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勇者は感染してました ーThe Beasted eMpireー  作者: 鶴見ヶ原 御禿丸
1章 戦慄廃国チルド:反撃編

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20話 魔法のすゝめ ーギッタギタにされる編ー

次回は明日11/19 18:10投稿!!

ブックマーク、評価ボタン押していただけたら作者の励みになります〜!!


次回レーチェ様イラッとします


「まかいだん?」


「『魔塊弾(まかいだん)』じゃ、ただ魔力を凝縮して放出するだけの簡単な魔法じゃ、術式を組まないので魔法と言えるかすら怪しいがな」


「魔力を凝縮して放出するだけ...」


「これですー」


挿絵(By みてみん)


 ーーーズドォォンッ!!


「ヒュッ」


 瞬間、ミークの腕から放たれた閃光、その瞬間横の岩が木っ端微塵に弾け飛ぶ、驚いて変な声が出てしまった。


「す、すげぇ」


 振り切ったミークの手には彼女の身長と同じ程度の長さの杖が握られている、威力もそうだが背中にかけていた杖を抜く瞬間も振る瞬間も全く見えなかった。


「魔法って杖や手を翳して撃つもんかと思ってた...」


「バカが」


「バカなの?」


「日時で使うなら問題はないんですけど敵の目の前でやったらその瞬間隙だらけじゃないですか〜、そんなの「腕あげます」って言ってるようなもの...らしいです〜」


「...」


 ドリンク=バァとの戦いを思い出す、瞬きも油断も許さない一瞬の攻防、確かに実戦を考えたらその方がいいのだろう、かもしれない、が...。


「夢がねぇ...って思うのはわがままだな」


「話を戻すぞ」


「押忍ッ」


「魔法にも様々種類があると前にも言ったが、この魔法は中でも構築が単純で魔法使いだけでなく魔力量の多い戦士職でもできる...のじゃが」


「じゃが?」


「きゅうぅぅぅ〜〜」


 突然ミークがふらつきパタリと倒れる。


「お、おい!?」


「出力調整を間違うとすぐ魔力切れを起こす諸刃の剣じゃ。しかし調整を間違えなければ接近する相手をこれで吹き飛ばして距離を取ることもできる、簡単ながら知能のない「堕ちた獣(ビーステッド)」相手に有効な魔法じゃ」


「おぉ」

 

「まぁまずは魔力を感じ取れるようにならねば話にならん、これをつけろ」


 そう言ってレーチェから渡されたのは長く黒い布きれ、だいぶ使い古されているのか両端がボロボロに破れている。


「なにこれ」


「目を隠せ」


「こ、こうか?」


 ーーーバキッ!!


「ぶべらッ!」


 目を布で覆い隠したと同時に顔面に衝撃が走る、鼻に灼熱が走り上顎の感覚も一瞬なくなった。


「何、何すんだよ!」


「午前中は基礎体力作りのためこの山を走り回る、午後は魔力の感知を覚えろ。ワシがお前を殴りまくるので回避するだけの簡単な修行じゃ」


「無理ゲーすぎない!?」


「すぎない」


「本当かよ...くそぉぉーーぱぎゃっ!!」


 またも続く衝撃、今度は後頭部に走る。


「鼻と耳を塞いでないだけまだ優しい方じゃ」


「ぐぅぅーーぶげっ!!」


「師匠〜荒いですぅ〜」


 遠くでミークの声が聞こえる、まるでトラウマを想起したかのような震えた声だ。


「お前の修行がぬるすぎんじゃ、アレじゃ一年経っても進まん」


「で、でもぉ〜」


「一切辛い思いをせず強くなろうなんて思うなよガキ、お前が望んだんじゃ。死or最強?好きなのを選べ」


「ぐ...ぅぅぅ!!  ...舐めるなよ!!」


「ほぅ」


「さあ来ーーーぐぎゃぁ!!」


「感覚を研ぎ澄ませ、攻撃の瞬間()()()()()()()、一歩前進じゃ」


「わかっーーーぐべっ!!」


「喋るな、舌噛むぞ」


 この痛みは自分の弱さに対する()だ、自分が弱いせいで何人も死んだ。シオンが自分を助けるために負った苦しみも、ラザニアが味わった痛みナルボの無念もこんなものじゃない。

 セルシの死を、想いを無駄にしてはならない、生きなければならない。だからこそ今は耐えて、耐えて強くなれ。


 ーーーバゴッ!!バキッ!


「ギャァ!!」


「あ折れた。ミーク、治療」


「私僧侶じゃないんですけどぉ〜」


 骨が大変な事になったりもした、そうして何時間殴られ続けて日が落ちる頃にはアイザックは立てなくなっていた。

 結局一撃も回避できずボコられ続けた。


「...今日はここまでじゃ」


「.....」


「大丈夫ですか〜?」


 ミークに引っ張られ体を無理やり起こす、体のあちこちが悲鳴を上げておりもはや一歩も動けない。


「こ、これお前もやったのか...?」


「やりましたよぉ〜、アイザック君と違って段階を踏みましたけど」


「なんかこれもコツとかねぇかな...」


「アイザック君目が見えないからって緊張しすぎですぅ〜、もっとリラーックスですよ、リラーックス」


「りらーっくす...」


「あとは風の流れでしょうか?」


「風?」


「魔力も、そうでないものも、行動を起こす前は少し風が揺らぐんです、風の流れを辿って魔力を感じ取ってますよ〜」


「難しそうだな...」


「うーん」と、ミークは少し考え込んだ後静かに口を開く。


「お手」


「わん...って誰がポチじゃ」


「あむ」


「ちょぉッ!!?」


 アイザックの手を取ったミークは突然その指を咥えたのだ、口内で舌で舐めまわされる感触は少し暖かく、そしてくすぐったい。


「何してんですかミークさんんんーーッ!?」


「ぷはっ」


 口から出た指は彼女の体液で塗れ、風を少し冷たく感じるようになった。


「水をかけると風の向きがわかりますよね〜、これを全身で感じるんですぅ〜」


「それはなんとなくわかったけどなんで舐めたの!?」


「んふふ〜」


「なんか答えてぇ!?」


 そうして本格的な修行が始まった、次の日も午前中はひたすら野山を駆け回り、午後は殴られては回復を繰り返し、さらに次の日も殴られ続けては回復を繰り返し、骨も何本折れたかもわからない。

 

 これを繰り返して早くも1週間が経過した頃、転機が訪れる。


「?」


 布で覆われているので視界は殆ど暗闇だが、アイザックは目の前にある『何か』を感じ取った。

 視界が無い聴覚と嗅覚しか頼れるものがないこの極限状態でそれらの感覚以外で感じ取ったもの、アイザックにはその感覚の正体も、その『何か』もわからない、わからないが...。


...確かに『何か』がそこにあるのを感じ取った。


「見ーーーぐぼぁッ!!」


「...ほう」


 だが甘くはなかった、それを感じ取った頃には既に拳が鳩尾に入ってしまい、地面を転がって悶絶する。


「あぁぁぅ...あぉあぉ...!!」


「はよ立て、()()()()()んじゃろ」


「あ...あぁ...ぺっ...見えた...いや、見えてはないんだけど、()()()()()!」


「良いぞ、それが『魔力』じゃ」

 

「これが...ーープギャ!!」


「油断するな」


 殴られている間に少しずつ、少しずつだが確かに魔力を感じるようになってきた。

 

「魔法を使えない武闘家でも手練れであれば攻撃の瞬間に微量の魔力を発する、攻撃の威力を高めるメリットがあるが事前に攻撃にのせられた魔力を感知して回避されるリスクもある、お前はそのリスクを突け」


「なるほーーぐぇぇ!!」


「ん?お前...」


「あ、バレた」


 レーチェが放つ攻撃が少しずつ手応えが薄くなってきている。

 アイザックは同時に攻撃をいなすコツも掴み始めのだ。打撃を受ける瞬間に体を捻るか後ろに飛ぶ事でダメージを抑える事ができるのだ、攻撃が見えなければ意味がないが、感知できるなら対応もしようがある。


「ならペースあげるか」


「ちょーーーぐががが!!」


 ただでさえ受け流すのがやっとなこの攻撃を連打されてしまえばどうしようもない、瞬く間に何十発と叩き込まれたアイザックは後方に吹き飛び地面を転がる。


「最悪受け流すのはアリだが、()()()。回避しろ、ダメージを抑えるのではなく、『0』にするのじゃ」

 

「...」


「ドリンク=バァはかすり傷でも相手をミンチにできるぞ」


「...」


「おい、はよ立たんか」


「気絶してますぅ〜」


「おぉっと、つい力が入ってしまったか、今日はここまでにしよう」


 気付けば何日目かの夜に差し掛かっていた、夕餉を済ませたアイザックは明日に疲れを残さないよう早めの就寝を取る。


「...こんなボロボロになって...」


 そんな傷だらけのアイザックをミークは静かに見ていた、ふと夜風にあたろうと小屋の扉を開ける。


「あ...」


「なんじゃキャメル妹、眠れんのか」


「そんな所ですぅ〜、師匠は?」


 修復した長椅子に小さく座るレーチェ、隣には小さなカップと少量の菓子が置かれている。


「今日は満月じゃ。知っとるか?シャクシ島では満月を肴に酒と菓子を嗜むそうじゃ」


「紅茶とクッキーじゃ肴として微妙に合わなくないですか?」


「まぁそういうな」


 ミークも自分のカップに紅茶を注いでほっと息を吐く。二人で静かに満月を見て黄昏た後、ミークが口を開く。


「アイザック君は...どうですか?」


「...そうじゃのう」


 少し考える仕草をしたレーチェはクッキーを齧り静かに呟いた。


「...不思議なやつじゃ」


「不思議...ですか?」


「ワシは奴に『才能はない』とはっきり言った、その上で屈強な戦士ですら...そう、ドリアですら半日で根を上げた修行をやらせて奴のやる気を根っからへし折ろうとしたんじゃ」


「...」


「でもアイツ全く折れんよな、殴っても殴っても、何回前歯をへし折っても、気絶せん限りは立ち上がってきおる。何千年と生きてきたがあんな奴は珍しい」


「でしょう、アイザック君はすごいんです〜!」


「...久しぶりに年甲斐にもなく熱くなってしもうたわ、お前ら姉妹以来の時よりもな」


「わ、私達はインテリなので...えぇ!!」


「そう言うことにしておこう、さて、茶も飲んだらはよ寝ろ」


「は、はーい」


「おい」


 そそくさと食器を片付け、部屋に戻ろうとするミークをレーチェは呼び止める。


「...な、なんでしょうか?」


「.....」






「...()()()()()()()()()()

 



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