22話 魔法のすゝめ ー終・俺は無敵だー
修行パートラストです、見守ってあげてください
ーーードッッ!!
アイザックは狂っている。死への覚悟が、常人のそれではない。レーチェの脳裏に、かつての弟子たちの顔が浮かぶ。アイザックと同じ、命を懸けた決意の目。最後の弟子が村人を救うため単身飛び出し、二度と戻らなかったあの日の目と、まるで同じだ。
「...」
なんて無責任な師匠なのだろう、彼らの決意と希望を託されていたにもかかわらずそれを投げ出すなど。
何が師匠か、何が賢王か、私にそんな資格は無い。そんな資格などなかったのだ。
「ぐっっっ...」
「ーーッッッ!!!」
アイザックはレーチェの顔面に頭突きを入れ、両者共に後方に倒れ込む。
レーチェは鼻と口から血を流しながら天を仰ぐ、自分の存在意義を探すかのように。
「ワシは...」
「師匠」
アイザックの方を見る、両腕からはどくどくと血が流れており顔色はかなり悪い、今にも死にかけだった。
「師匠が教え子たくさん亡くしたってミークから聞いた、俺も大切な仲間をたくさん見殺しにしてしまった」
「...」
「命賭けるっつったけど...俺は死なねえ、死ねねぇんだ、色んな人から助けてもらったから、皆んなの想いを背負っちまってるから、だから...」
「...」
「......俺は「無敵」だッ!!」
「...」
「師匠、どうよ...この弟子は」
「...」
無茶苦茶だ、才能ないなら命を賭けるしかない、だが自分は死なない、つまり無敵だと?
いや、自分は無敵と言うのは弱さを押し込んで己を鼓舞するために言っているのだろうが、腕吹き飛んで血まみれの姿でそれを言うのか?そもそも自分が何を言ってるのかわかっているのか?
「無茶苦茶じゃ」
近くにいたミークがその光景を静かなら見守っていた、アイザックの出血が酷いのを見てそわそわしている。
「...」
「師匠」
「阿保」
「うぐっ...」
だが、レーチェはもう諦めた、アイザックが折れるのを。ここまでやっても立ち上がるなら、本当に殺しでもしない限り無限に起き上がってくるだろう、さすがにもうウンザリだ、だから諦めた。
「....はぁ....わかった...わかったよ、お前の勝ちじゃ」
「!」
「ミーク、アイザックを医者んとこ連れてけ」
「アイザック君ーーーーーッッッ!!!」
まるで「待て」から開放された犬のようにアイザックに駆け寄るミーク。
「ミークお前...なにやってたんだよぉぉ」
「話はあとですぅぅぅ!!この怪我私の魔法じゃ治せませんのでッ医務室行きますよぉー!!」
「わがっ...いでででで!!!」
先のない腕を引っ張られて今更激痛が走る、よろよろしながら連れて行かれるアイザックをレーチェが止めた。
「アイザックッ!!」
「なにっ!?」
「...ばーか」
「酷いッッ!!」
弟子に心からの礼を言うのは師匠としてなんか癪に触るので礼は言わない、だがレーチェの心の中は何かに解放されたかのように晴れやかだった。
「人からもらった命を容易く賭けるんじゃない馬鹿...アイツにはもっと戦う術を教えないとならんの」
...。
「すまんのう...我が弟子たちよ、少し休憩しすぎた...もう大丈夫じゃ」
もう少し頑張ってみる、レーチェはそう心の中で思った。
アイザックが何度も立ち上がり続けたのを見て感化されたといえばそうかもしれない、あの少年がここまで立ち上がり続けて、彼の何倍も生きている自分が膝をつくのは癪に思ったのだ。
死者を想う心に応えるように風が吹き木々がやさしくさざめいていた。
山を降りる際、ミークはどうしても気になる事がありアイザックに尋ねる。
「アイザック君」
「なに...?」
「アイザック君ってボロボロになりがちだけど、意外と芯は外してますよね」
「あー、あれか...」
アイザックは少し返答に躓く。
「なんというか...こう、「あ、これ死ぬ奴だ」っていう攻撃あんじゃん?」
「...」
「そんときになんかこう、ぞわって言うか、悪寒っていうか、...とにかく気色の悪い風が吹くんだよ...俺の感覚じゃなくて肌にふっと来るんだ」
「変なの、よくわからないです〜」
「俺だってよくわかんねえよ、でもその風が当たらない方に逃げると元いた所に攻撃が来てるっていうか、ていうかミークが風を感じろって言ったんだろ」
「そうだけどそうじゃないです〜」
「うーん」
「う〜ん?」
...
「「まいっかッ!」」
第六感にも似たような感覚、ミークと相談しこれを『死の風』と名付ける事にしてアイザックはその場所を後にした。
...
それから数週間、ひたすら野山を駆け回り修行に明け暮れた、着ていたカラフルな制服は自身の血と泥でもはや見る影もない。
ミークはサボってはレーチェにぶっ飛ばされ、アイザックは魔法の放出や制御、そして基礎体力をつけるためにひたすら木の棒を振り回した。
「いでぇ!!」
「ほれたて、お前の記憶から掘り起こすとそう...最後まで諦めちゃいかん、諦めたら...そこでぶっ殺してやる」
「その名言なんか致命的なとこが違うんだよぉ!!」
山に篭ってどのくらいたったか、1週間に一度は目隠しをしての感知と回避の修行も並行して行うが、一度死の淵を経験してからのアイザックはレーチェの攻撃を少しずつ避けられるようになって来た。
「ふっ!ーーんんッ!!」
目隠しをしている状態で前方や真横、後ろから来る攻撃をなんとか回避していると遠くから声がかかる。
「アイザック、今日お前が言ってたすき焼きとやらを再現してみるが、これは必須ってのはあるか?」
「卵!!...ってアレェェ!?」
遠くから聞こえたのは明らかにレーチェの声、ではアイザックが今相対していた相手は?
「ふっ...目隠しを取ってみろ」
「ん...あぁ!!」
ーーー何もない。レーチェは殴っていたように見えてただ遠隔で目には見えない魔力の塊を飛ばしているだけだったのだ。
「お前はこれで実体のない敵や視認できない敵にも戦える手段を得た」
「な...成る程〜〜〜」
そうしてアイザックは着実に成長を続けていた、ただ今夜楽しみにしていたすき焼きにカメムシやらムカデやらが入っていたせいで夜は眠れなかったようだ。
そして時間の経ったある日。
「...」
アイザックの目の前にあるのは先日の測定器。
「そ、それじゃ行くぞ」
「どうしてもやるのかお前」
「あ、当たり前だ!」
アイザックは自分の力で魔力を捻り出せるようになっていた、となれば早速試したいのはこの装置による魔力の測定だ。
これに魔力を流すことで自分が伸ばすべき魔法適正がわかるというものらしい(正確な内在魔力量を測れるという機能もあるがアイザックにとっては関係ない)、最初からやってみたかったのもあるが自分の系統を知ることはきっと今後の役に立つだろうと思った。
「一回やってみたかったんだよ、どうしてもな」
「お前魔法使えないんじゃから適正見ても意味ないじゃろが」
「気になるもんは気になるんだもん!」
「ふぅん」
「魔力の適正がわかるって言ってたけどどんな系統があるの?」
「色々、火水雷土風陰陽の七大系統から空間系魔法や隠密魔法、精神干渉系や召喚系など様々じゃ」
「ふむ...よし」
「頑張ってください〜」
指に魔力を込める。まずは一点集中、ゆっくりと魔力を放出する、気張りすぎるととてつもない勢いで放出されるため調整が大事。
「むむむ...」
「!」
出た、アイザックの指と指の間に蒼く光る魔力の塊が出来た、これがアイザックの魔力。
「ミークできた、できたぞ!!」
「やりましたねぇ〜!!」
「...魔力の色は蒼か」
「なんかあるの?」
「色によって性格がわかる程度のもんじゃ」
「なるほど...」
これを測定器に近づける、気を抜けばすぐに霧散してしまいそうな魔力の塊、測定器に近づけると...
...しかし、何も起こらない。
「...あ、あれ?」
「む...?」
「う、動きません...ねぇ?」
「そんなことがあるのか?」
「いや...ないはずじゃ」
レーチェは震える手で測定器を手に取り、その中身を急いで弄り始めた。彼女の表情は、まるで想定外の事態に直面したかのように硬い。アイザックは息を呑み、わずかな期待を抱く。もしかしたら…測定できない何か、未知の力が…。
「電池切れじゃ」
ーーーズコッ!!
一方その頃
「何なのよ...あれ...!?」
遠方から王城を偵察していた弓兵が見つけたのは、巨大な繭のようなもの。
繭にしては肉肉しい、どちらかというと巨大な内臓のようなモノが王城を飲み込みながら脈を打っている。
「シオンに知らせないと...あの魔力の流れ...あれはやばい!!」
「ーーーーヤバくない」
「え?」
突然後ろから頭を両手で捕まれ、動きを封じられる弓兵。その手は氷のように冷たく生きているものではないのは明らかだ。
「少し小腹が空いたんだ」
「あが!?ーーあがががががッ!!?やべ...やべで...!!」
少しずつ入る力、頭蓋骨はバキバキと音を立てて目は異常なまでに剥き出し、鼻からは血が流れ出る。
「やべでぇぇーーギャッ!!!」
ーーーバキッ!!
頭蓋骨を粉砕する音と共に弓兵は絶命した。
修行パート終わり!
いよいよ決戦です、というわけで投稿ペースが元に戻ります。
次回は11/22 18:10投稿ーーーの前に明日11/21に今までの振り返りと設定集を公開します!!Xにのみ公開した記念イラストも載せさせていただきます!!
そして22日いよいよ事態が動きます
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