24話 そしてまた地獄へ
ラストに2000pv記念イラスト載せます!
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「なっ!?」
「無茶だ...!!」
会議室がまたもや騒めく、魔王を倒した勇者一行のうち二人をシオンがたった1人で相手をするというのだ、自殺行為に等しい。
「合理的だ」
なんとレーチェがシオンの無謀を肯定してしまい、さらに困惑の声があがる。
「師匠!?」
「待て待て待て、どこが合理的なんだよ!」
「まぁ聞け」
会議室が静かになるとレーチェは淡々と説明を始める。
「奴らは、特にドリンク=バァには知能がある。まず前回の遠征でなぜ遠方にいた奴が突然王国に現れたと思う」
「なんでだ?」
「前回の遠征ではシオンを助けるべく、魔王軍幹部のセルシ、拠点のリーダーであるドリアが出陣した。彼らは本来ここ拠点では重要な立場と力を持っていた、それも失えば拠点の均衡と秩序が乱れ混乱を招く」
「....」
「そんな重要な奴を一気に狩れるチャンスじゃ、ワシなら速攻で潰しにかかる、潰せる力があるのだから尚更じゃ、だから急に現れたんじゃ」
「お、おぉ...」
「しかし均衡も秩序もなんとか崩れることはなかった、シオンの見事な手腕でのう、しかしこのシオンがこの拠点の精神的支柱、最後の砦じゃ、それも奴らは気付いておるし狙う理由としては十分じゃ、おそらくシオンのもつ魔力もすでに向こうは覚えているだろう」
「な、なんで...」
「ん?」
「なんで奴らはそんなことをするんだ...?シオンを殺して秩序を乱してなんの得があるんだよ?」
「馬鹿者」
突然、レーチェからゲンコツを入れられる、頭には小さなコブが出来、あまりの頭に悶絶する。周りの人間達は苦い顔をしながらアイザックを見つめている。
「いってぇぇぇ!!」
「得ありまくりじゃろうが」
「得?」
「奴らの目的は「拠点を叩く」事じゃ」
「...!!」
「ちょっとでも内輪揉めが起きてバカが一人でも外に出てみろ、ドリンク=バァやキャメル姉は魔力を探知できる。そこから拠点の場所がバレれば入られて終わりじゃぞ」
「あ...そうか...」
遠征で選ばれたメンバーは皆プロの冒険者を採用している、魔力と気配を消す事ができるため、ドリンク=バァ達から探知される事がないのだ。
アイザックも遠征に出た時はセルシに謎のマントをもらったが、アレは気配と魔力を断つことができる魔法が施されている事を後から教えてもらった。
というかそう考えたら当時の自分相当足手纏いだなとアイザックは思う。
「だから私が二人を引きつけます、なのでその間に肉塊の処理をお願いします」
「でもそんなことしたらお前死ぬぞ!?」
「信頼できる後任に引き継ぎをお願いしてるから大丈夫よ、少なくともアクシデントが起きた以前と比べて...大丈夫なはずよ」
「そういう問題じゃねぇだろ!」
「何よ...」
アイザックはシオンの胸ぐらを掴み至近距離で言い放つ。
「お前ふざけんなよ...お前を助けるために何人死んだと思ってんだよ、人からもらった命よく投げ出せるよな!!」
シオン、この少女を助けるためにラザニアは魔物に食われ死後その遺体を弄ばれた。ナルボはシオンや自分を助けるために自分の命を散らした。セルシは物資を持ったアイザックを無事に拠点に届ける為、ドリンク=バァとマンダカミア、二人の相手をして死んだ。
他にもシオンのために立ち上がり、その命を落とした者は少なくない、なのにこいつは皆んなの覚悟を無駄にしようとしているのだ。
その死を直接見届けたアイザックはシオンのこの発言を許すことなど到底できなかった。
「あ、あんただって命投げ出してんじゃない!!知ってるのよ!?」
「命賭けるのと命投げ捨てるのは違うだろうが!!」
「...五月蝿い」
「は?」
「これしか方法がないじゃない!!敵は魔王軍を相手にした精鋭なのよ!?いくら頭数を揃えても奴らには勝てない、なら誰かが犠牲になって時間を稼ぐしかないじゃない!!」
「お前...」
「マンダカミアは知らないけどドリンク=バァは前回の遠征から2ヶ月、ずっと王国にいたのはどうしてだと思う!?あの肉塊を時間をかけて用意してたのよ!やつの計画がなんかは知らないけど、私達に選択の余地はないの!!」
「本当にドリンク=バァが肉塊に関わってるならな」
「食料も底を尽きかけてる、アイツに居座られたら皆んな飢え死ぬ...もう他の場所は取り尽くしたし...王国しか物資はない...だからみんなのためにも、刺し違えてでもドリンク=バァだけは殺す!!」
「.....」
何も言い返せない。
「あのー...」
沈黙の中、手を挙げる者が一人。
「ミーク、今大事な話をしてるから黙っててくれる?」
「いえ、少しいいですか〜?」
「.........何?」
「さすがに2人同時に相手をするのは無謀が過ぎます〜...な、なので....
ーーーマンダカミア...姉さんは私にやらせてもらえませんか?」
突然の提案、会議室は3度目の困惑の声が上がる、ミークの提案を真っ先に咎めたのはシオンだった。
「ダメよ」
「あぅ...」
「まぁまぁまてシオン」
静かに手を降そうとするミークにレーチェが助け舟を出す。
「ミーク、本気か?」
「はい」
「どう思う、アイザック」
「...」
アイザックはこの時、以前のミークとは違う「ある変化」に気付いていた。
「ミーク、お前震えなくなったな」
ずっと一緒にいたのでアイザックは覚えている、以前のミークは声も手も震えていた気弱な少女だった。しかし今のミークは違う、自信に満ち溢れているとはお世辞にも言えないが何かしらの決意を感じる。
「アイザック君、師匠、シオンさん...勝てるかどうかはわかりません...でも時間稼ぎでしたら...わ、私でもなんとかできると...思います、なので...お願いします、私にやらせてください!」
「ミーク...」
必死に頭を下げるミークを見て、ついにシオンは折れ、首を縦に振った。
「...わかったわ、お願いできる?」
「!! ...ありがとうございます!」
「他のみんなは...?特にアギト隊は頭数が減るけど」
「その前にワシからもいいか?」
今度はレーチェが手を挙げる。
「どうぞ」
「アイザックよ、お前シオンについてってやれ」
「え?」
「はぁ!?」
レーチェの発案にシオンとアイザックは同時に声を上げる、シオンは怪訝な顔でアイザック見た後、すぐに反論する。
「私一人で大丈夫です!ミークがマンダカミアを相手してくれるのであれば私一人でなんとかできます!」
「いや無理じゃ」
「うぐっ」
「戦闘力が違いすぎる、お前にも何か策があるんだろうがどんな搦手も圧倒的な力の前では脆い、それにだ」
「...」
「アイザックは一度ドリンク=バァの戦いを見ておるし、ワシがコイツを最低限戦えるレベルに鍛え直した。どうじゃアイザックよ」
「師匠...」
レーチェは真っ直ぐにアイザックを見つめる、出会った頃の上から目線ではない、期待と信頼の眼差しだ。
「...わかった、役に立つかは分からないけどやってみるよ」
「決まりじゃな」
「...はぁ、わかりました...何か考えがあるのでしょう」
ため息をついて仕方なく了承するシオン、しかしまだ何か信じてもらえてないようだ。
その時、シオンがアイザックに指を差し、告げる。
「ただし、絶対に私の邪魔はしないで。邪魔だと思ったらすぐに帰らせるから」
「わかった」
「それではこの後2時間後に出発、編成は組み直しますが作戦に変更はありませんので、では解散」
ぞろぞろと会議室を出ていくメンバー、アイザックも人の流れに身を任せ会議室を後にする、これから2時間どうしようかと悩んでいた所レーチェに呼び止められる。
「おうアイザック、暇か」
「暇だけど」
「修行するか」
「え、体力は万全で行きたいんだけど...」
「ミークも呼べ、新魔法教えてやる」
「教えてください!!」
2時間という時間、瞑想をする者、遺書を書く者、必要な物資を整理する者、自分の武器の手入れをする者、各々が準備をしている。
目標は全員で生きて帰る事、それぞれの行動は違えど考える事は皆同じなのだ。
ーーーしかし、この討伐遠征が最悪の結末となる事を、この時は誰も知る由もなかった。
次回は明日11/26 18:10投稿!!
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