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勇者は感染してました ーThe Beasted eMpireー  作者: 鶴見ヶ原 御禿丸
1章 戦慄廃国チルド:蹉跌編

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7話 ラザニア班発進!!


 朝、女子供は鶏の鳴き声ではなく少女の悲鳴で目覚める事になる。


「ギィィアアアァァァ!!ぜっったい嫌ですぅぅぅぅ!!!死んでしまいますぅぅぅ!!」


「お前ぇいい加減にしろよ自分で選んだんだろうがぁぁぁー!!」


「選んでませんもぉぉぉんんんーー!!!選んでませんもぉぉぉんんんーーーーッ!!」


 昨夜彼女と生きて帰ってこようと覚悟を決めたばかりだ、なのにも関わらず朝集合場所に来ないから様子を見に来てみれば決めた覚悟はどこへやら。


「あの子助けようって言ったじゃねぇか!!」


「でも怖い!!怖いですぅぅぅ!!」


「マジかよこいつ!!」


 洞窟の壁に鉄骨に張り付いた買いたての磁石のようになかなか離れようとしないミークを全力で引っ張り続けてかれこれ30分は経過している。とっくに集合の時間は過ぎているし今頃ドリアはブチ切れてるかもしれない。


「何をしている、もう行ってしまうぞ」


「あ、セルシ!こいつがなぁ!!」


「セルシさぁぁんこの人が意地悪するんですぅぅ!!」


「ふざけんなよお前ェ!?」


「はいはい静かにしろ、寝てる奴もいるんだぞ」


 言われて周りを見渡す、洞窟で生活してるであろう住人の何人かの視線が刺さる。


「ごめんなさい...」


「ごめんなさい...」


「全く..フッ!」


 ドッ


「きゅう〜」


「こうやって気絶させればいい、向こうについたらもう逃げれないからな」


「な、成る程...」


 一瞬で背後に周り手刀で首を叩いて気絶、漫画でしか見たことのない光景を目の当たりにした。明らかに手慣れている、もしかしてこの状況は何回かあったのだろうか。


 集合場所に行くと殆ど誰もいない、ドリア達は先に行ってしまったようだ。


「あ、彼がドリアの言ってた新人くん?」


「そうだ、これが今日のメンバーか」


 ミークを迎えに行く前にドリアから聞いた、志願者は20人、本来調達班ではない住民も志願したそうだ。調達遠征では固まって動くと直ぐに狙われるため5人1組のグループを組んで手分けをして物資を探すらしい、自分がミークと格闘をしている間にその班分けはどうやら終わっていたようだ。


「いい目をしておられる。ナルボだ、今日はよろしく頼むぞ」


「あぁ、よろしく、アイザックだ」


 要塞のような鎧を纏ったドリアほどではないが大柄で礼儀の正しい初老の男性、ウェーブのかかった茶髪と顎髭、そしてモンゴルの遊牧民を連想するような青がかかった民族衣装は爽やかながらも貫禄を表している。持っている武器は自分よりも背丈の長い両刃の斧、この一振りを受ければ自分はおろか大木をも軽々叩き壊せそうだ。


「はーい、ラザニアでーす!街の雑貨屋をしてました!だいたい街の立地は把握してるのでわからないことがあればお姉さんに聞いてね」


「アイザックだ」


「一応このラザニア班のリーダーだから、言うこと聞いてね」


「わかった」


 長い赤髪を後ろで束ねた爽やかな女性だ、雑貨屋にしては引き締まった筋肉とライダースジャケットに良く似た黄土色の防具と踵の高いブーツが微かな色気を醸し出している。腰に備えてるは黄土色に輝くククリ刀、漫画やアニメでしか存在を知らなかったが実際に見るのは初めてだ。


「彼女は元冒険者だからな」


「そうなの、結婚してから雑貨屋で身を固めたけどこの時代になってからは冒険者に戻りました!」


 冒険者とはこの世界では未開の土地の探索や住民などから依頼を有料でこなす、現代でいうフリーランサーに近い職業だ。勇者一向も名義上はこの職業だったという。まぁこの時代ではもはや意味をなさない職業だが...。

 しかし彼女やナルボ、元魔王軍幹部のセルシのようなのような修羅場での経験者がいるのは心強い、アイザックは非力も非力なので今の間は彼女に頼らせてもらうしかない。


「んで?君が担いでるその子が件の困ったちゃん?」


「あぁそうだ、ミークだ。面識はないか?」


「話には聞いてたけどね〜、ずっと引きこもってたから実際会うのは初めてかな」


「だってよミーク〜」


「怖い怖い怖い怖い...」


「えっと...本当に大丈夫?」


 鎖で簀巻きにされているミークはずっとこの調子だ、さすがに街まで着いたら鎖は解くが逃げ出さないか心配だ。


「だがまぁ」


 マナーモードの携帯のごとく震える彼女を見てセルシはため息をつく。


「こいつは勇者に仕えた魔法使いの妹だ、素質はある」


「それは前も聞いたけど」


 無理やり連れてきてしまったので、少し罪悪感がある。


「そういうアイザック、お前はどうなんだ、戦えるようには見えないが」


「あぁ確かに俺も偉そうなことは言えないな...逃げるのには自信があるから、荷物運びにでも使ってくれ、それか囮」


「...おや、君の持ってるそれって...」


 ラザニアがアイザックの腕に下げているものを指差す。


「あぁこれ?俺を助けてくれた恩人の持ってた盾だ。療養中だけ借りようと思ってな、さすがに剣の訓練をする時間はなかったからあくまでも盾だけ...だけどな」


「いいね、天国のあの子もきっと喜ぶわ!」


「まだ死んでねぇからな!?」


「あっはっはっは!」


 緊張気味だった空気が一気に和んだ、ラザニアのおかげでミークも少しだけ(少しだけだが)落ち着きを取り戻したような気がする。


「アイザック、これを」


「うわっぷ」


 セルシから大きめの布を被せられる、向こう側が見えるほどに薄い布だ。


「一応羽織っておけ、気配や魔力を消せる」


「俺魔力とかないけど」


「あるぞ、いや...まぁとにかく着とけ」


「?...ありがとう?」


 ーーー歩き始めて数時間が経った頃、森を抜けて丘の上に立つ一行。


「あそこだ」


「...戻ってきてしまったな...」


「...」


 壮絶な体験をしたあの街、「チルド城下町跡」にまた戻ってきた。状況が状況なら二度と戻って来ない場所だ。蔦まみれの外壁に沿って歩き、入り口の門をくぐると一つ違和感を覚える。


「...あれ、セルシは?」


 先程まで後ろを歩いていたセルシの姿が見当たらない、今朝も言っていたがこの世界での単独行動はいざ「堕ちた獣(ビーステッド)」に襲われた際、助けてもらえないので危険なのだ。


「んー?あぁ〜単独行動だよ」


「大丈夫なのかそれ」


「彼は狙撃手ですからな、高台を探しに行ったのでは」


「あーなるほど」


『聞こえるか、こちらセルシだ。』


「何だ!?」


 突然セルシの低い声が頭の中で鳴り響く、ラザニアとナルボはそれほど反応は無くミークに至っては「天の思召じゃぁ」となんかブツブツ呟いている。


『今お前達の頭の中に直接語りかけている、聞こえたら返事を』


「はーい、聞こえてるよー」


「同じく」


「俺も聞こえた、これ慣れないな」


「.....」


 『超遠隔感応魔法(アル・テレパシズム)』と呼ばれるその魔法は数百キロメートル先の対象と念話ができるという某携帯会社も商売上がったりの便利な魔法だ。ただ長く話をすると頭痛が起きるのが玉に瑕だ。


『2時の方角の高台で待機している、なるべくそこから狙える位置で行動しろ』


「りょーかい」


『ミークはどうだ?』


「あれからずっと俺のそばで震えてるよ、これ本当に連れてきてよかったのか?」


『素質はある』


「またそれか」


 ミークはかつて勇者と共に旅をしていた魔法使いの妹だ、姉と違い荒削りだが魔法のセンスは姉をも超えるかもしれないと当時王国では言われていたそうだ。ただアイザックから見たミークはとてもそんな凄い魔法使いには見えない。


「あ...あ...」


「どうかしましたかな?」


「あそこ...」


「!!」


 ミークが指を刺す方向を見ると、噴水の前に人影が二つ。カチカチ鳴らすあの歯の音と左右に見開かれた目は夢に出るほど染み付いている、昨日アイザックを襲った人形の異形、『堕ちた獣(ビーステッド)』だ。


「....っ...」


「ヒィィ...」


 怖い、かつてここまでゾンビが恐ろしく見える事があっただろうか。吸い込む空気が冷たい、冷たいのに額からの汗が止まらない、できるなら今すぐにでも走って逃げたい。

 だがこの不安はナルボの一言でかき消される。


「心配なされるな、大きな物音を立てなければ襲われることはありません」


「え?」


「あそこの噴水、水がまだ出てるでしょ?あの音で引きつけられてるからこの場は大丈夫だよ」


「ほ、本当ですか〜...?」


 ゾンビ映画でもよく見る状況だ、ゾンビは目が見えず匂いと音で獲物を探す。『堕ちた獣(ビーステッド)』もその例外ではないということか。


「そもそも2人とも気張りすぎよ?調達遠征とは言ってもよほどの事がなければ人が死ぬことって滅多にないんだから」


「そ...そうなのか?」


「昨日は魔法使いマンダカミアの出現によって2人は帰らぬ人となりましたが...あのような惨事はそうあることではありません」


「ここ数十回調達遠征言ってるけど、死人が出たのは1回目と5回目...それと前回...25回目くらい」


「万が一の事があっても奴らは足が遅い、走れば簡単に逃げられますからな」


「あとは例の魔法使いにさえ気をつけてればいい、そのため班を分散したんだから」


 緊張が降りる、確かに言われてみれば大きな物音を立てなければいいだけだ。昨日の出来事を思い返してみるとアイザックが全力で走った時も誰も追いついてくることはなかった。


「まぁ近くにいる可能性は無きにしも非ず、用心に越した事はありませんが」


「ミークちゃん連れてきたのも安全なうちに少しずつメンタルを鍛えるためだったのよね〜」


「そ、そうなんですかぁ〜...?」


『.......』


「どしたのー?」


『...なんだ今の光は』


 高台で陣取っているセルシが何かを見つけたようだ、方角はアイザック達がいる場所とは真逆の方向、王城のすぐ近くで発生した一瞬の閃光を見逃さなかった、眩い光が見えたその時。


 パァッン!!


 何かが破裂した音が街に響き渡る、噴水の近くで彷徨っていた『堕ちた獣(ビーステッド)』が反応して音の方角へ走り去って行く。


「い、今のはなんですぅ〜...?」


『わからん、あの地域はチーノ達が担当していた所だ。』


「一応見てきてくれる?」


『了解』


「気をつけてね」


 頭の中の声が静かになるとアイザック達も行動を再開する。噴水のある広場を少し通ると狭い小道に入る。


「よし、それじゃあ確認ね、今回の目的は「秘薬草」の入手、医療品の調達とついでに食料物資の調達もしとこっか、持っていけるもんは持って行っておこう」


「あぁわかった」


「街の診療所や品質いいのが揃ってる廃城が一番いいんだけどもうほとんど取り尽くしちゃってるんだよね」


「そ、それじゃあどうやって集めるんだ?」


「ん」


 ラザニアが指を刺したのはずらりと並ぶ中世の街並み、並び立つ家々だ。


「え、この民家一個ずつか?」


「えぇそうよ、露店や城の食糧庫とか食料の多いところは取り尽くしたからね」


「うげぇ」


「腐ってても回収してね、魔法で鮮度を復活させられるから」


 便利だ、もしかしたら自分も訓練すれば魔法を使えるようになるのだろうか。


「まずはここの家からね、あ、ゴキブリとか害虫もちゃんと回収してね!意外と漢方に使える場合があるから」


「うげぇ!!」


「それじゃあラザニア隊、しゅっぱーつ!」


 ...


 ..


 .


「なんだ、これは」


 セルシが見たもの...


  


挿絵(By みてみん)






 ()()()()()()()()()


 魔法使いが来たのか?いや違う、これは()()使()()()()()()


「まさか...()()が来ているのか?」


 ドリアは知っているのか?何故急に現れた?セルシは予感した、本当の地獄の幕開けを。

 

次回投稿は10/31 18:10!ハロウィン!

高評価を押していただけると、作者のモチベーション維持・向上に繋がります! さらに、感想をいただけたら作者嬉しさでうなぎが焼けます

よろしくお願いします!


ちなみに次で章ボスが出ます


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