アルタラスの戦い
少し長めです。
◆◆◆
アルタラスの戦い
アルタラス王国 首都ル・ブリアス
「やめて下さい!!!娘は関係ありません!!!」
「何をいうか!!お前の娘には、反政府組織の疑いがかけられている!無罪かどうかは、皇国のアルタラス統治機構でしっかりと取調べを行えば解る事だ!!!」
「しっしかし!!!あなた方統治機構は王都で若くて顔の良い女ばかりを連れて行くではありませんか!!!そのどれもが反政府の疑いで処刑されている!!!すべてが有罪なはずがない!!」
「なんだと!それだけ皇国の情報収集能力が優秀なだけではないか!!!どけ!!」
「お止め下さい!!!!」
パーパルディア皇国アルタラス統治機構の職員が、今日も若い娘に対し、反政府組織の嫌疑をかけ、連れて行こうとする。
アルタラス王国が皇国との戦争に負け、町では見慣れたいつもの光景。
父親は、娘を連れていかれまいと、必死に職員に食い下がる。
皇国職員は、その父親の頭にこん棒を、殺意を込めて振り下ろす。
娘の父親はこの棒で殴られ、頭から流血し、その場に倒れこむ。
「いや!!お父さん!!!イヤァァァァ」
娘はアルタラス統治機構に連れて行かれた。
今まで統治機構に連れて行かれた女で、生きて帰ってきた者はいない。
全く反政府組織に関係が無いのは明らかであるが、正義の名の元に処刑されている。
アルタラス王国、王都ル・ブリアスでは、アルタラス王国統治機構の統治長官シュサクが変態であり、若い女ばかりを狙い、連れて行き、散々もてあそんだ後に口封じとして殺しているという噂が流れていた。
そして、その噂は真実だった。
統治機構の職員も、自由に町を歩き、美人に声をかける。
美人が肉体関係を拒みそうになると、
「ほう、お前たちの家族は反政府組織かもしれないな……。」
この一言で黙らせ、言いなりにさせる。
金がほしくなると、金のありそうな家に行き、一言で金を出させる。
屈辱的な統治、これが現在のアルタラス王国の現状であった。
アルタラス王国の反皇国の地下組織、軍長ライアルは私服で重要地点の見回りをしていた。
王女ルミエスの言った王国解放のための準備を信じて必死で重要拠点の警備状況を把握する。
今日も、死にそうなほどに親が殴られ、涙を流す娘が連れて行かれる光景を見た。
軍長ライアルは、元王国第1騎師団長といった肩書きを持っており、正義感が非常に強い彼にとって、眼前の光景を見てみぬふりをしなければならないのは、相当に屈辱的だった。
しかし、自分が捕まれば、王女の言った解放の時に、指揮をまともにとれる者がいなくなってしまう。
命をかけて救おうかとも考えた。
しかし、王国の未来を考えると、自分の指揮能力は絶対に必要なもの。
彼の心は泣いていた。
ライアルは、一通り重要拠点を回ると、その時の警備員の配置箇所を忘れないうちに、地下組織に帰宅する。
「ちくしょう!!!今日も胸糞悪いものを見た。皇国の糞ども!!タダではすまさんぞ!!!」
ライアルは、音が漏れないよう、静かに怒る。
「どうしました!?」
地下組織員が話しかけてくる。
「今日も、統治機構に連れていかれる娘を見た。
早くパーパルディアの糞どもから王国を取り戻したいものだ。ルミエス様は、日本との交渉に成功したのだろうか?」
「その件ですが、ちょっと良いニュースがありますよ。」
軍長ライアルは、報告を聞き、興奮する。
先日、ロデニウス大陸の方向から強い魔信が発信された。
通常の国がそれを傍受した場合、何を言っているのか良く解らないだろう。
しかし、アルタラス王国の者たちにとってそれは強烈な意味を持つ内容だった。
「長い夜にも必ず朝は来る。東方より日はまた昇る。
苦しみの期間が長いほど、太陽はより輝く。
良運はタスの日」
一見何かの詩のようにも見える。
しかし、これを最初に考えた者は、アルタラス王国の歴史の中で『奇跡の勝利』と言われる戦いを行い、侵略軍を退けた救国の英雄が詠んだものである。
そして、『良運はタスの日』これは1週間後だ!!!
「各部隊に伝達しておけ、1週間後以降、すぐにでも戦える準備をしておくようにと!」
「はい!!!」
通信員は通信室にこもり、アルタラス王国内に点在する反パーパルディア組織に対し、秘匿用暗号を使用した魔信伝達を開始した。
◆◆◆
1週間後、アルタラス王国首都ル・ブリアス北東上空~
パーパルディア皇国、アルタラス王国派遣部隊所属の竜騎士アビスは、王国北東の哨戒任務に就いていた。
晴れわたった空、澄みきった空、少し肌寒い風を受けながら、彼は愛機のワイバーンロードを飛ばす。
島国だったアルタラスはすでに皇国の支配下となり、目立った反乱も無い。
北に500kmほどで祖国があり、南は海を挟んで文明レベルの低い蛮地、東南東にはロデニウス大陸となっており、旧ロウリア王国のように、覇権主義の国は付近に無い。
アルタラス王国の北東には海上に30門及び50門級戦列艦隊に約5隻の艦がいる。
パーパルディア皇国は、他国との戦闘状態である事が多く、基本的には平常時も有事も、軍の動きに大差は無い。
現在は、フェン王国、そして日本国と戦争を行っているようだが、遠くでの出来事であり、いつものように今日の任務も終わる。
アビスはそう思っていた。
雲の切れ間、眼下に見慣れない物体が見える。
彼の視界に写ったのは、皇国の戦列艦よりも遥かに大きく、灰色に塗られた艦隊。
「まっまさか!!」
彼は魔信具に手をかけ、報告しようとする。
チカッ!
1隻の船の前方が光る。
次の瞬間、竜騎士アビスの意識は消し飛び、彼の報告がパーパルディア皇国軍アルタラス王国派遣部隊に届く事は無かった。
日本国海上自衛隊第2護衛隊群のイージス艦きりしまは、ワイバーンがパーパルディア皇国の者かの確認の後、127mm単装速射砲により、ワイバーンロードを撃墜した。
砲の直撃を受けたワイバーンは、それに騎乗した人員と共に、肉片を撒き散らしながら空から降る。
竜騎士アビスは、後にアルタラスの戦いと呼ばれた戦いの最初の犠牲者になった。
パーパルディア皇国アルタラス王国派遣部隊の戦列艦5隻は付近近海を哨戒活動中だった。
艦長ダーズは通信員に尋ねる。
先ほど哨戒中の竜騎士が、何かを言いかけ、通信が途切れている。
魔力探知レーダーからも反応が消えた。
竜騎士の消息を絶った場所は現在の艦の位置から近く、緊張が走る。
「艦影確認!!こちらに向かってくる。」
水平線に城のような船が見え始める。
国籍不明船は、艦長ダーズの常識からかけ離れた船速でこちらに向かってくる。
「総員、戦闘配置に就け!」
パーパルディア皇国の軍船が戦闘態勢に移行する。
「あ……あの旗は、敵船は日本国!敵船は日本国の国旗を掲げている!!」
「なんだと!?奴らの国から遠すぎる……。では、至急魔伝で報……」
「敵艦発砲!」
敵艦前方から煙が上がる。
「そんな、遠すぎるぞ!!」
話している間も、敵艦に煙が上がる。
その数5発。
艦長ダーズは、乗船する艦が僅かに揺れ動いたように感じた。
次の瞬間、ダーズの乗艦する50門級戦列艦は大きな火柱と共に、海上から消えた。
護衛艦たかなみの放った5発の砲弾は、パーパルディア皇国戦列艦の対魔弾鉄鋼式装甲をあっさりと貫き、弾薬室で爆発、海上の5隻は木っ端微塵に粉砕され、その姿を消した。
◆◆◆
パーパルディア皇国 アルタラス王国派遣部隊
アルタラス王国を攻めていた皇軍は、王国を占領後、東を攻めるために転進した。
武装解除され、時々起こる小規模な反乱を鎮圧、統治するためだけの小規模の軍が残されている。
首都ル・ブリアスの軍港には戦列艦20隻、そして少し離れた所に陸軍の基地、人員2千名とワイバーンロード20騎、そして首都から北へ約40kmの位置に人員2千名の陸軍基地がある。
陸軍大将リージャックは首都ル・ブリアスを基地から眺めていた。
傍らに立つ幹部と話をする。
「東の国、フェン王国に派遣していた我が軍は、全滅に近い被害を出したらしいな。
いったい何があったのだろうか?」
「解りませぬ。皇軍が敗れたなど、今でも信じられません。
敵は何千隻もの『数』で攻撃してきたのではないですか?」
「いや、たとえ文明圏の国が何千隻で、今回全滅した派遣軍にかかって行ったとしても、多少の被害と作戦の遅延は予想されるが、全滅はしない。
今回の戦い、何かがおかしい。」
「まさか……。」
大将リージャックの顔が悲壮感に包まれる。
「まさか、ムーか?」
「そ……そんな!」
最悪の状況が脳裏に浮かび、大将幹部は戦慄する。
「いや、まさかな。いずれにせよ、アルタラスは比較的本国からも近く、フェン王国からは遠い。敵がここに来る可能性は低かろう。」
2人は基地に設置された建物の上から港を見る。
見る者に威圧感を与える皇国の100門級戦列艦が誇らしげに停泊している。
実に計20隻、通常国と比べ、比類なき強さを誇る艦。
「美しいな。」
陸軍大将リージャックは、艦に対し、素直な感想を述べる。
「ん!?」
美しく、穏やかな風景、その風景は突如一変する。
眼前の100門級戦列艦スパールの艦底が少し動いたように見えた。
次の瞬間、100門級戦列艦スパールは大きな火柱を上げ、艦を構成する部材と船員を巻き込みながら轟音と共に真っ二つに折れて港の底に沈む。
「何だ?事故か!?」
スパールの隣に停泊していた80門級戦列艦も、スパールと同じ運命をたどり、彼は理解する。
「て……敵襲!!敵襲!!!!」
港に停泊中の戦列艦は1隻、また1隻と失われていく。
首都近郊の陸軍に敵襲の情報がいきわたり、戦いの準備を始めた頃にはすでに、港の船は全滅していた。
「な……なんという事だ!!」
陸軍は末端まで含め、全員が唖然とする。
何が起こっているのかが解らない。
しかし、悲劇は彼らだけを見逃してはくれなかった。
基地の中心部が猛烈な火炎に包まれ、少し遅れて衝撃波がリージャックを襲う。
彼は無様に転げまわる。
空を見上げる。
爆音と共に、考えられないくらいの速度で彼の上空を飛行機械が飛び去っていく。
その機体に描かれた日本の国旗を彼は見る。
「通信兵!!日本の飛行機械に襲撃を受けていると本国に伝えろ!!」
「はっ!!!」
通信兵は魔信器に向かい、走る。
彼がパーパルディア本国に魔信を送信した次の瞬間、基地にいた者たちは、猛烈な光と共にこの世を去った。
アルタラス王国の首都ル・ブリアスの港に停泊していたパーパルディア皇国の戦列艦隊は、日本国海上自衛隊第2護衛隊群の砲撃により、全て撃沈された。
又、ロデニウス大陸のクワ・トイネ公国より飛び立ったF-2戦闘機の空爆により、首都ル・ブリアスの近郊の基地及び、首都から北に40km地点にあったパーパルディア皇国の基地はほぼ無力化された。
攻撃の開始から20分以内に、アルタラス王国内のパーパルディア皇国軍は、その機能のほぼ全てを失った。
作戦を終えた護衛艦及び航空機は1機の損失も出す事無く、帰路についた。
◆◆◆
けたたましく鐘が鳴り響く。
艦の上では、兵員が慌しく動き回る。
「いったい何だろうな。」
竜騎士デニスは同僚の竜騎士ジオに話しかける。
彼らは新型竜母の試験航行で、アルタラス王国西側約240km地点の海上にいた。
「全員最上甲板に集まれ!!」
指示が伝達される。
パーパルディア皇国最新型(試験中)竜母パルキマイラ、通常の竜母よりも滑走路が長く造られている。
日本は、アルタラス王国攻撃に先立ち、各国への戦闘地域への立ち入り制限の報告が送れたため、王国周辺には、他国の大型商船も多数存在し、また、ワイバーンロードの航続距離から王国への発進は不可能とされ、レーダー上の物体が例え竜母であっても問題ないと判断、この最新型竜母は攻撃対象から外れていた。
空の覇者とも言われたワイバーン、それを品種改良し、生殖機能を失ってまで空戦能力を高めた種、ワイバーンロード。
長く空の覇者として君臨し続けていたが、第2文明圏の列強ムーが飛行機と呼ばれる機械を作り、ワイバーンロードの優位性が失われつつあった。
そこで、近年ムーが開発した「マリン」と呼ばれる最新鋭戦闘機の登場により、ワイバーンロードの空戦能力は劣勢に立たされる。
この状況を打破するため、パーパルディア皇国はその高い魔導技術を使用し、ワイバーンのさらなる品種改良に成功する。
ワイバーンオーバーロード、生殖機能と寿命を削ったことにより、ワイバーンロードに比べ、速度、旋回能力及び戦闘行動半径が向上した。
副作用として、離陸滑走距離が長くなるため、竜母を造った場合は、滑走路を長くとる必要がある。
ワイバーンオーバーロードの最高速度は時速430kmにものぼり、列強ムーの最新鋭戦闘機に比べても、優位性が確保できると予想されていた。
しかし、速度が速すぎるので、竜騎士の鍛錬だけではとても風圧に耐える事が出来ないため、新たな腰掛の開発に苦労していた。
最新鋭空母パルキマイラの最上甲板に彼らは集まり、上司が前に立ち、話し始める。
その顔はとても険しい。
「先ほど、本部から連絡があったが、アルタラス王国の守備隊が攻撃を受けつつある。」
!!!!!
全ての隊員に緊張が走る。
話は続く。
「敵の攻撃には、飛行機械が使用されていた……。この意味が解るな?
飛行機械が作れるのは、列強ムーくらいのものだ。
敵はムーの飛行機械を使用していると思われる。
そこで、近海にいた我々に指令が来たのだ。
今日は、ワイバーンオーバーロード竜騎士団の初陣だ。
現在アルタラス王国首都ル・ブリアス上空に展開中の敵飛行機械に対し、一撃を与える。
我が方のワイバーンオーバーロードの性能は、ムーの最新鋭機「マリン」をも凌駕している!!
このような第2文明圏からすると遠方に最新鋭機は来ないだろうが、ムーを相手にすると思い、決して敵を侮る事無く、そして自身を持って戦え!!
では解散!!!」
竜騎士隊は、それぞれの準備を始める。
10分後~
錬度の高い兵たちにより、全ての準備は終わっていた。
「出撃!!!」
竜母の上を、ワイバーンオーバーロードは走りはじめる。
走るのが苦手な竜が走る様は、少し無様ではあるが、風を掴んだ瞬間、今までの無様な姿からは想像も出来ないほど、軽やかに、優雅に舞い上がる。
濃い青色、遠くには積乱雲のようなものが見える空に向かい、パーパルディア皇国竜母パルキマイラ所属の精鋭竜騎士隊の操るワイバーンオーバーロードは羽ばたいていった。
竜騎士デニスは歯を食いしばって竜に乗る。
ワイバーンや、ワイバーンロードを乗りこなして来たデニス、その彼にとっても、このワイバーンオーバーロードは速すぎる。
すさまじい上昇力、そして風圧で飛ばされそうになるほどの最高速度、体にかかる重力が数倍になるほどの旋回能力、その全てがワイバーンロードを遥かに凌駕する。
「皇国は恐ろしい兵器を作ったものだ。これほどの兵器を量産できるのなら、ムーも恐れるに足りんだろう。」
竜騎士団は、アルタラス王国上空へ向かう。
パーパルディア皇国ワイバーンオーバーロード竜騎士団は、アルタラス王国上空に達していた。
付近空域にはすでに敵機は存在しない。
「敵は何処だ!!!」
デニスはジオに語りかける。
「いない……すでに撤退したか……。
おい、あれを見ろ!!」
ジオは地上の皇軍基地があった場所から煙が上がっているのを発見する。
「な!まさか!!」
デニスは確認のため、高度を落とす。
遠くから煙が出ていたのは見えていたが、彼が近づくにつれ、その煙の量が尋常ではない量である事に気付く。
高度を落とした彼の目に飛び込んで来たのは、完全に壊滅し、動く者のいない皇軍の基地だった物だった。
「も、もう?は…早すぎる。すでに全滅しているだと!!」
デニスはすぐに通信用魔法具で本国に報告し、他の基地や、港の被害状況を確認する。
確認が進むにつれ、胃液が逆流する感覚。
第3文明圏で間違いなく最強だったはずのパーパルディア皇国軍、アルタラス王国にいた軍は、規模こそ小規模であったが、付近国家に比べて遥かに精強である。
その軍が全滅していた。
「こんな……こんな短期間で!!そんな馬鹿な!!」
敵機を見つけられなかった竜騎士団は帰路につく。
竜騎士デニスの報告は、パーパルディア皇国本国にも伝えられ、皇軍内を衝撃を持って駆け巡った。
◆◆◆
アルタラス王国首都ル・ブリアスの地下組織に属する軍長ライアル。
彼は民間人の格好をして、塔の上からそれを眺めていたが、何と表現して良いか解らない出来事が眼前にあった。
港に停泊してある列強の戦列艦約20隻、かの国の戦列艦の強さは身を持って感じていた。
たったの20隻程度である。しかし、アルタラス王国軍が全盛期の戦力をもって戦ったとしても、勝てないかもしれない。
列強の戦列艦というのは、そういうものだ。
自分たちの敵は列強、彼らにとっては僅かに残していった軍だろうが、強力である。
そんな、強いと思っていた彼らの船が、猛烈な爆裂魔法を受け、なす術も無く連続して大きな火柱を上げ、沈んでいく。
軍長ライアルは眼前の光景があまりにも現実離れしており、唖然とする。
次の瞬間、雷鳴のような轟きと共に、大きな何かが、見たことも無い速さで通過する。
その何かを見ていると、後ろから耳を覆いたくなるほどの大きな炸裂音。
彼が振り返ると、爆炎に包まれたパーパルディア皇国軍基地がそこにはあった。
ふと我に返る。
「い……いかん!!!」
彼は通信機を取り出し、叫ぶ。
「時は来た!!アルタラス王国を取り戻すぞ!!!
全軍作戦開始!!!」
後刻、軍事力のほとんどを失っていたパーパルディア皇国アルタラス統治機構は、一斉蜂起したアルタラス王国地下組織を前に降伏。
アルタラス王国は、その統治権を取り戻した。
◆◆◆
パーパルディア皇国 属領クーズ
ハキは、自宅の魔信機で中央世界の文明国が流すテレビの音声のみを聞いていた。
『この人何歳に見えますか?』
『ん~30歳くらいですか?』
『正解は~67歳!!』
『エェー!!』
『魔導師キャンディー氏の美肌魔法液を付ければ、シワシワの貴方もつるんつるん。
この魔法液パックは……』
ピロリンピロリン
音声が途切れ、突然注意喚起を促すような音が鳴る。
『番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。
番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします!!!』
突然の臨時ニュースにハキは聞き耳をたてる。
『第3文明圏の列強国、パーパルディア皇国が侵攻し、攻め落としていたアルタラス王国は、独立を宣言いたしました。
アルタラス王国に進駐していたパーパルディア皇国軍は全滅に近い被害を受け、パーパルディア皇国アルタラス統治機構はアルタラス王国の組織に降伏しています。
今回のアルタラス王国の独立、専門家の間では、日本国の関与が指摘されています。
繰り返します……。』
ハキは心の底から衝撃を受ける。
パーパルディア皇国の歴史上、一度属領になった場所が再独立した事はない。
アルタラス王国王女ルミエスは、よほど日本に強いパイプを持っているのだろう。
しかし、ルミエス王女は過去にこう発言した。
「パーパルディア皇国は無敵ではない、今属領として苦しんでいる方は、「その時」に向け準備をしてほしい」
と。
ハキの心の炎がもえる。
もしかしたら、この希望も何も無い状況から脱する事が出来るかもしれない。
ハキは、自らの国もアルタラスのように独立するため、密かに仲間を集め始める。
「その時」のための準備を開始するのだった。
◆◆◆
神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス とある酒場
今日も酒場では酔っ払いどもが話しをしていた。
「おいおい、聞いたか?信じられねぇ。」
「ああ、聞いた!パーパルディア皇国が属領を1つ失ったらしいじゃねぇか!!」
「あの皇国が、第3文明圏の覇者が属領を失うとはな……。」
「しかも、またあの国が絡んでいるらしいぞ。」
「日本国……か。」
酔っ払い達が話しをしている時、他の酔っ払いが大声で突然話し始める。
「パーパルディア皇国は、日本に負けるぞ。奴らは喧嘩をふっかける相手を間違えた。
俺は日本に行った事がある!!」
衝撃的発言を受け、酔っ払いどもの視線が集中する。
注目された者はさらに発言を続ける。
「日本がロウリア王国を倒した後、俺はこの新興国は今後伸びてくると思い、何か交易は出来ないかと、あまり嵩張らないが各国に高く売れる、ムーの機械式の腕時計をもって日本に出かけた。
俺は第3文明圏ネーツ公国の出身で、日本とは国交を結んだばかりだったので、公国の許可証で何とか日本に入国出来る事になった。
日本人は、ムーの機械式時計を見たらさぞかし驚く事だろう、文明圏外国が列強の文明に触れたときの衝撃は相当なものだから、そう思っていたが……。
日本の玄関口、福岡市に私が着いた時、私の考えていた新興国としての日本は、イメージが完全に間違っていた事を思い知らされた。
空に向かって伸びる超巨大な建造物、そして街には、神聖ミリシアル帝国の魔導機関の四輪駆動車のようなもので溢れかえっていた。
道路の交差部も、立体的なものが多数あり、空にはムーの飛行機械をより大きく、速くしたようなものが飛び回っている。
しかし、そこは首都ではなく、一地方都市に過ぎない。
信じられないかもしれないが、日本の国力は、私が感じた限りでは神聖ミリシアル帝国をも凌駕するかもしれない!」
「……ハッハッハ!!そんな訳ないだろう!!」
「おっさん酔いすぎだ!!」
酒場が笑いに包まれる。
「ではこれが!!!!」
酔っ払いは大声で話し始める。
酒場は突然の大声に静まり返る。
「これが作れる国はあるか!!」
商人は、ムーのそれよりも遥かに洗練されたデザインを持つ腕時計を取り出す。
「これはっ!この腕時計は光をエネルギ―に代え、壊れない限り、半永久的に動く!!
ムーのねじ巻き式なんて、これに比べたらゴミだ!!
しかも、日本国内なら電波と呼ばれる魔信のようなものを受信し、秒針が自動的に補正され、その誤差は10万年に1秒になる!!!
これが作れる国はあるか!!!」
静粛。
「ま……まあ、日本がすごい事は伝わったよ。」
酔っ払いたちの話は続く。
◆◆◆
トーパ王国 王都ベルンゲン
「ほ……本当か?その報告は、真か?」
国王トーパ16世は、部下からの報告の真偽を尋ねる。
「真にございます。
パーパルディア皇国に一時占領されていたアルタラス王国は、日本国の攻撃により、在アルタラス皇軍が全滅、統治機構は降伏し、アルタラス王国は、その統治権を奪い返しました。」
「しかし、アルタラス王国は、パーパルディア皇国の比較的近くにあったはず。
皇国海軍はどうなっておるのだ?」
「海軍は健在です。」
「では、アルタラスはすぐにやられるのではないのか?」
「その件につきましては、日本の基地がアルタラスに出来るまでの間、日本国の海上自衛隊、実質海軍ですが、それが交代し、アルタラス海域で拠点防衛の警戒任務に就くそうです。
日本国によれば、パーパルディア皇国軍に対しては、それだけで十分との事です。」
「な……なんと。日本にとっては、あの列強パーパルディア皇国軍でさえ、敵では無いというのか。」
「さようでございます。」
「ただ一つ、日本国は我が国に要求をしてきています。」
「何だ?」
「誤射を防ぐために、戦争が終わるまでの間、付近海域と空域には進入しないでほしいとの事であります。」
「空は、解りにくいし、まあ我が国にワイバーンはいないので、空域は大丈夫だな。
海域とはどういうことだ?国旗を見たら、どの国の船かは解るだろう?
まあ、あらぬ誤解を招かぬために、入らぬにこした事は無いが。」
「日本には、見えない距離を攻撃する方法があるようです。」
「なんと!!うーむ……日本が敵ではなくて、本当に良かったな。
よし、全軍に、日本の指定した海域及び空域には入らないように指示しろ!
民間船も入らぬよう、商船組合にも伝えておけ!!!」
「はい!」
トーパ王国国王トーパ16世は、日本が味方だった事に安堵するのだった。
◆◆◆
パーパルディア皇国 皇都エストシラント
美しく、優雅であり、周辺の文明国、そして文明圏外国より搾取された富で潤う街、まさに列強の名にふさわしく、第3文明圏の中でも最高の都、皇都エストシラント。
皇族レミールは、美しい都を歩く。
浮浪者やこじき等の汚物は存在せず、町の建物は横に広がる限界が来たため、高さが高くなりつつある。
レミールは皇帝の言葉を思い出し、つぶやく。
「ゆくゆくは、この美しい都が世界の中心となろう。」
皇国の圧倒的国力をもってすれば、簡単な事のように思えてしまう。
「今日も疲れたな……。」
レミールは、健康管理も含め、徒歩で邸宅に帰る。
後方からは、護衛の者たちが着いてくる。
邸宅についたレミールは、湯浴みを行う。
低文明国は、湯浴みの習慣すら無く、水を浴びたり、体を拭くだけの国もあるという。
レミールは、不潔な蛮族が嫌いだった。
湯浴みが終わり、動きやすい服を着てベッドに横になる。
「ふー、今日も疲れたな。
まあ良い、時にはこういった忙しい日もある。」
気が抜ける。
彼女は疲れのあまり、しばし意識が飛ぶ。
レミールが浅い眠りについた時、部屋のドアが激しくノックされる。
「レミール様!!レミール様!!!第1外務局の緊急アラームが鳴っております!!」
睡眠を妨げられたレミールは不機嫌になる。
「まったく、緊急アラームを送るほどの内容ではなかったら許さんぞ。」
レミールは、第1外務局へ魔信を行う。
「レミールだ!総務に繋げ!!」
交換は総務に繋ぐ。
「緊急アラームが鳴ったぞ、いったい何だ!!」
「緊急事態が発生しました。内容は……傍受の危険のある魔信で話せる内容ではありません。
至急来ていただきたいのですが!!!」
「……解った。」
レミールは魔信を切る。
仕事で疲れ、休もうとした矢先の再びの呼び出し。
「いったい何なのだ!!」
レミールの不機嫌ゲージは振り切れそうになる。
レミールが第1外務局へ行くと、すぐに局長室に案内される。
局長室のドアを開く。
中では、第1外務局長エルトをはじめ、幹部が顔をそろえ、そしてその全員の顔色が悪い。
レミールは皇族専用の席につく。
机上には、紙が数枚置かれていた。
「レミール様、まずは目をお通し下さい。」
レミールはレジュメに目を通す。
その簡易報告書を読み進む。
レミールの手は、怒りと衝撃のあまり、震え始める。
報告書には彼女が感じたことの無い衝撃的な事実が記されていた。
『アルタラス王国陥落に関する報告書(第1報)』
「いったい……いったいこれはどういう事だ!!!」
パーパルディア皇国の歴史の中で、一度陥落し、統治した国が再独立、もしくは奪還された事は1度も無かった。
「概要を説明いたします。」
第1外務局長エルトが説明を始める。
「本日未明、在アルタラス皇軍は、日本国からの攻撃を受け、全滅いたしました。
そして、それに呼応するかのよう、原住民の反乱が発生、皇国のアルタラス統治機構はこれに降伏し、アルタラス王国は独立を宣言、王女ルミエスは皇国の他の属国に独立を呼びかけています。」
「何故だ!!何故こうも皇国が文明圏外の蛮国ごときに連敗するのだ!!
皇軍は、第3文明圏において無敵ではなかったのか!!!」
レミールはカン高い声で叫ぶ。
第1外務局長エルトは、キンキンとしたその声に耳を塞ぎたくなるが、我慢し、返答する。
「第3文明圏で最強であることは間違いありません。ただ……。」
「ただ、何だ!」
「今回、アルタラス王国の皇軍に対する攻撃に飛行機械が使用されています。」
「飛行機械!?飛行機械だと!!それでは……。」
「はい、飛行機械を作れるのは、列強ムーくらいのものです。
ムーは、自国の重要兵器を決して輸出してこなかった。
しかし、今回日本に対しては、何故か輸出しています。
日本の背後には、ムーがいるのかもしれません。」
「代理……戦争か。小癪な!
どおりで、日本の外交官が、戦争前に自信があった訳だ。
真偽を確かめる。ムー大使を召喚しろ!!私が対応する。」
「はい!!」
「レミール様、あと1点報告したい事が。」
「何だ!!」
「ムーの関与が確定的となった今、軍から航空優勢を確保するためワイバーンオーバーロードの量産の予算請求が財務局に対し、なされています。」
「解った。しかしオーバーロードの量産は、本当に金がかかるから、財務局も渋るかもな。
私からも財務局に話を通そう。」
「ありがとうございます。」
会議は終了した。
パーパルディア皇国軍最高司令官アルデ邸宅~
軍の最高司令官アルデは、自宅のベッドの上で頭を抱えていた。
飛行機械の目撃情報により、ムーの関与が確定的となった日本軍、航空戦力についてはワイバーンオーバーロードの投入で、敵にムーの最新鋭機「マリン」がいたとしても、数さえそろえれば、優勢が確保出来るだろう。
しかし、問題は海上戦力だった。
戦列艦に搭載できる砲の大きさは限られている。
パーパルデイア皇国の戦列艦の砲では、ムーの戦艦の装甲を抜けない。
しかし、ムーの戦艦の主砲はあっさりと皇国船を貫通するだろう。
ムーの主砲に耐えうる装甲にした場合、風神の涙を使用した帆船では出力不足であり、重すぎて実用に耐えうる速度が出ない。
日本がどの程度ムーの戦艦を購入しているのかは不明であるが、1隻でも脅威である。
アルデは、先の戦いでムーが観戦武官を日本側に派遣したのはこの事だったのかと考える。
「ちくしょう!ムーめ!!何故日本に……。」
アルデはムーの脅威に頭を悩ませる。
第3外務局長カイオス邸~
パーパルディア皇国第3外務局長カイオスは、アルタラス陥落の報を受け、恐怖にふるえていた。
局長の傍ら、貿易商との繋がりも強かったカイオスは最初の日本との接触の後、民間を通じた調査に乗り出す。
そこで明らかになったのは、新興国家では考えられないほどの国力だった。
しかし、情報元は所詮商人、誇張もかなり入っていると思われたため、自分の政争の道具にでもなれる国力があれば良い程度に思っていた。
しかし、日本に対する外交権は、皇帝陛下の意思もあり、狂犬、皇族レミールに移管されてしまい、レミールはいつものように、文明圏外国の民、日本国民を殺してしまった。
そしてフェン王国に滞在する残りの日本人も殺すといった宣言を日本に対して行っている。
日本国は、当然これに激怒した。
カイオスはこの時、フェン王国の戦いで皇国も多少ダメージを負うと分析していたが、あろう事か皇国のフェン王国派遣海軍は全滅し、日本の船の撃沈確認はとれていない。
第3国経由の商人達の情報によれば、日本国軍の被害者数はゼロという信じられない情報を得る。
もしも皇国の情報局にこれを伝えても情報元の弱い伝聞として、だれも信じないであろう。
しかし……カイオスは、フェン王国の戦いの後に商人達から渡された1冊の本を見る。
魔写を多量に使用した本。
商人たちは気を利かせ、横には翻訳された紙と、その翻訳の証拠に日本国内で購入した日本語と第3文明圏大陸共通言語の辞書までそろえてある。
その本の名はこうある。
『別冊宝大陸、特集!自衛隊対パーパルディア皇国軍が戦えばこうなる!?』
その本は、日本国内の出版社出した兵器比較の本だった。
皇国の事も良く書かれており、大砲の作動原理は間違っているが、射程距離や威力等、良く研究されている。
日本国の兵器は、おそらくここに書かれている性能で間違い無いのだろう。
カイオスは、それを読んだ時の衝撃を今でもはっきりと思い出す。
読み進めるうちに、指は震え、全身から汗が噴きだす。
カイオスはこの時、可能性の1つとして、日本を正確に認識した。
ムーを遥かに超える超科学文明国家。
そして、皇帝陛下は日本に宣戦布告し、殲滅戦を指示してしまった。
カイオスは日本国外務省の朝田大使を、帰国寸前に呼び止め、日本との窓口となる通信機器を自宅に設置させる事に成功し、今に至る。
今回のアルタラス陥落により、自分の日本に対する認識は間違っていなかったと確信を持つ。
「このままでは!このままでは!!」
誰もいない自室でカイオスはつぶやく。
「このままでは皇国が……これほどの国力を誇った列強たるパーパルディア皇国が消滅してしまう!!!」
当初、日本を政争道具としか見ていなかった第3外務局長カイオスは、皇国消滅の危機を正しく認識し、命をかけて皇国を救うために動くと決意するのだった。
パーパルディア皇国皇城~
皇帝ルディアスは、静かな怒りをもってその報告を聞く。
皇帝の機嫌が悪い時に現われる癖を見て、報告者は震えながら報告を続ける。
「~以上、アルタラス王国に進駐する皇国は、日本国による攻撃を受け、全滅し、アルタラス王国統治機構は原住民に対し、降伏しています。」
属領アルタラスは、王女ルミエスの宣言により、世界に向け、独立を宣言いたしました。
他の属領もざわついています。」
多くの属領を支配していたパーパルディア皇国、その圧倒的な支配力の元となる恐怖、その恐怖を維持するための圧倒的力がぐらつき始める。
「なんとしてでも、総力を挙げてでもアルタラス王国を再支配しろ!!
独立を宣言した属領がどうなるかを他の属領に見せ付ける必要がある!!
アルタラスを取り戻さないと、他の属領もほう起し始めるぞ!!絶対にアルタラスを再支配するのだ!!!」
「ははっ!!」
皇帝の意思により、パーパルディア皇国はアルタラス王国を再支配する事を決定した。




