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間話 中編 オペレーションモモタロウ

 間話 中編 オペレーションモモタロウ


 陸上自衛隊トーパ王国特別派遣部隊先遣小隊


「それでは、今回の派遣の概要を説明します。私は今回の先遣小隊の百田 太郎といいます」


 小隊長が話し始める。


「今回は、トーパ王国へ、有害鳥獣駆除の名目で我々は派遣されるのですが・・・今回の害獣は知能を持っています」


 各人は配布されたレジュメを見ながら説明を聞く。


「魔王と呼ばれた者は、強力な魔法を使用するそうですが、最大のものでもその射程距離は1kmくらいとの事です」


 説明は続く。要約すると下記のとおりになる。


○ 魔王と呼ばれる害獣は知能を持ち、他の害獣を配下に置き、組織的に人間等各種族に対して害を与えようとする。

   なお、彼らの主食は人間である。

 ○ 魔王は寿命が無く、不老である。

 ○ 魔王は古の魔法帝国と呼ばれた古代文明が作り出したものらしい。おそらくは遺伝子操作に類似した技術であると思われる。

 ○ レッドオーガ、ブルーオーガと呼ばれる魔獣も相当の強さを誇るらしい。

 ○ オークと呼ばれる魔獣は全長2・5m程度の巨人のような者であり、知能は低いが弓は通る。

 ○ ゴブリンと呼ばれる魔獣は人間より力は弱いが強暴であり、すぐに数を増やす。

 ○ 現在、トーパ王国騎士団が城塞都市トルメスで魔王軍をくいとめている。

 ○ 本件任務の目的は、ザコではなく、魔王及びレッドオーガ、ブルーオーガの駆除である。


「以上だ・・・ところで・・・今回の派遣には、政府と組織の意図的なものを感じざるをえない・・・」


 レッドオーガとブルーオーガ、赤鬼、青鬼の退治だ。

 作戦名 オペレーションモモタロウ

 人員

 小隊長 百田モモタ 太郎タロウ

 分隊長 城島キジマ 仁史ヒトシ

 分隊長 猿渡 学 (サルワタリ マナブ)

 分隊長 犬神 剛 (イヌガミ ツヨシ)


 滅多に無い名前、そして鬼という敵、作戦名、今回の集められた先遣小隊は、意図的なものを感じざるをえない。


「鬼が島の鬼退治、桃太郎ご一行様ですね」

 

 誰かが言い放つ


「魔王退治の勇者様ご一行では?」


 会場に笑いが出る。

 小隊長百田が手を挙げると、笑いが収まる。


「では、出発は3日後、各自準備を怠らないこと、解散」


 各人は解散した。


 今回の派遣はの先遣小隊は、あくまで状況把握であり、目的物を撃破するのにどれほどの兵器の投入が必要かを判断することにある。

 もしも可能であれば、先遣小隊のみでの撃破も可であるが、あくまで無理をしない事が求められる。

 小隊規模は

 ○ 高機動車5台

 ○ 96式装輪装甲車1両

 ○ 89式装甲戦闘車1両

○ 10式戦車   1両

 かなり混成しているが、魔王という訳の解らない生物がどの程度の力を持っているのか不明であるため、このような編成になった。

 派遣先に川があると問題だが、今回の事前情報で極浅い川しか存在しないことが判明している。

 現地の城塞都市トルメスまでは輸送艦おおすみで運ばれる(もちろん護衛も付く)こととなった。

 城塞都市トルメスには、日本の城のような堀も無い事が判明する。

 国際緊急援助隊 陸上自衛隊トーパ王国特別派部隊先遣小隊(作戦名 オペレーションモモタロウ)は、魔王の脅威から亜人を含めた人類を救うため、トーパ王国の北東に位置する城塞都市トルメスに派遣されるのだった。


 

 トーパ王国 王都 ベルンゲン

 

 中世のヨーロッパのような城と静かな城下町、悪く言えば田舎の王国であり、良く言えば趣のある王都ベルンゲン。

 町を行きかう人々は、人族もいれば、獣人族、エフルと呼ばれる者たちもいる。

 多民族国家というより、多種族国家である。


 トーパ王国王都、ベルンゲンの王城において、国王ラドスは外交局からの報告を受け、驚愕していた。

 軍を動かす事に対して消極的な国であるはずの日本が、先遣小隊の派遣を決定した。

 日本の噂は良く聞く。


 ○ ロウリア王国主力軍を強烈な爆裂魔法で滅した。

 ○ 列強パーパルディア皇国の皇国監査軍を退けた。


 もはや伝説級である。

 それでいて日本兵の死者は今だにゼロという。

 小隊であっても、魔王を倒すかもしれない。

 幸いにも王国軍は多大な被害を出しながらも城塞都市トルメスで魔王の進撃をくいとめている。

 しかし、日本軍は伝説的な強さを有しているが、全員が大魔導師クラスなのだろうか?

 まもなく彼らが我が国の護衛を伴って、城塞都市トルメスに到着する。

 国王ラドスは、白馬に乗って、金色の鎧を身にまとい、マントを羽織った英雄の姿を想像する。

 いったいどんな方々なのだろうか?

 日本国軍は今日やってくる。


◆◆◆


 城塞都市トルメス


 騎士モアと傭兵ガイは、騎士団の命により、城塞都市トルメスの南門へ、間もなく到着する日本軍の案内のために来ていた。

 日本軍は、王国軍騎士団の護衛により、南門に到着する。

 南門から城までは自分たち、騎士モアと傭兵ガイが案内し、その後自分たちは日本軍に観戦武官として同行する予定だった。


「なあ、モア、俺たちが案内する日本軍って、どんななんだ?小隊規模しか来ないって聞いたが、そんな少数の援軍って意味あんのか?」


「日本の軍は、日本軍ではなく、自衛隊と呼ぶらしいな。しかし、確かに大規模な援軍なら嬉しいが、小規模な部隊が来て、しかも指揮権も異なっていれば混乱を招くだけのような気もするが、彼らの力が噂どおりだと、すごいことになるな。

 ただ、内容が内容だけに、私は半信半疑だが・・。」


「噂って?」


「ロデニウス大陸で、ロウリア王国の大軍を超短時間の猛烈な爆裂魔法の投射で滅し、そして列強パーパルディア皇国の竜騎士団22騎を、魔導船が滅した。

 全戦いにおいて、日本国自衛隊の死者が無いというものだ」


「うーん、そりゃウソだな。自国を強く見せようとするための情報操作ってやつだぜ」


「そ・・・そう思うか?やはり」


 歴戦をこなしてきた傭兵ガイは断定したように話始める。


「俺は、幾多の戦場を見てきた。圧倒的に強い軍もいたが、いくら武具や戦略、策略が優れていても、死者数に大きな差は出ることはあれど、ゼロなんて数は聞いたことがない。

 いくら技術を持とうが、戦略を駆使しようが、最前線で兵が死なないなんてありえないんだ。

 その国はロウリアやパーパルディア皇国に局地戦で勝った事はあったんだろう。

 まあ、列強に一部勝つだけでも十分強大な国だが、1人も死者が出ないなんて、盛りすぎだな。

 そんな国きらいだぜ。見た目を重んじる国なら、どうせ先遣隊も金ぴかな鎧で来るんじゃねえか?」


「うーむ、そうか・・・。しかしまあ、国賓のようなものだから、嫌いであってもくれぐれも失礼のないようにな」


「へっ、解ってらぁ」


 一時して・・・・


「モア様、見えました!!日本国軍の方が来られました」


 城門の上にいた衛兵がモアたちに伝える。


ブゥゥゥゥゥゥグオォォォォォォン


 深緑色の鉄の魔獣が遠くから近づいてくる。


「ブオォォォォォ」


 咆哮をあげながら近づいてくる。

大きい。

!!!!!!

 近づくにつて、地響きがする。

 なんという重さだろうか・・・近づいただけで地面が揺れるとは!!

 前を先導する王国軍の兵たちも、顔色が優れない。


「なんだ!!!この世のものとは思えない化け物は!!!!」


 つっ!!!

 騎士モア、傭兵ガイの前で一団は停車する。

 日本軍を先頭してきた国軍の騎士が馬から降り、モアに近づく。


「こちらが日本軍の方々だ。後の案内を頼む」


「はい!!」


 話をしているうちに、日本の鉄龍のうちの1つの扉が開き、中から変な格好をした者が降りてくる。

 ただ丸いだけの何の装飾も無い兜をかぶり、緑の斑模様の服を着ている。

 鎧は着ていないため、おそらく戦になったら装着するのだろう。

 モアの想像する騎士の格式や、華のある姿の欠片も無い。

 一言で表すなら、蛮族である。

 蛮族は、モアのへ近づいてくる。


「日本国陸上自衛隊トーパ王国特別派遣部隊先遣小隊、小隊長の百田太郎です。ご案内感謝いたします。

 よろしくお願いします」


!!!?

 目の前にいる装飾のかけらも無い冴えない男が先遣小隊のトップだと!!?


「トーパ王国世界の扉守護騎士のモアです。これよりトルメス城にご案内した後に、あなた方日本国軍へ同行いたします。よろしくお願いします」


 モアは日本軍の者にあいさつする。


(ん!!??)


 日本軍の軍人の左肩には白地に赤丸の模様が描かれていた。


(どこかで見たことのある形だな・・・ええと、何処だったかな?)


 モアは、少し気になったが、日本の軍人をトルメス城に案内する。

 城に至る途中、人々はこの世に何か異物が入り込んできたかのような目で自衛隊員を見る。


 トルメス城付近まで来た。

 城内に車両は入れないので、4人が下車し、トルメス城のトーパ王国軍魔王討伐隊長の元に挨拶に行く。

 他の者はそこで待機する。

 直近が最前線であるため、自動小銃等の武器も携行してゆく。

 

 トルメス城~どこか中世ヨーロッパを思わせるこの城は神話の時代、魔王軍の侵攻の後に建設された、歴史ある建造物である。

 もちろん、時代の流れと共に、今までに何度も大規模な改修を受けており、神代の面影は無い。百田は歴史的建築物に目を見張る。

 ただ、耳を澄ませば、遠くの方から微かに人の叫び声や、気迫の篭った声が聞こえてくるため、ここが戦場の最前線なのだと再認識する。


 騎士モアの後をついて、何度か角を曲がった後、隊長のいる部屋の前に到着する。

 重厚な扉、騎士モアは扉をノックする。


「入れ」


 中から命令が聞こえる。


「失礼します。日本の方々をお連れしました」


 中へ入ると円卓があり、その1番奥の男が立ち上がる。

 年齢40歳くらい、身長180cmくらい、筋肉質で白色短髪、白い髭、銀色の鎧を着装し、赤いマントを羽織り、帯剣している男性が立ち上がる。


「おお、日本の方々、よくぞ来て下さった。私はトーパ王国魔王討伐隊隊長のアジズです。」 


「日本国陸上自衛隊トーパ王国特別派遣部隊先遣小隊、小隊長の百田太郎です。よろしくお願いします」


 挨拶を交わす。

 一同は円卓に座り、状況の確認を行い始める。

 要約すると下記のとおりになる。


○ 魔王軍約2万は突如としてグラメウス大陸からトーパ王国管轄、「世界の扉」へ侵攻、守備隊は全滅した。

○ その後、魔王軍は城塞都市トルメスの北側に位置するミナイサ地区に侵攻し、これを陥落させる。

○ ここにおいて、トーパ王国軍の援軍が到着し、これより先の侵攻を被害を出しながらくいとめている。

○ 魔王はミナイサ地区の領主の館を使用し、外には出てきていない。

○ ミナイサ地区には、まだ逃げ遅れた民間人約600名がおり、彼らはミナイサ地区中心部の広場に、昼間に一度集められ、毎日数人がつれていかれ、魔王その他の餌にされている。

 そのため、当初600名いた逃げ送れた民間人もその数を減らし、現在は200名まで減っている(食されたため)

○ 魔王軍に与えた被害はゴブリン約3000体、オーク10体であり、こちらの損害は騎士約2000名がすでに死亡している。

○ 3回ほど、ミナイサ地区の人質救出作戦が行われたが、広場に至る大通りには必ずレッドオーガもしくはブルーオーガのどちらか1体がおり、多大な損害を受け撤退、細道を行った騎士は各個撃破され、戦線は硬直している。

○ 人質は毎日食されており、早く助けなければならない。


 説明を聞き終えた百田は、早急に人質を救出する必要がある事を理解する。


「なるほど・・・事態は切迫していますね」


「そうなのだ・・・オーガさえ倒せればなんとかなるのだが・・・。」


「オーガとは?」


「力は強く、人間の何十倍もあるが、問題は彼らが疲れを知らない事だ。食事が出来る限り永遠に力が落ちずに動き続けられる。

 さらに、奴の毛は針金のようになっており、剣や槍を受け付けない。バリスタはたぶん通るだろうが、素早い動きをする彼らに当たらないのだよ」


「早急に鬼退治をする必要がありますね」


 百田は、民間人救出のため、急速を要し、本隊到着まで待っていれば、民に多大な被害を被る緊急事態と判断、小隊長の権限をもって、オーガを退治することを決意する。


「とりあえず、準備が整いしだい、私たちは鬼退治をしたいと思います」


「おお・・・・列強軍を退けた日本軍が動いて下さると、百人力、いや、万人力ですな。それに合わせて騎士団も出しましょうぞ」


「まずは作戦の協議を行いたいと思います」


「では、1時間後に協議に入りたいと思う。地図等準備するので、1時間待たれたい」


 会議は一旦休憩に入る。

 皆が席を立とうとしたその時、黒い物体が1体、窓から飛び込んで来た。


◆◆◆


 モア視点

 会議は続いている。日本がオーガを倒したいと言っているが、どう考えても彼らが連れてきた少人数でオーガに勝てるとは思えなかった。

 オーガの動きは速く、そして強く、疲れを知らない。

 彼らの鉄龍ならば、力だけはオーガよりも強いだろうが、あの速い動きについていけるとは思えない。

 オーガが疲れを知らないのは、おそらくその有り余る魔力で微弱な回復魔法をかけ続けて筋肉の疲労を除去しているのだろうと言われている。

 回復魔法の連続使用であれば、中途半端な傷であればすぐに回復してしまう事を意味する。

 古代の勇者たちは、あの化け物をどうやって退治したのだろうか。


 ん?


 会議が一旦終わり、次は作戦会議か・・・。


 パリン!!!


 天窓のガラスが砕け散る。

 入ってくる黒い物体。

 物体は漆黒の羽を生やし、白い服を着て会議室に降臨する。

 あ・・・あれは!!!


「魔王の側近、マラストラス!!!」


 誰かが叫ぶ。

 剣を抜き、マラストラスへ向け、構える。

 私が剣を構えたところ、会議室にいた他の騎士たちもすでに剣を抜いていた。


「ホホホ・・・人間の頭を討ち取るために、我が足を運ばねばならぬとはな・・・。

 永き時をへて、なかなか進化したようだな、人間どもよ」


 マラストラスはそう話すと、騎士隊長へ向かい、手を向ける。

 手の先は、魔力により空気が歪み、黒い炎が現れる。


「させるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 副騎士長が距離を詰め、魔族マラストラスの横から斬りかかる。

 気持ちの悪い笑みを浮かべ、マラストラスは手を副騎士長へ向け、魔法を発動する。


「ヘル・ファイア」


 黒い獄炎の炎が副騎士長に襲いかかる。


「ギィアァァァァァァァァ!!!」


 黒い炎は彼を焼き尽くす。断末魔と熱風が辺りを支配する。

 日本軍の者たちは、あせった顔をしている。

 マラストラスから離れようとしているようだ。

 やはり、数々の伝説は噂だったのか?

 日本の軍人たちは、背負っていた黒い杖を魔族マラストラスへ向ける。

 いったい何が出来るというのか。


「正当防衛射撃!!!て――――っ!!!」


 ダダダダダダダ・・・・・・

 耳を塞ぎたくなるような大きな音、日本軍の4人が持った杖の先から出る炎、そして杖から出る超高速の光弾がマラストラスへ襲い掛かる。


「がっ!!!」


 断末魔をあげる暇もなく、穴だらけになったマラストラスは崩れ落ちる。そして、マラストラスの後ろの石壁も一部が崩れ落ちた。

 静粛があたりを支配した。


◆◆◆


 マラストラス、魔王の側近であり、こいつには散々苦労させられた。

 変温動物であるワイバーンは、寒いトーパ王国には存在しない。そんな中、空中から何度も打ち下ろされる魔法には、本当に苦労した。

 こいつ1体のせいで死んだ騎士は100人を超えるだろう。

 しかし、奴は騎士団のトップを狙って単体で攻撃を仕掛けてきた。

 彼の強大な魔力は飛ばなくても十分脅威である。

 しかし、日本軍の軍人が魔杖で魔獣マラストラスを滅した。


「百田隊長、マラストラスを滅していただき、助かった。礼を言う」


「しかし・・・判断が遅れたために、副騎士団長が・・」


「何をいう。そなたらがいなかったら、我らは全滅していた。それほどまでにこいつは強力な魔獣だ」


 1時間後、ミナイサ地区の民間人救出作戦の会議が始まり、会議は深夜まで続いた。



 2日後―早朝


 日本国陸上自衛隊トーパ王国特別派遣部隊先遣小隊は、ミナイサ地区へ城門から足を踏み入れるのだった。


◆◆◆


(怖い・・・怖い・・・誰か、た す け て )


 城塞都市トルメス、ミナイサ地区で飯屋を営んでいたエレイは恐怖に震えていた。


 魔王の侵攻で生き残った者たちは、昼間に一旦広場に集められ、夜には魔物に管理された建物内へ移動させられる。

 広場では、周囲を魔物が警戒し、逃げ出せない。

 現に逃げようとした人はいたが、すぐに捕まり、民衆の前につれてこられ、その場で料理されてしまった。

 魔物たちは料理される被害者を指差して、「生き踊り、はっはっは」などと笑っていた。

 毎日、何人かが料理のために連れて行かれた。


「今日は・・・おばえと、おばえと・・・おばえだな。」


 隣に住んでいた幼馴染の少女メニアも昨日連れて行かれた。

 メニアの両親は娘をつてれいかれまいと、必死に戦ったが、3人そろって連れて行かれてしまった。

 生き地獄。

 何故今、魔王が・・・御伽噺に載っていたような恐怖が復活したのだろうか。

 神様がいるなら、助けてほしい。

 幼馴染で、傭兵になったガイ君、騎士モア様がいたな。助けに来てくれないかな。

 モア様は、世界の扉に勤務していたから、もう死んじゃったかも。


 何回か、王国騎士たちが助けに来ようとしたけど、今広場と城門を結ぶ大通りに立っているレッドオーガにやられてしまった。

 昔話では、魔王軍とエルフの戦いで、エルフの神の祈りを聞き届けた太陽神がその使いをこの世に降臨させたとあった。

 私はエルフだ。

 神ではないけれど、祈ろう。

 神様!神様!どうか皆を、そして私たちを助けて下さい。

 魔を滅して下さい!!再び太陽神の使いを降臨させて下さい。お願いします!!


 祈るが、何も起きない。


「ええと、今日の肉はと・・・」


 また、魔物が料理のために各種族を見ている。


「魔王様は、今日はあっさりしたものがいいと言っていたな」


「今日は野菜をメインにして・・・」


 皆に安堵の雰囲気が流れる。


「味付け程度に、エルフの女くらいが丁度いいだろう。おばえな」


 魔物がエレイの右手を掴む。


「イヤァァァァァァァァァ神様ァァァ助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


「ゴラ、暴れんな」


 その時だった。


 ドウン・・ドウン


 レッドオーガの周りが煙に包まれた。


◆◆◆


 大通りに陣取るレッドオーガの脇道から投げた手榴弾が鬼の足元で爆発した。


「こっち向いた!!一時退避!!!」


 自衛隊員が小道に向かって走りはじめる。


「グゥゥゥゥゥグォォォォッォ!!!!!」


「怒ってる怒ってる!」


 手榴弾の爆発は全く効いていないのか、オーガは従道路の小道に向かって走りはじめる。

 速い!!


「よし、民衆から射線がずれたぞ!!」


 隊員たちは何とか89式装甲戦闘車の後ろにまわり込む。

 小道をオーガが走ってくる。

 射線上には民間人はいない。


「てーーーっ!!!」


 ドンドンドンドン!!!

 89式装甲戦闘車の35mm機関砲が咆哮をあげる。

 人間が触れれば蒸発するほどの威力のある35mm砲により、オーガの体に大穴が多数あき、糸人形の糸が切れたかのように鬼はその場に倒れ込む。

 

 即死。


 他の魔物の群れは89式装甲戦闘車めがけて突進してきた。


◆◆◆


 自衛隊等、民間人救出作戦に参加している別働隊は、涸れた上水道を通じ、広場の真ん中にある涸れた噴水から飛び出してきた。


 ゴブリンロードが10体ほど民を見張っている。

 

 ダダダダダダダ・・・


 噴水だった建物の上の少し高い位置から、ゴブリンロードを排除する。

 騎士モアと、傭兵ガイも噴水から飛び出す。


「まったく・・・こんな敵の真ん中に出る作戦を考える奴は、正気の沙汰じゃないぜ」


 そんな事を言いながら、ガイは辺りを見回す。

 ゴブリンロードに手を引かれるエルフの女性を発見する。


「あ・・・あれは!!!!!」


 ガイは一直線にエレイへ向かい、ゴブリンロードに剣をふり下ろす。


 ピギャァ!!!


 ゴブリンロードは、ガイの剣撃により、絶命した。


◆◆◆


 エレイは死を覚悟した。

 魔王の食事の肉にされるため、化け物が私の手を引く。


「イヤァァァァァ」


「ゴ・ゴラ、暴れるな」


 なおも手を引こうとされたとき、大通りにいた鬼の足元が爆発した。

 鬼は怒りの顔を浮かべ、脇道に入っていった。


 ドグン!!ダダダダダ・・・!!

 

 大きな何かが破裂する音が聞こえる。

 他の魔獣たちも、僅かな魔物を残し、音のする方向へ走っていく。

 その時、広場の真ん中にある涸れた噴水塔から、緑色の変な格好をした人間が現れた。

 斑模様で気持ち悪く、一瞬魔物と間違えたが、良く見ると人間であり、手には黒い杖のような物を握っていた。

 彼らはその杖を使い、激しい音の出る何かの攻撃魔法で魔獣を葬りさった。


 私の手を握っていた魔物は唖然としている。

 1人の剣士がその魔物を斬って捨てた。

 彼は・・・私の良く知る人物だった。


「よ・・・よぉ、エレイ、大丈夫だったか?」


 幼馴染の傭兵ガイだ。

 彼は、良く私の店にも食べに来てくれた。

 3年前には付き合ってほしいと告白されたが、丁重にお断りした。

 だって、現実を見たら、傭兵って安定していないんだもん。


 でも・・・私が死にそうな時、助けてくれた。

 こんなに怖い魔物がいる戦場に、私を助けに来てくれた。


(ちょっぴりカッコ良かったよ・・・)


 そう思って、ガイに話しかけようとした、その時、


「エレイさん、大丈夫ですか?」


 後ろから声がする。この声は!!!

 光の速さで振り返る。


「モ・・モア様ん」


(いかんいかん、一瞬気が迷ってしまった。戦場まで助けに来てくれたのは、モア様も同じ。やっぱりモア様は、私の白馬の王子様よ。絶対に逃がさん)


「私のために来て下さったのですね。エレイ、カ・ン・ゲ・キ!」


 救われない傭兵ガイだった。


◆◆◆


 広場にいた魔獣は駆逐された。

 トーパ王国騎士団は、その動きに呼応し、城門から出発、広場に向かってきている。


 自衛隊員は市民の避難誘導を開始した。

 城門までの距離、約1.5km

 近いが遠い距離。


 民を交え、彼らは移動する。

 約500m進んだ所でトーパ王国騎士団と合流、共に城門に向かう。

 その時だった。


「グォォォォォ!!!」


 雄叫びが聞こえる。


「ちくしょう!ブルーオーガだぁぁぁぁ!!」


 民たちはパニックになった。


◆◆◆


 レッドオーガは、斑模様の服を着た兵が引き付けてくれた。

 自らを犠牲にして、私たちを助けてくれるとはありがたい。

 そして、噴水から出てきた斑模様の兵たちは、付近の魔獣を排除し、民たちは城門へ向かう。

 その時、北方からブルーオーガがオーク40体を引きつれ、走ってくる。

 城門までには必ず追いつかれるだろう。

 オークは、騎士10人でようやく1体を討ち取れる。

 オークが集団で襲ってきたら、単純に10倍の騎士で勝てるものではない。

 そのうえ、今回はあの伝説の魔獣、ブルーオーガも向かってきている。

 ダメだ。せっかく助かると思ったが、どう考えても助からない。

 斑模様の兵は良くやってくれたが、ここまでだろう。


 ん?


 斑模様の兵たちが、私たちの逃げる後方、オークの群れをオーガが向かってきている方向に並ぶ。

 数は15名ほど。

 たったこれだけの兵では決して勝てる戦力ではない。無駄だ。

 少しでも民の逃げる時間を確保するため、その民を守ろうとする意思は買うが、しかし、15名では、死体が増えるだけであり、ほとんど時間稼ぎにもならないだろう。


 にも関わらす、トーパ王国騎士団は民と共に城門へ向かう。

 他国の兵を捨て駒にしてでも、自国民を守るということか。

 その心意気は理解出来るが、捨て駒にされた国の兵はどう思うのだろうか?


 斑模様の兵は、横1列に並び、黒い杖を魔物に向ける。


「てーーーっ!!!」


 タタタタタタ・・・・


 光の弾がオークたちに吸い込まれる。

 あの強力な魔物、オークが、いともあっさりと崩れ落ちる。


 タタタタタタタ・・・・


 攻撃は続く。


「グォォォォォ」


 オークのほとんどは倒れたが、兵の光弾を弾きながら突進してくる魔物が1体。


 ブルーオーガ!!!

 

 彼らの攻撃は全く効いていない。ダメだ!!!

 いったいどうすれば・・。

 その時だった。


「城島ぁ!!!カールグスタフを使用しろ!!!」


 特大の魔杖を持ったキジマと呼ばれた人物は、筒を背負うようにしてブルーオーガに向ける。


「てーーっ!!!!」


 パズーン・・・・。


 筒の前と後ろから煙が吹き出ると共に、爆音が辺りに木霊する。

 次の瞬間、伝説の魔獣、ブルーオーガがあっけなく爆散した。


◆◆◆


 魔物の侵攻を何とかくいとめた陸上自衛隊は民間人の避難誘導を行い、トルメス北側のミナイサ地区から彼らを救い出した。

 しかし、危なかった。あのブルーオーガという魔物は、自動小銃が全く通じなかった。伊達に鬼を名乗っていない。

 まさか、小銃が通じない生物がいるとは・・・。

 そういえば、ワイバーンにも銃は通じなかった。

 つくづく異世界だ。

 敵の大半を引き付けた部隊は、35mm機関砲で鬼を倒し、避難誘導していた部隊は念のために持っていったガールグスタフまで使用した。


「とりあえず、民間人が救出できてよかった」


 百田隊長は、満足に頷いたのだった。



 その日のモアの日記より


 私は今、歴史の中にいるのを実感している。

 神話に記されし伝説の魔王軍、フィルアデス大陸を瞬く間に制圧したとされる恐怖の魔王軍と今、正に戦っているのが、精鋭トーパ王国軍だ。

 現在城塞都市トルメスにおいて、多大な犠牲を出しながらも魔王軍の侵攻を防いでいる。

 かつての種族間連合よりも、地の利を含めて我々は遥かに強力なのだろう。

 しかし、精鋭トーパ王国軍に多大な犠牲を与えていた魔物、レッドオーガとブルーオーガだけはトーパでは討ち取れなかった。

 かつての勇者たちはどうやったのだろうか。

 そう思っていた。

 しかし、今日、歴史的な事件が起こる。

 

 レッドオーガとブルーオーガが、新たに出現した新興国家、日本の使者によって、いともあっさり倒されたのだ。

 彼らの使用する武器の威力はどれも我々の常識では計れないほどの威力を有していた。

 伝説にまで謳われた魔獣たちを、日本はその辺の害獣を駆除するかのように、いともあっさり倒してしまった。


次回、間話後編 魔帝の足音は、8時間後の、

6月20日午前0時00分に投下します。

書いた後気付いたのですが、エルフとエフルの間違いが多いですね。

今度なおします。

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― 新着の感想 ―
[一言] この回と前の回共に「エフル」になっている箇所がありますよ。
[気になる点] 20話では国王トーパ16世と表記されていますが、21話では国王ラドスと表記されています。どちらが正しいのでしょうか?
[良い点] コミック版の連載が今この辺りですが、原作を改めて読むと「この世界での日本はかくあるべし」といった所がすごく良いです [一言] コミック版もこちらもですが、新しい話を少しでも早くお願い致しま…
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