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勇者は感染してました ーThe Beasted eMpireー  作者: 鶴見ヶ原 御禿丸
1章 戦慄廃国チルド:反撃編

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19話 魔法のすゝめ ー魔法以前の問題編ー

アイザック君の能力の欠陥判明

ちょっとえっちな回



「...?」


 気がつくとそこはただ一面の海、彼方に地平線が広がりっている。雲と空が海に反射し自分が今立っている場所が海の上である事に気付くのには少し時間がかかった、それほどの澄んだ海面だった。

 なぜ海の上を歩けるのか、特に疑問も持つ事はなく、ただ先にある丸いテーブルと椅子に歩み寄る。


「...」


 席に着くと椅子に少しの温もりがあり、テーブルの上に紅茶が置かれているのに気付く。

 カップを手に取るとその縁に桃色の何かがこびりついている。口紅だろうか、つい先程まで誰かが飲んでいたのかもしれない。

 あたりを見渡そうとすると、後ろから声をかけられる。


『...違う...じゃない...誰?』


 落ち着いた少女の声が背後から聞こえる、声に応えようするとーーー目が覚めた。


「んが?」


 見知らぬ天井と汗でぐっしょり濡れた布団、この光景から全てを察する。


「...夢か」


「んごごご...」


 声がした方向を見ると髪を枕いっぱいに広げているミークがいた。服を見ると至る所に傷があり、つい先ほど帰ってきたばかりのようだった。


「んごごごごぉ...」


「え、それ寝言?いびき?どっちなの?」


「んごごごご...」


 棒読みでいびきを喋る(?)ミークをよそにベッドから起き上がりつぎはぎの制服を着て小屋を出る。

 温かいそよ風を浴びながら森を歩く、木漏れ日を浴びながら少し抜けるとそこには川があり、せせらぎを聞きながら顔を洗う。


「...すっきりした」


 妙に清々しい気分だ、現代にいた頃の朝は学校やバイトなど毎日時間に追われ落ち着く時間など無かった。中学生の頃1週間を乗り切った土曜日以来の、充実した気分だ。


「........」


 周りに誰もいない事を確認するとアイザックはふと照りつける太陽に向かってポーズを取ってみる、手を大の字に広げ全身を引き伸ばすような体勢に。

 太陽の光を全身に浴びつつ体を伸ばす、気持ちが良い。


「...」


「何してんじゃ」


「アアァァァァーーーッ!!???」


 朝食のための魚を取って来たレーチェがたまたま川辺を通りがかったのだ。


「アーッ!アーッ!アァーッ!!」


「お前光合成するんか」


「忘れろ!!忘れてくれ!!忘れてくださいぃぃぃお願いします師匠ぉぉーーッ!!」


「やだ」


「なんでもしますぅぅ!!なんでもしますので今のは何卒ご内密にぃぃぃーー!!」


「別に隠すようなもんか?今時のガキはわからん、じゃがまぁせっかくなんでこの魚お前が運べ」


「やらせていただきます!!」


 そんなこんなで何日目かもわからない朝を迎える、朝食の焼き魚(ちょっと重い)を食べミークを叩き起こす、寝ぼけているミークの髪を櫛で解かし口に魚を詰め込む。

 「堕ちた獣(ビーステッド)」の脅威など微塵も感じない、落ち着いた午前中だった。


「さて、準備運動もこれくらいにそろそろ本格的な修行を始めるか」


「押忍ッ!」


「よろしくお願いしますぅ〜!」


 軽い運動もそこそこについに修行の再開だ、アイザックは昨日より自分の体外に魔力を出す特訓をしていたが、これが3日かけても上手くいかなかった。

 これを成功させねば自分の適正すらわからない、魔法使いとしてのスタートラインにすら立てないのだ。


「まずアイザック」


「おぅ」


「昨夜色々考えた結果、やはりこれは言っておかなくてはならんと思った、なのではっきり言う」


「お、おう?」


「お前は()()使()()()()()()()()


「...」


 ...。


「...まじか」


 前向きに魔法の修行を始めようとした途端にこの言葉はきつい、例えるならスタートダッシュと同時にバナナの皮で転ぶような、そんながっくり感である。


「根本的に身体の構造からして魔法を行使できる作りになっておらん」


「こ、こうぞう?」


「ミーク」


「はい?ーーふぁ?」


 レーチェはミークの頬を引っ張り口内をアイザックに見せつける。


「うわっ、なんだよ」


「気になる所はないか?」


「うーん、ミーク、前歯磨き残しあるぞ」


 ーーーゲシッ!!


「痛ぇっ!!」


 ミークのローキックが炸裂。


「よく見ろ、親知らずがある」


 確かに奥歯のさらに奥に歯が見える、左右上下どちらもだ。


「ん?」


 さらによく見ると、ミークの()()、なにか煌めく小さな粒子が見える、よくよく見ないとわからないが。


「あいざっくはん、はずかひぃです」


挿絵(By みてみん)


「んで、それがなんの違いがあるんだ?」


「お前親知らず抜いたろ?」


「あぁ、抜いたけど」


()()使()()()()()()()()()()


「えっ!?」


 親知らずを抜くことが魔法使いにとっての禁忌?


「親知らずは魔力の生成、貯蓄器官。そして唾液には魔力潤滑漿が含まれておる」


「うん、うん?」


「魔力は最悪その刻印で生成できるが、詠唱を唱えるための魔力貯蓄器官が無く、さらには術式の構築には潤滑漿が必要不可欠、色々お前にはない」


「え、じゃあ...」


「だからお前は魔法が使える構造じゃないんじゃて」


「な、なん...だって?」


「まぁ他にも色々要因はある、お前はタフじゃから魔法より戦士職をオススメしたいところじゃが」


「戦士職」


 魔力を魔法にして撃つのではなく、その魔力を体内で循環させることで身体能力を強化して戦うのが戦士職らしい。魔力が消費されにくい長所がある代わりに魔法使いよりも肉体的負担が大きいのが欠点。

 魔力(生命力に近いもの)を大きく消費して万能の力を発揮する魔法使いか、肉体的負担を大きくして物理戦闘を優位に進める戦士職か。


「しかしお前には魔王刻印があるからの、それもできれば使っていきたい」


「あぁ、アレか」


 アイザックの背中には魔王の遺した『魔王刻印』という紋章が刻まれている、その刻印からは魔力が際限なく溢れ出ていると言われているが、アイザックからしてみればそのような実感は無い、溢れ出るというがどのくらいでているのかもよくわかってない。


「魔法や「技」を行使するには魔力が必要となる、強大なものであればあるほど魔力の消費量は多い。じゃがその刻印を持つ者はその刻印から無限の魔力を得る事ができる、どれだけ魔法を使ってもバテない魔法職にとっては夢のようなモンじゃ」


「ふむ...」


「しかし、お前には魔法の才能は無い、使える魔法もかなり限られてくる。魔王刻印のポテンシャルも最大限引き出すため戦士職としての技術を磨きつつそれに超簡単な魔法を組み込む戦術を目指す。これからはその為の修行をするぞ」


「お、押忍」


「ひとまずの目標として『魔塊弾』を覚えてもらう」





腕相撲ランキング

1.ミーク

2.シオン

3.アイザック

4.レーチェ


次回は明日11/18 18:10投稿!!

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