27話 地獄の蟒蛇 ドリンク=バァ
祝・10万文字達成ッッ!!
アイザック君の全身像もご一緒にどうぞー
先手を打ったのはドリンク=バァだ、今度は一直線に飛ばずジグザグに高速で移動し距離を詰める。
一歩踏み込む度に地面は砕け破片が飛び散る、足でも踏まれたらひとたまりもないだろう。
「だぁぁッ!!」
ーーーズアッ!
「ぬぅ!?」
アイザックが両手で前方を押し出すと、ドリンク=バァに向けて衝撃波が襲いかかる、周囲の窓ガラスが割れ爆発音が響き回る。
その衝撃波はドリンク=バァを確実に捉えた。
「なぁ!?」
ーーーズンズンズンズン!!
だが止まらない、ドリンク=バァはジグザグを止め一直線に迫ってきていた。
『魔轟衝』ーーー、体内の魔力を前方に一気に放出し相手を吹き飛ばす技。魔法ではない、ただ魔力を噴射しただけに過ぎない。
ドリンク=バァの移動範囲全てを巻き込む衝撃波のため行動を妨害しつつ距離を無理矢理開ける目的で使う分には十分な効果を発揮する、はずだったのに。
「なら!!」
ーーードガッ!
「この程度の技でーーーぁっ!?」
ドリンク=バァが踏み込もうとした瞬間爆音が響き、それと同時に地を蹴りぬこうとした足が地面に深くめり込む。
「こいつッ!!」
『魔塊弾』ーーー、魔力を固めて撃ち出すだけの単純な魔法(これも魔法というほど複雑な物ではない)。ドリンク=バァはその踏み込みによって一瞬で距離を詰めてくるのが厄介だ。
であれば脅威的な踏み込みを封じてやればいい、『魔塊弾』をドリンク=バァの着地点にすかさず撃ち込めば足場が崩れ簡単に踏み込む事はできなくなる、という作戦だ。
思わぬ足場の変化に体勢を崩したドリンク=バァにすかさずシオンが追撃に出る。
「シッーー!」
「のぉ!!!」
シオンの横薙ぎを仰け反りで回避、それと同時にシオンの喉元目掛けて足のつま先が飛ぶ。
ーーーガンッ!
「ッ!」
しかし足がシオンの喉元に喰らいつく事はない、直前に盾を滑り込ませていたのだ。
だが地面を抉る脚力は相当なもので盾で防ぎ切ったにも関わらずシオンは軽く浮き上がる。
「シオン!!」
「軽い!」
ドリンク=バァの振り切った足、逆立ちの体勢のまま勢いよく足を、体を回転させ遠心力で飛び上がる。その舞はアイザックが現代で見た「ブレイクダンス」に少し似ていた。
シオンが足を着く頃には既に跳躍し、空中のままで拳を打ち出さんと構えを取っていた。
「シオンなんか来るぞ!!」
「わかってるッ!!」
「『拳爛ー朝露小雨』」
ドリンク=バァから放たれる無数の閃光、それは衝撃波となって地面に降り注ぐ、シオンは盾で防ぎアイザックはシオンの後ろに隠れる。
ーーーガガガガガッーーーー!!
脳が震える激しい爆音、それと共に周囲に響き渡る衝撃と何かの破片、そして閃光がアイザック達に襲いかかる。飛び散る破片に晒され続ければ脳や平衡感覚に異常をきたすので耐えれば耐える程不利になる、静寂を連想させる語呂にそぐわぬ大爆撃である。
「どうする!!さぁどうしようか!右に避けるか?左に飛ぶか?後ろは論外だぞ、なんなら勇ましく前にでてみようかぁ!!」
ーーーーズォガガガガガッーーーー!!
「アイツ何言ってんだッ!?」
「知らない!!爆音で聞こえない!!それよりなんとかしないと...この盾もいつまで持つか...!!」
「...やるしかねぇ!!」
アイザックが拳を空に掲げる、その手には目視できるほどの濃密な魔力が溜まっていくのが見える。
「知ってるぞ!さっきのだな!!」
『魔轟衝』、先程よりも威力が大きい、これを地面に打ち付け反動で飛びこの場から離脱する。
だが無意味である、その場合直線に飛ぶことしかできないためどこに飛んでもドリンク=バァは地点を予測できる。
後ろに飛んだら二人まとめて腹を貫かれる、左右に飛んだら『朝露小雨』をその方向に浴びせられる、前に飛んでドリンク=バァの真下に滑り込んだらそのまま踏み潰される。
全てのパターンを予想しアイザックの出した答えは...
ーーーダァンッ!!
「....にィっ!?」
アイザックはシオンを担いで真上に飛んだ。
気付けばアイザック達はドリンク=バァと同じ目線に浮かび、再び拳を振るう予備動作に、シオンはその拳に両足を乗せて、水平の体勢で飛ぶ準備をしている。
「『魔轟ーーーー」
その拳をドリンク=バァに勢いよく振り抜く。
「ーーーー衝』ぉぉぉッ!!」
振るうと同時に発生する空間が歪むほどの衝撃波、拳に乗っていたシオンは一瞬の速さで距離を詰める、無論ドリンク=バァも迎撃の体勢を取るも。
「『拳爛ー昼餉しょーーー」
ーーーザクッ!!!
「...はい?」
迎撃しようとしたドリンク=バァの腕に冷たい衝撃が走る。コンマ数秒、その冷たい感触がする腕に目をやると銀色の刃が突き刺さっていた。
「!!!」
ふと気付く、アイザックの背中にかけていた剣が無い。
ーーーいつ抜いた?
抜けるタイミングはあった。戦闘、常に敵の手を注視し次の手に備えるのは戦闘職としての鉄則でもある。しかしドリンク=バァは一瞬だけ、その一瞬だけ目を離した場面があった。
シオンの横薙ぎを躱した時だ、その時だけは仰け反ったためアイザックから目を逸らした、その時に剣を抜いて投げていたとしか思えない。
あらかじめ読んでいたのかもしれないし、適当に投げただけで偶々当たったのかも知れない、いずれにせよ...
「...コレほどか!!」
アイザックの急激な成長速度にドリンク=バァの口元が緩む。
この瞬間、シオンは既に距離を詰め切れ目の入った腕に刃を突き立てる。
ドリンク=バァにそれを防ぐ手立ては無く、その腕は黒い血飛沫と共に宙に飛んだ。
武闘家ドリンク=バァの、武闘家としての命でもある拳を片方切り落としたのだ。
「!!」
「やった!!」
「...見事」
ーーーーーしかし、だ。
「でもまだ負けてあげねぇぇぇぇーーーッッ!!『拳爛ー昼化衝』ぉぉぉぉぉーーーッ!!」
「ヒッ!??」
「なぁ!?」
しかしドリンク=バァの足がありえない角度で折れ曲がり、そこから放つ蹴りがシオンの脇腹に炸裂した。
「ガハッッーーアッ!?」
「シオンッ!?」
赤い鮮血が舞い上がる、その衝撃波で近くの屋根が剥がれ飛び、窓ガラスが破裂し大気さえも揺るがす。
ドリンク=バァが足を振り抜くとシオンが血を吐きそのまま吹き飛んだ。
屋根や壁、廃墟の塔を何層もぶち抜き鈍い音と瓦礫が崩れる破壊音が入り混じる不協和音が鳴り響く。
アイザック達が上空に飛び上がってからシオンがカウンターを受けるまでの時間、およそ1.8秒。
「どけぇ!!」
ーーードガッ!
「ぶがっ!?」
自身も魔轟衝で飛び、ドリンク=バァの頬に拳を叩き込み勢いそのままシオンを追いかける。
「シオン!!シオンーーッッ!!」
ドリンク=バァが追ってこれないよう魔力を消して飛んだ場所を探し回る、しばらく走るとまだ新しい血がいたる所に飛び立っている光景が目に入る。
「あぁぁぁ頼む頼む頼む頼む!!」
血が多い方向に走り瓦礫をどかす、シオンと思われる茶色い髪が木材の山からはみ出ているのを見つける。
その自分の二倍もの大きさのある木材を魔力を込め勢いよく蹴飛ばすと服が血まみれのシオンが現れた。
木材とレンガの破片が大きな音を立てて飛んでいくがそんなものを気にしている場合ではない。
「シオン!!オイッ!シオンッ!!」
「がふっ!!ゴホッゴホッ!!」
「シオン!!あぁぁぁよかった!よかった!!」
かろうじて息はある、いや、血が飛び立ったように見えたが大きな怪我が見当たらない。あれだけ血を流せばかなりやばいと思ったが見間違いだったのだろうか。
「ん?....あ!!」
よく見るとシオンの右手に持っていた盾が大きくひしゃげている、ドリンク=バァの剛脚を受ける直前にシオンは盾を滑り込ませていたのだ。
噴き出た血飛沫はドリンク=バァの足から出たものだったのだ。
しかしあの瞬間に盾を滑り込ませる頭の回転と反射神経、元々は町娘だったとは思えない程の戦闘センスだ。
「アイ...ザック...ドリンク=バァは...?」
「喋るな、今はここから離れるぞ。だいぶでけぇ音出しちまったからな」
魔力を抑えていても不審な物音がすればさすがのドリンク=バァでも気付くし、「獣」が這い出てこないとも限らない。
アイザックはシオンを担ぎその場を後にした。一時撤退という事になるが、以前よりは戦えている、まだ希望はある。
かろうじて残っている建物に身を潜め、シオンを寝かせて軽い手当を施す。
「まだ戦えるわ」
「まぁ待て」
全身打撲、身体中の至る所にアザができており、見かけだけなら過去に拠点に運ばれて来た時よりも酷い。
レーチェからもらっているポーションを飲ませ、傷薬を患部に塗ろうとするがそれは自分でやるそうだ。
「んで、ほら盾置けよ、手ぇ見せろ」
「...」
「応急処置くらいならレーチェから軽く教えてもらってる、盾で防いだとしても肩の脱臼とかしてんじゃねぇの」
「...やだ」
「やだって...その盾置かないと怪我見れないじゃねぇか」
「やだ」
「置けって!」
「やだ!!」
「ガキか!!」
へこんだ盾を取り上げようするが、盾に触れた途端「痛ッ!!」と悲痛な声を上げる。
「...なんでもない」
「...」
アイザックは無理やり盾を取り上げた。
「痛っ...あーーー!!」
「...お前...!?」
その腕は...言葉にするなら「ぐちゃぐちゃ」だ。血に塗れて指は全てがおかしな方向に曲がり一部分からは肉が抉れ骨が露出している。
「痛いなんてもんじゃねぇだろバカがよぉ〜ッ!!!」
「痛くない!!痛くないもぉん!!」
ちょん
「痛ぁぁぁいぃぃ...いぃぃぃぅぅぅぅーーーッ!!」
シオンを手をちょっと突いただけでこれだ、痛みのあまり悶絶しボロボロの絨毯の上をのたうち回る。
「その手じゃどうやっても盾は握れねぇだろが!」
「握ってたもん!握ってたもん!」
「どっかというと握ってた、っていうよりひっついてたっていう方が正しいんだよコレは!」
「ぅぅぅぅ!!」
「とにかく応急処置しとくから動くな」
シオンが悔しさでボロボロと涙を流す、差し出された血まみれの手を取り、腰のポーチから輝く小さな人差し指の形をした石を取り出しその光を手に浴びせる。
これはレーチェからもらった「魔道具」というもので、魔法を使えない者でも魔力を流すだけで簡易的な魔法を行使する事のできるアイテムだ。
本来魔法を使うよりも魔力消費量が多いが無制限に魔力が湧き出てくる「魔王刻印」を持つアイザックには関係ない。
「...それは」
「『簡易鎮痛魔法』だよ、知ってるだろ」
「...いや、魔道具の方。まだ...残ってたんだ、疫病が蔓延してから設備の不足で作成自体が難しくなってるのに」
「レーチェの取り置きだとよ」
「ふぅん...ん」
「痛くないか?」
「...大丈夫」
「包帯巻くぞ」
「...うん」
パキッという軽い音と共に亀裂が入り、石は次第に輝きを失っていく、効果切れだろう。
薬草を潰して調合したクリームを塗り木の枝などで軽く固定をした上で包帯をがっしりと巻きつける、こういった処置もレーチェ直伝だ。
「どうだ?」
「........ありがとう」
...2人は向かい合わせで座り込む、先程の激戦と打って変わって場は静寂に包まれる。
「シオン」
「...何」
「さっきの...なんだ?」
「あれ?」
「あのドリンク=バァの技?魔法?アレなんなんだ?」
「...『拳欄ー萩花風月』、7つの型から成る彼独自の拳舞」
「それ...どんなやつなんだ」
シオンは包帯の上をそっと押さえ、ゆっくり言葉を探すように口を開いた。
「それにはまずドリンク=バァについて語る必要がある」
「頼む」
「……ドリンク=バァという男は――」
窓の外で風が鳴る音だけが響く。
次回は12/2 18:10投稿!!
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