それぞれの苦悩
それぞれの苦悩
大東洋諸国会議―
大きな出来事が起きた場合に臨時的に開かれる会議である。参加国は文明圏外の国々で構成される。
元々会議の提唱国が文明圏外の国であったため、列強のパーパルディア皇国や、第3文明圏の国々は「会議は必要が無く、無意味」として不参加となった。
会議に文明圏の国々はいないため、過去に開かれた会議では、国同士の会議としては珍しく、比較的に本音を交わすオープンな会議が行われてきた。
今まで行われた会議では、パーパルディア皇国の動向等が会議の主題となることが多かったが、今回は違う。
今回の大東洋諸国会議の目玉は急遽現れた新興国家、「日本」についてである。
「これより大東洋諸国会議を開催します」
各国の代表には、いままでに日本が起こした代表的な出来事が記されている。
要約すると下記のとおりになる。
○ 日本は大東洋に突如として現れた新興国家である。本人たちの言い分では、この世界に突如として転移したと申し立てる。しかし、国家単位の転移は神話以外に歴史上の実例は無い。
○ 最初の接触はロデニウス大陸の農業立国、クワ・トイネ公国の竜騎士が、日本の鉄竜を発見する事による。
○ 日本は大量の食糧の買い付けを求め、インフラをクワ・トイネ公国に輸出してくる。
○ ここで、ロデニウス大陸最強の国、ロウリア王国とクワ・トイネ公国が戦争状態となる。
○ 日本はクワ・トイネ公国に味方し、ロウリア王国と戦うこととなる。おそらく「食料の確保」が原因と思われる。
○ ロデニウス沖大海戦にて、日本国海上自衛隊の護衛艦隊はたった8隻で、ロウリア王国海軍4400隻を退け、ワイバーン部隊にも大打撃を与える。
○ 陸戦においては、クワ・トイネ公国の城塞都市エジェイの西側で行われた戦いにおいて、日本はロウリア王国軍の主力を壊滅させ、同戦争の大勢を決することとなる。
なお、この戦いを目撃した多数のクワトイネ国民によると、火山が敵陣で爆発したかのような猛烈な爆裂魔法が使用されたようである。
○ フェン王国の軍祭参加の際、パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊のワイバーンロード部隊を各国武官の前において、短時間で叩き落とす。
ここにおいて、ロデニウス大陸での日本のありえないほどの武勇伝が誇張でないということを、諸々の国が認識し始める。
「今回の参加国は日本と国交を開いている国が多くを占めるが、共通認識としては、日本がとてつもない力を持った国だということじゃ」
「各国の認識をお願いしたい」
マオ王国の代表が挙手し、話始める。
「我が国は日本とは国交が無いが、かの国をとても危険な存在とみなしている。何故ならば、気に食わないロウリア王国を滅した。しかも、圧倒的な戦力で、たったの1回の戦いでロウリア王国ほどの大国の陸軍主力が叩き潰されている。いつこの力が自分達に降りかかってくるかが不明である。この国はとても危険だ。」
次に、トーパ王国が話し始める。
「トーパ王国です。我々は、日本を危険とは思っていない。彼らは自分に対して危害が加えられない限り、決して自分からは襲ってこない。しかも、超技術の書かれた本が、彼らの国では普通に書店に売っており、それを他国が買う事を妨げない。日本がいるだけで、その国と関わった国は、技術水準が上がる。日本はパーパルディア皇国以上の技術を持っている。」
「シオス王国です。我々も、トーパ王国と同じ考えです。こちらから攻撃しない限り、彼らは何もしてこない。
パーパルディア皇国のように貿易、技術供与のために奴隷の差し出しを言ってくる訳でもない。
ロウリア王国の案件は、クワトイネ公国からの食料輸入が途絶えたら、餓死者が出るという、特殊な状況下だったようだ。彼らは文明が進みすぎているだけなのだ。
先日うちの外交官が日本の本屋で、「武器の歴史」という本を見つけましてな。参考までに紹介したいのですが、パーパルディア皇国の歩兵に配備されている、プリントロック式のマスケット銃と呼ばれる最新兵器ですが、その本に載ってましたよ。300年以上前の兵器であり、今では骨董品としての価値があるそうな。日本軍の規模は知らないが、少なくとも技術においては、列強の最新兵器が彼らの300年以上前の骨董品、そう、彼らは進みすぎているのだよ」
話は続く
「それに・・・はっきり言って、列強のワイバーンロードをあっさりと叩き落とす彼らが、もし攻めてきたら、はっきり言って手のうちようが無いよ。我々全てが集まっても、ロウリア王国の全軍よりも弱く、そしてそのロウリア王国は日本の兵を1人も倒せなかった。
日本とどう付き合うかを考えたほうが良い」
「クワ・トイネ公国です。我々は彼らの国から様々なインフラを輸入し、生活水準が劇的に向上しつつあります。我々も彼らを友好国として歓迎すべきと考えます。」
「アワン王国です。我々大東洋諸国は、日本をうまく活用し、パーパルディア皇国の脅威と暴走をいかに避けるのかに力を注ぐべきです。ここ10年くらい、皇国はやりすぎだ。」
会議は、
○ 日本とは敵対しない
○ パーパルディア皇国に対しては、事態の推移を慎重に見守る
方向で声明を出す事となった。
◆◆◆
トーパ王国の大使は、大東洋諸国会議の後、先月行われた王の御前会議での武官の報告を思い出
していた。
「ホホホ・・・今思い出しても笑ってしまうのう」
先月の出来事~
「以上が戦況報告です。パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロードはフェン王国の首都アマノキ上空で日本の魔船に滅せられました!!!!」
「この報告書を信じろと!?列強のワイバーンロードを一騎討ち取るのにどれだけ大変なのか、君は理解しているのか?国軍を投入して、1騎落とせば大戦果だ。それを、名も無い新興国家が竜騎士部隊22騎をすべて滅しただと?・・・・・ははは、君は物語の読みすぎのようだな。疲れているんだろう?今度休みをやろう」
王の御前会議での武官の報告は、誰も信じなかった。
結局、この報告内容は、他国に確認をとる事によって裏づけが取れ、驚愕の出来事として認識されるようになった。
他国でも、最初の報告は、誰も信じなかったようだ。
それほど、列強の一部隊を押し返すという事は衝撃的な出来事だった。
日本の技術は進んでいるが、軍事規模がどの程度あるのか解らない。
攻撃的な国、パーパルディア皇国が本気になった時、それを跳ね返す力があるのか見極める必要がある。
「世界が・・・変わるかもしれんな」
トーパ王国大使は世界の行く末に思い耽るのだった。
◆◆◆
パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊 所属 特A級竜騎士 レクマイア
彼は困惑していた。
レクマイアは、フェン王国への懲罰的攻撃の際、海上保安庁の巡視艇 いなさ の攻撃により撃墜され、巡視艇に収容された。
その後、超巨大船に移送され、取調べを受ける。
敵はどうやったのかは知らないが、自分は打ち落とされた。仲間は皆死んだ。
取調べ官はぱっとしない服装で、淡々と聞いてくる。 蛮族め。
皇国の技術のすばらしさを説き、文明圏の国々よりも皇国が遥かに進んでいる事を告げる。
まして、文明圏外の国からすると、比べ物にならないほどの技術と大きな規模の軍を有しており、それを余裕で支えることの出来るとてつもない国力も伝えた。
新興国の軍は時として、世界を知らないため、伝えるだけで効果があり、自分への扱いもより丁重なものになるだろうと思った。
しかし、日本なる国の取調べ官は動じる事無く、淡々としたものだった。時にはまるで皇軍兵が蛮国の兵を相手にする時に見せる何も知らない者に対する哀れみの態度も見てとれた。
私の日本への認識は、彼らの国に近づくにつれて変わっていく。
最初に驚いたのが、超巨大船から発進する鉄龍を見た時だ。
彼らはワイバーンを持たない代わりに巨大な鉄龍と竜母を持っていた。
文明圏以外でも竜母を持っていることは驚きだったが・・・。
鉄龍はワイバーンロードよりも遅かったが、人が多数乗る事が出来る。
制空権が確保出来るならば、役に立つ乗り物だ。
しかし、こんな遅い乗り物では、皇国のワイバーンロードと空戦を行った場合、皇国が圧勝するだろう。
日本を征服したら、鉄龍の技術は我が国の発展に重要なものとなろう。
私は日本の首都、東京に移送された。
ここで、私は信じられない物を目にする。
天を貫かんとする巨大な建造物群、鉄の地竜が町には溢れ、空にはワイバーンロードよりも遥かに速く、そして大きい鉄竜が飛び回る。
その規模、技術はパーパルディア皇国 皇都エストシラント よりも遥かにすごいものだ。
「この国は・・・・危険だ」
私は日本への認識を180度転換する。
何故このような国が突然現れたのかは極めて謎だが、このままだと外務局がいつものように、「蛮族を滅する」といって日本に戦争を仕掛けるだろう。
監査軍の竜騎士部隊を全滅させたのだから、プライドの高い皇国が黙っているはずが無い。
外務局の人間が極めて高飛車な態度で日本の外務省職員を怒鳴りつける姿が目に浮かぶ。
皇国がこの国に戦争を仕掛けた場合、皇国の被害は相当なものとなろう。
もしかすると、列強の地位を失いかねない壊滅的なものとなるかもしれない。
竜騎士 レクマイアは皇国の未来を憂うのだった。
◆◆◆
「いったい何なのだ?この星は!?」
科学者星野は頭を悩ませていた。
クワ・トイネ公国との接触により、日本はこの世界に魔法がある事を知る。
魔法は魔素を使って使用するらしい。その魔素を変換するために、魔石やら魔導具やらが存在するらしいが。
魔素って何なのかが全く不明である。
どうやったら探知できるのか、どういう作動原理で発動しているのか、とにかく不明なのである。無から有が造り出せる訳ではないので、何らかの法則に則っているはずだが・・・。
それにしても、この星は謎が多い。
水平線の遠さから考えて、この星は一周10万kmくらいある大きいものだ。しかし、重力加速後は9.8065m/s^2と、地球とほぼ同じ、もっと重力が強くても良いはずなのだが、いったい星の内部はどうなっているのだろうか?地球と違ってスカスカなのだろうか?
気圧も平均1015hpa、大気も少し酸素濃度が濃いが、地球とほぼ同じである。
1日の長さも地球と同じだが、1年が365.5日と、僅かに公転周期が地球より長い。
太陽とこの惑星の距離も約1.5億kmであり、地球の時とほぼ同じである。
間もなくJAXAが人工衛星を打ち上げるらしいので、星の全貌が判明するだろうが、今のところ、日本から東はひたすら海である。
試しに海上自衛隊の護衛艦が補給艦を伴って、1万kmほど東へ行ったが、ひたすら海だったようだ。まあ、陸地分布については、間もなく判明することだろう。
そして、人種の多様性にも驚かされる。
ゴブリンと呼ばれる生物は、知能が低いが、片言で会話できる。しかし凶暴であり、害獣とするのか、人として基本的人権を適用するのか、法務省もかなり迷っているようだ。
ドワーフと呼ばれる種は背が低いが、力がとにかく強い。物作りも好きらしいが・・・。
先日、ドワーフと日本の横綱が親善相撲をしたらしいが、横綱は全く勝てなかったらしい。
そしてエルフ、この種はとても長寿らしく、彼らの遺伝子が解明できれば、不老長寿への道が開けるかもしれないとの事だ。
ある意味、面白い星だなぁ・・・。
星野は考えを巡らせる・・・。
霞ヶ関
「この件についても、早急な法整備が必要です」
警察庁と法務省の官僚は法整備について協議を行っていた。
今回の規制対象は「竜」である。
先日発生した犯罪に、竜が使用された。
九州海底会と四国海上組とのやくざ同士の抗争事件で、九州海底会はワイバーンを使用し、四国海上組の事務所を導力火炎弾で焼き払った。
首謀者は逮捕されたが、戦闘ヘリのような動物を持つ事に対する罰則強化の必要性が強まり、今回の会議に至った。
竜を個人で飼うのは禁止され、罰則も、10年以上の懲役という厳しいものになった。
「まだまだ法整備が必要な事が・・・」
増え続ける仕事に、法務省の官僚は頭を痛めるのだった。
第2文明圏 列強国 ム―
晴天、雲は遠くに少し浮かんでいるのが見えるのみであり、視界は極めて良好である。
気候はあたたかくなってきており、鳥たちはのんびりと歌い、蝶の舞う季節。
技術士官マイラスは軍を通じて伝えられた外務省からの急な呼び出しに困惑していた。
外務省からの呼び出しは、空軍のアイナンク空港だった。
列強ムーには、民間空港が存在する。まだ富裕層でしか飛行機の使用は無く、晴天の昼間しか飛ぶ事は出来ないが、民間航空会社が成り立っている。
民間の航空輸送は私の知りうる限り、神聖ミリシアル帝国とムーでのみ成り立つ列強上位国の証である。
機械超文明ムーの発明した車と呼ばれる内燃機関に乗り、技術士官マイラスは空軍基地アイナンク空港に到着した。
しかし、わざわざ急遽空軍基地に呼び出すとは、いったい何だろうか?
控え室で待つこと20分、
カチャ・・・。
軍服を着た者と、外交用礼服を着た者2名が部屋に入ってくる。
「彼が技術士官のマイラス君です」
軍服を着た者が外交用の礼服を着た者に紹介する。
「我が軍1の、技術士官であり、この若さにして第1種総合技将の資格を持っています」
「技術士官のマイラスです」
マイラスはニッコリと笑い、外交官に答える。
「かけたまえ」
一同は椅子に腰掛け、話が始まる。
「何と説明しようか・・・。」
外交官がゆっくりと口を開く
「今回君を呼び出したのは、正体不明の国の技術レベルを探ってほしいのだよ」
マイラスは第八帝国の事かと思い、
「グラ・バルカス帝国の事ですか?」
すると、思わぬ答えが返ってくる。
「いや、違う。新興国家だ。本日ムーの東側海上に白い船が1隻現れた。海軍が臨検すると、日本という国の特使がおり、我が国と新たに国交を開きたいと言ってきたのだ。
我が国と国交を開きたいと言ってくる国は珍しい事では無いが、問題は、彼らの載ってきた乗物だ。・・・・・帆船では無いのだよ。」
「まさか・・・」
「そして魔力感知器にも反応が無いので、魔導船でもない。機械による動力船であると思われる」
「やはり、そうですか・・・・。」
「そして、さらに問題なのが、我が国の技術的優位を見せるために、会談場所をアイナンク空港に指定したら、飛行許可を願い出て来たのだよ」
「当初は、外交官がワイバーンで来るのか、なんて現場主義な国かと話題になった。飛行許可を出してみたら、飛行機械を使用して飛んで来たのだよ」
「!!!!!!!!!!!!!」
「先導した空軍機によれば、相手は時速160km程度の飛行速度であり、遅すぎて速度を合わせるのが大変だったと言っていた。
試しに、空戦したら、勝てそうか聞いてみたが、絶対に負けないと空軍パイロットは答えておったよ。
まあ、飛行機械を持っているだけで、十分警戒すべき相手ではあるがな」
「しかし、飛行原理が我々の知っている航空機とはちょっと違うようなのだよ。見たことが無い飛行機械だった。そこで、マイラス君、君の出番となった訳だ」
「彼らの言い分によれば、日本は第3文明圏フィルアデス大陸のさらに東に位置する文明圏外国家だ。しかし、持ってきた飛行機械の技術はパーパルディア皇国を超えているようだ。我が国との会談は1週間後に行われるが、その間に彼らを観光案内し、我が国の技術の高さを知らしめると共に、相手の技術レベルを探ってくれ」
「解りました」
技術士官のマイラスは、久々に技術者魂の震えを感じた。未知の飛行機械とはいかなるものだろうか?
立ち去ろうとした外交官が足を止め、振り返る。
「あ!そうそう、日本の使用した飛行機械は、今空港東側に駐機してあるので、まずは見ておいてくれたまえ」
外交官は立ち去った。
5分後――
マイラスは駐機場にある日本という国の乗ってきた飛行機械を眺め、唖然としていた。
・・・プロペラが上に付いている。これを回転させて飛んで来たらしいが・・・。
良く見ると、プロペラ自体が翼の断面を持っている。
翼前部で翼に当たった空気は上下に別れ、翼後部で再び一緒になる。翼は上部が下部に比べ、膨らんでいるので、下部に比べ、同一時間での空気が通る距離が長く、結果空気の流速も速くなる。
ここにおいて、翼上部と下部で気圧差が生じ、上に向かう力が発生する。
ただ・・・。これを回転させて飛ぶとなると、超強力なエンジンが必要だ。
さらに、プロペラを回すと、その回転方向と逆方向にモーメントがかかり、そのままだと機体がプロペラの逆回転をし始める。
おそらく後ろに付いている小さなプロペラでモーメントを打ち消しているのだろうが、緻密な出力調整が必要だ。
これを造るのは難しい。
「なんという技術!!!!」
マイラスは、ヘリコプターの前で、冷や汗をかき、立ち尽くしていた。
応接室へ向かうマイラスの足取りは重い。
日本国のヘリコプターと呼ばれる飛行機械は、おそらく我が国では、エンジン出力不足で作る事が出来ないだろう。
少なくとも、エンジンについては彼らは我々よりも優位である可能性が高い。
しかし、我が国には高さ100メートルクラスの超高層ビルや、時速が380kmも出る日本の航空機よりも速い戦闘機、そして技量の高いパイロット。そして最新鋭戦艦ラ・カサミがある。
「どうなる事やら・・・。」
マイラスは日本国の使者が滞在する部屋の扉をノックした。
コンコン
「どうぞ」
扉をゆっくりと開ける。
中には、2名の男がソファーに座っていた。
「こんにちは、今回会議までの一週間ムーの事をご紹介させていただきます、マイラスと申します」
日本国の使者は立ち上がり、挨拶をする
「外務省の御園です。今回ムー国をご紹介いただけるとのことで、ありがとうございます。感謝いたします。
こちらにいるのが、補佐の佐伯です。」
丁重な言葉使いだ。日本の使者は、すでに出発準備を整えていた。
「では、具体的にご案内するのは、明日からとします。長旅でお疲れでしょうから、今日はこの空港のご案内の後に、都内のホテルにお連れします」
マイラスは、空港出口へ行く前に、空港格納庫内に使者を連れて行く。
格納庫に入ると、白く塗られた機体に青のストライプが入り、前部にプロペラが付き、その横に機銃が2機配置され、車輪は固定式であるが、空気抵抗を減らすためにカバーが付いている複葉機が1機、駐機してあった。
ピカピカに磨かれており、整備が行き届いた機体だと推測される。
マイラスは説明を始めた。
「この鉄龍は、我が国では航空機と呼んでいる飛行機械です。
これは我が国最新鋭戦闘機「マリン」です。最大速度は、ワイバーンロードよりも速い380km/h、前部に機銃・・・ええと、火薬の爆発力で金属を飛ばす武器ですね。を、付け1人で操縦出来ます。メリットとしては、ワイバーンロードみたいに、ストレスで飛べなくなる事も無く、大量の糞の処理や未稼働時に食料をとらせ続ける必要も事もありません。空戦能力もワイバーンロードよりも上です。」
自信満々に説明する。
日本人とやらは、口をあけて、「はー」とか、間抜けな言葉を発している。
どうだ!!
「は―・・・複葉機なのですね―」
御園とかいう外交官が驚いて見ている。
「レシプロエンジンを積んでますねー。このレトロな感じが良いですね」
佐伯とかいう人間は、我が国の最新鋭戦闘機を見て「レトロ」という言葉を発した。
いったいどういう意味で言ってるんだ?
「内燃式レシプロエンジン以外にどういった選択肢がありますか?蒸気機関もレシプロといいますよね?まあ、蒸気機関は重くて出力が弱く飛行には適さないのですが」
マイラスの問いに、佐伯という人間が答える。
「日本には、ジェットエンジンと呼ばれる航空機に適した小型高出力エンジンがありますので・・・。もちろん、レシプロエンジンもありますよ」
!!!!!!日本は、やはり、高性能エンジンを所有しているようだ。探りを入れた甲斐があった。
「ほう・・・日本にも航空機に適したエンジンがあるのですね。是非構造を教えてもらいたいものです」
「簡単な設計図や原理であれば、日本と国交を結んでいただけたら、書店でいくらでも購入できます。しかし、高出力化や、エンジンの燃焼温度に耐えうる素材の具体的造り方については、技術流出防止法がありますので、公開は出来ませんが・・・」
「簡単な設計図が手に入るのですね。それは面白い。個人的には是非日本と国交を結べる事を願いますよ」
もしかしたら、日本は航空機技術についても我が国を凌駕しているかもしれない。
マイラスは、確認のため、探りを入れる。
「日本の航空機はどのくらい速度が出るのですか?」
航空機は速度が重要だ。速度が上がれば、一撃離脱戦法により、速い方が圧倒的に有利である。
御園と佐伯は目を合わせる。
ヒソヒソと話をしている。
(ま・・まあ現代戦の速度は戦闘性能にあまり関係ないし、国内の市販本には色々F15等の性能も記載してあるから、国交が結ばれたら判明するから隠すこともないか・・・)
「戦闘機であれば、我が軍の主力戦闘機であるF-15J改が最高速度マッハ2.5くらいです。音速の2.5倍程度ですね。旅客機であれば、対気速度で時速850kmくらいが巡航速度です」
「!!!!!!」
絶句・・・。
お・・・お・・・音速超えだと!?そそそ・・そんな馬鹿な!!!!!
「ははは・・・是非見てみたいものです・・・では、こちらへ・・・」
マイラスは、日本の使者を、空港外へ案内する。ムーの誇る自動車に乗せてホテルへ向かおうとしたが、もう嫌な予感しかしない。
空港外には、日本の使者を乗せる車が待機していた。馬を使わず、油を使用した内燃機関を車に積むまでに小型化した列強ムーの技術の結晶。
日本の使者は、驚く事無く、車に乗車する。
車は出発し、動き始める。特に驚いた様子はない。やはりそうか・・・。
「日本にも、車は存在するのですか?」
マイラスは尋ねる。
「はい、乗用車であれば、3年前のデータですが、日本で約5942万台が走っています」
「そ・・・そんなに走っていると、道が車で一杯になってしまいますね・・・」
「我が国は、前世界においても、信号システムが世界一進んでいましたので・・。国交が樹立出来れば、是非信号システムについても輸出したいものです」
マイラスは精神的に疲れてきた。
整地された道をホテルへ向かう。
やがて、高級ホテルが見えてきた。
車はホテルに横付けされ、皆はホテルへ入る。
「明日は、我が国の歴史と、我が国の海軍の一部をご案内いたします。今日はごゆっくりとお休み下さい」
マイラスは、日本の使者にこう伝え、ホテルを後にした。
◆◆◆
翌日~
日本の使者は、ムー歴史資料館にいた。簡単にマイラスは説明を始める。
「では、我々の歴史について簡単に説明いたします。まず、各国にはなかなか信じてもらえませんが、我々のご先祖様は、この星の住人ではありません」
「へ!!?」
日本の使者は驚きのあまりポカーンとした顔をしている。
マイラスは話を続ける。
「時は1万2千年前、大陸大転移と呼ばれる現象が起こりました。これにより、ムー大陸のほとんどはこの世界へ転移してしまいました。これは、当時王政だったムーの正式な記録によって残されています。
これが前世界の惑星になります」
マイラスは、地球儀を取り出す。外務省の御園は、見覚えのある地理配置に驚愕する。
「な・・・な・・・な・・・こ・・・これは!!!」
ふふん、日本人め、前世界が丸い事に驚いているな。
「前世界は丸かったのです。この世界も、水平線の位置からして前世界の2倍強はありますが、丸いはずです」
「地球だ!!!!」
「はい?」
「これは・・・地軸の位置が少し違うのか?しかし、この配置は紛れも無く地球だ。む?南極大陸がこの位置にあるということは、氷に覆われてはいなかったということか・・・」
なんだか、日本人が大陸を指差して驚いている。説明してやるか。
マイラスは、南極大陸を指示し、説明を始める。
「ちなみに、この大陸はアトランティスといいまして、全世界では、ムーと共に、世界を2分するほどの力を持った国家でした。ムーがいなくなった今、おそらく世界を支配しているでしょうね」
「ちなみに・・・」
と言って、マイラスはユーラシア大陸の横にある4つの大きな島が集まっている場所を指示する。
「この国は、ヤムートといって、我が国一の友好国だったそうです。しかし、転移で引き裂かれたため、おそらく今はアトランティスに飲み込まれているでしょうけど・・・」
「ちょっとよろしいですか?」
御園がマイラスの発言に割って入る。
「どうぞ」
「日本を説明するのに、一番良い方法が出来ました」
「はい?」
「日本も転移国家です。同一次元にあった星かは不明ですが、おそらくあなた方の昔いた星から転移してきたとおもいます。
あなたが指差したこの4つの島が我が国です。そして・・・」
御園はバッグから地図を出す。
「これが現在の日本地図、そしてこれが私たちの過去にいた世界の地図です」
日本地図、そしてメルカトル図法を使用した世界地図がマイラスに見せられる。
その地図には、たしかにムーのいた、ムー大陸の存在しない前世界地図があった。
衝撃・・・御園が言葉を続ける。
「我々の元いた世界にも、1万2千年前に、突如として海に沈んだ大陸があると、言い伝え程度ですが残っています。
あなたが今アトランティスと呼んだ大陸は、南極になってしまっているようですね。もしかしたら、地軸がずれたのかな?」
「ははは・・・まさかの歴史的発見ですね。あなた方日本とは、個人的には友好国となってほしいものです。まさか・・・そんな事が・・・。
後で、すぐに上に報告いたします」
その後、マイラスは簡単に歴史を伝えた。
転移後の混乱、周辺国との軋轢、魔法文明に比べての劣勢、機械文明としての出発、そして世界第2位の国家へ。
ムーの歴史は、転移してからは苦難の歴史だったようだ。しかし、単一国家独力で車や飛行機を開発しているのは驚きの限りである。
一通り説明が終わり、日本の使者を海軍基地へ案内する。
日本に対してムーの・・・列強で最強かもしくは2番目の海軍力を誇るムーの姿を見せ付けてやらなければならない。
マイラスは、ロウリア王国で魔写された日本の艦船を思い出す。
全長は我が国の最新式戦艦ラ・カサミよりも長いが、回転砲等の砲が1門しかついていない。しかもおそらくは12か13センチクラスの砲だ。
それに対して戦艦ラ・カサミの主砲は30.5センチメートルの2連装が2基、計4門だ。
砲撃の威力は口径の3乗に比例する。撃ち合えばよほどの事が無い限り勝てるだろう。
今回は自信満々に案内できそうだ。
港には、ムー国海軍の最新鋭戦艦ラ・カサミが停泊していた。
「御園さん、見てください。戦艦ですよ、戦艦!!!やはり戦艦は男のロマンですね」
佐伯という名の人物がはしゃぎ始める。
日本人でも解るか、戦艦は男のロマンということが・・・ん?戦艦を知っている?
「佐伯さん、ちょっとはしゃぎすぎですよ。しかし、記念艦の三笠にそっくりですね」
今、御園という人物が、何かにそっくりと言った。まさか・・・日本にも戦艦が存在するのか?
だとすれば、何故砲がたった1門の艦を作る?
マイラスは探りを入れる。
「日本にも戦艦があるのですか?」
「あ、はい。約70年前の世界大戦までは、日本も立派な戦艦を持っていたのですよ。敗戦後は、時代の流れもあって、戦艦は作られませんでしたが・・・」
なるほど、日本は過去にあった戦いに敗れて、戦艦が作れなくなった。そして、平和な世界になって、戦艦が必要なくなったのか?
それで、たった1門の海防艦程度の火力しか必要なくなったのか?
と、いうことは、もしかして日本は戦艦を作る能力があるのか?
「日本は今世界に転移したとの事ですが、今後戦艦を配備する計画はあるのですか?」
日本の御園という大使は、フッと笑った後に答える。
「え?戦艦!?いえいえ、現時点では配備予定はありませんよ」
日本には戦艦の配備予定は無いようである。もう造る能力が無いのか?
「この世界は弱肉強食ですが、何故戦艦を造らないのですか?」
「うーん、防衛省ではないので、具体的な事はお答えしかねます。申し訳ありませんが」
「そうですか・・・ところで、先ほど日本の艦に似ているとおっしゃっていましたが、日本にも似た艦があるのですか?」
「あ、はい。日本では三笠と呼ばれる戦艦がありました。約110年前に日本が大日本帝国と呼ばれていた時代に存在した連合艦隊の旗艦です。この艦があそこに停泊している戦艦にそっくりに見えましたので・・・。」
戦艦三笠 1900年に進水し、1903年連合艦隊の旗艦となる。
1904年から日露戦争に加わり、旅順口攻撃や旅順口閉寒作戦に参加、そして黄海海戦にも参加した。
1905年には、有名な日本海海戦で、当時世界最強といわれたロシア海軍のバルチック艦隊と交戦した伝説的な艦であり、現在は記念館として、人々を楽しませている。
「ほう・・・110年も前の艦ですか・・・」
日進月歩の機械動力戦艦で、110年もの歳月をかければ、劇的な進化を起こす。日本は認めたくないが、どうやらムーよりも機械文明が遥かに進んでいるらしい。
しかし、今の日本には戦艦が無い。
あの砲が1門だけの艦が戦艦よりも強力には思えない。本当に金食い虫の戦艦は必要が無い平和な世界だったのだろう。
技術は継承が重要である。
戦艦が作られなくなってから70年も経過しているのであれば、おそらく戦艦は彼らにとってロストテクノロジーだろう。
脅威なのか脅威でないのか、よく解らない国だ。
ムーの技術士官マイラスの案内が一通り終わり、ムー首脳陣に報告が上がる。
受け入れられないような内容の報告書であったが、敵対してくる訳でもなく、高技術が手に入るかもしれない国、グラ・バルカス帝国の脅威が存在するこの状況下にあって、友好的な態度をとる日本国を、拒否する理由は無く、ムーは日本との国交を結ぶ事になる。
◆◆◆
パーパルディア皇国 皇都エストシラント
第1外務局は混乱の極みにあった。
原因は皇国よりも西の中央世界、そしてそれより更に西の第2文明圏に2つ存在する列強国、その一つ、レイフォルが、正体不明の国家、グラ・バルカス帝国に敗れた事にある。
列強レイフォルとパーパルディア皇国は、規模で言えば皇国の方が遥かに上だが、海軍の武器の性能は良く似ていた。(帆船加速のための風神の涙の質は皇国の方が上)
しかも信じられない事に、列強レイフォルは、グラ・バルカス帝国のグレードアトラスターと呼ばれる超巨大戦艦たった1隻に艦隊を全滅させられ、ワイバーンロードの波状攻撃を防がれ、さらに首都レイフォリアを攻撃され、首都は灰燼に帰したという。
超列強国が西の果てに突如として現れた。
第1外務局長 エルト の脳裏に嫌な予感が駆け巡る。
第3外務局所属の皇国監査軍が東のフェン王国に対し、懲罰的行為を行った際、敗戦している。
もしも・・・グラ・バルカス帝国の息がかかっていればとんでもない事に・・・・。
「とにかく情報を集めよ!!!」
第1外務局長 エルト は部下に強く指示するのだった。
そんな中、一つの情報が彼の元に入る。
「これは・・・?」
手元に置かれた簡易報告書、その内容にエルトは大きい目をさらに大きくする。
パーパルディア皇国国家戦略局でロウリア王国と日本のロデニウス沖大海戦に参加していた観戦武官のヴァルハルなる人物から、外務局宛に、当てられた文章、
監査軍敗北の直接的原因は日本という国家にある。
彼の文章は、ロデニウス沖大海戦の戦果報告が偽りの無いものであるにも関わらず、その戦果が全く国家戦略局に信じてもらえない事が必死に記されていた。
「日本という国についてもっと調べろ!!!」
パーパルディア皇国はついに、日本国について本格的に調べ始めた。




