皇国の狼狽
今回の話は私としてはいまいちです。
もっと描写の勉強を続けていきたいと思います。
皇国の狼狽
フェン王国 ニシノミヤコ沖合い約30km先海上
パーパルディア皇国皇軍 海上竜母艦隊は隊列を組み、整然と並んでいた。
竜母はワイバーンロードの発着を行うため、他の戦列艦に比べ、2回り大きい。
他国とは隔絶した圧倒的な造船技術があるからこそ、この船は造る事が出来る。
その見る者に圧倒的な存在感をもたらす竜母艦隊を眺め、艦隊副司令のアルモスは満足そうに頷く。
「竜騎士長!!」
すぐ横に立つ竜騎士長に話しかける。
「はっ!!」
「皇軍は強い!!!」
「存じております。」
「何故強いと思う?」
「総合力です。」
「そうだ!!だが、圧倒的な強さを誇るのは戦列艦もさることながら、この中核たる竜母艦隊がいるから強いのだ。
どんな戦列艦の大砲よりも、この竜母があればアウトレンジから攻撃できる。
騎士長、制空権を制する者が結局制海権、制地権を制する。私はそう思うのだ。」
「はっ!!先進的な考え方であります!!」
「パーパルディア皇軍が、今までの海戦で無敵を誇ったのはこの竜母艦隊があってこそ、この艦隊がある限り、皇軍は覇王の道を突き進むであろう!!」
「そして見よ!!この竜母艦隊の中でも、最新鋭の旗艦ミールを!!……すばらしい。
艦は大きく、機能美に満ちている。」
通常の竜母に比べ、砲弾への耐性を持たせるため、対魔弾鉄鋼式装甲をふんだんに使用した美しく、強く、そして大きな竜母がそこにあった。
ウゥゥゥゥ――!!!!!!
前方の護衛戦列艦から警戒音が上がり、話が中断される。
艦隊副司令アルモスは前方を注視する。
「!?何だ!!??」
非常に見えにくいが、青く塗られた2本の大きな矢が、超高速で旗艦ミールに向かっていく。
「は……速い!!!」
海上スレスレを飛んで来た『それ』は艦の前方で1度大きく上昇し、斜め上方から旗艦ミールに突入した。
F-2戦闘機から発射された93式空対艦誘導弾(ASM-2)のうちの2発は、時速1150km/hで、パーパルディア皇国皇軍海上竜母艦隊、旗艦ミールに命中した。
カッ!!!!
猛烈な閃光……。
旗艦ミールは光に包まれる。
ド……バーァァァァ……ン バアァァァッ!!!
巨大なミールの船体よりも大きな爆煙が轟音と共にミールを包み込む。
巡洋艦を1発で大破させられるほどの威力を持つ対艦ミサイルの直撃により、旗艦ミールは内部の人員、ワイバーンロードと共に、艦隊副司令アルモスの眼前で木っ端微塵に粉砕され、跡形も無く消滅した。
海上に爆音が鳴り響く。
「な……な……何だ!?今のは何なのだ!!??」
狼狽……。
「飛行物体、多数飛来っ!!!!」
各竜母艦隊は隊列を崩し、各々が勝手な動きを始める。
「ああっ!!!!」
閃光……そして轟音……。
「フィシャヌス轟沈!!!」
パーパルディア皇国の誇る最新鋭の100門級戦列艦フィシャヌス。
最新式の対魔弾鉄鋼式装甲を施した皇国自慢の艦が、たったの1発でなす術も無く、木っ端微塵に粉砕される。
猛烈な閃光と爆音が連続して発生する。
「竜母ガナム消滅!!!竜母マサーラ消滅!!!」
悲劇が報告され続ける。
連続して飛来する謎の物体はただの1発も外す事無く命中した竜母を消滅させる。
「ば……ばかな!!!最強の皇国竜母艦隊が、こんな……馬鹿なぁっ!!!」
艦隊副司令アルモスの脳は、自分の経験則から必死で原因を探そうとフル稼働する。
今までの戦闘の知識、経験では考えられない現実が眼前にあった。
「ま……まさか、これは古の魔帝の誘導魔光弾か!?」
「この艦に向かって来るぞ!!!」
見張り員が絶叫する。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
乗組員が絶叫する。
艦隊副司令アルモスの考察は途中で強制的に切断された。
日本国航空自衛隊によるF-2戦闘機を使用した対艦ミサイルの波状攻撃はパーパルディア皇国海上竜母艦隊とその護衛の砲艦、計20隻を全艦撃沈するに至った。
◆◆◆
フェン王国ニシノミヤコの沖合いに展開しているパーパルディア皇国大艦隊。
その大艦隊の旗艦、パーパルディア皇国の技術のすべてをつぎ込んだ最強の120門級超F級戦列艦パール(超F級とは、超フィシャヌス級の意味であり、今世界でドレットノート級を超える戦艦を超弩級戦艦と呼ぶのと同様)、その艦上にいた皇軍の将シウスは西を眺めていた。
この世界は地球に比べ、大きいため、水平線は地球よりもはるかに先にある。
シウスは西を見たまま動けずにいた。
その額はびっしりと汗に濡れている。
西の方角で猛烈な爆発が連続してあった。
その後、皇国竜母艦隊、計20隻と全く連絡が取れなくなっている。
すべての艦が魔通信に応答せず、そして信じられない事に、全ての艦の魔力反応が消えている。
非常に短期間で20隻もの列強艦隊が本部に通信を発する暇も無く沈む原因は、将軍シウスには想像できなかった。
艦隊はすでに戦闘態勢に入っており、確認のために砲艦4隻が現場海域に向かい始めている。
(もしも竜母艦隊が消滅していたら……。)
シウスの脳裏に最悪なシナリオが浮かぶ。
既にニシノミヤコには基地が造られ、陸戦隊主力は、首都アマノキに向け出陣し、支援攻撃のために砲艦20隻も出発した。
もう戦いは後に引けない。
今戦いは皇帝陛下の関心も高く、例え、敵が強かったとしても、撤退や敗北の2文字は許されない。
一笑に付した監査軍の報告書が思い出される。
シウスの思考は駆け巡る。
◆◆◆
竜騎士小隊長バルオスは眼下の惨状を見て、言葉が出なかった。
突然竜母が連続して大爆発を起こした。そのようにしか見えなかった。
彼は配下の12騎を引き連れ、ニシノミヤコに着陸する事を決める。
「前方に未確認物体!!真っ直ぐこちらへ飛んで来ます!!!」
一番目の良い部下が報告してくる。
バルオスは目を細める。
「なんだ!?」
何か矢のような物が超高速で突進してくる。
すれ違う気配。
パン!パン!!パン!!
彼の後方の空に黒い花が咲く。
「え!!!」
見方の精鋭ワイバーンロード竜騎士隊8機がズタズタに引き裂かれて落ちていく。
狼狽。
前方に何かが2つ見える。
「は……速い!!!」
考える暇もなくそれは上空を通過し、『それ』が通過した後、音が遅れてやってくる。
『それ』からは、2本の赤い炎が後ろに噴射されている。
「は……速すぎる!!!」
竜騎士団は飛行物体を追おうと機種を未確認飛行物体に向ける。
全く追いつけない。
「っ!!なんなんだ!!あいつは!」
飛行物体は常識では考えられないほど急激な上昇を行い、天に消える。
天空の破壊神はすぐさま機首をこちらに向け、戻ってくる。
「!何か発射したぞ!!!導力火炎弾か!!?」
ワイバーンロード竜騎士隊は回避し始める。
F-15J改の発射した04式空対空誘導弾(AAM-5)は超高速でバルオスの乗騎するワイバーンロードを襲う。
回避の暇は無く、彼とその部下は空対空ミサイルが着弾し、地上に落ちていった。
◆◆◆
日本国 山口県 捕虜収容所
パーパルディア皇国との戦争を想定し、刑務所を改装した捕虜収容所、ここに輸送されてきた皇国監査軍東洋艦隊の特A竜騎士レクマイア、彼はフィルアデス大陸共通言語と日本語を解するための辞書を片手に日本で発行されている新聞を読む。
一言ずつ訳しながら、読み進めていく。
かれの指先は徐々に汗に濡れる。
やがて、脂汗は全身に広がり、背中を濡らし、指先は震えはじめる。
新聞の見出しにはこうある。
パーパルディア皇国、日本人観光客を虐殺!!日本国政府「絶対に許すことは出来ない!!」政府は陸、海、空3自衛隊に対し、フェン王国からパーパルディア皇国軍を排除するよう指示!!
先日パーパルディア皇国に日本人観光客が虐殺された事件につき、政府は自衛隊に対し、フェン王国からパーパルディア皇国軍を排除するよう指示した事を明らかにした。
当社記者が戦闘の可能性を質問したところ、「新たな日本人の犠牲者を出さない。決して出させない。そのための軍事行動だ!!」と強く発言、パーパルディア皇国軍が退かない限り、戦闘は避けられない状況となった。
日本の本格的な軍事行動は戦後初、実に70年ぶりであり、自衛隊創設以来初めての事となる。
政府は決してこれ以上、フェン王国に取り残された日本人観光客に被害を出さない事が求められる。(記者 田辺宗一郎)(関連記事3面)
「や……やってしまった。」
ついに祖国がいつもの脅迫外交の手段に出てしまった。
組織が巨大すぎる場合、報告は上に行くほど簡素化され、情報は上の都合の良い様にねじ曲げられる。
日本が危険であるという兆候はすでにあったはずだが、超大国列強の悪い癖が出た形となってしまった。
もう日本との戦争は避けられないだろう。
……勝てるか?
レクマイアは考える。
日本の国力は自身が日本人の管理下にあっても身にしみた。しかし、所詮島国、もしも総力戦になればどうなるか。
……いや、転移直後の日本であれば、もしかすると、何とかなったかもしれない。
しかし、資源国クイラと、農業立国クワ・トイネ公国により、日本は補給が可能となってしまっている。
少なくともフェンでは負ける。
列強たる祖国の基盤を揺るがす事になるかもしれない。
レクマイアは皇国の未来を憂うのだった。
◆◆◆
フェン王国首都 アマノキ 東海岸
首都アマノキの東海岸では、新たに編成された陸上自衛隊フェン王国邦人救出隊の第1陣、戦闘団330名が荷揚げ作業を行っていた。
邦人を虐殺する行為に対し、何の躊躇いも無い敵の脅威があるため、即時戦闘に移行出来るよう新たに編成された戦闘団。
○ 陸上自衛隊員 330名
○ トラック 55台
○ MLRS 10基
○ 89式装甲戦闘車 2輌
○ 155mm自走榴弾砲5輌
○ 90式戦車 10輌
となっている。
フェン王国の剣王シハンは沖合いを眺める。
視線の先にはおおすみ型輸送艦から発出され、海岸と海を往復しているエアクッション型揚陸艇(LCAC)がある。
同揚陸艇はホバークラフトであり、海上のみではなく、海岸の上まで上がり、日本軍の車両や人員を排出している。
剣王シハンは傍らに立つ騎士長マグレブに話しかける。
「やはり日本はとんでもない国だな。船が陸まで上がってきておるぞ」
ホバークラフトは厳密に言えば航空機であり、浮いて走行するため、海上のみならず、突起物さえなければ陸上も通行できる。
揚陸艇から陸揚げされる戦車、自走砲……それらのどれもが彼にとって初めて見る物であり、用途、理解に苦しむ。
「本当に驚くべき国にございます。日本が今回の戦闘に参加する事になったのは、剣神の導きがあったとしか思えませぬ」
騎士長マグレブは答える。
揚陸作業は続く。
海岸には、パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊のワイバーンロード竜騎士団を葬り去った日本……その陸軍を一目見ようと、フェン王国の人々が集まる。
「日本の魔船が来ると聞いて見に来たが、船が陸を走るなんて、本当に魔船だ!!これでフェン王国は救われる!!!」
「列強も、まさか日本がこれほどまでとは思うまい。今見た自分でさえまだ信じられない。」
「ありがたや、ありがたや。」
フェン王国人の日本に対する期待は高い。
中隊は海岸にて準備を整える。
◆◆◆
パーパルディア皇国皇軍陸戦隊
陸戦隊と陸将ドルボはニシノミヤコを出発し、フェン王国の首都アマノキに向け進軍していた。
その数約3000名。
その進撃の中には、皇国の誇る陸戦の主力、地竜32頭と、偵察用ワイバーンロード12騎を含む。
ワイバーンロードは地竜にけん引された台車に乗り、地上を進んでいたため、F-15の攻撃から洩れていた。
現在陸戦隊は山岳を迂回中であり、ニシノミヤコの旗艦艦隊からの魔信不感地帯で一時休憩に入っている。
自らの進軍進路で、敵の隠れる可能性のある場所は事前にワイバーンロード3騎体制で索敵し、敵がいた場合、上空からの導力火炎弾でダメージを与え、歩兵のマスケット銃により殲滅する。
すでに3回、フェン王国の小隊を滅した。
「コウテ平野に出れば、この戦争は勝つ!!」
陸将ドルボは陸戦策士ヨウシに話しかける。
「はい……コウテ平野に出れば我が陸戦隊の本領が発揮出来ます。得意な布陣になった我が陸戦隊は組織されてから今まで、一度も負けた事はありません。
それに……今回は支援攻撃として砲艦20隻が加わります。
アルタラス王国では7倍弱の兵力差を覆し、我が国が圧勝いたしました。
アルタラスは文明圏外国家としては突出強かった、が……我が国が圧勝しました。
フェン王国程度……いや、もしかしたら日本国が参戦してくるかもしれませんが、その程度、アルタラスには及びますまい。」
ドルボの脳裏に日本人の腕時計が浮かぶ。
微かな不安……。
ドルボは言葉を飲み込む。今更作戦は止まらない。
日本人はどんな武器を使用するか、全く不明であり、強いかもしれないし弱いかもしれない。
未知数である。
しかし皇国は強い!!これはまぎれも無い事実である。
ドルボは不安を押し殺す。
パーパルディア皇国軍陸戦隊は進路途中にある集落を襲い、略奪を繰り返しながら侵攻してきた。
今後、休憩を挟み、平野部へ向かう予定である。
フェン王国の集落の人及び物は、兵の好きにさせている。
蛮族を好きに扱う権利くらい与えなければ、戦争の士気も上がらないだろう。
時折悲鳴が聞こえるが、いつもの事、気にも留めない。
パーパルディア皇国皇軍陸戦隊は次の進軍でコウテ平野に到達する。
◆◆◆
陸上自衛隊フェン王国邦人救出隊で第1陣として派遣された第1戦闘団、団長の天野は部下からの報告を分析していた。
敵、皇国陸軍を叩くにはコウテ平野が付近に民家も無く、最適だ。
しかし、後続の部隊は本戦に間に合いそうにない。
敵の現在地は判明しているが、付近に集落があり、空爆で戦力を削ぐ事が出来ない。
現時点投入可能な戦力は、この戦闘団330名と、トラック55台、MLRS10基、89式装甲戦闘車2輌、155mm自走榴弾砲5輌、90式戦車10輌、あとは海自にお願いしてヘリコプター搭載式護衛艦で運んできた戦闘ヘリAH64Dアパッチが3機のみである。
「コウテ平野で敵を叩くぞ!混戦になれば不可能だが、可能であれば状況により空自に支援攻撃を要請する」
「はっ!!」
フェン王国コウテ平野では、フェン王国の邦人の運命を決定付ける陸の戦いが始まろうとしていた。
◆◆◆
パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第2文明圏列強、ムー大使館
ムー大使館には、皇国第1外務局の職員ニソールが訪れていた。
ムー国大使、ムーゲが対応する。
「急な会談とは、いったいどうされました?」
ムーゲは皇国職員に尋ねる。
「現在我がパーパルディア皇国とフェン王国は戦争状態にある事はご存知と思いますが、日本国も参戦してくる可能性があります。」
「はい、存じております。皇国は日本国民約200名の観光客を国家の意思をもって殺した、と聞き及んでいます。
今回の戦いは、我が国、ムーも非常に関心をもって注視しております。」
「はい、その通りです。そして、今回観戦武官を日本側に派遣したと伺い、その真意を確認に参りました。」
「我が国は日本側に観戦武官を派遣したことは、間違いありません。」
事前情報として解っていたにも関わらず、その事実をムーの大使から告げられ、ニソールは衝撃を受ける。
ニソールは一呼吸置き、尋ねる。
「理由をお伺いしたい。」
「私は軍務専門ではありませんので、詳しい事は不明ですが、我が国の軍部が冷静に分析を行った結果、日本に派遣する事が相当と判断したものと思われます。」
「貴国は今まで、勝つ側にしか観戦武官を派遣して来なかった。
今回日本側に派遣したということは、まさか我が国が今戦いに負けると分析しての事でしょうか?」
「その事については、保秘命が出ていますので、申し上げる事は出来ません。
ただ、ムーはパーパルディア皇国へ敵対する意思は無いということはご理解いただきたい。」
「解りました。」
「あと一つ、これは大使としてではなく、個人的な発言として申し上げたいのですが、よろしいですか?」
「はい」
「パーパルディア皇国は、日本という国を分析し、勝てるといった結論に至ったからこそ日本人観光客を殺して、日本の逆鱗を叩き割る行為に出たと我が国は考えています。
我が国が分析した結果……ムーはとても同じ事は出来ません。
ムーは、日本に敵対できるほどの国力を持ち合わせてはおりません。
何度も申し上げるように、これはムーの正式意思ではなく、私の個人的な感想なのですが、私は貴国の勇気に敬意を払いたいと思います。」
「な!!!!」
第1外務局職員、ニソールの背中から冷や汗が吹き出る。
会談は終了し、彼は早急に帰省、「緊急調査報告書」の作成にとりかかった。




