか。
翌日~
ウィスーク公爵家で1泊させてもらった日本国の外交に関する先遣隊は、カルアミーク王国の外交担当部署、外交局に招かれていた。
王国3大諸侯の一人が同行したため、最速で手続きを経て書類は上に上がる。
手続き中、王への事前報告、いわゆる根回しのため、ウィスーク公爵は席を外す。
担当からは丁重な扱いを受けるが、
「決裁処理に数日かかります。
その後、上の者との面談となりますが、日程が決まり次第ご連絡いたします。」
との事。
それまでの間、日本国の使節団は、ウィスーク公爵の強い希望により、同家で寝泊まりする事になった。
◆◆◆
カルアミーク王国 王国3大諸侯 イワン領 地方都市ワイザー
「くっ……強い!強すぎる!!!」
王国の西部の雄、イワン候の持つ伝統ある鳳凰騎士団は、その戦力の5分の4を失い、壊滅していた。
燃える街。
響き渡る守るべき領民の悲鳴。
そして、街を我が物顔で歩く魔獣たち……。
どうすることも出来ない無力感。
何故、このような強力な魔物たちが出現したのだろうか?
伝統ある鳳凰騎士団が倒した魔物は、グランドマンと呼ばれるトカゲが2足歩行をしたような雑魚の化け物のみ。
「お……おのれ!!」
団長の前には、強力な12角獣と呼ばれる魔獣がいる。
多くの部下がこいつに倒された。
強力な敵ではあるが、せめてこの魔獣1体だけでも倒して一矢報いねば、死んでいった者たちに顔向けできない。
団長は鋼の剣を強く握りこむ。
「うおぉぉぉぉ!!」
気合を入れて剣を振り下ろす。
金属音。
12角獣の体毛が少し切れるが、体には全くダメージが無い。
「はっはっは!!あの伝統ある鳳凰騎士団も、私の魔軍の前ではこんな程度なのか……。
まだ切り札は使っていないのだがな。
どうやら、我が軍は圧倒的に強くなりすぎてしまったようだ。」
騎士団長は声のする方向を見る。
そこには過去、王の式典で貴賓席に座っていた男が一人。
「ま……マウリ・ハンマン様?貴方がどうしてここに!!!」
鎧を装着し、派手な装飾の金属製ヘルメットを被ってはいたが、その男は騎士団長が過去に見たことがある男、マウリ・ハンマン公爵に違いなかった。
「鳳凰騎士団長よ、久しいな。」
「ここは、イワン様の領地、何故あなたが戦場に?」
「なあに、ちょっと強力な配下が出来たものでな。
実験もかねて、遊びに来たのだよ。
ちょっと変わり者の兵が多いがな。」
話はつづく。
「まあ、カルアミーク王国の王が変わるための第1歩、そして王国が世界征服をするための第1歩の歴史の中におまえはいる。
光栄に思いながらあの世に行け。」
いつの間にか魔獣に囲まれる騎士団長、味方はもういない。
「まっ……まさか、王に対する謀反とは!!
何故だ!
王国3大諸侯ほどのあなたが、何故こんな事をする必要がある!!」
「解らぬのか?
この小さな世界に、3つも国が存在する事がそもそも異常なのだ。
私はまず、圧倒的力によって、この世界を統一する。
そして力をつけ、世界の外を目指すのだ。」
「世界の外だと!?そんな……存在するのかも不確定な場所のために……しかもただの実験のために、お前はこんな……こんな悲劇を起こしたというのか!!」
「世界の外はある!!広大な世界がな。
西方向へ行けば、多くの国がある事も解っている。
どんな国かは知らんが、私の軍の圧倒的強さをもってすれば、いかなる国、いかなる軍でも負けぬだろう。
カルアミーク王国は、我が力の傘の下で、今までに無いほどの発展を遂げるだろう。」
「おのれ……!!」
マウリ・ハンマンは近くの魔導師に振り返る。
「こらこら、あまり騎士団長殿を待たしてはいけないよ。
早く、あの世にお見送りしろ。」
魔獣が総攻撃を始める。
何かをかみ砕く音と共に、騎士団長はあの世へ旅立った。
この日、カルアミーク王国の地方都市ワイザーは、王国3大諸侯、マウリ・ハンマンの手の者により焼かれ、灰となった。
この情報は、激震をもって、王都に伝えられ、事態を極めて重く見た国王は、全土に非常事態宣言を引く事になる。




