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間話 外交の飛躍

間話 外交の飛躍


 日本国首都 東京


 外務省は外交の更なる拡大に向け、活発的に動いていた。

 転移から数ヶ月も経過しているにも関わらず、この世界の力を持った国、主要国との国交は、現在のところ、第2文明圏の列強ムーのみである。

 

 今だ、この世界最強の国と言われる神聖ミリシアル帝国と、人口はたったの100万人しかいないにも関わらず、列強と呼ばれる国、単一種族国家であり、そのあまりにも高いプライドから外交が難しいと言われるエモール王国、この2カ国と国交を開く事は外務省にとって極めて重要な任務だった。

 だた、強国と思われる第2文明圏と戦争状態にあるグラ・バルカス帝国は、この世界の住民も良く分かっておらず、そして日本からあまりにも遠いため、この世界の基準からすると極めて高い技術力、そして貿易相手国としての有用性が唱えられたが、後回しとされた。

 グラ・バルカス帝国はその技術的水準から、核兵器保有の可能性すらあるため、接触前に幅広く情報収集を行う予定である。

 

 神聖ミリシアル帝国は、ムーの仲介もあり、スムーズな外交が予想されている。

 しかし、列強エモール王国については極めてプライドが高く、外交がやりにくいといった事前情報があり、又、第1文明圏(中央世界)の内陸部に位置し、移動手段難しい。

 「プライドが高い」という言葉でパーパルディア皇国が連想され、外務省幹部の頭を痛める。

 ムーの仲介も考えたが、エモール王国は仲介するといった文化そのものが無く、用があるなら自分の足を使って来た者でなければ相手にしないといった前世界の国際常識からかけ離れた思考をもっているらしく、仲介はあきらめる。

 

 日本国外務省は最近国交樹立の交渉を進めている中央世界の国家、ミルキー王国内を通り、隣接する列強エモール王国へ小規模の使節団を派遣、ファーストコンタクトを行うことを決定した。


◆◆◆


 中央世界 ミルキー王国 バムナ砂漠


 日本国外務省の使節団7名は、ミルキー王国のバムナ砂漠で不思議な乗物に乗っていた。

 バムナ砂漠はあと100km続き、そこを抜けると列強エモールに着くらしい。

 砂漠では砂船と呼ばれる車輪が片側に20個も付き、そして帆船のような帆が付いており、魔石により風を受け、砂漠内をゆっくりと進む。

 

 外務省の荒尾は船上に立つ。

 カラッと晴れた空の下、車輪が付き、帆のある船が砂上を進む様子は、彼から見ると不思議な光景でしかない。


「不思議な船だなぁ。」


 独り言をつぶやく。


「だんなぁ!旦那は何をしにエモールに行かれるんで?」


 自分たちを国の使節団と知らずに、樽のような体つきで、シマシマの服を着た現地人が話しかけてくる。

 様々な品物を持っており、どうやら商人のようだった。


「ちょっと、友人を作りに……ね。で、ご主人は何をしに行くのですか?」


「俺?俺は、見てのとおり、商売さあ!神聖ミリシアル帝国の魔法具や……ほれ、これを見ろ!!ムーのねじ巻き式腕時計!!これは高く売れるぞぉ!!!」


「そうですか……、ところでご主人、エモールには何度か行った事があるのですか?」


「ああ、ある!エモール人はプライドが高すぎて、俺を見下しているのは、話していると良く分かるんだが、金になるから行くさ。

 おまえさん、友人を作りに行くって言ったが、奴らは友人には向かないと思うぞ。」


「そうですか、ご忠告どうも。」


「ところで、おまえさん、何処から来たんだ?」


「東にある日本という国ですよ。」


「そっか、聞かない名前だなぁ。まあ、エモールでも頑張れよ!」


 商人は去っていった。


◆◆◆


 中央世界 列強エモール王国 竜都ドラグキスマキラ


 エモール王国、竜人族と呼ばれるこの世界にしては、希少種が集まって造られた単一種族国家、世界の竜人族のほぼ全てがこのエモール王国に属し、たったの人口100万人程度であるにも関わらず、この世界の列強に名を連ねる強国である。

 神聖ミリシアル帝国の北側、中央世界内陸部に位置しているため、四方を陸に囲まれ、海に面していない。

 面積は四国程度の小国であり、中央世界を流れる大河の水源に、竜都ドラグキスマキラは存在する。

 エモール王国は、人口のほとんどがこの竜都ドラグキスマキラに集まり、国土面積のほとんどは森に覆われている。


 竜都ドラグキスマキラの王城において、竜王ワグドラーンは、空間の占い師を前にしていた。

 (今世界の占い師は、地球と違い、魔力を使用するため、本当に当たる。)

 国の行く末を左右する行事の一つとして、年に1回行なわれる空間の占い。

 ハイエルフ並みの魔力を有する竜人族、その中でも特に魔力の質の良い者たちを30人ほどかき集め、その高純度の魔力を限界まで使用し、空間の占いが行われる。

 

 空間の占いは、国に影響があると思われる重要、重大事項の有無について行われ、早期に障害を排除することを目的とする。

 国の重役が見守る中、薄暗いドーム状の部屋の中で儀式は始まる。

 空間の占い師、アレースルの両手には、魔導士から吸い上げた魔力が宿り、淡い赤色に光る。

 ドーム状の天井には、星のようなものが映し出される。


「空間の神々の名の元に、これより未来を見る。」


 一同が緊張する。

 空間の占いの的中率は、実に98%以上にも及び、場は緊張に包まれる。


「な!!!そ……そんな!!!なんと言うことだ!!!」


 空間の占い師、アレースルは酷く狼狽する。


「いったい何だ!何が見えたというのか?」


 竜王ワグドラーンは問う。


「……魔帝なり。」


「なっ!!何だと!!!」


「そう遠くない未来……古の魔法帝国は、……神話に刻まれし、ラティストア大陸は復活する!!!」


「な……なんということだ!!!」


「時期は!?時期はいつだ!!!?」


「……読めぬ。」


「では、場所は何処だ?」


「空間の位相に歪みが生じている。場所も読めぬ。」


 その場に居合わせた全員が戦慄する。

 古の魔法帝国の存在した時代、エモール王国が存在するよりも遥かに昔、竜の神々の治める、インフィドラグーンという名の国が存在した。

 古の魔法帝国は竜の神々に対し、配下の竜人族を毎年一定数差し出すように要求する。

 竜の神が理由を尋ねると、竜人族の皮は丈夫で美しく、バッグを作って売ったら国内で売れそうだからというのが理由だった。

 

 竜の神々は、竜人族を守るため、断固としてこれを拒否、後に龍魔戦争と呼ばれる戦争に発展する。

 戦争は激戦を極め、古の魔法帝国は、コア魔法と呼ばれる究極兵器の使用に踏み切る。

 竜の神の治めし国、インフィドラグーンの大都市は、このコア魔法により消滅、竜人族は世界にチリジリになって逃走する事となる。

 

 古の魔法帝国が大陸ごと未来に転移した後、竜人族は再び集まり、国を作る。


 これが現在のエモール王国である。

 単体の能力が高い竜人族が、他種族に屈したのは、歴史的に見ても古の魔法帝国のみである。


「して……我が国を含め、全ての種が再び辛酸を舐める事になるのか?」


「否、読めぬ……未来は不確定なり。」


「不確定だと!?いったいどういう事だ?」


「言葉のとおりなり。」


「では、滅び、もしくは従属から回避する手段はあるというのか?」


「ある!」


「それは何だ?」


「新たな国の出現による。」


「新興国か?」


「否……別の世界からの転移……転移国家なり。」


「どこだ?なんという名の国だ!!?」


 王は尋ねる。

 空間の占い師、アレースルは険しい顔になる。


「ム……ウウゥゥ」


「東……第三文明圏のフィルアデス大陸よりさらに東にある島国、人族の治めし国……太陽を国旗とした国、国名は……日本国。」


「人族だと!?相手は古の魔法帝国だぞ!魔力の低い人族に何が出来る!!」


「解らぬ、何が出来るかわからぬが、この日本こそ、古の魔法帝国に対抗する唯一の鍵となろう。」


「鍵……か。国内に異世界の古代文明の遺産でもあるのかもしれないな。おい!!」


 王は外交担当の貴族を呼ぶ。


「はい!」


「日本について調べろ!人族の国ごときにこちらから外交を求めるのは癪だが、どんな国か調べ、国交を結べ!」


「はい!!!」


「なるべく早くしろ!!すぐにでも日本へ行け!!!」


「……その必要な無し。」


 空間の占い師が王の言葉を遮る。


「何故だ!!」


「……日本国は向こうから外交を求めてくる。……現在、ミルキー王国の砂漠を通過中だ。間もなく第27番の国境の門にたどり着くだろう。」


「……好都合だ。門の番人に、門前払いせぬよう魔信で伝えておけ!!」


「はい!!」


 竜王ワグドラーンは魔帝の恐怖に怯える。


◆◆◆


 日本国外務省の一団は、バムナ砂漠を砂船に乗って、揺られていた。


「お客様あーお客様あー、当船は間もなく竜人族の治める国、エモール王国の国境の門に着きます。

 長旅、お疲れさんでした。」


 特にスピーカーがある訳では無いので、船頭は大声で客に告げる。

 砂船は停船し、船底のドアが開き、そこから下船する。

 砂船の港は、砂漠と森の境となっており、船を下りると、その先には突然森が現れる。

 森の先、目測で約2km先には、森と不釣合いな青く塗られた巨大な門が見える。


「お客様あー、お客様あー、森の入口にある石畳の道、くねくね曲がっていますが、あの青い門に繋がっています。

 あの青い門が、列強エモールとの国境の門です。」


 石畳の道路を歩く。

 しばらく歩き、やがて高さが30mはあろうかと思われる青き門の前に立つ。

 門の横には身長が2m近くある兵が立ち、そして同じく身長が2m近くある特殊な民族衣装を着た者たちが、通行証を確認する。


 竜人族~平均的な身長は男性2m、女性175cmであり、浅黒い色をしているが、顔立ち、見た目は人間に似ている。

 しかし、よく見ると、人間の皮膚の変わりに、微細な鱗が生体の表面を覆っている。

 頭からは角が2本生える。

 目は赤く、髪も赤い。


 外務省の荒尾はあたりを見回す。

 門の横には窓口があり、長蛇の列が出来ていた。

 日本国外務省の一団は、列に並ぶ。

 しばらくすると……。


「おまえたちも列に並べ!!!」


 列の交通整理をしていたエモール王国の職員が、人間の一団を怒鳴りつける。

 怒鳴りつけられた一団は抗議する。


「我々は、その辺の商人たちと同じでは無い!第3文明圏文明国、リーム王国の使者だ!国交開設の再交渉に来ているのだ。貴国の外交担当の部署に取り次ぎをお願いする。」


「国の使者だろうが、商人だろうが何だろうが、人族だろう!同じだ!!

 国境の門で優遇されるのは、竜人族かハイエルフくらいのものだ。

 それ以外は同列だ。列に並んでもらおう。」


「くっ!!!」


 第3文明圏内国家、リーム王国の使者はおとなしく最後列に並ぶ。


「これは……交渉難航が予想されますね。」


 外務省の荒尾はとなりの保木に話しかける。


「確かに、大変そうですね。」


 保木は苦笑して答える。


「ん!!?あれは何でしょうか?」


 兵士らしき者たち4名の護衛を受け、きっちりとした服を着込んだ者が、門からこちらの方へ向かい、歩いて来る。

 護衛対象者は、明らかに服の質が他の者とは違う。

 交通整理をしていたエモール王国の職員も、その者を見ると慌てたように頭を下げている。


「おそらく、この国で格が高い方なのでしょうね。」


 その者は、日本国外務省の一団の前で足をとめる。


「え!?」


「我は、竜人族、列強エモール王国の外交担当の貴族、モーリアウルなり。

 そなたらは何処から何をしに来た?国名は?」


 モーリアウルと名乗った男は、外務省の荒尾に問いかける。


「私たちは、東、第3文明圏のあるフィルアデス大陸よりもさらに東にある島国、日本という国からまいりました。

 目的は貴国、エモール王国と国交を開設するためです。」


 外野から笑い声が聞こえる。

 つぶやくように話すその声は、明らかに日本国外務省使節団に向けられたものであり、聞こえるように話されていた。


「文明圏外の蛮国か、我が第3文明圏文明国、リーム王国ですら列強エモールとは国交を結ぶ事に難航しているというのに、まさか文明圏外国が来るとは。フハハハハハ。」


 嫌味な言葉が聞こえる。


「おお!!!そなたらが日本国の使者か!お待ちしておりましたぞ。さあ、我に続かれたい。国交開設の前提で、貴賓室でお話をしようぞ。」


「え!?あ、はい。」


 事があまりにもスムーズに行き過ぎて、荒尾と保木は拍子抜けする。


「ま……待たれたい!!」


 先ほど嫌味を言っていたリーム王国の使者が話しに割って入る。


「我は、第3文明圏が一つ、文明国リーム王国の使者である。

 我々は、貴国と国交開設のための再交渉に参った。

 我が国は文明国であります。対応をお願いしたい。」


「ふぅ。」


 竜人族モーリアウルは溜め息をつく。


「リーム王国はたしか、ただの人族国でしょう。そのまま列に御並び下さい。」


「なっ!!!」


 モーリアウルは日本国外務省使節団に振り返る。


「さっ、日本の方々よ、貴賓室にご案内する。来られよ。」


 後日、日本国と竜人族で構成される国、列強エモール王国は国交を開設することになる。




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