揺らぐ大帝国4
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グラ・バルカス帝国 最前線基地 バルクルス上空~
「第2空域異常なし」
『了解、第3空域へ向かえ』
グラ・バルカス帝国レイフォル占領軍第22陸軍航空隊所属のスタバルは、第2警戒空域の任務を終え、第3空域へ向かおうとしていた。
見落としの無いよう、3機で編隊を組み、警戒を行う。
今回の警戒飛行の対象は皇族の、しかも皇太子、次期皇帝という事もあり、敵機もしくは敵地上部隊を万が一にでも見落とすと、自分の命も含めてとんでもない事になるだろう。
いつも以上に気合いが入る。
敵国は、大海戦で空中戦艦なる化け物を戦闘に投入したらしい。
また、バルクルスの被害状況から、もしかすると日本国の戦闘機も、我が軍を陵駕する可能性があることが、前線兵の末端まで知れ渡っていた。
適度の緊張感と、皇太子の盾たる誇り、彼とその同僚はいつも以上に集中力を発揮していた。
星形エンジンのうなりと風切り音の合成風、無機質な音が機内に鳴り響いていた。
「ん!?」
微かな違和感を前方空に感じる。
次の瞬間、影が超高速で近づいた気がした。
前方を飛んでいた同僚の機体に閃光が走り、猛烈な爆発を起こす。
「う……うおぉぉぉぉぉ!!!」
何が起こったか解らない、突然の友人の死に恐怖が全身を駆け巡る。
スタバルの本能が全力で機関砲を発射するように、彼に働きかける。
その行為に意味は無いと理性は語りかけたが、彼は本能的に従い機関砲を何も無いはずの前方に発射した。
タタタタタタ……。
重厚な音と共に、20mm機関砲の弾が前方に射出される。
次の瞬間、右上空の後方を飛行していたもう一人の仲間が、轟音と共に四散する。
「な……何が起こっているんだぁぁぁぁぁ!!!」
叫びながら、発射し続ける。
次の瞬間……空戦の歴史に残るほどの奇跡が起こる。
グラ・バルカス帝国アンタレス型戦闘機に乗機するスタバルの放った20mm機関砲弾は、日本国F-2戦闘機が放った飛翔中の99式空対空誘導弾(AAM-4)に着弾した。
彼の前方に大きな火球が出現する。
巻き散らかされた金属片の一部が胴体をたたき、室内には不快な音が鳴り響く。
奇跡的に空対空誘導弾を回避したアンタレス型戦闘機は、すぐに反転急降下に移行した。 エンジン出力を最大にし、急降下を行う。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
地面が迫り、機首を上げようとしたそのときだった。
バフッ!!
微振動と共に、前方のエンジンから猛烈な黒煙が上がり、先ほどまで力強く回転していたプロペラが停止する。
「なっ!!!」
迫る地面、そして視界を遮る黒煙……必死で機首を上げる。しかし……。
「くそっ!!上がらない!!ぶつかる!!!」
突然のトラブルに対応出来ず、速度を抑えきれずに、生えていた木を削る。
「うあぁぁぁぁっ!!!」
時速500km以上で木の枝に接触したアンタレス型戦闘機の機体の主翼は取れ、胴体と木々擦れて削れる。
「うおぉぉぉぉぉっ!!!」
やがて、戦闘機は木の上で停止し、静粛が訪れる。
奇跡的に助かった。
彼は上空を見上げる。
「なっ!!!」
多数の……見たことも無い速さの飛行機雲が虚空に描かれる。
◆◆◆
グラ・バルカス帝国最前線陸軍基地 バルクルス
「ん?なに!?」
通信員は、定期連絡していた無線が全く使用出来なくなっている事に気づく。
バルクルスのレーダー基地は破壊されていたため、周辺基地のレーダー情報を無線で受信するという形の対空警戒が敷かれていた。
定期連絡をしていたはずの無線が全く反応しない。
彼は、故障の可能性もあると考え、基地内で配備中の部隊に無線連絡を入れてみた。
プレストークボタンを押し込み、一定時間をおいてゆっくりと話す。
『基地司令より第21小隊』
反応が無い。
『基地司令より第21小隊』
………。
『基地司令より各局、傍受した部隊あれば応答願うどうぞ』
全く反応が無い。
「まずいぞ!!」
通信員は、敵国の攻撃の可能性も考え、すぐに同室にいたガイア副司令に報告を行った。
「ガイア副司令!!無線が全く反応しません。複数系統ある無線すべてが故障したという可能性は極めて少なく、電波妨害の可能性があります!!」
「な……なんだと!?今皇太子殿下の来訪中だぞ!!万が一にでも攻撃されたらとんでもないことになる!!」
「すぐに緊急サイレンの吹鳴許可をお願いします!!」
「ま……まて!!サイレンで殿下に恐怖心を与え、結果何も無かったらそれこそ大問題だ!!」
「しかし、攻撃の可能性を知っておきながら、何もしない方が問題です!!」
「緊急用光信号を使え!!これならば、殿下も何が起こっているのか解るまい」
「了解しました」
緊急光信号……。サイレンが故障した場合、建物の上部が同時点滅をすることによって、緊急事態を知らせる信号。
点滅方式で意味合いが異なり、今回は敵攻撃の可能性アリ、戦闘配備に着けの信号を送る。
建物の上部が同時に赤色点灯し、一定の周期が繰り返し発される。
皇太子殿下出迎えの人員を残し、軍人は慌ただしく走り回った。
◆◆◆
グラ・バルカス帝国皇太子グラ・カバルは、最前線たる陸軍基地バルクルスに到着した。 飛行機に取り付けられた階段を降りると割れんばかりの拍手が巻き起こり、音楽隊が演奏を開始する。
軍人が前に出た後、カバルに対して敬礼を行う。
一斉がそろって行う敬礼、規律の高さがうかがえた。
「うむ、さすがは精鋭帝国陸軍だな」
グラ・カバルはつぶやき、基地司令ガオグゲルに案内され、司令室に向かおうとした。
「ん!?」
特設された空港から、アンタレス型戦闘機が12機、離陸を開始しようとしていた。
攻撃が予想されたための緊急発進なのだが、グラ・カバルは自分の出迎えのためのデモンストレーションと勘違いする。
「ほう、さすがは精鋭陸軍航空隊、離陸もスムーズで整然としているな」
美しい離陸シーンに目を奪われる。
次の瞬間、離陸中の約3機に猛烈な爆発が発生、滑走路に落下した。
爆発に巻き込まれ、離陸中の2機が墜落する。
滑走路に落下した機は燃料に引火し、離れていても体が振動するほどの爆発と共に猛烈な煙をあげる。
突然の出来事、目の前の非現実的光景に、何が起こっているのか解らずに、カバルは固まった。
「で……殿下!!こちらへ!!」
基地司令ガオグゲルが手を引き、もっとも堅牢な建物である司令部へ誘導する。
「おい!!いったい何が起こっているんだ!!」
「敵の攻撃です!!さあ早くおいで下さい!!!」
初めて見る生の戦場、おそらくはあの飛行機に乗っていた者は助からないだろう。
人があまりにもあっさりと死ぬ。
現地からの報告で、戦死者の数は数字の上では目にしたことがあった。
一桁だと、この程度の被害で済んだかと考えていた。
しかし、目の前であっさりと5人死んだ。
あれほどの練度、相当に練習を重ねたのだろう。
しかも、帝国航空兵となるために、相当に勉強をしたのだろう。
彼らにも家族はいただろう。
彼は、生の戦場を痛感する。
「これが……戦場か!!俺は今まで何も解っていなかった、なにも理解していなかった!!」
帝国が覇道を突き進むためには必用な犠牲、敵味方問わず犠牲は必ず起こるものであり、仕方の無いこと。
そう考えていた。
政治的には正しいのだろう。
しかし、目の前の理不尽な死は、犠牲がこれだけに留まった場合、数字の5として記載されるだけであり、自分はそれを見たとしても全く心は動かなかっただろう。
理性と感情が入り交じる。
やりきれない思いがカバルの心を駆け巡る。
続けて、滑走路から猛烈な爆発が連続的にあがった。
カバルは駆け出す。
「くそっ!!」
怖い……自分が殺されるかもしれない恐怖とは、これほどのものなのだろうか。
対空砲火が曳光弾を交えて、空に向かって打ち上げられる。
空には光の線が走る。
基地にはサイレンが鳴り響き、軍人達は慌ただしく駆け回った。
基地司令ガオグゲルと、グラ・バルカス帝国皇太子グラ・カバルは、基地司令棟の地下にある堅牢な地下司令室に入る。
司令部には無線を使わずとも各陣と連携可能な伝令管も張り巡らされ、基地の状況があつまり始めていた。
司令部からは、外の状況が目視出来るよう、潜望鏡のような装置が取り付けられていた。
外からは、絶えず爆音が鳴り響き、恐怖を加速させる。
「対空砲陣地、すべて沈黙!!」
「格納庫航空機、全機大破!!」
「重機及び戦車部隊、全滅した模様」
「移動式対空砲格納庫、爆撃により使用不能!!」
「無線基地局、空爆を受けました、無線使用不能」
絶望的な報告がなされる。
反撃の牙が抜かれていく。
ガオグゲルは必死に脳を回転させた。
「普通課部隊に連絡、皇太子殿下がおられる。地下司令室周辺に転進、爆撃をやり過ごすと共に周辺の守りを固めろ!!」
「了解」
指令は迅速に伝わった。
一通りの猛烈な爆撃の後、ふと音が消えた。
「第1次攻撃が終わったようだな。被害報告!!」
ガオグゲルの指令と共に、被害情報がもたらされる。
無線、対空砲、航空機、戦車、重機、そして移動式対空砲すべてが破壊されていた。
正確無比な爆撃、前回と同様だった。
「監視員より報告、敵第2波接近中!!複葉機、機数……さ……300を超えています!!」
「なんだって!!くそっ!!本気を出してきたか……しかし300だと?更地にでもするつもりか!!!」
狭い基地に対して300もの航空攻撃、ムー国は本気だ。
「おい!!ここはどうなるんだ!!」
グラ・カバルが不安をこらえきれず、ガオグゲルに尋ねる。
「殿下、この司令部は地中に埋まった要塞です。仮に爆撃で基地が更地になったとしても、ここは安全です」
「そ……そうか、すまん。指示を続けてくれ」
「はっ!!」
爆弾に取り付けられた笛が甲高い音を発し、降下してくる。
爆発音、そしてムー国による機銃掃射音は続き、基地司令部も不快な振動に包まれていた。
いつもは何も感じない複葉機のエンジン音も、今は恐怖の対象でしかなかった。
「耐えるしか無いか」
ガオグゲルがつぶやく。
それに答えるかのように、基地幹部は話す。
「司令!!バルクルスのエアカバーは本基地航空隊だけではありません。
無線が通じませんので、状況は判明しませんが、複葉機などは帝国航空隊がまもなく蹴散らすでしょう」
「……甘いな」
「はい!?」
「甘いと言ったんだ。
基地航空隊も第一次攻撃ですべて撃墜され、駐機する戦闘機も破壊された。
他航空隊のエアカバーが突破された証拠だ。
おそらく、付近の友軍機はすべて撃墜されている可能性が高い。
今回は、援軍を頼りにせずに、ひたすら耐えるしかない」
悲壮感に包まれる司令室。
ガオグゲルは続けた。
「しかし、幸い司令室は地下要塞と言って良いほど堅牢だ。
ムー国程度の爆撃ではびくともせんよ。
普通科には地下への撤収指示も出した。
上部はどうなるか……」
基地が全滅するであろう絶望と、それでもなお自分のいる場所は安全であるという安心感。
複雑な感情が入り交じる。
永遠とも感じられる爆撃音が終わり、ムーの部隊は去って行った。
司令部に静粛が訪れる。
「外の状況は?」
「監視員と連絡がとれません」
「外部は絶望的状況か……地下要塞に避難できた普通科部隊の人員数は判明するか」
「現在確認中、概ね350名程度と思われます」
「くっ!!ずいぶんと減ったな……無事な出口は?」
「現在確認中ですが、第12,18,24区画からは外に出ることが出来ます。
また、基地外へのトンネルに損傷は認められませんので、非常用トンネルはすべて使用可能です」
「さらなる攻撃も予想される。普通課の中から精鋭を選りすぐり、30名の部隊を選出、皇太子殿下を護衛し、非常用脱出トンネルを使用、基地外へ避難せよ」
「了解」
指令は正確に伝達され、すぐに部隊選出が始まる。
ガオグゲルは、グラ・カバルを向いた。
「殿下、このようなみっともない姿を晒して申し訳ありません。しかし、殿下のお命を最優先で守らせていただきます。
これより護衛部隊を選出いたしますので、部隊員と共に、非常用脱出トンネルで基地外へ避難して頂きますが、よろしいですね?」
皇太子の命を最優先に考える彼は、少し強めの語気で伝える。
「あ……ああ、すまんな。
部隊編成も時間がかかるだろう?編成完了前に、この基地の現在の様子をこの目で見ておきたい。
すこし地上に出る」
斜め上の回答に、ガオグゲルは凍り付いた。
「お待ち下さい。現在制空権は我が軍にはありません。
空からの突然の攻撃に対処出来かねる状況です。
殿下に万が一のことがあってはなりません。どうか脱出を優先して頂きたい」
「すまんな、私は……皇太子グラ・カバルとして、帝国臣民のために命を捧げた者達の闘いの生き様、生の戦場をこの目で確かめる義務があるのだ。
たとえこの命が危険に晒されようとも、臣民のために命を落とした者達が必死で守ろうとした基地を、そして現在の結果を、見る義務がある!!」
「殿下、ご再考を」
「すまん、すぐに戻るので行く」
自分の命が落ちるだけでは無い。軍幹部すべての首が飛ぶのだ。
ガオグゲルは出そうになる本音を飲み込む。
「では、私も行きます」
皇太子殿下、ガオグゲル、そして基地幹部は、破壊され尽くした基地を視察するために、地上へ向かった。
◆◆◆
僅かに地上に突き出た出入り口、ほこりまみれの扉が開かれ、中から男達がゆっくりと出てくる。
数人の男達が出て安全を確認した後、グラ・バルカス帝国の皇太子グラ・カバルが姿を現した。
「くっ!!これが……戦争か……」
無残にも焼けただれた建物群、中には穴だらけになった建物も見える。
滑走路は破壊し尽くされ、強力な力を誇った戦闘機群も地上で燃えている。
大きな建物は粗方爆撃で崩れ落ち、もうもうと立ち込める熱気はカバルの頬に熱を感じさせた。
当たりを見回すと、おそらくは元々人だったものがあちこちに散らばっている。
消し炭と化した者、原型をとどめていない者、一言でその光景を現すならば、正に地獄であった。
付近に動く者はおらず、まさに全滅に近い被害を出す基地バルクルス、すでに基地機能は無いに等しく、残骸だけが散乱していた。
「ギュオォォォォォォーーーン!!!」
突然の恐怖をかき立てる咆哮、次の瞬間、軽快な炸裂音と共に、空に向かって火線が走る。
「生き残りがいたのか!?」
建物の影から火線の先を見上げた。
「なっ!!!」
曳光弾を交えて空に打ち上げられる小銃、その先には竜の姿があった。
人間の魔力とは隔絶した魔力で打ち下ろされる導力火炎弾。
小銃の発射箇所には多数の火炎弾が直撃し、炎に包まれた。
「何と言うことだ……」
竜が空を舞う。
それも1騎や2騎ではない。
圧倒的……100以上の竜が基地上空を舞っていた。
あまりにも衝撃的過ぎる光景……。
「司令!殿下!……すぐに地下へ移動して下さい!!」
上空を舞う竜にはまだ気づかれていないようだ、しかし、あまりにも危険すぎる戦場だった。
建物の反対側を見張っていた兵が皇太子に注意を喚起する。
兵は続けた。
「西側より飛行物体接近、機数5!!」
ガオグゲルはすぐに見える位置に移動した。
「あ……あれは何だ!?」
衝撃を受けるガオグゲル、グラ・カバルもすぐにやってくる。
「あ……あれは!!」
ずんぐりむっくりとした機体、キーンといった聞き慣れない音、そして、機体サイズからしてあまりにも速い飛行速度。
その機体には飛行機に必ずあるはずのプロペラが着いていなかった。
「お……大きい!!そして速い!!一体あれは何処の国のものだ……」
立ち尽くすグラ・カバルに、兵はさらに話しかける。
「早く!!早く避難して下さい!!機影、翼に赤丸を確認!!日本国の航空機です!!早く避難を!!!」
上空には飛行機だけでは無く、竜が飛んでいるのだ。
中々動かない上司と皇族に兵は苛立ちを感じながら避難を促す。
飛行機は彼らの常識外の速力で基地上空に達し、急速に速度を落とした。
「爆撃が始まるかもしれません!!早く!!」
グラ・カバルとガオグゲルが走り出そうとしたとき、空に白い花が多数咲き乱れる。
飛行機の軌道上に連続して咲く一文字の花……美しくて目を奪われる。
「ひ……人!!まさか空挺か!!!地上部隊を送り込んで来やがった!!!」
陸上自衛隊第1空挺団は、パラシュートによる基地周辺への降下作戦を行っていた。
数はどんどんとふくれあがる。
彼らはすぐに地下室へ走る。
グラ・バルカス帝国にも空挺を行う部隊は存在する。
しかし、空からの降下は命がけ、多くの訓練が必用であり、空挺降下可能な者達の陸戦経験は必ずしも豊富なものでは無かった。
経験自体は浅いはず……。
「いや、甘い考えは捨てねば!!!相手は日本国、常識外の敵だ!!!」
地下にこもっていれば助かると考えていたガオグゲル。
地上部隊の投入という想定外の行動により、汗ばんだ顔はさらに汗にまみれる事になる。
参考
誤字あり、未完成版ですが「くみちゃんとみのろうの部屋」で数話先行配信してます
(未完成のため、小説になろうに投稿されるときは一部内容が変更される場合があります)




