ヒノマワリ王国3
次にくるマンガ大賞にノミネートされていました。
結果はどうなるかまだ解りませんが、応戦していただいた皆様、本当にありがとうございました。
感謝致します。
ズガァァァァン
「ああっ!!!」
ダラスのいる場所から東の建物が爆発炎上し、崩れ落ちる。
制統府の……ヒノマワリ王国を統治するための兵の寮が爆炎に包まれた。
寝ている間に多くの兵が失われた。
連続する閃光と爆炎。
町には悲鳴に溢れ、人々は何処へ行って良いのかも解らずに逃げ惑う。
しかし、ダラスは気付いた。
気付いてしまった。
「バカなっ!!バカなバカなバカナッ!!!」
サーチライトが空を駆け、対空火砲が火を噴く。
発射音と共に夜空に光弾が飛翔した。
第2文明圏と名乗るこの周辺国家の主力兵器であるワイバーンが相手ならば、すぐにでも撃墜出来るほどの高火力と索敵能力。
しかし、敵を見つけることすら出来ていないようにも見えた。
恐るべき威力を持つ敵の『空爆』によって攻撃していた対空火砲はすぐに建物ごと破壊される。
連続する爆音。
攻撃は続き、帝国の重要施設の場所付近から連続して閃光が走る。
いくら月が明るいとはいえ、闇の支配する夜に、肉眼で高空から地上が識別できるはずが無い。
漆黒の夜に、建物だけを遙か高空から精密に射貫く事など、絶対に出来ない。
出来るはずがない。
日本軍は誘導弾を持つという。
帝国でも最新のレーダーや、理論段階の赤外線誘導を利用していると仮定するならば、空や海等に限定されるはず。
他に建造物が無い場合にのみ有効なはずだ。
大体見えもしないのに、どうやって似たような建物が多い中、特定の建築物を識別して攻撃出来るというのか。
本で読んだ知識と、技術者より聞かされた知識がダラスの頭を巡る。
ダラスは、空からのレーダーによる照準や、暗視装置などは想像の外側であり、理解が追いつかなかった。
ガァァァァン!!!
「キャーーーーーー!!!!」
「ワァァァァァァァァっ!!!」
彼が考えを巡らす間も破壊は続き、街は恐怖に包まれた。
次々と、まるであらかじめ爆弾でも仕掛けられていたかの如く、ピンポイントで重要施設だけが破壊されていく。
「はあっ!!はあっ!!はあっ!!ハアッ!!」
何処へ向かって走っているのか、自分でも解らない。
ただただ、理解の遙か上の兵器を持つ日本軍が怖かった。
心の底から震え上がる恐怖。
銃を向けられた者、死の可能性というのは想像していたよりも遙かに恐ろしい。
もしかすると、グラ・バルカス帝国人だけを狙った攻撃が出来るのかもしれない。
自分も今、空から狙われているのかも知れない。
心臓は破裂しそうなほど鼓動し、息は切れてよだれも垂れる。
日本の外交官、朝田の顔が脳裏に浮かんだ。
(貴国と我が国は文明に70年以上の開きがある)
最近の連敗が日本との軍事力の差を物語る。
あの言葉を簡単に考えていた。
(もしも戦争になったなら、あなた方は自衛隊に手も足も出ずに敗北する!!)
忌々しい顔が頭に浮かぶび、言葉どおりの恐怖にさらされる。
「うるさい!!うるさいうるさいうるさい!!!」
考えを振り払い、走る。
こわい……こわい……こわい……ただひたすらに恐ろしい。
石ころに躓き、無様に転げ回った。
もう休みたい、倒れてしまいたいと体が訴えるが、恐怖が限界を超えた体を突き動かす。
土にまみれ、額と鼻から血を流しながら彼は攻撃から逃れるために森の方向へ走った。
◆◆◆
ヒノマワリ王国 制統府 統治軍地下司令室
「制統府崩れ落ちました」
「第1から第18対空火砲、すべて沈黙。対抗手段を失いました」
「兵舎が爆撃を受け全壊。被害甚大!!」
「ぐうっ!!何故こんな時に……」
緊急時のための地下司令室で、制統府の当直主任オル・ブーツの心は凍り付く。
すでに幹部官舎も爆撃を受けて崩れ落ち、制統府の責任者とは連絡が取れない。
対空火砲はすべて沈黙し、一瞬とも言える短期間で主要施設のほとんどが破壊されてしまった。
応援を求めようにも、電波塔もすでに破壊されていた。
初撃で有効な兵力のほとんどを失ってしまった。
今現状動ける兵力は、最初の爆撃に気づいて難を逃れた歩兵230名と、要人暗殺のための部隊50名、計280名のみ。
「くそっ」
こんなことはグラ・バルカス帝国本国の精鋭部隊でも不可能だ。
敵は間違い無く強い。
現在の最高責任者は自分、自分がこの局面を乗り越えなければならなかった。
オル・ブーツは卑劣な人間だった。
適当に仕事をこなし、帝国兵の地位を巧みに利用し、様々な国で現地人から金を巻き上げ、現地の女を使って欲望を満たした。
金と飽きた女を使って上司に媚び、同僚を蹴落とし、部下を部品のように使い潰して出世した。
当直時間帯に主任を任される地位まで昇る。
本来彼はこの職務をこなすほどの能力は無い。
「現在被害は拡大しています。動ける物達は戦闘準備を行って待機指示しています」
部下が報告してくる。
「何故事前に察知出来なかった!?歩兵でどうやって戦闘機に立ち向かうつもりなんだっ!!!
銃で飛行機は落ちんぞ!!!
レーダー担当責任者は誰かぁぁぁっ!!!」
すでにレーダー塔は崩れ落ちている。
死者に文句を言っても仕方ないのだが、無能な彼は誰かの責任にせずにはいられなかった。
周りの物達は怒った勢いでごまかそうとするその姿に呆れかえる。
オル・ブーツは考える。
すでに対空兵器は沈黙し、制統府も崩れ落ちている。
歩兵230と、暗殺部隊50名、歩兵は小銃だけが持てる兵器。
空爆は防ぎようがない。
地下司令室、おそらくここは空爆に耐えうるだろう。
すでに軍は実質的に全滅状態で、敵は今までの奴らに比べて信じられん程強い。
おそらくはケイン神王国を遙かに超える敵だと、本能が訴えた。
迫り来る死の恐怖。必死に思考を巡らした。
(そうだっ!!)
彼はひらめく。
「空爆を受け、空に対する反撃能力は削がれた。
しかし我々はこのヒノマワリ王国の支配を手放す訳にはいかない!!
次の手として地上軍の侵攻が予想される。
ハルダール川にかかる橋14橋すべてに爆破装置を仕掛け、地上軍の侵攻に備えよ。
暗殺部隊にあっては敵特殊部隊の侵攻に備えよ」
「はっ!!!」
珍しくまともな指示を出すオル・ブーツに多少の驚きを覚えながら各員はすぐに指令を開始した。
しかし……。
「なんだって!??」
突然大声を出す通信員。地上から伝導管で伝えられる内容を必死に書き留める。
「どうしたっ!!!」
「東の空に『星の信号弾』を認めたそうです。弾は5発となっています」
『なっっ!!!』
場が凍り付いた。
「五発だと?星の信号弾が5発だとっ!!」
「はい、間違いありません」
猛烈な輝きと爆裂音を出す星の信号弾。
通信系統が遮断された場合の非常用として利用されていた。
国境付近から目視できる範囲で上がり、目視によって各基地から信号は中継される。
やがて指令室周辺からも見える場所で打ち上がる。
敵地上軍の大規模侵攻の合図……。
具体的な位置や、規模は無線が使用できないために解らない。
状況がよく解らないというのがさらなる不安をあおる。
「ばっ……バカなっ!!早すぎる!!!空爆と同時進行……いや、事前に出ていたというのか?
そんな作戦はありえない!!」
よほど戦力に差があり、空爆による敵の無力化に自信を持たないと出来ない作戦だった。
(もうダメだな)
万策が尽き、命の危険が現実のものとなったように思えた。
オル・ブーツはすぐに決断する。
「このままでは敵の大規模侵攻にはとても耐えられない。
無線塔が破壊されている現状であれば、直接援軍を求めに行く必要がある。
幸いにして緊急用の偽装滑走路と緊急連絡用の機体は破壊されていない。
大規模侵攻であれば援軍も相当数必要となるため、ある程度権限の持つ者が行く必要が………。
仕方ない。私が行こう」
『!!!!』
部下の顔が引きつる。
このオル・ブーツは現在の最高責任者にも関わらず、戦場から離脱しようとしていた。
「すぐに帝国の戦闘機が空を埋め尽くし、敵を排除するだろう」
『っ!!!』
緊急連絡用の機体「スタークラウド」は最高時速695kmを誇り、グラ・バルカス帝国内でも相当の速さを誇るため、おそらく逃げ切れると踏んだのだろう。
皆、反論したい気持ちを押さえながら、クズ「オル・ブーツ」の指示に従うのだった。
オル・ブーツは静かに退室した。
◆◆◆
「なんか信号弾が上がりましたね」
「大規模侵攻と勘違いしてくれていれば良いが……」
「敵の地上軍を勘違いさせるのに何の意味がおありで?」
「うむ、日本国によれば……地上軍もそうだが、主たる目的は周辺の航空戦力をヒノマワリ王国周辺に向かせる事に意義があるらしい」
「しかし、グラ・バルカス帝国の空の鉄竜を壊滅させ、無線……だったか?それも無力化出来るのですよね?
気付かない可能性もあります」
「まあ、帝国が気付かず壊滅したらそれはそれで良いのでは無いか?とにかく我らは与えられた仕事を完璧にこなすだけだ」
ヒノマワリ王国の国境監視塔から見える位置、第二文明圏連合軍の特務隊が横一列に薄く配置する。
多くの旗が並べられ、無人のたいまつが焚かれた。
後方では馬が必死に枯れ草を引き、僅かな明かりでも土煙が確認出来た。
通常であれば、空から確認が行われて作戦は失敗する。
しかし、日本国によって彼等は目を奪われている。
猛烈に立ち上る土煙に、グラ・バルカス帝国兵は大規模侵攻と誤認した。
第二文明圏連合軍特務隊による陽動作戦の第一段階は成功することとなる。
◆◆◆
ヒノマワリ王国 制統府 統治軍地下指令室
敵大規模侵攻の可能性、残った兵力の少なさ、
指令室は沈黙に包まれていた。
「おのれ、オル・ブーツめ!!」
副主任ジャギーナはオル・ブーツのいなくなった部屋で吐き捨てる。
「兵達は配置についたか?」
「現在各橋に爆薬をもって走っています。
橋にバリケードを張り、突破されたと見せかけ、橋の中央部まで敵が侵攻した時に爆破し、橋を落としますがよろしいですね?」
指示を出す前にすでに最適解の対策を考えてを考えて動く。
優秀な部下達をもって、本当に良かったと感じる。
「了解だ。シーン暗殺部隊の配置状況は?」
シーン暗殺部隊……部隊長シーンの名を冠し、暗殺部隊としての成功率は極めて高く、帝国本国の評価もすこぶる高い。
音も無く忍び寄り、暗殺する事もあれば、重兵器を操り殲滅することもある。
単刀直入な名前であるが、ヒノマワリ王国において特殊作戦全般を行う実力行使部隊であり、通常の陸軍歩兵に比べて遙かに強靱な精神と肉体を持っていた。
「敵特殊部隊が投入される場合は警備の薄い東門から以外には考えられません。
よって、東門周辺での監視体制を強化しております。
すでに周辺の建物から住民をすべて排除し、敵が隠れる可能性のある建物に爆薬を仕掛ける等、準備を整えつつあります」
民間人は攻撃が行われた際に逃げ惑うため、戦場では邪魔以外のなにものでも無い。
グラ・バルカス帝国は戦場になりそうな範囲から民間人の排除を進めていた。
「我が本国の特殊部隊のように、空から来る可能性もあるのではないか?」
「空から直接街中に降りる場合は滑走路や広場に限られます。
同場所は狙撃を受けやすい。
東門であれば、門周辺にも民家が広がり、浸透しつつ来る可能性が高い」
暗殺部隊は東からの侵攻を見越して各建物に重機関銃や迫撃砲、擲弾筒(手榴弾のような爆発する弾を遠くに飛ばす兵器)を配置しようとしていた。
敵の特殊部隊だけではなく、大規模侵攻も東から来る事は間違いない。
兵装はそれらの排除にも役だってくれるだろう。
「そうか……敵は我が方の重要な建物をピンポイントで狙ってきた。
おそらくあらかじめ情報が漏れていたのだろう。
それにしても凄まじい精度の空爆だ……奴らは強い!!」
「はっ!!重要施設が把握されていた可能性を考えて暗殺部隊は民家を徴用し、偽装を施して配置準備を進めております。
航空機が空爆するような高空からは絶対に見えません!!」
「よし!!援軍が来るまで耐えるぞ!!敵は大軍とはいえ、ほとんどは所詮この世界の蛮族どもだ。
我ら一人一人が力を発揮し、一致団結すれば突破できない壁では無いっ!!」
副主任ジャギーナの指揮に微かな光を見た部下達は、自分たちが生き残るために必死に動く。
◆◆◆
「はあっ!!はあっ!!はあっ!!」
息が切れる。
いったいどれほど歩いただろうか。
ダラスは木々の間から差し込む僅かな月明かりを頼りに山道を歩いていた。
草の茂みで肌を切り、ズタズタになりながらも歩き続ける。
この山を超え、250kmほど行けば帝国の支配する街があるはずだった。
(何とか帝国勢力圏まで逃げ切ってやる!!)
未だに轟音が聞こえ、閃光が闇夜を切り裂く。
彼は見通しの良い場所に出て、ハルナガ京を見た。
「……何と言うことだ。これは……現実か?!!」
制統府、そして帝国の重要施設がある付近が燃えている。
建物が燃える光は猛烈の一言であり、空は赤く焦げて見える。
ふと我に返った。
顔は土に汚れ、服は所々破れる。鼻水と涙で顔が湿っていた。
無様だ。
帝国の外交官、エリートの代名詞……そんな自分が恐怖のあまりに逃げ回っている。
「おのれ……おのれぇ……おのれぇぇぇぇぇっ!!!日本国めぇぇぇぇぇっ!!!」
怒りのあまりに闇夜に叫ぶ。
大声で叫んだため、少しだけ恐怖が和らぐ。
俺は帝国のエリート外交官、そんな自分をこんな無様な姿にさせた原因は日本だ。
絶対に許さん!!
ゴォォォォォッ!!!
「ひいぃっ!!」
F-2 戦闘機のアフターバーナーの音が響く。
反射的に情けない声を出してしまう。
「ぐぅっ!!」
怒りと恐怖が入り交じった。
彼は、帝国勢力圏に向かって歩き続ける。
◆◆◆
ヒノマワリ王国 首都ハルナガ京 東門付近
「第1遊撃隊配置完了!!」
「重機関銃1から15、配置完了」
周辺の民家は徴用し、屋上には重機関銃を配置した。
敵の空爆から逃れるために空から見えぬよう、袋を被せ、闇夜に紛れる服を着た兵が配置につく。
小型の迫撃砲(放物線を描いて砲弾を飛ばす兵器)も持ち出し、効率的に配置した。
「来るなら来やがれ!!!!」
暗殺部隊の副部隊長フル・ハートは部下の練度に絶対の自信を持つ。
敵の空爆は狙いこそ正確であるものの、投射量は少ない。
ムーは手強いが、この配置ならば大半の蛮族どもの大軍でさえも防げるはず。
警戒するべきは敵特殊部隊だが、この重機関銃や迫撃砲、擲弾筒の配置、そして備え付けられた爆弾。
東門周辺はどの位置からでも攻撃は可能であった。
元々あった帝国の施設には配置せず、民家のみに配置しているため、敵に事前情報は無く、現に攻撃も受けてはいない。
かつて、ケイン神王国の大軍を少数精鋭で足止めしたとされる作戦を、彼等は実践していた。
「フアッハー……我が軍は完璧だ!!」
懸念すべきは敵が東門周辺を縦断爆撃された場合、及び日本軍正規軍の大規模参戦。
その場合は建物を爆破して瓦礫の山を気付き、後退しつつ次の作戦に備えるしかない。
「フルハート副部隊長殿、民間人は東へ追い出して本当に良かったのでしょうか?」
帝国は付近の民家からヒノマワリ王国人を追い出していた。
追い出した民間人は東方向、つまり制統府から遠い方向へ追い出していた。
「奴らは戦場では邪魔だ。
そして帝国に降っている国の奴らに人質の価値もない。
食料の確保も問題だしな。
唯一使えるのは、敵の来る方向に追い出し、特殊部隊もしくは大軍を前に逃げ惑う事。
敵将によっては容赦なく殺されるだろうが、敵の弾を消費することとなる。
属国の民がいくら死のうが全く問題ない」
「おおぉぉぉ、さすがはフルハート副隊長、そこまで思い至りませんでした」
王国の要人を暗殺し、ヒノマワリ王国第3王女フレイア邸宅での暗殺を指揮した彼等は負けたことが無かった。
不敗が自信を加速させる。
「シーン暗殺部隊は不敗をこれからも貫いていくであろう!!!」
彼等の士気は上がり続ける。
決して負ける事は無いと、確信しそうになるほどに。
「ん?何だ??この音は」
パタパタパタパタ……空気を叩くような音が遠くから聞こえてくる。
「徐々に大きくなっていくように思えますね」
聞き慣れない音、そして微かに混じるエンジン音。
「これは……敵が来るぞっ!!!」
シーン暗殺部隊は戦闘態勢に移行する。
陸上自衛隊の攻撃ヘリ AH-64D 4機はヒノマワリ王国王都 ハルナガ京東門へ距離を詰める。
ブログでは数話先行配信してます。
興味のある方は見に来てみて下さい。




