17話 魔法のすヽめ ークッキーこねこね編ー
ファンタジーの世界に行くとして自分の職業は何がいいかと考えたこと、そう言うゲームや小説に憧れた人は誰しも一度は考えた事はあるだろう。
冒険者や王国の兵士といった戦闘を行う職業は主に「戦士職」か「魔法職」に分かれ、そこから前者であれば戦士や武闘家、後者なら魔法使いや僧侶と分かれていく。
最前線で剣を振るう戦士、肉弾戦一筋の武闘家、偵察や工作が得意な盗賊、後方で仲間を回復する僧侶など様々な職業があり、この世界で戦闘者を志す者は皆これらの職業から腕を磨いていくことになる。
(他にも建築や農業といった職業でも魔法や魔法を用いた道具で効率化を進めているそうだ)
アイザックが選んだのは魔法使いだ、しかしミークによると魔法使いは完全なタレンティズム(才能主義)であり、志望者数は全ての職業の中でもダントツ多いものの実際になれる者はそのうち50分の1もいかない、それほどに狭き門なのだ。
だが魔法を使えないからと言って魔力を使えないわけではない、生きとし生けるものは誰しも魔力が流れており、戦士や武闘家もこれを駆使して魔力の流れを操作して「魔法」ではない「技」に昇華させ磨いている。
しかしそれでもアイザックが目指したのはやはり魔法使いだ。魔法というのはアイザックの現代にいた頃からの憧れでもあり、なによりカッコいい、無理だろうとしても一度は試してみたい。
もちろんそれだけの理由でミークから教えを乞いたわけではない、アイザックには前回の遠征で一つ気になった事があり、それを調べる目的もある。
ドリンク=バァに殺されかけた一瞬の衝撃、自分を中心にドリンク=バァや「獣」が後方に吹き飛んだ。誰かの援護かと思っていたが後から冷静に考えて見るとアレは間違いなく自分から出たものだ。であればその現象について調べないわけには行かないだろう。
「なぁ」
「はい〜」
「さっき志望者数はダントツ多いのに50分の1もいかないって言ってたけどさ」
「はい〜」
「俺が今やってるコレ...殆どの奴ができてなかったってこと?」
「そうですよ〜」
「だよねー!!だと思ったよ!!だって3日経つのに何も起こらねーもんー!!」
修行を初めて早くも3日、大量の食料と水は持ってきてはいるが、3日間ずっと座りっぱなしで指先を見つめている。
指と指をくっつかない程度に合わせ、指の間に魔力を集中、魔力の光を作る特訓なのだがこれがなかなかうまくいかない。
同じ体勢でいたせいか体はバキバキに固くなって特に肩と腰は悲鳴をあげている。
「魔力を武器に流したり体に纏ったり魔力を魔力のまま放出するのは戦士さんや武闘家さんもやるんですけど...空中に魔力の塊を作って維持するのって意外と難しいんですよぉ〜」
「なぁー、なんかコツとかないのかな?大分首と腰動かしてないから...ぃいでで!!」
「でも3日文句一つ言わずに続けてるアイザック君はすごいですよ〜!皆さん5時間ももたないんですよ」
「そ、そうなのか...」
「普通そこまで集中なんて続かないもんです〜、あっ、ちなみに私は5日かかりました」
「ぬぅ...お前も頑張ったんだな」
「コツとしてはですねぇ〜、無になって風を感じる...ですかね」
「なるほど、何言ってんだお前」
「とにかく無を感じるんです〜!」
「そ、そうか...」
........。
「何アホみたいな顔してるんですか」
「む、無を試したんだよ!」
「何も考えないわけじゃないんですよ〜、うーんそうですね...一旦休憩しませんか〜?思い詰めたらなかなか進みませんよ〜」
「そ、そうだな...」
ミークはアイザックが座り込んでいる間小屋の掃除をしていた。おかげで蔦まみれの小屋から蔦は一つもなくなり、屋内も埃一つない綺麗な部屋へと生まれ変わっていた。
「クッキー焼いてみたんです〜、まだここのオーブンが機能していましたので〜」
「おぉ」
クッキーの焼けた香ばしい匂いがする、小屋は狭いので外で食べることになった。ミークは長椅子にクッキーの乗った皿を置き紅茶を注ぐ。
「ん?」
ふとキッチンの上を見ると料理の跡が残っている、ミークはここでクッキーを作っていたのだろう。
「なぁミーク、クッキーってどうやって作ったんだ?」
「?...生地を作ってコネコネして型をとっただけですけど」
「省略できる魔法とかは使わないのかなって、魔法使いなんだし」
「アイザック君」
ミークがムッとした顔でアイザックを見る。
「いつでも戦えるように魔力は常に満タンにしておく必要があるんですぅー、そのため魔法は使わないに越したことはないんですよぉ〜、そんなこともわからないアイザック君はおバカさんです〜」
「わ、悪かったよ...」
「さ、どうぞ〜」
「いただきます」
程よく焼き色のついたクッキーを齧り、紅茶を啜る。....美味い、焼きたての匂いと温かさが疲れた体を癒す。現代ではこういった菓子は適当にテレビでも見ながら齧っていたので味にそこまで拘りはなかったが。
紅茶のハーブの香りがこの菓子とよく合う、茶と菓子、老人みたいでなかなかやろうと思わなかった、ここまで美味いとは。
「...うまぁぁぃ...」
菓子そのものが久しぶりだったせいか、つい腑抜けた声が出てしまう。
「ん...」
ミークも同じようにクッキーを少しずつ味わっている、魔法使いのローブを来ている彼女がクッキーと紅茶に舌鼓をうつ姿は中々様になっている。
「!」
よく見るとホロホロと崩れた生地がミークの胸の谷間に溜まっていた。なんだアレは、胸が大きいとクッキー食べる時あんな風になるのか。
「すごいじゃろ、アレ」
「あぁ、確かにすごい...」
耳元で囁く声につい反応する。
「え?」
「判断が遅い!」
ーーードギャァアッッ!!
刹那、後頭部を掴まれたアイザックはそのまま座っていた長椅子に叩きつけられる、長椅子は真っ二つに割れ、砕けた皿の破片が額に突き刺さる。
「ギャァアアアーーッッ!!いっでぇぇぇーーッ!!」
「愛弟子に言いよる害虫が」
「し、師匠〜!」
ミークが師匠と呼ぶ女性、背丈は小学生と見間違える程小さく膝まで伸びた黄緑の髪はサラサラで花の香りを漂わせながらよく靡いている。小さな少女だが白い外套と突き刺すような鋭く黄色い目が彼女が只者ではない事を証明している。
なによりもアイザックが驚いたのは、彼女の側頭部に見える尖った耳。
「...エルフ!?」
「なんじゃガキ、エルフは初めてかの?」
エルフ、ファンタジーや神話に登場する妖精の一種だ。長寿で長い耳が特徴で森に住んでおり、魔法や弓を得意とする...というのがアイザックの知っているエルフ像である。
「師匠〜今までどこにいたんですかぁ〜!小屋のお掃除大変だったんですよぉ〜!」
「おぉすまんのう、キャメル妹」
愚痴を言いながら抱きつくミーク、包容力のありそうな色々大きな体をしたミークが小さく薄い体をしたエルフに抱きつく光景は少し違和感を感じる。
「ご紹介します〜、私とお姉様の師匠のドゥルセ=デ=レーチェ様です〜」
「いかにも、ワシが勇者一行が魔法使いのキャメルとその妹を育てたレーチェじゃ、崇めよ讃えよクソガキども」
小屋の上に飛び上がり棒立ちのまま上から目線のレーチェ、傲慢なリアクションもなくただわざとらしく見下す立ち姿。
アイザックはふと思う。
ーーーう...うぜぇ!
次回投稿は11/16 18:10!!
次回 魔王の置き土産編
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