日本国の意思2
日本の意思2
パーパルディア皇国 皇都 エストシラント 皇帝ルディアスの私室
第3文明圏の富が集まる皇都、その国力の象徴とも言える皇城に住まう皇帝ルディアス。彼の私室には1人の銀髪の女性がいた。
「レミール、この世界のあり方について、そしてこのパーパルディア皇国について、お前はどう思う?」
雑談中の質問。
「はい、陛下、多くの国がひしめく中、皇国は第3文明圏の頂点に立っています。
多数の国を束ねる方法として、我が国では恐怖を用いていますが、これは非常に有効的であると思います」
「そう、恐怖による支配こそ、国力増大のためには必要だ。
神聖ミリシアル帝国や、ムーは近接国と融和政策をとっている。そんな軟弱な国よりも我が国が下に見られている事自体が我慢ならない。
我が国は、第3文明圏を統一し、大国、いや、超大国として君臨する。
何れは第1文明圏、第2文明圏を配下に置き、パーパルディアによる世界統一により、世界から永遠に戦争を無くし、真の平和が訪れる。
それこそが、世界の国々の人のため・・・。
そうは思わぬか?レミールよ」
レミールは感動に震える。
陛下はなんという器の大きい男なのだろうか。
「へ・・・陛下がそれほどまでに世界の民のことをお考えだとは・・・レミール感動でございます」
レミールは、感動のあまり、目に涙を浮かべている。
皇帝ルディアスは続ける。
「そのためには、多くの血も流れるだろうが、それは大事を成し遂げるための小事、やむおえない犠牲だ。
そして、皇国の障害となる者たちは排除していかなければならない」
「はい!!!」
「そういえば、レミール、フェン王国と日本についてはどうなっている?そなたの口からも聞きたい」
「はい、皇軍については、フェン王国のニシノミヤコを落としました。その時に、200名ほどの日本人を捕らえ、日本との会談に役立てました」
話は続く。
「我が国の要求を伝えたところ、日本は曖昧な返事をしたため、捕らえた日本人200名を魔画通信で中継しながら殺処分いたしました」
皇帝は薄ら笑いを浮かべる。
「ほう・・それは、さぞかし慌てた事だろう。私の言ったとおり、教育の機会を与えたのだな。
して、反応は?」
「蛮族らしく、大声をあげていました。
陛下、あのような民は滅ぼした方が良い思とうのですが、何故あのような者たちにも教育の機会が必要なのでしょうか?」
「・・・私はどんな蛮族でも等しく滅びから回避する機会を与えなければならないと思っている。
それでも気付かぬ愚か者たちであれば、滅してしまえばよい」
「解りました。陛下、日本とはフェン王国の首都アマノキを落とし、現地日本人を捕らえた後に再度会談をいたします。
そこで、我が国の要求を拒否すれば、捕らえた日本人を再度殺処分してから本格的な殲滅戦に突入するのか、陛下の判断を仰ぎたいと思っております」
「そうだな、承知した」
ピピピッピピピッ・・・
レミールの左上に装着してあるブレスレットが光り始める。
怪訝な顔をするレミール。
「公務だろう?・・・今は公式な場では無い。私的に話をしていただけだ。そこの魔信を使って良いぞ」
レミールは皇帝に一礼し、私室の魔信を使用する。
「何事だ」
(日本の外交官が急遽話をしたいと申し出ておりますが、いかがされますか?)
「解った。行くので待たせておけ」
レミールは魔信を切る。
「陛下、今話していた日本が急遽会談をしたいと申してまいりました。教育の成果、陛下の御慈悲に答えるのかもしれません。
行ってまいります」
「蛮族とはいえ、国の存亡がかかっており、必死なのだろうな。予約無しでの会談については、許してやるがよい」
レミールは部屋を出ようとするが、はっとした表情で振り返る。
「陛下、今日は他にご予定がありますか?」
「いや、無い」
「では、公務終了後に戻ってまいってもよろしいでしょうか?」
「良いぞ」
レミールは満面の笑みで部屋を出て行った。
◆◆◆
第2文明圏 列強 ムー
技術士官のマイラスは、軍の上層部に呼ばれていた。
「と、いう訳で、技術士官マイラス、戦術士官ラッサンの2名は本日付けをもって、観戦武官として日本国への派遣を命じる」
申告が終わり、具体的説明に移る。
○ ムーと日本は2万1千km離れている。それだけ広大な距離であるため、航空機の航続距離は不足している。
○ よって、1番航続距離の長いレシプロ旅客機ラ・カオス(巡航速度280km/h、航続距離7000km)を使用し、同盟国連絡用のムー専用空港を使用、3回の中継地を経て日本に向かう。
○ 中継地では迅速な給油を行い、すぐに飛び立つが日本までは5日かかる。
○ 日本にはすでに連絡してあるが、日本の領空近くになると、日本の戦闘機の護衛を伴い、西側の都市福岡市の空港へ着陸する。
○ 日本からは、ムーの観戦武官の到着を前にして、日本国民の救出作戦が行われる可能性がある旨説明を受けており、我が国もそれを了承している。
以上の事から、戦闘途中からの観戦になる可能性が高い。
説明が終わり、マイラス、ラッサンの二人はすぐに準備にとりかかる。
3時間後、マイラス、ラッサンと食料等を乗せたムーの誇る最新鋭旅客機ラ・カオスは遥か彼方の日本国に向け、飛び立った。
◆◆◆
日本国 防衛省
防衛省まで足を運んだ首相の前で、幹部たちが説明を開始する。
「現在、パーパルディア皇国はフェン王国のニシノミヤコで再出撃の体制を整えつつあります。
陸上戦力は約3000名、どう使用するのか解りませんが地竜と呼ばれる竜が32頭確認されております。
この陸上戦力については、間もなく出撃すると思われます」
精巧な地図を見ながら説明が始まる。
「次に航空戦力ですが、竜母12隻から各20騎ずつ、計240騎の航空戦力を有するものと思われます。
ワイバーンロードは現在フェン王国上空の制空権を確保しているため主に地上への支援攻撃に利用されています」
「次に海上戦力ですが、砲艦と呼ばれる大砲を搭載した艦が211隻、先ほどお話した竜母が12隻、陸上戦力を運ぶ揚陸艦が101隻、計324隻の大艦隊がニシノミヤコ沖合いに展開しています。
しかし幸運な事に、竜母12隻と砲艦8隻の計20隻はニシノミヤコの西側約30kmの位置におります。
おそらく陸からの小船による急な攻撃を回避するために沖合いに出ているものと推測されます」
首相が手をあげる。
「敵は解ったが、どうやって追い払うのだ?」
「はい、まず前提として、我が国は現在、陸上自衛隊の大部隊を迅速に輸送できる手段がありません。
おおすみ型輸送艦3隻をフル稼働したとしても、フェン王国に大部隊が展開するのは相当日数がかかりますので、状況によっては少数精鋭で相手を足止めする事が必要になります」
話は続く
「作戦概要ですが、まずは制空権を確保するためにF-2戦闘機により対艦ミサイルの波状攻撃を行い、ニシノミヤコ西方約30kmに展開する敵竜母ならびに砲艦計20隻を撃沈、合わせてF-15J改により、艦隊護衛のため上空にいるワイバーンロードをすべて叩き落します。
これで敵の航空戦力は消滅します」
「敵陸上戦力は現在ニシノミヤコにいるため、空爆すれば民間人に被害が出る可能性があります。
なお、前述のとおり、敵陸上戦力は現在出撃準備をしており、出撃した場合は、ある程度平野部まで侵攻してもらいます。
その間、陸自は輸送艦のピストン輸送でフェン王国首都アマノキ東海岸に輸送いたします。
この時、状況により敵の陸上戦力を体制の整っていない状態で叩く必要性が生じる場合があります。
なお、ピストン輸送時に帰りの便で可能な限り日本人の避難誘導も行います」
「敵の海上戦力については、海上自衛隊が対応いたします。
敵の量が多いため、対艦ミサイルではコストがかかりすぎます。基本的には砲撃で敵艦隊を撃滅します」
自衛隊幹部の言葉に力が入る。
「今回の作戦では、日本人を殺された恨みも込めて降伏した兵を除き、パーパルディア皇国兵には消滅していただきます」
「敵陸上戦力主力を消滅させた後は、我が国の支援の元、フェン王国が主体となって、ニシノミヤコを敵から取り戻します」
「フェン王国からパーパルディア皇国軍をたたき出す作戦概要は以上です。
パーパルディア皇国本国にダメージを与えるためのその後については、現在計画中ですので後日説明いたします」
首相は満足そうにうなずくのだった
◆◆◆
パーパルディア皇国 皇軍
将軍シウスの命を受け、皇国陸戦隊は明日、ニシノミヤコを出撃し、約100km南東にある首都アマノキに向けて出撃する。
進撃ルートについては、部隊に地竜もいるため、山間部を迂回しコウテ平野を抜けアマノキに至るコースを選定する。
陸将ドルボは自分たちが勝つことを疑ってはいなかったが、僅かな不安を覚える。
こんな事は初めてだった。
今回我々は、文明圏外の蛮族、日本民族の一部殺処分を行った。
日本民族は怒り狂って襲ってくる可能性がある。
通常国であればよくある事、あっさりと滅すれば良いだけの事だ。
しかし・・・
将軍ドルボは日本人が身に付けていたあるものを眺め、不安になる。
手には自動巻きの腕時計が握られていた。
パーパルディア皇国にも時計はあるが、基本は壁掛けタイプであり、非常に大きい。
金持ちの友人から、列強ムーのお土産としてもらった「ねじ巻き式」の腕時計を見た時は驚いたものだった。
さすが列強たる世界一の機械文明のムーだと感心した。
しかし、眼前にある物はなんだ!?
ムーの時計よりも遥かに精巧に作られており、軽く、デザイン、そして質感が高い。
このような時計を持っていたのは1人や2人ではない。
ほとんどの日本人が身に付けていた。
しかも、そのうち半数以上の時計が・・・秒針が同時に動いている。
考えるだけで戦慄が走る。
陸将ドルボは不安を抱えながら出撃準備を行うのだった。
◆◆◆
長い飛行だった。
ワイバーンでは絶対に出来ない航程だ。
ムーを飛び立って5日目の朝、レシプロ旅客機ラ・カオスは日本に接近してきていた。
間もなく日本の防空識別圏と呼ばれる飛行圏内に突入し日本の戦闘機の護衛が来るはずだ。
「どんな戦闘機が来るんだろう?」
事前に日本にはレシプロ以外の推進方法があると聞いていた技術士官のマイラスはワクワクしながらそれを待つ。
マイラスとは裏腹に、戦術士官のラッサンは冷めている。
「どうせ大した事は無い」
そういった話をしていた時、
機内にいても解るほどの雷鳴の轟きが2回聞こえる。
条件反射的に首を窓に向ける。
矢じりのような形をしたプロペラが付いていない戦闘機とすれ違う。
その機はすぐさま旋回し、速度を合わせて旅客機と並ぶ。
「は・・・速い!!!」
二人は唖然とする。
「プロペラが無いぞ!!!!」
ラッサンは戦慄する。
ムーの旅客機は日本の戦闘機、F-15J改の先導により、日本へ近づく。
やがて日本の領土の上空に入り、福岡空港が近くなる。
空から見る初めての日本。眼下には人口150万人の先進的な都市が見える。
やがて、見たことも無いような立派な滑走路に着陸する。
自分たちの乗ってきた旅客機が・・・列強ムーの技術の結晶である最新鋭機がおもちゃに見えるほどの、巨大で美しい機体が空港の駐機場には多数並んでいる。
「とんでもない国に来たな・・・」
マイラスは自分の任務の重要性に身震いするのだった。
◆◆◆
パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第1外務局
日本国外務省の朝田と篠原は、パーパルディア皇国の第1外務局を訪ねてきていた。
レミールが応対する。
ゲスな笑みを浮かべ、レミールは尋ねる。
「急な来訪だな。まあ、国の存続がかかっているのだ。その気持ち、無理も無いな」
「皇国は寛大だ。アポ無しではあるが、国の存続がかかっている者たちだ。今回は許して使わそう」
話は続く。
「して・・・前回皇国が提示した条件、検討結果を聞かせてもらおうか」
朝田はゆっくりと発言する。
「今からお伝えする事は、日本国政府の正式な決定事項です」
「ほう、やっと皇国の力を理解したのか」
(譲歩を引き出すために交渉に来たか・・・小賢しいな)
「ではまずあなた方、パーパルディア皇国のために下記の提案をいたします」
朝田は公文書をレミールに手渡す。
○ 現在フェン王国に展開する全ての軍を即時撤退させること。
○ フェン王国に対し、被害を与えたため、公式に謝罪し、賠償を行うこと。
なお、賠償については建物に与えた実被害額の20倍を支払うこと。
○ 日本人の虐殺に関し、公式に謝罪し賠償を行う事。
賠償額に関しては被害者遺族に一人当たり100000000パソ(皇国通貨)分を、金に代え、支払うこと。
○ 今回の日本人虐殺に関し、日本の刑法に基づき、処罰を行うため事件に関係した者の身柄をすべて日本に引き渡すこと。
「!!!何だ!これは!!!」
「上記が確約されなければ、日本国は実力でフェン王国から皇軍を排除しいたします。もちろん、排除しただけでは終わりません。
なお、犯罪者には貴女も当然入っており、パーパルディア皇帝も虐殺の嫌疑がかけられている重要参考人ですので、身柄を引き渡していただきます」
「・・・やはり蛮族だな。皇帝陛下の御慈悲が解らぬとは・・・。
戦争により自国の民を滅したいのか?」
「いえ、我々は平和を愛する国です。しかし、平和に暮らしているだけの罪無き人々を一方的に虐殺し、土足で他人宅に踏み込んで来るような犯罪者に対して断固とした対応をしているだけです」
「・・・蛮族が・・・無礼な・・・」
「この犯罪者の引き渡しは、皇国民のためなのです。このままでは、本格的な戦争に発展いたします。
我々は、皇国の一般市民が攻撃に巻き込まれて死者が出ることを良しとしません」
「・・・馬鹿だな。お前たちの国は、文明圏外国家の中では自信があるのだろうが、列強と文明圏外国家の根本的な国力差が全く理解できていない。
まあ良い。
まだ教育が必要なようだな。
フェンのアマノキを落とした後、そこにいる日本人も全員殺処分する事としよう。
そこで、止められない自らの力を思い知る事になるだろう。
その後の会談が楽しみだな。
またスパイ容疑にかかった日本人の処分、魔画通信で特等席を用意してやろう。
お前たちは皇帝陛下の寛大な御心により、生かされているという事を忘れるな。
皇帝陛下がその気になれば、殲滅戦になるぞ?
すべての国民が処分されるということが現実になる事を理解しろ。」
「では、私どもも通告します。
日本国は実力をもって、フェン王国よりパーパルディア皇国軍を排除いたします。
排除後に、再度会談をいたしましょう。
犯罪者の引渡しは日本国政府の絶対に譲れない条件です。
日本の意思は強いとご理解いただきたい。
あと1点、日本国に降伏する場合は、白旗を振ってください」
会談は日本の攻撃の意思を明確に示し、終了した。
◆◆◆
パーパルディア皇国 皇都エスとシラント 第1外務局執務室
レミールは書記に作らせた報告書に目を通していた。
横には局長エルトも同席し、書面に目を通す。
「蛮族が・・・滅亡に向かって突き進む・・・か」
エルトは続ける。
「トップが馬鹿だと大変ですな。日本はすべての民が消滅の危機にさらされているという事が全く理解出来ていない」
エルトは哀れみすら感じる。
皇国は多くの国を滅してきた。
今回もその一部になるだろう。
坦々と処刑される蛮族の姿が頭に浮かぶ。
コンコン・・・
ドアがノックされる。
「入れ」
次長ハンスが決裁書類を持って駆け込んでくる。
その顔色は悪く、酷く緊張している。
「どうした?」
エルトは尋ねる。
「今回のフェン王国の戦いに関し、観戦武官の派遣の有無を列強に調査いたしました」
「神聖ミリシアル帝国については、今回も派遣をしないとの回答でした」
「うむ、いつもの事だな。で、ムーは何時派遣してくるのだ?」
ハンスの顔が緊張に包まれる。
「その・・・ムーは皇国へ観戦武官の派遣はしない旨回答してきました」
「ほう、珍しいな。ムーが派遣をして来ないとは。
戦闘の収集癖が無くなったのか?」
「・・・・・・」
次長ハンスが言葉を選ぶ。
「ん?どうした??」
「ムーは・・・・日本に観戦武官を派遣した事が判明いたしました」
「・・・え!!!!!!????」
◆◆◆
それは海面スレスレを飛行していた。
海に溶け込むように青く塗られた機体が10機、上空から見たら見失うだろう。
10機のF-2戦闘機は海面から20m程度の超低空をマッハ0.9の亜音速で飛行していた。
その主翼には各機4発の対艦ミサイルを搭載している。
編隊の成果目標は、フェン王国 ニシノミヤコの西方約30kmの位置に展開する敵竜母艦隊の撃滅である。
付近には20隻程度いるため、すべて撃沈できるよう、10機が割り当てられる。
10機のF-2の対艦ミサイルの数は計40発にも及び、数が多すぎて明らかにオーバーキルであるが、竜母艦隊に確実にダメージを与えるため、多めに機が割り当てられる。
後方上空にはE-767AWACS(早期警戒機)が飛行しておりすでに艦隊上空に12機程度の敵機がいる事も確認されている。
12機の敵機は、他のF-15J改が対応する予定である。
対艦攻撃に特化したF-2戦闘機は亜音速で海面スレスレを進む。
敵艦との距離はどんどん縮まり、すでにミサイルの射程距離に入っている。
敵艦との距離が100kmに迫った時、司令部から無線が入る。
「攻撃を開始セヨ」
10機の編隊から、計40発の空対艦誘導弾がパーパルディア皇国軍竜母艦隊に向かい、飛翔していった。




