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第2章 パーパルディア皇国編  1話 神話に住まう人々

 パーパルディア皇国編です

 神話に住まう人々


「あの計画はどうなっている!」


 怒気のある言葉で怒鳴りつける。


「はい・・・間もなく皇国監査軍東洋艦隊22隻がフェン王国に懲罰のため出撃します」


 冷や汗をかきながら部下が答える。

 パーパルディア皇国第3外務局、皇宮を離れ施設の外側に位置するこの部署は、日本でいうところの外務省であり、外交を行うが、パーパルディア皇国では第1、第2、第3の3つに分かれている。

 第1外務局は、皇宮の内部に位置し、第3文明圏の5大列強国のみを相手として外交を行う。

 対外関係に細心の注意が必要であり、高度な政治判断が求められ、勤務員はエリート中のエリートである。

 第2外務局は、皇宮の外側に位置し、列強国以外の文明圏に属する国家を相手にする。

 国力を後ろ盾にし、無理な要求を押しつつ、国益をいかに引き出すかが求められる。列強保護国もいるため、一方的に高圧的に出るわけにもいかず、高度な判断が求められる。

 エリートが属する。

 第3外務局は文明圏以外の国、いわゆる蛮国相手の仕事である。

 いかに高圧的に出て、相手から絞りとれるかが試される。

 蛮国は量が多いため、外務局人員の6割がここに属する。 

 独自の皇国監査軍と呼ばれる軍に命じ、懲罰行動を行わせる権限を有する。

 ロウリア王国の資源獲得計画の裏工作は、国家戦略局が独自に動いて失敗した。

 投資額が大きいので、隠しきれないのは明白であるが、現時点では、内部で隠蔽されており、現時点で日本という名の国を知る者は、この第3外務局の人間以外は知らない。

 

 話を戻そう。

 第3文明圏列強国、パーパルディア皇国の東側約210kmの位置に、縦150km、厚さ60kmの、まが玉を逆にしたような形の島がある。

 名をフェン王国という。

 その東側には、内海を挟んですぐフェン王国を鏡写しにしたような、まが玉の形の国、ガハラ神国があり、そこから東へ500km行った位置に日本がある。

 皇帝の国土拡大計画の一旦として、第3外務局では、フェン王国の南部、縦20km、横20kmの範囲をパーパルディア皇国に献上するよう求めた。

 その場所は森林地帯であり、皇国外務局としては、国土を得たという実績が残り、フェン王国としても、森林地帯であり、使用しておらず、パーパルディアに忠誠を誓う事によって準文明圏国家として、技術供与を行い、さらにパーパルディア同盟国として、国名に箔が付き、周囲からの侵略の可能性が激減する。

 国土も発展し、国が富む。

 フェン王国がこのすばらしい提案を断ったため、第2案として準備していた、同場所を498年間租借する案を出した。

 この租借案に対し、フェン王国の剣王シハンは丁重に断ってきた。


「列強国の顔をつぶされた」


 第3外務局はこのように判断し、局長カイオスの命により、監査軍東洋艦隊の派遣が決定された。




「すいません、局長様が無理なら、課長様でも良いので、権限のある方にお目通りをお願いしたいのですが・・・。」


 日本国外務省の一団は、この3ヶ月間、窓口で足止めされていた。


「しばらくお待ち下さい。順番に手続きを行っていますので・・・。しかし、貴方たちの要求内容を見ましたが、かなり高度な・・・いわゆるハードルが高い事が記載されていますので・・・。」


「と、いいますと?」


「あなた方は、・・・もしもパーパルディアの民があなた方・・・日本国でしたか?の中で、犯罪を犯したとして、治外法権を認めないと言ってらっしゃるので・・・・。」


「それが何か?国と国の間では通常の事と理解いたしますが・・・」


「・・・我が国は列強ですよ?」


「それが何か?」


「あなたの国は、出来たばかりですか?文明圏以外の国とはいえ、国際常識を知らないにもほどがある」


 窓口勤務員は語気を強める。


「?」


「いいですか、今、世界において、治外法権を認めないことを我々が了承している国は、4カ国のみです。つまり、列強国のみなのです」


 話は続く


「列強国でない、まして文明圏にも属していない、国際常識すら理解していないあなた方の国が、治外法権を認めない、対等の国として扱えとか、列強国のごとき要求をしている。・・・課長はあと2週間くらい後には空きますので、あと2週間待って下さい。ただ、私としては、これはかなりハードルが高いと言わざるを得ません」


 日本の国土は文明圏の外側に位置しているため、その国力の1万分の1以下の国と同等に扱われていた。

 話が通らなければどうしようもない。

 外務省職員はトボトボと帰っていった。

 この2週間がパーパルディア皇国にとって、大きな2週間になる事は、このとき誰も知らなかった。




 フェン王国、この国に魔法は無い。

 国民全員が教育として剣を学ぶ。

 剣に生き、剣に死ぬ。どんなに見下されるような出生でも、強い剣士は尊敬され、どんなに見た目が良くても、剣が使えない者、弱い者はバカにされる。

 王宮騎士団の十士長アインは今日も剣を振っていた。

 国に10人しかいない剣豪の称号を持っている。

 元々王宮騎士団に入るつもりは無かった。剣は好きだったが、建物の設計が好きで、その道を進もうと思っていた。

 自分の道を変えたのは、母である。

 その日は寒い日だった。

 アインがまだ学生の頃、母が夕食準備中、前々から髪が伸びていることが気になっていたため、夕食前に散髪屋に髪を切りに馬で出かけた。

 彼が家を出ている間、家の近くではある事件が起きていた。

 0歳の子供を背負い、2歳の子供の手を引いていた女性がいた。

 その女性が目を離した隙に、2歳の子供が川に落ち、おぼれ始める。

 女性は0歳5ヶ月の子供を背負っており、川には飛び込めない。

 その女性は近所に助けを求める。

 その家では、アインの母が食事の準備中だった。

 その知らせを聞いた母は、寒い日に、川に飛び込んだ。

 母は、その子供を助け、川から岸に上げた後、急激な温度差から心臓が止まり、その場に倒れこんでしまう。

 アインが家に帰った時、母はすでに亡くなっていた。

 彼は泳ぐのが得意だった。

 自分がいれば、助ける事が出来たのではないか?・・・後悔した。

 後悔して後悔して何度も泣いた。

 ある日、学校の授業で教えられたある文を機に、彼は王宮騎士団に入ることを決意する。

 王宮騎士団は、軍であると同時に、国の治安機能を担っている。


 王宮騎士法第2条第1項

 王宮騎士は、個人の生命、身体、財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧、犯罪者の逮捕、その他公共の安全と秩序の維持をもってその責務とする。

 

 この文を見た時、母は命をかけて人を助けた事を思い出し、将来の指針を決めた。


「アイン、ちょっと来てくれ」


 アインの上司である、騎士長マグレブが話しかける。


「何ですか?」


「剣王シハンがお呼びだ」


 剣王シハン・・・フェン王国の国王である


「え?私をですか?」


 十士長ごときが剣王に呼ばれるなんて・・・考えられない事だった。


「いや、私もだ。全騎士団の十士長以上の者が対象だ、どうやら国の一大事らしい」


 彼は王宮へ向かった。



 フェン王国首都アマノキ 王城


「パーパルディア皇国と紛争になるかもしれない」


!!!!!!!!!!!!!


 全員に衝撃が走る。

 フェン王国には魔法が無い、これで1番問題なのは、導師の放つファイヤーボルト等ではなく、魔通信が使えない事。

 情報伝達速度の差により、同量の兵力でも戦力差はとてつもないものになる。

 パーパルディア皇国との国力差も問題だ。

 フェン王国対、パーパルディア皇国

 人口 500万人対7千万人

 戦船 バリスタ配備切り込み型 21隻対 砲艦422隻

 ワイバーン 無し 対 500騎

 ワイバーンロード 無し 対 350騎

 戦力差は絶望的であり、さらに敵は列強だ。兵士の装備も全く違うので、数値以上の差がある。

 敵が文明圏というだけでも避けるべきである。にも関わらず、よりによって列強・・・場は静まりかえる。

 フェンにワイバーンがいないのは、フェンの東にある国、ガハラ神国に風竜が住み着いているからだ。

 風竜は知能が高く、ワイバーンよりも遥かに上位種であり、ワイバーンは島に寄り付かない。

 ガハラ神国では、神通力と呼ばれる魔法のような術で、風竜12騎を味方につけている。

 数は少ないが、一騎当千であり、列強も一目置いている。


「現在、ガハラ神国にも援軍をもらえないか、要請している。各方面に対策を実施中だ」


 剣王はガハラ神国の首都、タカマガハラの神宮に住まう神王ミナカヌシに親書を送っていた。


「とにかく、各人戦の準備をしておいてくれ」


 張り詰めた空気が流れた。





「剣王、日本という国が国交を開くために交渉したいと参っております件はいかがいたしましょうか?」


 会議が終わり、通常の執務中、王の側近である剣豪モトムが話しかける。

 

「日本?ああ、ガハラ神国の大使から情報のあった、ガハラの東側にある新興国家か。あの辺は、小さな群島で、海流も乱れていたな・・・。

 各島の集落が集まって国でも作ったのか?」


 剣王は、小さな国をイメージしていた。


「いえ・・・それが・・・。日本が言うには、人口1億2千万人いるそうです・・」


「い・・・1億2千万人!?ワハハハハ、ホラもここまですれば大したものだ」


 剣王は全く信じていない。


「それが・・・ガハラ神国経由の情報でも、同様の情報があります。両国とも、すでに国交を結んでおり、すでにそこにあるのは群島ではなく、4つの大きな島から成り、列強をも超える超文明を実現していると・・・。」


「ほう・・・列強を超えるのは、言い過ぎとしても、ガハラ神国がそこまで褒めるのであれば、それなりの国家なのだろうな・・・。」


 剣王、他の側近は日本の外務省の人間と会うことにした。




「なんというか・・・身が引き締まるな」


 国中が厳しく、厳格な雰囲気が漂っている。武士の治める国・・・これが局員のイメージだった。

 生活レベルとしては、低く、国民は貧しい。しかし、精神レベルは高く、誰もが礼儀正しい。

 日本が忘れた真の武士道のようなものがそこにはあった。


「剣王が入られます」


 声があがる。外務省職員は立ち上がって礼をする。


「そなた達が、日本国の使者か」


 相手は達人の域を大きく超えている。外務省職員で剣道7段の島田は、剣王の動きを見て感じ取る。


「はい・・・貴国と国交を開設したく思い、参りました。ご挨拶として、我が国の品をご覧下さい」


 剣王の前には、様々な日本の「物」が並ぶ。

 日本刀、着物、真珠のネックレス、扇、運動靴・・。

 剣王は日本刀を手に取り、引き抜く。


「ほう・・・これは良い剣だ」


 気を良くした剣王、話が始まる。

 事前に聞いた、日本からの提示条件と、日本からの書類に間違い無いか確認する。


「失礼ながら、私はあなた方の国、日本を良く知らない」


 話が続く


「日本からの提案、これはあなた方の言う事が本当ならば、すさまじい国力を持つ国と対等な関係が築けるし、夢としか思えない技術も手に入る。我が国としては、申し分ない」


「それでは・・・」


 外務省の人間の顔が明るくなる。

 それを遮って剣王は話す。


「しかし、国ごとの転移や、海に浮かぶ鉄船等、とても信じられない気分だ」


「そ・・それは、我が国に使者を派遣していただければ、・・・」


「いや、我が目で見て確かめたい」


「と・・良いますと?」


「貴国には、水軍として、海上自衛隊というのがあり、護衛艦群というのが4つあると聞いた。」


「海上自衛隊?ありますが・・・」


「その護衛艦群のうち、1つでも親善訪問として、ここに派遣してくれぬか?今年我が国の水軍船から廃船が4隻出る。それを敵に見立てて攻撃してみてほしい。要は、力が見たいのだ」


 外務省は面を食らった。

 通常、他国の軍が国交も無いのに来るというのは、威嚇であり、細心の注意を払う。

 非常に嫌がるのが普通であるのに、この国は「力を見せろ」という。しかも首都アマノキの沖に持ってこいという。

 異世界で、しかも武の国だから、そんな事もあるのかな?と思い、本国に報告、近日中に訓練も兼ねて、護衛隊群が派遣される事が決定した。




 フェン王国 首都アマノキ 上空


 ガハラ神国 風竜騎士団長スサノウは、隣国、フェン王国の首都上空を飛行していた。

 今日は、フェン王国が5年に1回開催する「軍祭」が行われるため、その親善として、3騎で上空を飛ぶ。

 軍祭は、文明圏外の各国の武官も多数参加し、武技を競い、自慢の装備を見せる。各国の、軍事力の高さを見せる事により、他国をけん制する意味合いもある。

 文明圏の国も呼びたいが、「蛮国の祭りには興味が無い」のが本音らしく、「力の差を見せ付けるまでもない」といった考えもある。

 スサノウは、上空から下を見た。

 常軌を逸した大きさの灰色の船8隻と、小さいが綺麗に白く塗られた船1隻が見える。

 そのうち1隻は、着陸出来そうなくらい大きい。

 東の国、日本という名の新興国家らしい。


「まぶしいな」


 相棒の風竜が話しかけてくる。

 風竜は知能が高い。


「確かに、今日は快晴だ」


 太陽がまぶしく、雲の少ない日だった。


「いや、違う。太陽ではない。あの下の灰色の船から、線状の光が様々な方向に高速で照射されているのだ」


「船から光?何も見えないが」


「フッ・・・人間には見えまい。我々が遠くの同胞と会話をする際に使用する光、人間にとっては、不可視の光だ。何かが飛んでいるか、確認も出来る。その光に似ている」


「飛行竜が判るのか?どのくらい遠くまで?」


「個体差がある。ワシは120kmくらい先まで判る。あの船の出している光は、ワシのそれより遥かに強く、そして光が収束している」


 まさか・・・。


「まさか、あの船は、遠くの船と魔通信以外の方法で通信出来たり、見えない場所を飛んでいる竜を見ることが出来るのか?」


「あそこにいる8隻すべてがそのようだな・・・。」


「日本か・・・すごい国だ」


 上空では、このような会話が行われていた。





 海上自衛隊イージス艦 みょうこう


「信じられんな・・・。」


「しかし、間違いありません」


 上空に飛んでいる風竜と呼ばれる生物から、レーダー波に酷似した電波が照射されている。

 このレーダー波は、航空機の物として見れば、それなりに出力が高い。

 文明圏から外れた国で、レーダーを持つ飛行物体が確認された。

 つまり、文明圏には、これを大量に運用出来る部隊がある可能性もある。

 この報を機に、転移により一時凍結されていたステルス機の開発が急ピッチで始まることとなる。



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ステルス機だと!? 先ずは、かつてのブラックバードみたいなのを再現してくれんだろーか?
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