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反撃の前夜

 日本国首都 東京 とあるホテルの一室


 ムーの技術士官マイラスと、戦術士官ラッサンは、話し合いをしていた。

 あきづき型護衛艦に乗り、観戦武官としての使命、日本の力を計る事は彼らにかつて無い衝撃をもたらしていた。

 まず驚いた事は、大砲の連射性と、その命中率であった。

 船は動き、海にも波があり、そして相手も動く。

 そんな中、目視していた限りでは、実に100パーセントというとんでもない命中率を、日本の艦船はたたき出している。

 日本で買った本を解読したところ、これは砲を安定させる技術と、FCSと呼ばれる相手との相対速度を瞬時に算出し、そして砲弾の飛翔速度をも計算、敵の未来位置に向かい、砲を撃っているらしい。

 このシステムにより、信じられない事であるが、大砲で空を飛ぶ目標をも撃墜できるとの事であった。

 そして、その本のには今回見る事が出来なかった脅威の兵器が記載されている。

 

 潜水艦と呼ばれる海に潜る事が出来る船、誘導弾と呼ばれる射程距離が100kmを超える兵器、そして海中を進む魚雷と呼ばれる兵器。

 そんな兵器は考えたことが無かった。

 そのどれもが現時点のムーの技術力の総力を結集しても造れるものでは無く、今回我が国が見た日本国の圧倒的な力は、まだまだ日本の極一部の力にすぎず、技術的優位性は全く無いという事に気付かされる。

 

 2人は日本の底力を脅威に思うと同時に、友好国となった事に安堵する。

 これほどの力、そして技術力を我が方に輸入出来ればグラ・バルカス帝国にも対応する事が出来よう。


「マイラス、日本をどう見る?」


「どうもこうも、技術が我々よりも進みすぎていて、良く理解できない事が多すぎる。

 特に、LSIとかいう集積回路や、コンピューターと呼ばれる高性能演算装置の原理が良く理解できない。」


「そうか、俺は戦術が根本的に異なる事に驚いている。

 はっきり言って、我が国の艦隊はパーパルディア皇国なら蹴散らす事が出来るが、日本を相手にした場合、今回のパーパルディア皇国艦隊と全く同じ運命をたどるだろう。

 日本に高い兵器を使わして、より金を使わせる事くらいしか出来そうに無い。」


「はー」


 2人は溜め息をつく。

 思い空気が流れる。


「ラッサン、しかし収穫ならあるぞ。」


「何だ?」


「兵器の概念、進むべき方向性が見えた。

 考えた事も無かった誘導弾という兵器、おそらく、日本のそれに比べれば速度は遥かに遅いが、初歩的なものであれば我が国でも作れるかもしれない。

 日本と外交する事で、我が国は長期的に見て神聖ミリシアル帝国を超える事が出来るだろう。」


「ほう、ちなみにグラ・バルカス帝国はどうだ?」


「解らない。あの国については、情報が少なすぎるし、我々と同じ科学文明を持っている。

 現時点でのムーとの技術差は50年以上開いている。

 相手も進化するしな……国力も不明であり、超えられるかどうかは解らない。」


「そうか……。」


 ムーの観戦武官たちの考察は続く。


◆◆◆


日本国 首都 東京


 外務省の柳田は、ムー大使館を尋ねていた。


「ムー大使のユウヒです。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 少し緊張した顔で大使は話す。

 その表情から、多少の狼狽が見て取れる。


「実は、日本国政府から貴国に対しての要望があります。」


 ユウヒの顔はさらに緊張する。


「何でしょうか?」


「実は……。」


 柳田はカバンの中からA3サイズの写真を取り出す。


「ムーは、各国の地に外交連絡用の空港を造っていると聞いています。」


 柳田は写真の一箇所を指差す。


「アルタラス王国にあるこの空港の使用許可と、この空港がどの程度の加重に耐えられるのか、設計の詳細が知りたいのです。」


「な!!!こ……これは!?なんと精巧な!!航空写真ですか?」


「いえ、宇宙空間にある我が国が打ち上げた人工衛星が撮影した写真です。」


「!!……いやはや、貴国の本で読んで、事前の知識はありましたが、自分の前に写真が広げられると、貴国の技術を実感いたします。」


 ユウヒは一呼吸おく。

 緊張の顔は既に解かれている。


「確かに、その空港は我が国が造りました。細かい仕様はすぐには分かりませんので、本国に問い合わせ、判明すればすぐにお伝えいたします。

 アルタラス王国は、大規模魔石鉱山があるため、将来的に大型輸送機の開発及び輸送も考えられていたため、相当強く造っていたはずです。

 ただ、我が国が飛行場を造る場合、土地の使用及び飛行場の建設許可をもらった後、建設いたしますが、その所有権はあくまで空港のある国に属します。

 つまり、アルタラス王国であれば、アルタラス王国の所有物となります。

 現在はパーパルディア皇国が支配していますので、パーパルディア皇国の所有物ですね。

 皇国がアルタラス王国を攻める時、ムーにも事前通告があり、アルタラス王国内に現在ムーの人員はおりません。

 つまり、飛行場を利用したい場合は、ムーではなく、現在所有している国に許可を取る必要があります。

 所有権を有する国が良いという事であれば、ムーは空港を日本国が使用する事に口は出しません。

 アルタラス王国に関しては、皇国の支配により、現在はすでに使用出来ない状態となっているため、基地として使用いただいても、改造してもらっても構いません。」


 柳田の顔は明るくなる。


「ありがとうございます。その言葉だけでも十分です!!!」


「あと1点、政府内に少し意見が出ているのですが、ムー国に関しての技術流出防止法の1部緩和が議論されおりますのでお伝えいたします。」


「な……なんと!!!それは……是非良い方向性となることを願っています。」


 会談は終了した。


◆◆◆


「間もなく記者会見が行われます!!」


 戦後70年ぶりに、望まずに突入してしまった他国との戦争、しかも相手は全てを、日本民族そのものを消し去ろうとしている。

 この国家の緊急事態ともいえる状況の中、内閣総理大臣は緊急記者会見を開く。


(自分が総理の時に、日本を再び戦争に導いてしまった。

 回避できなかった。

 自分は愚かな総理として、歴史に名を残すかもしれないな。)


 記者会見に向かう彼の足取りは重い。

 

 記者会見場に、内閣総理大臣が姿を現す。

 記者たちのフラッシュが焚かれ、総理が壇上に向かって歩く。

 総理が手を上げ、ザワついた空気が静まりかえる。

 日本国内閣総理大臣はゆっくりと話し始める。


「みなさん、我々の外交交渉も虚しく……皆さん知ってのとおり、パーパルディア皇国は我が国、日本国に対し、宣戦を布告いたしました。

 我々は、何度も何度も交渉し、戦争となる事態を回避しようと努力を重ねてまいりました。

 しかし、結果は戦争という最悪の結果となってしまいました。

 戦争状態となった今でも、日本国政府は平和への模索は続けてまいります。

 さて、パーパルディア皇国は今回、日本国民の全てを虐殺し、民族浄化を行うと伝えてまいりました。

 私はこの事に対し、皆様の前ではっきりと宣言いたします。

 日本国政府は、その持てる力の全てをかけて、日本国民の皆様を守ります!!!

 絶対に!!!

 絶対に守り抜きます!!!

 日本国政府は、パーパルディア皇国の宣戦布告に対し、個別的自衛権の発動をする事を決定いたしました。

 この自衛権には、当然日本に侵攻してくる敵や基地、そして工場その他を含みます。

 日本国政府は、必ず皆様を、パーパルディア皇国の民族浄化から守り抜きます!!!」


 様々な質問が行われ、総理の記者会見は終了した。


◆◆◆


 日本国 外務省


 アルタラス王国の王女ルミエスは、日本国外務省を訪れていた。

 あいさつが行われ、会議に入る。


「外務省の柳田です。

 単刀直入にお伝えします。

 アルタラス王国との安全保障条約ですが、現行憲法とその解釈では、難しいと言わざるをえません。」


 ルミエス王女の顔が硬直する。

 柳田は話を続ける。


「よって、代案なのですが、我が国に侵攻してくる可能性のあるアルタラス王国内のパーパルディア皇国軍基地を潰そうかと思います。

 皇国軍の大半を日本が潰しますので、アルタラス王国が独立した後、王国内にあるムーの造った飛行場を基地として使用させていただきたい。

 もちろん追加工事はこちらで行います。

 それが出来れば、パーパルディア皇国の皇都エストシラントまでが我が国の攻撃範囲に加わります。」


 アルタラス王国の空港を使用する事が出来れば、日本及びクワトイネ公国の飛行場からの空爆も含めると、パーパルディアの工業都市、大規模軍事施設、そして皇都が攻撃範囲に加わる。

 日本はあくまで軍事的視点から話を進める。


「我が国が再び独立する事が出来るのであれば、日本国が国内の空港を使用する事を許可いたします。

基地を造っていただいても構いません。」


 会談は早期にまとまり、アルタラス王国に進駐するパーパルディア皇国軍を攻撃する事が決定された。


◆◆◆


 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス


 情報局はかつて無いほどの忙しさに見舞われていた。

 神聖ミリシアル帝国は、「情報」の重要性を良く理解し、情報を制する者は世界を制するといった考えの下、情報分析に力を入れている。

 しかし良く理解できない事象が2つあった。


 1つ目は、近年西方海上に出現したグラ・バルカス帝国、彼らは歴史の表舞台に突然現れた。


 文明国に属する国家と、文明圏外に属する国家では超えられないと言えるほどの壁が存在する。

 ゆえに、文明圏外国家は、文明圏に入ろうとする場合が多いが、文明圏の各国とも、文明圏外国家を見下しており、かつ文明圏外の国の国力が万が一にでも文明圏を超えないために、技術流出に対しても相当の制限がかけられている。

 そしてその国力差をもって、文明圏内の国は文明圏外国家から、様々な物を吸い上げる。

 技術差を利用した文明力の差による既得権がそこには存在している。


 歴史上、文明圏外国家の国々が連携をとり、文明圏に攻め入る事象はいくらでもあった。しかし、それは1度も成功する事は無かった。


 グラ・バルカス帝国なる文明圏外国が、周辺の国々、文明圏外の蛮国を瞬く間に制圧し、第2文明圏に対し、最初に交渉してきた時、第2文明圏のパルス王国は、列強レイフォルを窓口にしてくれと伝えている。

 列強レイフォルの性格からして、それは正しい判断だったと言えよう。

 しかし、レイフォルに、彼らが交渉に出向いた際には、文明圏外国家はまずパガンダ王国を通せと言われ、窓口で追い返されている。

 

 そして第2文明圏の列強レイフォルの保護国、パガンダ王国に彼らはやってきた。

 その時、交渉したのはパガンダ王国の王族だった。

パガンダ王国は、グラ・バルカス帝国が王国を通さずにレイフォルに直接交渉に行った事に対し、礼を知らない文明圏外の蛮族と罵しり、さらに莫大な賄賂を要求したようだ。

 グラ・バルカス帝国の交渉担当も皇族だったという情報もあり、パガンダとの交渉の際に


(我が帝国が、貴様らごときの低文明でかつ小国に対し下手に出てやっているのに、その言い分は何だ!!!)


と激高したという。

 交渉したパガンダの王族は、文明圏外の蛮族のたかが外交担当ごときが、文明圏のレイフォルの保護国たるパガンダ王国の王族に対し、無礼であるとし、不敬罪の名の元に処刑、この出来事により、グラ・バルカス帝国は激高、第2文明圏に宣戦布告し、パガンダ王国を強襲制圧し、列強レイフォルとの戦争も圧勝している。

 

 情報局長のアルネウスは、傍らの部下に話しかける。


「グラ・バルカス帝国について、その後新たに情報はあるか?」


「現在、グラ・バルカス帝国は、本国の位置さえ不明です。

 そして、レイフォルとの戦いから分析した結果、第8帝国の戦艦グレードアトラスターに関して言えば、我が国の最新鋭戦艦と同等かそれ以上の性能と思われます。

 全く信じられない事ですが、分析結果はそのようになっています。」


 突然の強国の出現に、情報局長は頭を痛める。

 

そして不可解な事象の2件目、第3文明圏フィルアデス大陸の北東に位置するトーパ王国、そこで第3文明圏にある神話に登場する存在、魔王ノスグーラが復活した。

その時、日本国と呼ばれる文明圏外の国が小隊をもって、魔王ノスグーラを倒したという。

魔王を倒す際に日本が使用した兵器、戦車と呼ばれる兵器は出力の関係上、我が国の魔導機関をもってしても、出力不足で動かないと分析されている。

小型にすれば可能らしいが……。


そして、信じられない事に、人が持ち運び可能な対空型の誘導魔光弾のような兵器が使用されたとある。

誘導魔光弾は、対艦用がまだ開発中であり、対空用にあっては、夢の兵器。

 人が持ち運び出来るまで小型化するというのは、夢のまた夢である。

 もしもこの報告が本当なら、日本国は神聖ミリシアル帝国の技術を上回ることになる。

 さすがに、この報告は荒唐無稽であり、情報局内でも信じる者は少なかった。

 しかし先日、パーパルディア皇国がフェン王国へ侵攻、日本とフェン王国の連合軍に対し、戦いで全滅に近い被害を出して敗れた事により、日本国の軍事技術に関する情報を「ウソ」と決め付ける訳にはいかなくなった。


「もっと日本に関する情報をかき集めろ!!」


 神聖ミリシアル帝国情報局長アルネウスは部下に対し、日本について調べるよう指示した。


◆◆◆


 日本国 防衛省


「意外と簡単に落ちるかもな……。」


 アルタラス王国を撮影した衛星写真を見ながら、担当者は分析する。

 現在アルタラス王国内のパーパルディア皇国軍は、首都ル・ブリエスから少し離れた場所にワイバーンロード用の滑走路を置き、基地を建設している。

 それが1点。

 2点目として、首都ル・ブリエスの港に戦列艦が20数隻停泊している。

 3点目は、首都から北方約40kmの位置に基地のようなものがある。

 アルタラス王国内でのパーパルディア皇国軍は、この3箇所に集中しており、幸運な事に、人口密集地に基地は無い。

 この3箇所はすべて艦砲の届く位置でもあり、皇国の主力をこの射撃により消滅させれば、アルタラス王国自身の手で王国を取り戻せるのではないか?


「うーん、そんなに甘くは無いかな。」


 戦争の準備は着々と進んでいた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] この総理を愚かだと詰る輩がいたら、そいつは極めつけのど阿呆なだけでなく、他者の批判しか能がない卑怯者だ。 現代日本には、そういう輩が多すぎる。マスゴミとか左翼とか。
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