開戦
残虐な描写が一部ありあます。苦手な方はご注意下さい
開戦
パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第1外務局
第3外務局長のカイオスは第1外務局に呼び出されていた。
本来ならば、外務局間で人事交流はあるとはいえ、公的機関同士の外務局間で、しかも局長クラスを呼び出すなどありえない事だった。
しかし今回は「皇帝の命令書」を携えて第1外務局の担当がカイオスの元にやってきたため、局長クラスが第1外務局に出頭していた。
会議は第1外務局長室で行われる。
第3外務局長カイオスは、第1外務局長室の前に立つ。
装飾品で飾られた重厚な扉、何度見ても嫌になる。
本来は自分が使う部屋のはずだった・・・カイオスはそう思いながら、部屋の前に立つ。
カチャ
第1外務局員が扉を開き、中へ案内される。
部屋の中には、第1外務局長エルト、次長ハンス、下位列強担当部長シラン、そして見たことの無い20代後半の美しい女性が1人座っていた。
カイオスは面々に1礼する。
「皇帝陛下命での、第1外務局からの呼び出しとは・・・。どういった御用件ですかな?」
「解らぬのか?身に覚えが無い訳ではなかろう」
座っていた美しい女性がトゲのある言葉を発す。
「失礼ですが・・・どちら様ですかな?」
カイオスが問う。
「外務局監査室のレミールだ」
外務局監査室、各外務局の不正や国への対応がまずい状況になった場合を考慮し設置された組織であり、同監査室によって監査を行い、場合によっては担当者を処分もしくは同外交案件について、同部署が担当する場合もある。
なお、エリート集団である外務局を監査するため、監査室の構成員はすべて皇族である。
つまり、眼前のレミールと名乗る女性は皇族という事になる。
カイオスはレミールに頭を下げる。
「して、いったい何の事でしょうか」
カイオスはゆっくりと問う。
「日本の件だ。確かに、文明圏外国の担当は第3外務局で間違いは無く、局長はカイオス、お前だ。
しかし、皇帝陛下は「日本にきっちりと教養を行え」と御発言された。
日本との初会議録を見たぞ。なんだ?あの国賓のような対応は?
日本のたかが1担当者にあろうことか局長その他重役が首をそろえ、対応し、しかもその内容が弱腰外交、いや、平伏外交というほかない。
列強たる皇国の担当が、こんな・・・陛下のご意思も読み取れぬとは・・・なさけないかぎりだ。カイオスよ」
カイオスは額に汗を浮かべる。
レミールは続ける。
「カイオスよ、今後日本との外交は、第3外務局ではなく、第1外務局が行う事とする。
外務局監査室から私が第1外務局へ出向するという形をとり、今後日本国への外交担当は私が行う事とする。
カイオスよ・・・皇帝陛下のご意思が読み取れぬ愚か者は皇国にはいらぬ。
今回処分されなかっただけでも、ありがたく思え。
今後、せいぜい気をつけるんだな」
(小娘が・・・偉そうに!!!!)
カイオスの拳に力が入る。
「は・・・承知いたしました」
第1外務局の重役の前での屈辱的なこの仕打ち、まるで晒し者だ。
第1外務局長エルト、その他は僅かに笑みを浮かべている。
こうして、パーパルディア皇国の日本に対する外交担当は、第3外務局から第1外務局へ権限委譲され、実質的に皇族であるレミールが担当となった。
◆◆◆
フェン王国 西部 ニシノミヤコ
フェン王国西部に位置するニシノミヤコ、パーパルディア皇国と戦争になった場合、そこは最前線となるであろう場所のため、武人が約2千人常時配備されている。
ニシノミヤコの約3km西側には人の住めない小島がある。
この小島はパーパルディア皇国が侵攻してきた場合の監視塔としての役割を与えられた武人が2名常駐していた。
良く晴れたその日、波は穏やかだった。
極僅かなそよ風が吹く。
エンジンの音、いや、エンジンそのものが無いため、音といえば波と風、そして虫と鳥の鳴き声くらいのものだ。
心地よい風・・・
見張り員の目にけし粒のような小さな黒い点が多数見える。
小さなけし粒は徐々にその姿を大きくし、それは自分たちに絶望を与えるものだと理解する。
「つ・・つ・・・ついに来たぞ!!!!!!
パーパルディア皇国軍だ!!!狼煙あげろ!!!!」
国家に対する攻撃の可能性がある場合のみに使用される最上級の警戒色、赤い狼煙が島からあがる。
「あ・・・あれは!!!つ・・・笛を鳴らせ!!!」
赤い狼煙を見たニシノミヤコの監視員は即座に通信用の笛を鳴らす。
「ピーーーッピーーーッピーーーッ」
その笛を聴いた武人たちは、さらに伝播のために笛を鳴らす。
ニシノミヤコの町全体に笛の音は鳴り響き、フェン王国の人々は何が起こったのかを理解する。
ニシノミヤコの港から内陸方向に約5km地点にある西城では、すぐに戦の準備が始まる。
ニシノミヤコの港付近にある兵の詰め所でも武人たちが戦いの準備を進めていた。
ついに、覚悟はしていたが、列強パーパルディア皇国軍がやってきた。彼らがとてつもなく強いのは理解している。
しかし・・・タダでは負けない!
フェン王国軍は覚悟を決めるのだった。
◆◆◆
パーパルディア皇国 皇軍
将軍シウスは部下からの報告を受ける。
すでに竜母のワイバーンロードがニシノミヤコ上空に達しており、偵察を開始している。
ニシノミヤコでは大軍はおらず、目立ったものといえば、少し内陸に入った所にある西城と、港近くの兵の詰所である。
皇軍は出港から現在まで敵に遭遇しておらず、監査軍がフェン王国水軍を滅したとの報告からも、もうフェン王国には水軍は残っていないのだろう。
「まずは海岸堡を確保したいな・・・。」
大軍を陸に上げるため、橋頭堡を確保したいが、いきなり港に船をつけさせてくれるほど甘くは無いだろう。
ニシノミヤコには一箇所だけ広大な海岸があるため、そこに上陸することを決める。
上空からの偵察情報によれば、海岸には貧相な木製の防壁が設置されているようだ。
「まずは、港近くの敵兵の詰所に艦砲射撃を行い、これを破壊する。
続いて海岸に設置された木製の防壁を砲で破壊する。
破壊後に、第一次上陸部隊として1000人の歩兵を上陸させ、海岸堡を確保し、その後地竜や主力軍の陸戦兵器の揚陸を行う」
「はっ!!」
将軍シウスの命は下された。
◆◆◆
パパパパパパパッ・・・ドドドドドドドーン
100門級戦列艦を含む皇軍の一斉射撃により、パーパルディア皇国とフェン王国の戦いは始まった。
強大な爆裂音・・・
砲が着弾し、炸裂する轟音・・・
静かだった町は燃え始め地獄のような世界が展開する。
港にあった兵の詰所は6発もの砲弾の着弾により、あっさりと崩れ落ちる。
町の所々から火の手と煙が上がる。
「キャーー!!わーー!!助けてーー!!!」
逃げ惑い、パニックになる人々。
その上から容赦なく砲弾の雨が降り注ぐ。
パーパルディア皇国軍の艦砲射撃は「強烈」の一言であり、港の兵の詰所と海岸の木製の防壁は粉砕された。
海から海岸を見る限り、海岸にある構造物は粉砕された木のみである。
パーパルディア皇国軍 歩兵第1軍第3小隊第4分隊長のアルマは、上陸用の小船の上から海岸を眺めていた。
表情には余裕が見られる。
上陸用の小船は総数100艇、人員にして約1000人が海岸に海岸堡を確保するために徐々に近づく。
フェン王国という文明圏外に属する蛮族を滅するために、我々はその先頭に立つ。
アルタラス王国を滅した時には、地竜の脇を抜けてきた敵騎兵をマスケット銃で撃って倒した。
何事にも変えがたい高揚感だった。
今回も、指を動かすだけで、敵を一撃で倒せる威力のある、皇帝陛下から皇国臣民へ頂いた銃がある。
今回も楽に勝てるだろう。
現に、海岸にはすでに木の残骸が散らばるのみであり、弓ではその先の森からは届くまい。
大型投石機があった兵の詰所はすでに魔道砲により粉砕された。
「楽な仕事だなぁ」
皇国全体が『必ず勝つ、しかも被害はほとんど無しで勝つ』と思っている。
小船は海岸に接岸し、上陸を開始する。
約1000人の全てが海岸に到着した。
反撃は全く無い。
少し散開し、辺りを見回す。
アルマは海岸の所々が少し色が異なることに気付く。
「ん?なんだ!?」
その時
ズボッ!!!!!!!!
海岸の砂と同じ色のヘルメットを被り、曲刀を帯剣している兵が海岸の所々から一斉に現れる。
「!!!フェン王国兵!!!」
アルマは銃を向けようとするが、射線上に味方兵がいるのを確認し、撃つ事が出来ない。
距離が近すぎる!!!
「イヤァァァァァッ!!!!」
かん高い気迫の篭った声をあげながら、フェン王国兵はアルマに向かってくる。
「ちくしょう!!!」
銃を放り投げ、腰にある剣を抜く。
「フオォォォォォォッ!!!」
フェン王国兵は上段から剣を振り下ろす。
カキン!!!
火花が散り、アルマの剣とフェン王国兵の刀がぶつかる。
次の瞬間
「なっ!!!」
剣を防ぐ事に必死だったアルマの注意は上に向く。
すぐに左斜め下から上に向かい、刀が向かってくる。
剣速が速い!!!!!!
ブシャッ!!!
「な・・・か・・・か・・・ぐ・・そっ!!」
フェン王国兵の刀は体に埋まり、アルマは血飛沫をあげながら崩れ落ちる。
海岸に突如として出現したフェン王国兵は200名にも及び、敵味方が入り乱れ、銃の使えない至近距離での戦いが始まった。
フェン王国軍の小隊長は日本の本を読みあさっており、パーパルディア皇国軍の艦砲射撃を有効に回避するには、構造物を作る事ではなく、爆圧が頭上を通り過ぎるよう鉄兜を被って土に埋まる事が有効だという事を理解していた。
パーパルディア皇国軍は過去にこのような戦法をとられたことは無く、混乱する。
しかし、1000対200であり、至近戦闘の斬りあいになっても、皇軍が優勢であった。
フェン王国軍約200名は次第に数を減らし、全滅した。
パーパルディア皇国軍の歩兵も400名が死亡したが、海岸堡の確保には成功し、陸戦兵器の揚陸を終えた。
◆◆◆
フェン王国 ニシノミヤコ 西城
パーパルディア皇国軍襲来の知らせをもって、すでに首都アマノキの剣王シハンへは、報告のための早馬を出した。
敵に与えた被害は初戦の400名のみであり、兵の詰所も海岸の防御柵もあっさりと突破されている。
騎馬隊600名を出したが、体制を整えた皇軍3000名の前に、なす術も無く全滅している。
彼らは今真っ直ぐにこの西城に向かってきており、間もなく着くだろう。
西城は、城としてはしっかりとした作りをしており、篭城するにも良い城だ。
簡単には落ちまい。
その間に、本国の援軍が来てくれれば良いが・・・。
城主ゴダンは篭城を覚悟した。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥ
ドーーーン!!!!
「何事だ!!!」
城門の方角から煙が上がる。
「じょ・・城門が破壊されました」
「な・・・まさか!!!艦砲のみではなく、人が持ち運び可能な魔道砲があるというのか!!!しかも、城門がたったの1発で破壊されるとは・・・なんという威力!!」
皇軍は地竜を先頭に進んでくるのが見える。
上空ではワイバーンロードが舞い始め、導力火炎弾を撃ち始める。
西城はあちこちで燃え始めた。
この日、フェン王国軍の死者1000名、パーパルディア皇国軍の死者20名を出し、フェン王国ニシノミヤコにある西城は陥落した。
◆◆◆
パーパルディア皇国 皇都エストシラント 第1外務局
実質的に日本国担当かつ全権大使となり、外務局監察室から第1外務局所属となった皇族のレミールは、この日、日本国の外務省の担当者に対し、
「すぐに来るように」
との内容で命令書を出した。
命令書は第3外務局を通さずに、直接日本国外務担当者のいるホテルへ届けられる。
少しイケメンの朝田と、丸型の体系をした補佐の篠原はその書面を見てすぐに準備を始める。
「すぐに来るようにとは、何事だ!?いったい」
「おそらく説明文のとおり、皇国の外交担当組織が変わったからだろう・・・しかし、命令書という文面が気になります。
国同士の話で命令とは・・・」
外務省の朝田と篠原は不安を抱きつつ、ホテルを出る。
皇軍の準備していた馬車に乗ると、馬車は静かに出発した。
イタリアのローマのような石畳が続くなか、馬車は進む。
車のようにサスペンションが無いため、尻が痛くなる。
(サスペンションは売れるな)
そんな事を思っているうちに、馬車は皇帝の住まう皇宮の門へ到着した。
第3外務局の時は、皇宮の外の建物に入っていったが、今回は皇宮の内部に担当部署があるようだ。
門を抜け、皇宮の敷地内に入る。
白を基として、美しい建造物が並び、庭は完璧に整備されている。
皇宮を見るだけで、この国の格式とプライドの高さ、絶大な国力を感じ取れる。
やがて、一角にある建物の前に馬車は到着した。
皇国の使者の招きにより、馬車を降車し、建物に入る。
優雅な庭、廊下を通過し、一行は重厚な黒色で出来た扉の前に至る。
皇国の使者が扉の中を確認してくる。
「どうぞ、お入り下さい」
使者の招きにより室内に入る。
その先には、豪勢な椅子に腰掛けた20代後半くらいの美しい銀髪の女性が座っていた。
細い体系をしており、頭には金の環をかぶっている。
彼女の鋭い眼光によって睨みつけられた朝田、篠原は一瞬硬直する。
日本国外務省の一行は皇国の使者から促され、椅子に着席する。
美しい女性は話し始める。
「パーパルディア皇国、第1外務局のレミールだ。おまえたち日本にたいしての外交担当だと思って良い」
「日本国外務省の朝田です。こちらは篠原といいます。
急な用件との事ですが、どのようなご用件でしょうか?」
沈黙。
「いや、今日はお前たちに面白いものを見せようと思ってな・・・皇帝のご意思でもある」
高圧的な声でレミールは語りかける。
「それはそれは、いったい何を見せていただけるのでしょうか?」
レミールは使いの者に目を走らせる。
ドアが開き、1m四方の立方体の水晶のようなものが現れる。
「これは、魔導通信を進化させたものだ。この映像付き魔導通信を実用化しているのは神聖ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ」
「はぁ・・」
朝田は間の抜けた声を出す。
デカイテレビ電話のようなものだろう。
いったい何が始まるのか。国力を見せ付けたいだけなのだろうか。
「これを起動する前に、お前たちにチャンスをやろう」
日本人からすると、少し質の悪い紙が配布される。
フィルアデス大陸共通言語で書かれたその紙には、要約すると以下の事が記載してあった。
○ 日本国の王は、皇国人とし、皇国から派遣された者を置くこと。
○ 日本国内の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ、改正できるものとする。
○ 日本国軍は皇国の求めに応じ、必要数を指定箇所に投入できることとすること。
○ 日本国は皇国の求めに応じ、毎年指定数の奴隷を差し出すこと。
○ 日本国は今後外交において、皇国の許可無くしてあたらな国と国交を結ぶことを禁ず。
○ 日本国は現在把握している資源の全てを皇国に開示し、皇国の求めに応じてその資源を差し出すこと。
○ 日本国は現在知りえている魔法技術のすべてを皇国に開示すること。
○ パーパルディア皇国の民は皇帝陛下の名において、日本国民の生殺与奪権利を有する事とする。
○ 日本国民は・・・・・・・
「な!!!!何ですか!?これは!!!」
拳を強く握り締め、朝田は抗議を行う。
この内容では、属国以下であり、最悪な植民地状態である。飲める訳が無い。
「皇国の国力を知らぬ者が行う愚かな抗議だな。おまえたちの国は比較的皇国の近くにあるにも関わらず、皇国の事を知らなさ過ぎる
当初いきがっていた蛮族も、普通なら皇都に来れば意見が変わる。態度も条件も軟化する。
しかし、おまえたち日本はこともあろうか、当初から治外法権を認めないだの、通常の文明圏国家ですら行わないような・・・そう、まるで列強のような要求だ。
お前たちは皇国の国力を認識できていない。もしくは外交の意見が実質的に本国に通っていない。
通っていても、それを認識する能力が無い。」
話は続く
「お前たちは皇国監査軍を押し返した。しかし、部内的な問題だが、当時の監査軍の長は精神が病んでいたにすぎない。
現に、死者・・・人的被害は我が方には1人もいないのだ。
これはつまり、監査軍におまえたちが勝ったのではない。我が国の部内的な問題だ」
一時の沈黙が流れる。
「では問おう。日本の外交担当者よ。その命令書に従うのか、それとも国滅びるのか」
命令書の内容に従える訳も無いが、いきなり列強と戦争をしても良いといった指示も受けていない。
「我々は、国交を開くために来た外交担当者です。この内容は、とても日本国政府が飲むとは思えませんが、本国に報告し、対応を検討いたします」
銀髪の女、レミールは悪魔のような笑みを浮かべる。
「ほっほっほ、そう言うと思ったぞ・・・やはり蛮族には教育が必要なようだな。皇帝陛下のおっしゃるとおりだ。」
レミールは続ける。
「哀れな蛮族、日本国民よ。お前たちは皇帝陛下に目を付けられた。しかし、陛下は寛大なお方だ。お前たちが更生の余地があるか・・・教育の余地を与えてくださった」
目の前の女は何が言いたいのか。真意を計りかねる。
「ホッホッホ・・これを見るがいい!!!!!」
パチン!!!
レミールが指を鳴らすと、眼前の水晶体に質の悪い映像が映し出される。
朝田はその映像を見て絶句する。
「つっ!!!!」
「フェン王国のニシノミヤコを攻め落としたが、こやつらは、我が国に対する破壊活動をする可能性があるのでな・・・スパイ容疑で拘束している」
首に縄をつけられ、各人が縄で繋がり、1列に並べられている人々、その数は200名近くにのぼる。
老若男女区別無く彼らは捉えられており、その服は朝田の良く知る服だった。
皆脅えきった顔をしている。
「に・・・日本人!!・・・彼らはフェン王国に観光に来ていただけで、何の罪も無い人々だ。首に縄を・・・・即刻釈放を要求する!!!」
沈黙・・・
「要求する?蛮族が皇国に要求するだと!?立場をわきまえぬ愚か者め」
レミールは通信用魔法具を取り出す。
「処刑しろ」
「なっ!!!!」
ズシャッ!!!!
剣が一列に並べられた一番左の男の首にめり込み、鮮血がほとばしる。
(あなたぁぁぁぁ・・・・いやぁぁぁぁぁぁ)
女性の悲鳴が聞こえる。
ズシャ!!!
叫んでいた女性の首に剣がめり込む。
(おかあさぁぁぁぁん・・・うわぁぁぁぁえ!嫌だ!!やめてぇぇぇぇ)
ズシャ!!!
小さな子供も処刑される。
処刑人は、1人ずつ、作業を行うように、一般人を処刑していく。
老若男女関係なく無慈悲にそれは行われていく。
悲鳴・・・絶叫・・・地獄絵図。
「や・・・やめろぉぉぉぉぉ!!!!今すぐやめさせるんだ!!!!!」
朝田は絶叫していた。
「お前たちは、自分が何をしているのか解っているのかっ!!!!」
(殺さないで・・・殺さないで・・・ズシャ!!)
水晶体からは地獄が放映され続けている。
「お前たちだと・・・蛮族風情が皇国に向かってお前たちだと!!?」
(いやっいやっ・・ズシャ)
「蛮族蛮族と偉そうにしているがな、あなた方こそ、我が国の国力を見抜けない。いや、見ようともしない。盲目的に目を瞑る・・・・愚か者だよ!!!!」
話している間も、日本人は処刑されつづけている。
「・・・皇帝陛下は何故このような愚か者たちに教育の猶予といった御慈悲を与えるのか・・。まあいい。そんな大口を叩けるのも、いつまでかな?ニシノミヤコには200名程度の日本人たちがいた。
フェン王国の首都アマノキにはいったい何人の日本人がスパイ容疑にかかるかな?
止めることが出来ない自分たちの国力の無さを痛感するが良い。
そして、本国が消滅の危機にさらされているということを学ぶがよい」
「アマノキが落ちるまでに、日本が我が国の要求を飲むか飲まないかを決めるがいい。
そこでアマノキにいる日本人の運命も決まり、日本国本国の運命も決するであろう。」
最後の1人が処刑され、水晶体の中に映る日本人はすべて動かなくなった。
「私は日本国の全権大使ではないが、これだけは言わせてもらおう」
朝田は怒りに震える。
「あなた方の行為は、日本国政府は元より、1億2000万人の日本人全てが猛烈に怒ることだろう。
何の罪も無い観光してきた、ただ平和に暮らしていた人を一方的に虐殺する行為は、あなた方は理解できないかもしれないが、日本人の目には、とても野蛮な行為であり、そのような野蛮な国は、すぐにでもなくなって欲しいと日本人は願うだろう。
今回の行為に関して、日本国は、決して見てみぬふりはしない。
行為の主犯者には必ず償いを受けてもらう。
日本国の本当の国力をあなた方が知ったときのあなたの顔が見物だ。
今回の行為は、平和に暮らし、平和を望んでいた日本国民の・・・戦闘の血を70年ぶりに呼び覚ます事になるだろう」
会談は終了した。
日本国政府が法律論争を繰り広げている間に、助けられたはずの日本人約200名が虐殺された。
この事実は激震となって日本中を駆け回り、かつて国力が100倍近く開いていた世界最強の国に戦いを挑み善戦、国土のほとんどを焼き尽くされるまで降伏しなかった日本人の・・・戦闘民族の血を、70年の眠りから解き放つ事となる。




