皇国のプライド
パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊
提督ポクトアールは、東の海を睨んでいた。空は快晴、海上ではあるが、比較的乾いた風が気持ち良い。
現在地、フェン王国から西に約100km
「!?」
水平線に何かが見える。
「艦影と思われるもの発見!こちらに接近してきます」
「!?大きいな・・・フェン王国のものとは思えない・・・。」
小山ほどの物体が海上を動いている。船?と思われるが、常識から考えると規格外の大きさだ。
「総員、戦闘配備!!!」
城のように大きい灰色の船は、急速に接近してきた。
速い!
「!!!ま・・まさか、我が方の船速を凌駕している!?」
正体不明の巨大船は我が艦隊に並走しながら近づいてくる。その数は1隻のみ。
「提督、どういたしますか?」
第3外務局局長カイオスの命は、フェン王国への各国武官の前での懲罰的攻撃により、文明圏外の蛮族に恐怖を植え付けることである。
妨害の可能性となる軍は全て排除するよう命ぜられている。
灰色の巨大船は、パーパルディア皇国の同盟国の船では無い事は確実であり、民間船でないことも、確実であった。
敵と思われる者は、1隻のみであり、いかに巨大であっても、22隻の列強国艦隊の前では、こちらが優勢と思われる。
見たところ、巨大な大砲を装備しているようであるが、たったの1門、こちらは、すべて30門級戦列艦以上であり、大半が50門級戦列艦、中には80門級戦列艦もいる。
勝てない訳がない。
しかも、敵は大砲を持っているところを見ると、フェン王国水軍と同様に、文明圏の技術支援を受けている可能性がある。
しかし!だ。列強各国の大砲は2kmも飛翔するが、列強以外の文明圏に属する国の大砲は、1kmの飛翔がせいぜいであり、ほとんどは球形砲弾で炸裂しないため、威力も射程も我が方が上だ。
技術支援を受けた側が、オリジナルを超えることはない。
ただ・・・・そのはずなのだが・・・あれほどまでに異常に大きい大砲を持つ国をポクトアールは知らなかった。
しかし、フェン王国方面から来た者で間違いは無く、列強パーパルディア皇国の意思を示すため、ポクトアールは攻撃を決意した。
敵と思われる巨大な艦1隻は並走しながら距離を1.5kmまで詰めてきた。
敵の巨大砲は前を向いている。
「射程圏内にしっかりと入ってきたな・・・アホウめ・・・。魔導砲撃てぇぇぇぇぇ!!」
パパパパパッ・・・・・・
煙が艦隊を包み込む。
ドドドドドドーーン
発砲音が鳴り響く。
フェン王国王宮直轄水軍を、赤子の手を捻るが如くあっさりと葬り去った、列強パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊22隻は、日本国海上自衛隊のイージスシステム艦
みょうこう に向かい、その力を行使した。
「対象艦発砲!!砲弾は・・・命中しません」
砲の弾道計算が速やかに行われ、砲弾が命中しない事を確認する。
対象艦隊の一斉射の砲は命中せず、付近に水柱が上がる。
みょうこうは、艦隊の射程権外へ、一時離脱を行った。
「敵船加速、魔導砲の射程権外に離脱していきます」
デカイ癖に凄まじい加速、信じられない速さで敵の巨大船は我が方から逃げていく。
一斉射はすべて外れてしまい、次の射撃のため、砲弾装填中に敵は射程距離外へ離脱してしまった。
「くっ・・・速い!!なんだ!あの船は!?」
ポクトアールは、彼の中での常識を超えた速さと大きさを持つ船を見て感嘆の声をあげる。
敵船の船上からピカピカ何かが光りだす。何かを伝えようとしているのだろう。
しかし、敵を攻撃する意思決定はもう下している。
攻撃態勢のまま、敵船に進路を向ける。
・・・・追いつけない。
「敵船に追いつけません。敵、さらに遠ざかります。」
敵船は距離をとり、約3.5km離れて並走をはじめる。
「ちっ、なめやがって、・・敵の監視を厳とし、進路をフェン王国首都、アマノキ方面にとれ!!どうせ1隻では何も出来ん!」
巨大船に追いつけないため、1隻張り付いてくるのはイライラするが、無視することに決める。
巨大船は、必死に何かをピカピカ光らせている。・・・無視。
「!?」
敵船の艦前方に設置された巨大砲が動き始める。
ドン!!!
発砲。
「敵艦発砲!!!!」
艦隊前方の海上に弾は着弾し、大きく水柱を上げる。
「なんという威力!!しかもこの距離で砲が届くのか!?」
提督、艦長、参謀、他、様々な幹部がこの光景を見て衝撃を受ける。
自分よりも速い船に、我が方より超射程の砲、このままでは完全にアウトレンジ攻撃を受ける。
しかし、第3外務局長カイオスの命は絶対である。
列強が戦わずして作戦を中止するということは、皇国の尊厳を傷つける事、国家反逆にも等しい。
敵前逃亡は、一族郎党悲惨な刑に処される。職務を放棄する訳にはいかない。
まだこちらは22隻いる。
艦隊は、再度、みょうこうに向かって進路をとる。
次の瞬間、―――
ドン!!
敵巨大艦の砲が炸裂する。
シュパーーーン!!!!!
艦隊最前列を航行していた戦列艦パオスの主要マスト下部が吹き飛ぶ。
マストはガラガラと音をたて、傾斜し、他のマストを巻き込みながら、倒れる。
「戦列艦パオス、マストが折れ航行不能!!!」
「なんだ!?発砲の後にマストが折れただと!?ま・・・まさか!!??」
航行不能となった戦列艦パオスをそこに置き、他の艦が敵艦に向かっていく。
ドン!!!
海上に再度嫌な音が鳴り響く。
今度は、戦列艦ガリアスのマストが折れ、倒れる。
「そ・・・そんな馬鹿な!?」
大砲は、そんなに当たるものではない。当たりにくいから、100門級戦列艦が存在するのだ。それなのに、敵船は揺れる船のマストを狙って当てている。しかも、ありえないほどの高速の次弾装填だ。
海には、波がある。自分も揺られれば、敵船も揺れている。揺れながら射撃すれば、大砲はそんなに遠くから当たるものではない。
僅かな、1度の角度の差で、着弾地点は大きくずれる。
そんな当たり前の常識を、敵船はあっさり破ってくる。
ドン!!!!
戦列艦マミズのマストが折れる。
ドン!!!
戦列艦クマシロのマストが折れる。
攻撃は続く、まさかの事が眼前で起きる。列強パーパルディア皇国の監査軍が、手も足も出ない。絶望的な戦力差、しかも相手はたったの1隻である。自分は夢でも見ているのだろうか。気がつけば、ベッドの上ではないのか?
まさに悪夢。
敵の正確無比な射撃により、約半数の船のマストを破壊され、敵は再度遠ざかる。
「・・・我が方を沈める気はないということか・・・。」
ポクトアールは意を決する。
「・・・撤収だ!味方の艦を曳航し、引き上げる。今作戦は・・・失敗だ!」
漂流する味方船を放置して、行くわけにはいかず、この状況下であれば、攻撃を加えようとすれば、我が方すべてが航行不能となるのは目に見える。
敵の攻撃の方法から、我が方を殺傷するのが目的ではないと思われ、ポクトアールは決断した。
畜生・・・竜母があればな・・・。
ワイバーンロードの上空支援があれば、違った形になっていたかもしれない。
ポクトアールはそう思いながら、撤収の命を下した。
今回の戦闘報告・・・報告書を提出しても、誰も信じないだろうな。
日本国とパーパルディア皇国の初の艦隊戦は、日本の圧勝で終わった。
パーパルディアの艦隊では、重傷者はいたものの、死者は出ておらず、世界の歴史上唯一死者を出さずに勝敗を決した海戦となった。
フェン王国 首都アマノキ
話しは少し戻る。
パーパルディア皇国のワイバーンロード部隊をあっさりと片付けた海上自衛隊と海上保安庁、その活躍を見て、文明圏に属さず、軍祭に参加した各国武官は放心状態となっていた。
「な・・・なんだ!!!あの凄まじい魔導船は!!!」
「なんという恐ろしい力だ!!常軌を逸しているぞ!!」
「あの列強ワイバーンロードをあっさりと叩き落とした!!いったい・・・何なのだ!あの船たちは!!」
「日本という新興国家らしいぞ・・・」
「まさか・・古の魔帝の流れを汲む者たちでは!?」
海岸から海を眺めていた文明圏外の国々の武官たちは、自分たちの常識とかけ離れた力を持つ灰色の巨大船に恐怖を覚えると共に、味方に引き入れる事は出来ないかを考え始めていた。
パーパルディア皇国を遥かに超える力を・・・もしかしたら、あの船の国は持っているのかもしれない。
フェン王国の軍際に来たのであれば、フェンとは友好関係にあるという事だ。
フェン王国と良好な関係を築き、あの船の国と仲良くなれば、もしかしたらパーパルディア皇国の属国化を防げるかもしれない。
奴隷としての国民の差出や、領土の献上等、もしかしたら・・・。
フェン王国がパーパルディアの領土租借案を蹴った時は、フェンが焼き尽くされるのではないかとも思ったが、あの船の国と友好関係にあるのであれば、フェンが強気に出るのも理解できる。
後にフェン沖海戦と言われた海戦後、日本は急激に多数の国と国交を結ぶ事となる。
パーパルディア皇国 第3外務局
局長カイオスは、その報告を聞き、脳の血管が切れるのではないかと思われるほど激怒していた。
事の始まりは、フェン王国が皇国の領土献上案を拒否した事からはじまる。
498年間の租借案という「慈悲」も、双方に利があるにも関わらず、拒否される。
「フェン王国は、皇国をなめている」
このような意見が第3外務局内で主流になった。
数多の国々が存在するこの世界において、文明圏5カ国、文明圏外67カ国、国の大小はあるが、計72カ国もの属国を持つ列強パーパルディア皇国にとって、文明圏外の蛮国からなめられた態度をとられる事は、とても許容出来るものではない。
他の国々の恐怖の楔が外れては困る。
このような事情もあって、パーパルディア皇国第3外務局所属の皇国監査軍東洋艦隊22隻と、2個ワイバーンロード部隊が派遣されたのであった。
ワイバーンロード部隊により、フェン王国首都 アマノキ に攻撃を行い、フェン人に恐怖を植え付け、軍祭に参加している文明圏外の蛮国武官に力を見せつける。
そして、艦隊による無慈悲な攻撃により、フェン王国首都 アマノキ を焼き払い、パーパルディア皇国に逆らったらどうなるのかを他国に見せつける・・・計画だった。
しかし、結果は惨憺たるものだった。
空襲に向かったワイバーンロード部隊は魔信を入れる間も無く、消息を絶った。
どうやったのかは不明だが、おそらく全滅したものと思われる。
これについては、当初 ガハラ神国 の風竜騎士団が参戦したのではないかと疑われた。しかし、風竜は確かに強いが数が少なく、通信する間も無く全滅するのは考えにくい。
その後に入ってきた情報、
フェン王国水軍と、東洋艦隊が会敵し、敵水軍を一方的に撃破!我が方に損傷なし。
これは良い。蛮族相手なら当然の結果だ。
そして、問題は次に入った情報だ。
「皇国監査軍東洋艦隊 敗北」
第3外務局に激震が走った。
しかも、提督は海戦の恐怖で頭がおかしくなったらしく、たったの1隻にやられたと、ありえない報告をしている。
提督の言い分によれば、
○灰色の超巨大船と会敵する。
○ 皇軍が攻撃を行ったとこ、魔導砲の射程圏外へ、我が方の船速よりも速い速度で離脱。
○ 敵巨大船は、距離3.5kmで艦隊前方の海上へ威嚇射撃を行い、その砲は我が方の射程距離を凌駕し、遥かに高威力であった。
○ 敵巨大船は速く、2度とこちらの射程距離にとらえることが出来なかった。
ここまでの報告でも、おかしい所は多々ある。まず、船が我が方よりも大きいのに速いという部分。
船が大きいと、当然水の抵抗は強くなる。パーパルディア皇国の使用している風神の涙は、はっきり言って世界一であり、神聖ミリシアル帝国でも、これほどの風神の涙は作れない。
我が国は、高純度の魔石が取れる鉱山もあり、精製も一流だ。つまり、超巨大船で我が方よりも速い速度が出る訳がないのだ。
そして、3.5kmもの距離を置いての威嚇射撃。
文明圏の列強でさえ、現在は2km飛翔する砲弾しか造れない。それを遥かに超える射程距離など、しかも文明圏外で、ありえるはずが無い。
敵対する船があり、物語のような超高性能船が仮に存在したとしても、威嚇射撃をする意味が全く無い。
一気に殲滅して少数解き放てば、その国に恐怖が伝染する。
威嚇射撃で仮に艦隊が引き上げたら、全く威を見せ付けることが出来ないではないか。
そして、提督の頭が壊れたと判断される決定的な報告内容、
○ 正体不明の敵船は、砲を11発放つ。それらは全弾命中し、しかもすべて船のマスト部分に命中し、航行能力を削がれた。
○ 敵は我が方を沈めず、その場から立ち去った。
・・・よくもこんなふざけた報告書を出せたものだ。海上は揺れる。波がある。
魔導砲の弾は、1度でもずれたら着弾地点が大きくずれる。100発100中の砲など、古の魔帝でも無理だ。しかも、マストだけ正確に打ち抜くなど、提督はなんて想像力が豊かなのだろうと感心する。
しかも・・いや、もうやめよう。これらの報告は、完全に負けた言い訳だ。文明圏外の蛮国がそんな超高度な兵器を持っている訳が無い。
提督以下の兵士たちは、口を噤んでいるという。提督に脅されているのかもしれないため、今後どんな敵で何隻いたのか、詳細な調査が待たれるところである。
皇国に泥を塗った敵がいるのは事実であり、ふざけた敵を殲滅する必要がある。
しかし、敵が誰か知らなければ、攻めようが無い。
今回は負けている。皇帝の耳にも入るだろう。次は、監査軍ではなく、最新鋭の本国艦隊が動くこととなろう。どこかの列強がバックについている可能性も高い。
第3外務局は「敵」を知るため、情報収集を開始した。
パーパルディア皇国第3外務局 窓口
「もうしわけありませんが、今日課長と会う事は出来ません。」
日本国外務省の職員は、約束したパーパルディア皇国外務局の課長と会議のためやってきたが、窓口で再度足止めをくらう。
「何故ですか?約束したではないですか!!」
「ちょっと込み入った事情が発生いたしまして・・・。申し訳ありませんが、文明圏外の新興国と会議をしている状況ではないのです。予定は未定です。また1ヶ月以上後に連絡を下さい」
日本が原因で第3外務局は忙しくなっていたため、この日も重要人物とは面会できず、日本国外務省の職員は、この日もトボトボ帰っていった。
フェン王国の軍祭の後、日本は文明圏に属さない国々と、次々と国交を結んでいった。
今までは、日本から出て行き、調査して国交を申し込んでいたが、フェン沖海戦の後はレトロな船にのって次々とやってくる国が増えた。
海上保安庁は忙しくなったが、日本と国交を結んだ国は22カ国に増え、通商が始まった。
パーパルディア皇国第3外務局
「なんだと!?今年は奴隷の差出が出来ないだと!?」
外務局職員が、トーパ王国(文明圏外)大使に怒鳴りつける。
「我が国の民を、奴隷として貴国に差し出すのはもうやめとうございます」
大使が冷汗をかきながら答える。
「ふん!では、各種技術供与の提供を、貴国だけ停止させるぞ!!」
皇国は、超旧式技術の供与を文明圏外の国々に少しずつ行っていた。少しずつ国力が増す・・・が、周辺国家も少しずつ国力が増すため、パワーバランスは変わらない。
一国だけ供与が停止されると、他国との発展速度に差が出るため、他国に先を超され、国力は衰退する。
皇国は、各種技術供与も外交手段の一つとして利用していた。
言うことを聞かなければ、工具や、釘などの部品の輸出の停止まで視野に入れていた。
これで完全に国が立ち行かなくなる・・・はず。
トーパ王国の大使はいやらしい薄ら笑いを浮かべる。
「技術ですか・・・。ならば、我々は奴隷を差し出さない。皇国は我が国への各種技術供与を停止する。これでいかがですか?」
今までのトーパ王国からは考えられない強気な態度だ。
大使は話を続ける。
「我々は・・・あの日本と国交を結んでいるのですよ」
フッと笑い、大使は締めくくった。
外務局 食堂
現在は休憩中であり、職員は食事をしながら雑談していた。
「最近蛮国が、やけに反抗的と思わぬか?」
「確かに、ここ1ヶ月くらいは顕著にそれを感じる」
「ああ、前なら怖がって、全ての要件をのんでいたのに、昨日は「我々は、あの日本国と国交を結んでいる!」と、強気に言われたぞ。たかがシオス王国ごときに」
「!!俺もトーパ王国大使から、似たような事を言われた。トーパなんて、技術がいらないとまで言っていた。理由が今話しに出ていた「日本」と国交があるからと。日本って知っているか?」
「知らん」
「俺も」
「私も知らない」
「あっ!!!」
窓口勤務員のライタが驚いたような声を出す。
彼は、食堂の全員の視線を浴び、これから色々報告書が必要になってくる事を覚悟した。
誤字を指摘して下さっている皆様、ありがとうございます。
後日、指摘のあった場所は、なおしていきたいと思います。
訳あってゆっくりパソコンを打つ余裕がありません。
今度必ずなおしますし、皆様に返信もしていきたいと思いますので、今しばらく誤字の訂正はお待ち下さい。
物語は続けていきます。今後とも、よろしくお願いします。




