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列強の落日 2

パーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇族レミールの邸宅


「う……うう!!やめろ!やめろ!!やめろぉぉぉぉ!!!」


 レミールは自室で目を覚ます。

 息は乱れ、体中の汗腺から汗が噴出している。

 ムー国大使との会談の後、何度も見た悪夢、今回も皇国が日本軍によって蹂躙される悪夢を見た。

 自分を処刑しようとする日本人の顔、フェン王国で私の命により殺された者たちの顔だった。


「ちっ!!」


 レミールは再びベッドに倒れこみ、うつ伏せになる。

 自分はやってしまった。

 皇国のためになると思い、仕事に打ち込み、突き進んできた。

 しかし、自分は……結果として皇国の存続さえも危うくなるほどのミスを犯してしまった。


 ムー大使は言った。

○ 日本はムーより遥かに強い。

○ 神聖ミリシアル帝国よりも上である。

○ 皇都が灰燼に帰する可能性もある。

○ 日本の戦闘機は音速を超える。


 信じられない!

 どう考えても信じられない。

 しかし、過去に2度もの日本との戦いでの大敗を見るに、おそらくは……真実。

 音速を超える戦闘機械など、まるで古の魔法帝国……神話の帝国のような装備を持つ国と、現実に戦わなくてはならない。


 レミールは戦いを回避するため、思考を廻らす。

 彼女は独り言をつぶやく。


「属領の献上、いや、領土の割譲……日本は何を望むのか。」


「はっ!!!」


 レミールは朝田大使の言を思い出す。


(フェン王国での虐殺について、犯罪者と関係者の身柄引き渡しを要求する。なお、犯罪者には当然貴女も含み、皇帝も重要参考人となっているため、身柄を引き渡してもらう!!)


「だめだ!だめだ!!絶対にだめだ!!!」


 自分は皇族だ。しかも、世界5列強国の皇族、将来は皇帝ルディアス様に嫁ぎ、皇妃となって、共に世界征服に向かって突き進み、世界の女王となる予定だ!!

 こんな事で、たかが文明圏外の民間人を数百人処分した程度の事で、あきらめてたまるか!!!


「私は、日本には絶対に捉えられんぞ!!!」


 レミールは最後まで生き残る事を決意する。



皇都エストシラント 皇城


 皇帝ルディアスは、第1外務局長エルトからの報告を受けていた。


「以上、ムー国大使の言によれば、目撃された飛行機械は、日本国自ら開発した事が判明いたしました!!

 陛下に今後の方針を仰ぎたく、本日御報告にあがりました。」


 皇帝ルディアスは沈黙する。

 エルトにとっては、なんとも耐え難い時間が流れる。


「エルトよ。」


「ははっ!」


「日本を怖がっておるのか?」


「い……いえ、決してそのような!!ただ、私は真実の報告に参ったまででございます。」


「エルトよ、おぬしは大事な事を3つ忘れている。」


「と、申しますと?」


「1つ目、戦いは攻めるよりも、守るほうがずっと楽に戦えるという事だ。

 過去2回の戦い、1回目は攻める側、そして2回目は、完全な油断からの奇襲だった。

 皇国が本格的に構えるのだ、もう奇襲も通用しないだろう。」


「ははっ!!」


「2つ目、日本は軍備に国内総生産のたった1%前後しか金をかけていないという事実、これではいかなる大国であっても、大した軍は持てまい。

 おそらく日本軍は、兵器に関して質は良くとも、量は少ないだろう。」


「そ……それは、お言葉のとおりと思いますが。」


 それでも我が軍は2回も日本に大敗している!!

 エルトは叫びたかったが、言葉をぐっと飲み込む。


「3つ目、今戦は相手がたとえ神聖ミリシアル帝国であったとしても、超えなければならぬ。

 これは世界を統べるべき皇国に、神が与えた試練だ。

 日本国と戦ったのは、主に海軍であり、陸軍の大部隊は健在、最新兵器があり、錬度も高い皇国陸軍は無傷ではないか!!

 そして、新兵器のワイバーンオーバーロードもまだ戦っていないではないか。」


 話は続く。


「アルタラスに打って出るのは海軍主力だ。

 万が一これが敗れても守りに入った皇国陸軍を倒せる国は、この世には存在しない。」


「おお!!」


 エルトは皇帝ルディアスの言葉に光明を見る。

 確かに、主力のほとんどが健在であり、陸軍主力は1度も日本軍と戦っていない。

 精鋭皇国陸軍が守りに入り、地の利を生かした際の強さは、たとえ神聖ミリシアル帝国を相手にしても、引けをとらないであろう。


「ははーっ!!さすが皇帝陛下にございます!!!」


 第1外務局長エルトは皇帝ルディアスに平伏するのだった。




 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第3外務局長カイオス邸


 第1外務局と、皇族レミールの動きがおかしい。

 ムー国大使との会談後に、変な動きが続いているため、おそらくはムー国から日本の真の姿に関する情報が伝えられたのだろう。

 常識的に考えれば当然の事であるが、大きな動きが無い所を見ると、皇帝ルディアスと皇族レミールは、日本に犯罪者として行く気は無いらしい。


「奴らが行けば、皇国臣民の被害は少なくなるというのに!!」


 カイオスは自室でいらだつ。


「やはり、早期に動くか?……いや、まだ軍の大半が残っている状態でそれを行っても、臣民の支持は得られまい。」


 皇国が少し弱らなければ自分の策は使えない。

 しかし、弱るという事は、守るべき皇国臣民の多数が犠牲になるということ。

 カイオスはその矛盾にいらだつ。

 そして、彼のもう1つの懸念。

 

 もしも、日本が初撃で、皇国が再起不能となるほどのダメージを受けた場合、属国が次々と日本に同調する可能性があり、そうなってしまうと、皇国は国そのものの維持が出来なくなる可能性もある。

彼は焦る。


「どうすれば……どうすれば良い!!」

 

 カイオスは思考を廻らす。


◆◆◆


 アルタラス王国 王都ル・ブリアス


 王城の一室からルミエスは王都を見下ろす。

 何度思い返しても、奇跡としか言いようの無い事態が彼女には起こった。

 彼女は思い帰す。


 パーパルディア皇国の大使は、自分を奴隷身分まで落とし、大使に献上するよう、王である父に迫ると同時に、王国経済の大黒柱である、魔石鉱山シルウトラスを皇国に譲渡するよう指示を出してきた。

 王はこれを拒否し、列強パーパルディア皇国との戦争が始まる。

 アルタラス王国海軍は、パーパルディア皇国軍を前に全滅、そして精強な陸軍も、皇軍を前に全滅してしまう。


 私は父の采配で、商船に扮した船で王国を脱出、食料に不安が出始めた時、ロデニウス大陸北側で、日本の船に助けられ、私は日本に身を寄せる。


 日本は凄かった。


 天を貫く高層ビル群、鉄道と呼ばれる大規模流通システム、そして夜も明るい街。

 おとぎ話の中にいるようだった。


 しかし、パーパルディア皇国は、東の果てであるこの国にも魔の手を伸ばし、フェン王国で、皇国軍に日本人観光客が殺されてしまう。


 ここで、パーパルディア皇国は日本国の逆鱗に触れる。


 アルタラス王国を滅ぼしたパーパルディア皇国軍は、日本国の自衛隊と呼ばれる軍を前に全滅、信じられない事に、日本側の被害は1人もいなかったという。


 ニュースを聞いたとき、私は神に祈った。日本と同盟を結び、アルタラス王国から皇軍を追い出すという奇跡を夢見た。

 しかし、日本国はアルタラス王国との安全保障条約を、国内の憲法を理由に蹴ってしまう。

 

 絶望した。


 この宣告を受けた時、私はその場で泣き崩れそうになった。

 しかし、彼らは対案を示す。

 アルタラス王国内の皇軍が、日本に攻め込むかもしれないといった暴論だった。

 後日、日本はアルタラス王国内の皇国軍を駆逐して、私は今ここにいる。

 そして……。


 王女ルミエスは上空を見上げる。

 美しく、白く塗られ、白地に赤丸のマークが描かれた大きい飛行機が多数、上空を通過していく。

 飛行機械の吼える音、(ターボフロップ)の轟音は力強く、そして飛び去っていく量は圧巻の一言。

 悪魔のような国パーパルディア皇国、そして魔を滅するために飛び去る太陽の軍、彼らはついに皇国本土への攻撃を行う。

 皇国にとっては、破滅の行軍。

 王女ルミエス、そしてアルタラス王国国民は、日本国海上自衛隊、P3Cの大編隊を、特別な感情をもって見守るのだった。


◆◆◆


 早朝

 透き通るような青い空、空気は澄んでおり、涼しい風が吹く。

 僅かに明るくなり、遠くまで見通せる空。


 皇都エストシラント南方約300km上空で、空気を裂き、それは付近を旋回する。

 飛行機の上には大きな円盤状の物体が取り付けられ、ゆっくりと回転している。

 目視ではとても確認できないほどの、遥か遠くを見通せる目、航空自衛隊のE767早期警戒機(AWACS)は皇都上空を監視していた。

 E767早期警戒機(AWACS)の上にある円盤状のレーダー(AN/APY-2)は、1分間に6回転し、内部の3次元レーダーは、高度9000mで半径800kmの空域をカバーする。

 

 同機のレーダーには、皇都の南側上空に20機近い飛行物体を捉えており、戦闘空域の情報は、リアルタイムで本作戦の参加機に伝えられる。


 早期警戒機の北側約100kmの空には、矢のような形をした航空機、空を制するために作られた日本の制空戦闘機F15J改10機が先行する。

 F15J改の後方約50kmには無誘導の爆弾を満載したF2戦闘機が20機、亜音速で皇都北方の陸軍基地に向かい飛行する。


 皇国に初撃を与えるためにF15J改は向かう。

 同機の主翼翼端では、気圧差により主翼下部から上部に空気が回りこみ、白い航跡を引く。


 F15J改には、E767早期警戒機(AWACS)で得られた戦闘空域の情報が、リアルタイムで伝えられ情報を共有している。

 皇都エストシラント南方上空には、敵航空戦力が20機近く飛び、警戒している。


(警戒だけで、これほどの量を常に飛ばしているとは……。)


 パイロットは、皇国の国力に少し呆れながらも仕事は確実に行う。

 敵との距離が100kmをきる。

 一斉指令の無線が、はっきりと聞こえるように繰り返し流れる。


「攻撃を開始セヨ」


 10機のF15J改に取り付けてある99式空対空誘導弾(AAM-4)の固体燃料に火が灯る。

 射程100km以上にも及ぶミサイル(中距離空対空誘導弾)は、マッハ4以上の速度で、皇都南方上空を飛行するワイバーンオーバーロードを滅するため、轟音と共に飛び去っていった。


◆◆◆


 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 南方空域


 第18竜騎士団第2中隊のワイバーンオーバーロード20機は、皇都エストシラントの少し南方に位置する空域を、警戒飛行中だった。

 中隊長デリウスは、中隊1のベテラン騎士、プカレートに魔信で話しかける。


「もう少しあちらの海域も警戒しましょう。」


「そうですね。」


 ワイバーンオーバーロードの編隊は、一糸乱れぬ動きで、錬度の高さが伺える。


「中隊長殿、敵についてなのですが……。」


「何でしょうか?」


「数日前の通達文のとおりであれば、日本はムー国の飛行機械で戦いに来るでしょう。

 しかし、それにしては、先の2回の戦いで、我が方の被害が大きすぎるような気がするのです。

 軍の上層部に今の疑問を呈しても、言葉の歯切れが悪くなった後、通達文のとおりとしか言わない。

 中隊長はどうお考えか?」


 皇国上層部は、軍の士気の大幅低下を恐れ、一部の幹部を除き、日本に関する情報を遮断していた。


「たしかに、今回の戦いについて、上層部は何を聞いても歯切れが悪い。

 何かを隠しているようにも見えたが、何かは解りません。

 しかし、ムー以上の敵って、何が考え付きますか?」


「古の魔法帝国か、神聖ミリシアル帝国、まあ無いですな。」


「ところで……。」


「何だ!!!あれは!!!!」


 目の良い部下の一言で、会話は途切れる。

 各竜騎士は、何かを発見した竜騎士の指差す方向を注視する。

 透き通るような青い空に、数点の斑点が見える。

 綺麗な写真に落とされた汚れのような斑点は、徐々に大きくなり、それが飛行物体である事を認識する。


「は……速い!!回避セヨ!!!」


 常軌を逸した速度で竜騎士隊に向かってくる「それ」を見たデリウスの本能は危険信号を全力で鳴らす。

 散開したワイバーンオーバーロード竜騎士隊、しかし「それ」も向きを変え、彼らに迫る。


「そ……そんな!!!」


 ミサイルは、先端から斜め後方に向かい、衝撃波をまといながら、竜と呼ばれる異世界の生物に向かう。

 同衝撃波境界層では、空気が粘性発熱を起こし、高温となる。


 航空自衛隊の制空戦闘機F15J改から発射された99式空対空誘導弾20発は、1発も外れる事無く、皇都エストシラント南方空域を警戒中の第18竜騎士団第2中隊のワイバーンオーバーロード20騎に命中した。


 ドドドンドーンドンドーン!!!


 声を発する間もなく、絶命する竜騎士、そして列強となった後、1度として本土が戦場となる事は無かったパーパルディア皇国。

 皇都エストシラント全域に、確実に平時とは違う不気味な炸裂音が鳴り響く。


 ある者にとっては、恐怖。そしてある者にとっては破滅の目覚まし時計となった、空対空ミサイルの炸裂音、すでに目を覚ましており、上空を見上げた皇国臣民は、信じられない光景を目にする。


 列強たるパーパルディア皇国、そしてその中でも最強の皇都防衛軍、その最強なはずのワイバーンが雨のように上から降ってくる。

 ある者は、ワイバーンの首、胴体、足、羽等のパーツとなり、ある者は胴体から上の無い状態、そして人の原型を留めたもの、多数の肉と血が落ちていく。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 皇都エストシラントの様々な場所から、その凄惨な光景に耐え切れなくなった女性の悲鳴が上がる。

 住民はざわつき、様々な建物の扉や窓が開く。

 彼らが上空を見上げた時、矢のような形の何かが10機、見た事も無い高速で、上空を通過する。

 その物体からは、2本の炎が後方に向かい、噴出している。

 

 直後、耳を覆いたくなるような轟音が鳴り響く。

 物体の通過した近くの建物では、その衝撃波により、窓ガラスが全て割れる。


 恐怖。


「何だ!何だ!!何が起こっているんだ!!!」


 住民が恐怖に怯える中、F15J改の起こした衝撃波音は、皇都エストシラントにこだまする。


◆◆◆


 皇都エストシラント北方陸軍基地


 装飾が施された豪華な石作りの建物の1階で、女性魔信技術士のパイは、魔力探知レーダーを確認していた。

 ワイバーン等の空を飛べる高魔力生物は、その存在そのものから、人間とは比較にならない魔力があふれ出ている。

 その魔力を探知出来るように作られたのが、魔力探知レーダーであり、これは対空のみではなく、対地としても有効に機能する。


 上空に関して、現在レーダーには友軍の騎影しか表示されておらず、付近上空にも高魔力生物は確認できない。


「ん?何かしら?」


 レーダー画面の変化にパイは気付く。

 今まで綺麗に隊列を組み、飛行していた友軍のワイバーンの動きが乱れ始める。

 パイが上司に報告しようと思ったその時、レーダー上に写されていた友軍の点20騎が大きく光り、画面から消えた。


 その現象が意味する事……撃墜!!!


 パイはすぐに隣に置いてある魔信機に向かって叫ぶ。


「緊急事態発生!緊急事態発生!!皇都南方空域を警戒中の第18竜騎士団第2中隊20騎がレーダーから消えた。

 撃墜された可能性大!!

 待機中の第3中隊にあっては、緊急離陸を実施し、皇都上空の警戒に当たれ!

 なお、レーダーに敵機影は確認出来ず。

 飛行機械の可能性大!!」


 パイが指令した直後、陸軍基地に連続した炸裂音がこだまする。

 異常事態の発生は、この炸裂音により、すべての者が認識するに至った。


「20騎すべての反応が消えただと!?」


 パイの上司が血相を変えて、画面の前に来る。


「はい、短時間に次から次へと、連続して反応が消失しました!!!」


「20騎!20騎もだぞ!!!警戒隊としての数は申し分無い量であり、しかも世界最強のワイバーンオーバーロードだぞ!!!

 そんな短期間でやられてたまるか!!!」


「しかし、事実です!ものの20秒もかからずに消えました!!」


「故障ではないのか?」


「ありえません!!」


「くっ!!我々はいったい何と戦っているんだ!!!」


 レーダー室でそんな会話がされる中、指令を受けた第3中隊は滑走路から離陸しようとしていた。


「第2中隊がやられただと!?ちくしょう!!油断した第2中隊を殺ったところで、いい気になるなよ!!!!」


 翼を広げ、ワイバーンオーバーロードは離陸するために走り出す。

 今回は緊急のため、縦1列に連続して走る。


「敵接近!!!」


 誰かが魔信で叫ぶ。騎士は空を見上げる。


「なっ!!!」


 連続した爆発音、F15J改の放った短距離空対空誘導弾(AAM-5)は離陸滑走中の竜騎士団に襲いかかった。


◆◆◆


 パーパルディア皇国皇都防衛軍陸将メイガは、不気味な炸裂音がした後、窓の外を眺める。

 部下がノックも無く、部屋に転がり込んでくる。


「メイガ様!!第18竜騎士団第2中隊のレーダー上の反応が消えました!!

 至急作戦室にお願いします!!!」


「解った。」


 陸将メイガは、小走りで隣の作戦室に移動する。

 移動後、すぐに部下が報告に来る。


「先ほどエストシラント南方空域を警戒中の第2中隊がレーダー上から消えました。

 同レーダーでは、反応が消える直前にレーダー上の光点が大きく光っており、撃墜された可能性が高いため、現在第3中隊を緊急離陸させています。」


 部下は、窓の外を指差す。

 指示された先の滑走路では、第3中隊のワイバーンオーバーロードが離陸するため、滑走を開始していた。


「敵は……どの程度の強さがあるのか……。」


 メイガはつぶやく。


「あれは何だ!!」


 誰かが叫ぶ。

 次の瞬間、飛翔してきた多数の光の矢が、離陸滑走中の竜騎士隊に襲い掛かる。

 光の矢は、ただの1発も外れる事無く、第3中隊の竜騎士に着弾し、彼らは陸将メイガの眼前で爆音と共に、肉片となる。


「!!!」


 声の出ないほどの驚愕、直後に後方から炎を2本噴出しながら、飛行機械が猛烈な速度で通過する。

 

 衝撃波……。


 およそ10機の飛行機械は、急上昇をはじめ、信じられない上昇力で空に消える。


 ウゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーー!!!!


 基地全体に、緊急時のみ使用が許される最大級の警戒アラームが鳴り響き、基地内の人間は、慌しく動き始める。


「早急に戦闘態勢に移行しろ!!!竜騎士隊で、上がれる者はすべて上がれ!!!」


 陸将メイガは吼える。




 皇都エストシラント

 皇国臣民たちは、先ほどの爆発について、話をしていた。


「今のは何だったんだ?」


「南の方角で、竜騎士がやられているのを見た!!少なくとも、味方でない何かが皇国を攻撃しようとしている!!!」


「いったい何処だ?戦争中の日本か?」


「馬鹿な!!文明圏外の蛮国がいくら背伸びをしたところで、列強であり、第3文明圏最強のパーパルディア皇国の、しかも皇都に攻撃など、無理に決まっている!!」


「では、いったい何処が?」


「他の列強か、……まさかとは思うが、古の魔法帝国だったりしてな。」


「そんな馬鹿な事が……。」


 住民たちの会話は、突如として現れた轟音によってかき消される。

 地上高50m付近といった、超低空を、爆弾を主翼と胴体に抱えたF2戦闘機が20機、亜音速で通過する。


「なななな……何だ!!!」


 腰を抜かして動けなくなる者、逃げ惑う者、混沌とした状況がそこに生まれる。

 皇都上空に低空侵入してきたF2戦闘機は、上昇に転じ、上昇しながら爆弾を投下する。

 放物線を描きながら、無誘導の爆弾は飛翔する。


 ヒュゥゥゥゥゥヒュゥゥゥゥ……!!!


 かん高い風きり音が多数こだまする。

 聞いた事の無い音、それを聞いた人間たちの本能は全力で警笛をならす。

 

 爆弾を投下したF2戦闘機は、後方から太い炎を1本噴出しながら、雷鳴のような轟きと共に、上空へ消えていった。



 皇都北側 陸軍基地


 ヒュゥゥゥゥヒュゥゥゥヒュゥゥ!!!!


「何だ!!!何の音だ!!!」


 聞いた事の無い不気味な音が鳴り響き、陸将メイガは吼える。

 音源は1つや2つではなく、多数の音源がある。

 

 メイガは窓の外を見る。

 次の瞬間。


 猛烈な光……。

 光の連続……。

 耳を劈く爆音……。


 F2戦闘機から投射された爆弾は、攻撃目標から誤差数十メートルで、ワイバーン用の滑走路に着弾した。

 

 連続して猛烈な爆発が起こる。

 陸将メイガの眼前の窓ガラスは、爆発の衝撃で四散し、ガラスの破片が陸将メイガの目に突き刺さる。


「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!目がー!!!目がぁー!!!!」


 彼は目を押さえ、その激痛からその場を転げまわる。

 メイガは、痛みのあまり、1度は我を失ったが、気力をもって我に帰る。


「状況は!!!状況はどうなっている!!!!」


 陸将の目からは血が流れ、視力を失っているのが見て取れる。

 彼は指揮能力を失ってはいなかった。


「今の爆発は、空中から投下された爆弾だと思われます。

 現在滑走路が爆炎に包まれており、被害状況を視認できません。」


 幹部はメイガの問いに返答する。


「空から爆弾を投下だと!?なんて威力だ……しかし、とんでもない事を!!!」


 パーパルディア皇国には、爆弾は存在するが、ワイバーンに搭載出来る爆弾は無い。

 飛竜は重たい物を持つと、飛べなくなってしまうため、上空から打ち下ろす導力火炎弾といった支援火力はあるが、空から爆撃するといった事例が無く、その場にいた全員が衝撃を受ける。


「煙が晴れます。」


 そよ風が吹き、煙が晴れてくる。


「なっ!!!こ……これでは!!!」


「どうした!?何が見えている!!!」


 彼らの前に、月面のように穴だらけとなり、絶対使用不可能となった滑走路だったものが姿を現す。


「か……滑走路をやられました。これでは他の竜騎士は離陸出来ません!!」


 悲鳴のような報告。

 メイガはそれを聞き、絶望に包まれる。


「そ……それでは!!!皇都上空はどうする!!!何か方法は無いのか!?」


「ありません。ワイバーンオーバーロードの数はそろっていますが、離陸出来なければ意味がありません。

 少なくとも現時点において、我々は皇都上空の制空権を失いました。」


 陸将メイガ他、幹部全員の心を絶望が支配した。


◆◆◆


 皇都エストシラント


「おい!見ろ!!!」


 興奮した臣民が北方向を指差す。

 言われるまでも無く、住民たちは、猛烈な爆発音がした方向をすでに見ている。

 見た事も無いほどの大きな爆煙が陸軍基地から上がっている。

 汗が吹き出る……言葉が出ない。


 あまりの光景に、泣き出す女性もいる。

 しかし、彼らに更なる恐怖が聞こえる。


 ヴゥゥゥゥゥゥゥ


 何処からだろうか?うなるような重低音が多数聞こえてくる。


「いったい次は、何なんだ!!!」


「あそこだ!あそこ!!」


 目の良い者が、南の空を指差す。


「なっ!!!」


「いやぁぁぁぁぁ!!!」


 先ほどとは、比べ物にならない量、白く大きな機体が多数、上空から侵入してくる。

 白い機体は、後方に白い雲を引き、その機体から発せられているであろう重低音が、皇国臣民の恐怖をかき立てる。

 先ほどからとてつもなく速い機体を見た皇国臣民にとって、上空を侵入してくるそれは、ひどくゆっくりに見える。

 そのゆっくりとした行軍、飛行機の大きさ、そして量が皇国臣民にさらなる恐怖をもたらす。


「あれは!!まさか竜か!!!?」


 F15J改8機の護衛を伴い、P3C爆撃編隊は皇都上空を通過する。

 総数70機にも及ぶP3C爆撃編隊の後方からは、1機1機が雲を引き、多数の飛行機雲

は皇国上空の空の様子を変える。

 パーパルディア皇国に、彼らを防ぐ手段は全く無い。

 皇国臣民は自らをも破滅に導く行軍を、なす術も無く見つめる。





「間もなく目標投下地点に達します。」


 眼下には異世界の地、栄えた都市が見える。

 覇権主義を抱え、驕り高ぶった文明。

 日本に対し、民間人を含む全てを殲滅すると宣言してきた国、容赦する必要は無い。

 しかし、まさか哨戒が主だった任務である自分たちが、爆撃をする事になるとは思わなかった。


「3.2.1.投下!!!」


 日本国海上自衛隊のP3C爆撃編隊は、爆弾の投下地点まで、予定どおりに到着、殲滅目標である皇都北側の陸軍基地に対し、多数の無誘導爆弾を投下した。




「敵が!!敵が侵入してくるぞ!!!」


 皇都防衛隊の幹部が叫ぶ。

 滑走路が破壊され、多数のワイバーンオーバーロードは地上にいる。

 敵の高度まで届く武器は無く、現時点出来る事は無い。


「デカイ飛行機械を送り込んできやがったか!!しかも、量が多いぞ!!!」


「奴らは一体何をするつもりなんだ!!!」


 基地にいる多くの者が上を見上げる。


「ん!!?」


「あっあれは!!!」


「何か黒い物を落としたぞ!!」


 ヒュゥゥゥゥヒュゥゥヒュゥゥゥ……


 先ほど、滑走路を猛烈な爆発で破壊した時に使用された兵器の音がする。


 ヒュゥゥゥゥヒュゥゥヒュゥゥゥ……


 先ほどよりも、遥かに音の数が多い。


 ヒュゥゥゥゥヒュゥゥヒュゥゥゥ……


 空を見上げる者の目が見開かれる。

 何十機もの敵機から、非常に多くの黒い物体が連続して投下される。


 ヒュゥゥゥゥヒュゥゥヒュゥゥゥ……


 音の量は加速度的に増え続ける。


「先ほどの高威力爆弾!!!!」


「爆弾の雨がくるぞ!!!!」


「退避――!!!退避―――!!!」


「くそ!!量が多すぎる、何処に逃げろというんだ!!!」


 パニック状態となる基地、しかし、爆弾は彼らが非難するまで待ってはくれなかった。

 

 連続する炸裂音。

 猛烈な光。

 建物の何十倍もの高さまで吹き上がる爆炎。

 

 基地全体が爆煙に包まれる。

 しかし、爆発はまだ続く。

 表面を舐めるように、繰り返し爆炎は吹きすさぶ。


 爆弾の投下を終えたP3C爆撃編隊は、上空で旋回し、南方へ飛び去っていった。



 

 航空自衛隊の偵察機RF4Eは、今回の攻撃に関する効果測定のため、皇都北方の陸軍基地上空に向かい、飛行していた。

 陸上基地の破壊状況が不足していた場合は、第2次攻撃を要請する。


 偵察機は高空から基地の状況を確認する。

 カメラに写る状況、そこに構造物は無く、昔基地だった場所には多数のクレーターが存在するのみ、動くものの気配すら微塵も無い。

 基地だった場所と、その周辺区域ですら構造物は確認できない。


「敵基地の殲滅を確認、第2次攻撃の必要無し。」

 

 偵察機は無線で第1報を送り、アルタラス王国の基地へ飛び去った。


 パーパルディア皇国、皇都防衛隊の大規模陸軍基地は、日本国航空自衛隊のF2戦闘機により滑走路を破壊され、海上自衛隊のP3C爆撃隊の猛爆撃によって、原型を留めずに全滅、この世から姿を消した。


◆◆◆


 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 南方海上


 それは、波を裂き、突き進む。

 2列に並んだ金属で出来た船、総数20隻は、航跡を引きながら北へ向かう。

 日本国海上自衛隊の艦隊は、パーパルディア皇国海軍主力を滅するため、皇都エストシラントの南方にある大規模な港へ突き進むのだった。




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― 新着の感想 ―
爆撃用照準器とかの開発製造は在日米軍が協力しているんでしょうね。 在日米軍も何時までも居候の身ではいられないし。
爆撃用照準器ってあらたに開発したのかな?さすがにリアル空自には無いからな。
第三局長がクーデター起こすかな?
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