23話 対『堕ちた獣』作戦本部
魔法は複雑な術式を形、文字または言葉に変換して組み、それに魔力を流す事で行使する事ができる。
魔法とは初級、中級、上級、超級といったランク分けがされており階級が上がるごとに使用難易度が跳ね上がるそうだ。
アイザックの使う魔法『魔塊弾』は術式が必要ないため簡単も簡単、魔法職でなくても使用可能とのこと。
「うむむ...」
「そう、体の血管隅々に魔力を流すんじゃ」
では戦士職はその魔力をどう扱うのか、魔力を全身に流す事で肉体や血液が活性化し身体能力が上がる。さらにそれを活かして普通は体現不可能な体術を繰り出す事もできる、それを魔法と区別するように「技」と言われている。
基本的に肉体での戦闘が多い戦士職はこれで戦うのだそう。
「だぁぁ!!」
ーーーバキッ!
アイザックの繰り出した拳は目の前の岩に大きな亀裂を入れたのだ。
「す...すげぇ」
「そして、魔法職だろうが戦士職だろうが関係ない世界の法則を変える究極の力がある」
魔法や、戦士の技に限らず全てにおいて自身の至高に位置する技(または魔法)、「奥義」と言うものもあるそう、それは何度も頼み込んでも見せてくれなかった。
「大変ですぅ〜〜〜!!」
「?」
「なんじゃ?」
早くも2ヶ月が経過した頃、いつものように修行に励むアイザック達の元にミークが駆け寄る。
「あ、アレを!!王城を見てくださいぃい!!」
「王城?」
レーチェは軽やかに魔法を放ち、身体を宙に浮かせた。空中で静かに漂いながら、指で丸を作り、その円を王国の方向へ向ける。彼女は指の隙間から、鋭い視線で遠くを覗き込んだ。
「...なんじゃあれは」
降りてきたレーチェに駆け寄るアイザック、レーチェは俯いて静かに笑いを堪えている。
「なんだったんだ?」
「王城に...な...なんかおる...」
ククッと堪えているレーチェ、なんなのか分からなさ過ぎて逆に笑えてきたそう。
「ん...くふん、でっかい肉塊が王城でもごもごしとる、しかしあれはまずいのう」
「まずいとは?」
「あれ爆発するぞ」
「うそん!?」
「と、とにかく拠点へ来てください!シオンさんからの伝達です!!」
「行くかの」
「お、押忍!」
拠点の会議室へ入ると既に複数の人間と魔族が集まっていた、複数の長い机が並び、その奥に立つシオン=エシャロットの姿。
「シオンさん〜!よんで来ましたぁ〜!」
「ありがとうミーク、そしてご足労いただきありがとうございます。ドゥルセ=デ=レーチェ賢王様」
「うむ、ご苦労であるぞ、シオン」
「勿体なきお言葉」
軽くお辞儀をするシオン、このシオンの対応の仕方を見るに本当にレーチェは賢王と呼ばれる偉人だったのだ。
まぁアイザックはそんな人に強烈な頭突きを決めたわけだが。
「あら、あんた生きてたの」
「酷いな!?」
「急を要するので早速本題に入ります」
「うむ、初めてくれ」
会議室の壁に大きく地図が張り出される、チルド王国全域を描かいている巨大な地図。
その中心の王城を赤インクをつけた筆で大きく丸を描く。
「こちら王城の方から不明の肉塊が膨らんでいるという報告が入っています」
「あぁ、ワシも確認した」
彼女が言うにはあの肉塊には魔力が時間と共に増え続け、膨張、増大しており、このままでは肉塊の外皮が耐えきれず爆発を起こしてしまうのだそう。
さらに言えば、爆発まで一刻の猶予もないようだ。
「街の大半は吹き飛びそうだけど拠点まで届くことはなんじゃねぇかな?」
「ただの爆発ならな」
「...どういうことだ?」
「『透視魔法』で中身をちょっと見た」
「ほんと魔法って便利だな」
「膨張し増幅し続ける魔力じゃが...その本質、中身の殆どが気体じゃ、あの中身が破裂と共に散らばったら...もしそれが疫病を含むものであれば...」
一人の人間が立ち上がって異議を唱える。
「ちょっと待ってくれ、疫病は飛沫や接触からしか感染らないんじゃなかったのか!?」
「あの疫病は殆どの要素が解明できておらん、故に空気感染する場合もあるかもしれん、もしあれが破裂したら」
「大変なことになります」
地図の上にまた別の地図を張り出す、今度はチルド王国ではなくそれ以上の広い範囲、大陸の全体を模した地図だ。
チルド王国が位置する部分を中心に円を広がるように書き連ねる。
「なんだこれ?」
「もしあの中の気体が疫病であり、爆発の衝撃で飛散するとした場合に予想される拡散範囲です、円を複数書いたのは予想される疫病の空気中の濃度を表してます」
「...む」
「....うぉ」
ざわめき始める室内、チルド王国を中心に広がる気体はこの拠点を軽く飲み込み、大陸全土を覆い隠している。
「まずここは住めなくなるのぅ」
「仮に疫病が地下まで入ることはなくとも、地上を出るのは困難を極めます」
「なぁ、ここのでっかい穴はなんだ?」
アイザックが気になった大陸の下部分、その位置には大穴がありその中に薄ら街が描かれている。
「マナタン帝国よ、あそこには大陸では最も進んだ技術力を持っているわ。でも避難しようにも何ヶ月もかかるし爆発まで間に合わない」
「帝国は滅んでいないのか」
「軍事力で言えば大陸最強よ、「堕ちた獣」の大群が押し寄せてもなんなく蹴散らしたそうだわ」
「すげぇな」
「話を戻すわよ。どちらにせよあの肉塊を放置する事はできない、すぐに討伐隊を編成する必要があります」
「決まりじゃな、それで、なにかあの肉塊に心当たりのある奴はおらんのか?」
群衆に問いかけるレーチェ、しばらくの静寂の後...
「問題は他にもあるわ」
「問題?」
「ドリンク=バァとマンダカミア=キャメルよ」
「!!」
その二人は知っている、アイザックはあの二人に散々煮湯を飲まされている。
特にドリンク=バァはラザニアやナルボ、セルシを殺した、あの日の苦痛は今でも覚えている。
「その二人が今も王国に潜んでいると?」
「部下を偵察に行かせましたが、戻ってきていません。相当出来る子なので、戻らないとなると二人の内どちらか、または両方が潜んでいるのは確実です」
「そうか...」
「これが編成隊のリストです、確認してください」
配られる紙に目を通す。討伐隊はアギト隊とファング隊の二班にわかれており、アギト隊にはミークとレーチェ、アイザックの他に知らない名前が複数、ファング隊には知らない名前しかない。
「二手に別れて王城を目指します、各隊に魔法使いを配置していますので辿り着いた隊は魔法使いを先導して肉塊の処理にあたってください」
「具体的には?」
「レーチェ様、あの「奥義」使えますよね」
「...うむ」
レーチェは少し考え込んだ後手を広げ天井に掲げる。
「『昏黒・虚数孔』」
そう唱えるとレーチェの手から光を纏う黒い球体が出現した、アイザックでもわかるほどの凄まじい魔力だ。
「す、すげぇ...なんだこれ?」
「ワシの「奥義」、ぶつけた対象を世界の外に弾く...まぁ要するに何もない所に送り込む魔法じゃよ」
「これであの肉塊を取り込みます、膨大な魔力を送れば肉塊を取り込める程の大きさになるでしょう」
「ワシのコレ、あんま人に話した事ないんじゃが...よく知ってるの」
「あなたの本は幼少からいっぱい読んでましたから、超膨大な魔力量と術式の構築は魔法使いを数人同行させれば時間を短縮できるかと」
「成る程、しかし穴がある」
「...えぇ、わかってます」
「穴?」
「ドリンク=バァとキャメル姉と遭遇した時じゃ」
「...」
「あ、そうか...」
「アイザックさんわかったんですか?」
その魔法をレーチェ先導のもと複数人で行使、それぞれが術式の構築に専念する、そのため...。
「あの大きさだと時間がかかり、その間魔法使いは動けない」
「そうじゃ、少しでもミスしたら一気にボカン、しかもその間あの2人から魔法使いを守り倒すのは至難の技じゃぞ」
「それには及びません」
「ほう」
「あの2人は私が相手をします」
次回は明日11/24 18:10投稿!!
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