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勇者は感染してました ーThe Beasted eMpireー  作者: 鶴見ヶ原 御禿丸
1章 戦慄廃国チルド:反撃編

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18話 魔法のすゝめ ー魔王の置き土産編ー

主人公のチート能力判明!!



「王国では「賢王」と呼ばれ軍師を勤めていたすごい魔法使い様なんです〜、なので礼儀正しくお願いします〜、無礼を働くと...」


「か、雷が落ちるとか...?」


「お布団から3ヶ月出てこないので面倒くさいんです〜」


「め、面倒くせぇ!」


「聞こえてるぞ」


「あ、ははは、ところで師匠が家を留守にするなんて珍しいですね〜...?」


「んあぁ、この前王国の方に凄い魔力を感じたのでなぁ、ちと調べておった」


「魔力...あぁー...」


 なんとなく察したミークが先週の出来事をレーチェに説明する、遠征に行ったことやドリンク=バァと対峙した事も。


「ふむ...それでセルシがのぅ」


「はい...」


「アイツは嫌いじゃ、というか魔族をワシは嫌ぅとる、あの澄ました顔もいけ好かん」


「師匠...!!」


「じゃが、アイツ程仕事において信用できるやつもそうはおらんかった、だからお前を預けたんじゃがな...」


「...師匠」


「んで、シオンのやつは元気か?彼奴はよく無茶しおるからのぅ」


「この前まで死にかけてました」


「ふぁはは!!遠征の周期が狂っとるとは思っとったが、そうかそれで遠征に行っとったのか!」


「えぇっとあのー...本題に入ってもいいか?...いいですか?」


「なんじゃお前いきなり入り込んできおって、トイレでもいっとれ、しっし」


「なんか俺にだけあたり強くない!?」


 シオンやレーチェもそうだが、アイザックに対してあたりが強い人が多いと思うのは気のせいだろうか。


「師匠〜、そうですそうです、彼に魔法を教えてあげたくて〜」


「なんじゃそれで来たのか」


 レーチェがアイザックの体を、頭から足のつま先まで見つめる。心なしか少しつまらなさそうに。


「ふぅ...」


「え?....何?」


「師匠は装置を使わずに魔力適正を測れるすごいお方なんです〜」


「...」


「...師匠?」


「...」


「...お前、魔王の手先か?」


「...いや違いますけど」


 突然の言葉に理解が追いつかない。魔王、その名は知っている。この世界が疫病に犯される前に勇者が倒したとされる魔物、魔族の王だ。

 しかし魔王は既に勇者に打ち倒され死亡したと聞いている、なぜ今になって、そしてアイザックに対してそれを言ったのか。


「どう言うこと?」


「いや待て、待て待てしかし...うむ...そうか...」


「し、師匠...?」


「おいガキ!」


「はい!」


 ーーービリィッ!!


「え?」


 突然アイザックを呼んだと思えば、刹那、レーチェがアイザックの着ているコンビニの制服を引きちぎり始める。


「キャアァァァアアアア!」


「あ、アイザックさーん!」


「えぇい動くな!確認したいだけじゃ!」


「何してんだ!!何してんだお前ェェ!ミィィクゥゥー!!お前の師匠おかしいよ、止めてぇーッ!」


「あ、アイザックさーん!」


 徐々に布を失っていくアイザックに対してミークは一歩も動かず手で顔を覆っている、覆ってはいるが指の隙間からこの光景をしっかり見ているようだ。


「キャァーッ!えっち!変態ィ!」


「黙れ黙れじぅとしとれガキ!」


 結局、制服やズボンの殆どはひん剥かれ筋肉とも贅肉とも言えない中途半端な裸体が晒される。


「うぇ...ぐすん、汚された...」


「誰もお前のような体に欲情せんわ、あと乳首隠すな」


「ぐすん...酷い」


「しかし...あいつ...うむ」


「何かあったんですか...?」


「これ見ぃ」


 レーチェが指を刺すのはアイザックの背中、頭の上にはてなを浮かべたミークがアイザックの背後に周りレーチェの隣に立つ。


挿絵(By みてみん)


「...これはッ!」


「何ぃ....なんなんだよぉ...」


「...なんでしょうか?」


「バカ弟子」


 ーーースパァン!


「ぁ痛い〜!」


 後ろでミークが頭を引っ叩かれる音がした、二人から見たアイザックの背中には嵐とも渦とも言える禍々しい紋章が浮かび上がっているのだ。


「...これは...『()()()()』じゃ」


「何それぇ...」


「魔王が研究していた魔力炉じゃ」


「えぇっとつまり...?」


「その刻印からは()()()()()()()()()()、永久魔力炉とも言われておる」


「無限んんッッッ!!?」


 驚いたのはミークの方だ。


「魔王が密かに研究していたという話は聞いていたが...まさか完成していたとはの」


「アイザック君ズルイです!私にもその魔王刻印くださいよぉ〜!!」


「い、嫌だよ!ていうか人にあげれるもんなのかこれ!」


「できるが、かなりむずい。失敗したらアイザックが爆発する」


「やるなよッ!?絶対やるなよッ!?」


「ぶぅー!」


「でも無限の魔力って確かに凄そうだけどあんま実感わかねぇんだよな...」


「魔力を大量に行使する魔法使いや僧侶であれば喉から手が出る程のシロモノなんじゃがな、魔力消費の激しい高等魔法も使いたい放題じゃ」


「え、そ、そうなの...!?」


「自覚もないんか、本当になんなんじゃお前」


「そんな事言われても...」


「ミーク」


「はい!」


「向こう行っとれ」


「え、どうしてでしょ?」


「はよ、『無作為転移(トラベルダイス)』」


「え、あ、あ、あぁぁぁーーーー!!!」


 突然空中に浮かんだミークがそのまま彼方へ吹き飛ばされ、やがて見えなくなる。


「いいのかよアレ...?」


「構わん、んで」


 そしてレーチェがアイザックの前に座り込み、鋭い眼差しを向ける。


()()()()()というのか?」


 アイザックは名前を、本来の名前を言い当てられて少し震えた。


「...これも魔法?」


「...そじゃ」


「心を読む魔法とか?」


「概ねそんなところじゃが、お前の口から聞きたい。お前は何者で何があってここに来たのか」


「...わかったよ」


 別に隠すような事でもない、なんならミークにも聞いてほしかったくらいだが...吹き飛ばされてしまった以上仕方ない。

 アイザックは今までの自分の状況を事細かに話した、元々は別の世界でただの学生だった事、コンビニでアルバイトをしていたら突然この世界に飛ばされた事、色々な人に助けられて今この場にいる事、セルシにこの先どうするべきかの助言をもらった事。

 休憩を挟みつつ長い時間会話をしたせいか空は茜色に染まり、森が静かに暗くなり始めている。


「...」


「これが事の顛末だ」


「成る程のう、つまり魔王の関係者ではないと」


「疑わないのか?」


「嘘ついてないのはわかる」


「そっか...なにか聞きたい事はあるか?」


「質問がある」


「なんだ?」


「お前はこれからどうするつもりじゃ?」


「どうするって...」


 セルシに言われた事を思い出す、拠点を追い出されて行き場所を無くしたならシャクシ島を目指せと、そこで自分は元の世界に帰れるとも言っていた。

 今にして思えばセルシは最初からアイザックの事を全て知っていたのかもしれない、もっと彼と話したいが、彼はもういない。


「結局追い出される事もなくなったしな...すげぇ居辛いけど」


「ふむ...」


「俺はシャクシ島を目指すつもりだ、でも直ぐに旅立つには色々と心残りが多すぎるんだよ」


「シオンか?」


「あぁ、彼女が心配だ。それに俺は拠点のみんなに...ラザニアやナルボ、セルシ...そんでミーク、俺は助けてもらってばっかりなんだ...だから」


「...」




「.....な...()()()()()()()()()


「なんか...か」


「...」


「ぶふっっ...ふははは」


「なっ!?」


 アイザックが必死に捻り出した答えをレーチェは爆笑した、さすがにショックだ。


「なんか!?なんかじゃと!?なんかしたいのかお前は!!ははは!!」


「わ、笑うなーー!!俺はなんもできないからできることを増やしていくのは当然だと思いますがー!?」


「確かに!!確かにそうじゃが!!ははは、ここまで馬鹿正直なのも珍しい!気に入った、面白いなお前!!」


「あ、ありがとう...?」


「じゃが...簡単なようで...難しい」


「わ、わかってるよ...でもできる事を少しでも増やしたいんだ」


「...まぁ...ええか」


 レーチェは紅茶を一杯飲み干して会話を続ける。


「ふぅ...この世界に来た初日、お前は老人のような人物に助けてもらったと言っとったな」


「あぁ」


 アイザックは転移初日に死にかけた所を老人の声をした男に助けてもらっている、彼がいなければ今も王国周辺を一人で彷徨っていたかもしれない。


「ワシが思うに、そいつは『老公(アーシア)』かもしれんの」


「アーシア?」


「勇者一行最後に加入した槍の老兵じゃ、相当の策士とも聞く。魔王が討伐されてから急に姿を消したもんで、「堕ちた獣(ビーステッド)」になったのか、それとも生きてるのか、全く行方がわからん。しかし鳥すら疫病にかかるこの世界で老人が一人で生きてるとなれば、そりゃもう「老公(アーシア)」ほど実力がないと無理ってもんじゃ」


「な、成る程...?」


「しかし、ふむ...この仮説が本当であれば...」


「な、何...?」


「まぁいい、今日は休め。休息も修行には必要じゃ」


「あ、あぁ...もうそんな時間か」


「なんじゃ、うかない顔じゃの。そんなに拠点はつまらん場所なのか?」


「いや...そうじゃないんだけど...」


 拠点は寝所もあるし夕食もある、住む環境としてはいいのだが、先日の件によりすこし居辛いのだ。この3日間出入りする度になんとも言えぬ視線が刺さるし、陰口も叩かれる、シオンとはあれから一言も喋っていない。

 それに比べたらここの方が人も来ないし、自然に囲まれている環境が精神的に落ち着くのだ。


「居辛いならここ泊まるか?」


「え、いいのか?」


「空間を広くする魔法を使えば2人入る余地はあろうて」


「え?ミークは?」


「アイツは夜明けに戻る計算じゃ、今まで引きこもってたツケを払わせる」


「お、おう...ていうか魔法って本当に便利だな」


「そりゃそうじゃ、人類、エルフ、魔物、魔族その他全ての種族に許された平等の技術にして兵器!炎水土風陰陽の6大属性から派生に派生を加え今や幻想魔法、時空間超越魔法、防衛魔法、死霊魔法、重力魔法ーー」


「あ...長くなるなら明日でいい?さすがに俺には早すぎる話だからもっとこう、段階を踏みたい」


「なんじゃつまらん」


 そうして、アイザックはレーチェの料理を食べ、ベッドに横になる。拠点の時とは違う、傾いていないふかふかのベッドだ。


「...しかし、なんか掴めない人だったな」


 ただ見下された事以外では殆ど感情が読めない、ミークとの会話も、アイザックとの会話も、彼女は眉一つ動かさなかった。


「...寝るか」


 洞窟の滴る水の音も微かな人の声も聞こえない静かな夜、数日ぶりにアイザックは深い眠りにつく事ができた。






 月を肴に紅茶を飲むエルフ、レーチェは一人ぼそっと呟く。


「言った方がよいのかのう...



 ...あいつは魔法が使えんって」






次回投稿は明日11/17 18:10!

高評価、ブックマークを押していただけると創作の励みになります〜!


あと次回ちょっとえっちです

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