15話 17人殺した疫病神
『反撃編』開始です
予約時間がずれておりました、楽しみにしていた方大変申し訳ございません...
「薬草ってのはね、怪我をした人を治療するために使うものなのよね」
「はい」
「薬草で怪我をする人は初めて見たよ」
「ですよね」
「ポーション渡しておくからまた傷んできたら使いなさい」
「はい」
ボロボロの顔を拭き取り簡単な回復魔法をかけてもらい医務室を後にする、するとばったりミーク=キャメルと出会う。
「あ、おはようございます〜」
「おはよう、怪我はどうだ?」
「万全ですよ〜、さすがセルシさんです〜!」
腕を広げて一回りする、瓦礫やガラス、ドリンク=バァ襲撃で負った傷も完全に無くなり遠征前の調子を取り戻していた。
「アイザック君は...あぁ薬草でシバかれたんですよね...ぶふっ...」
「笑うな、俺も悪いと思ってるよ...」
「これから朝ごはんですか〜?」
「あぁ、食堂に向かう所だ」
「ご一緒しましょう〜」
遠征から1日が経った、セルシの死を聞いて一番泣いたのはミークだ。彼女はセルシに返せないほどの恩があり、心の拠り所だったのだという。
一晩中泣いていたミークがこうやって調子を取り戻しつつあるのだ、自分もしっかりしないとセルシに申し訳ないだろう。
石造りの大部屋に足を踏み入れる、至る所に置かれている丸い机を囲み魔族と人間が言葉を交わして酒を飲む、ここはこの拠点唯一の食堂だ。
「今日は川魚の塩焼きです〜」
皿の上におかれた魚と、その隣にサラダとパン。
「パンか...ごはんと食べたかったな」
「...?」
「いや、なんでもない」
料理の置かれたトレーを運び椅子に着く、注いできた水を飲むとこれがまた美味い、このダンジョンで流れている水は地層により何度も濾過され不純物が取り除かれておりさらに大量のミネラルを含んでいる。スーパーで買うような天然水よりもずっと喉越し爽やかで冷たく、とにかく美味い。
淡水魚は美味しくないとか聞いた事があるが、別にそんな事はない、むしろ美味い。
まるで秋刀魚のような苦味と食感、それでいて弾力のある肉質と旨みが癖になる。この世界の魚はみんなこうなのだろうか、しかし大根おろしかレモンが欲しくなる。
「どうぞ〜」
「ミィィク!めっちゃ気がきくな!!」
「えへへ〜」
ミークがレモンのような黄色い果実を渡す、少し舐めると目が潰れてしまう程の酸味を感じる、あ、これレモンのような、ではなく実際レモンだ。
「うへへ〜」
ーーピュ
「うぎゃぁぁぁーーー!!」
「アイザックさん!?」
弾けた果汁が目に直撃し、のたうち回る。そんなこんなで楽しい朝食を過ごしていると...
「ちゃきんちゃきん!」
「ん?」
「すばーん!きゃっきゃっ!」
「なんだ?」
食堂に響く子供のような声、いや、子供ではない。大人だ、大人の声で子供の真似をしているような。
声の方向を見ると包帯まみれの淡い金髪で背の高い女性が食器のナイフと木の人形で遊んでいる。
「誰だ...?」
「ドリアさんです〜」
「ドリアッ!?」
ふと先日のドリアを思い出す、まるで要塞のような巨大な鎧を纏い図太い圧のある声をしていたあのドリア=マッカニ、まさか女性だったとは。
「ここだきめろ!しゃいにんぐすらっーしゅ!すばばば!あははは!」
しかし同一人物とは思えない、アイザックの知っているドリアは少し怖いがそれがかえって頼りになる男で...。
「あ...アレは一体...」
「ドリンク=バァとの戦闘で頭を打ってしまったんですって...なんとか一緒にいた方が連れ戻したそうなのですが...その人は駄目でした」
「.....」
見ていられない、朝食を済まし食堂を後にする。少し食堂にいた魔族や人間達の視線が痛かった。
今回の遠征で生き残れたのはアイザックとミーク=キャメル、そしてドリア=マッカニの3人のみ、他17名が帰らぬ人となった。これはシオンを助けたいと思って集まった者のみで構成された遠征隊であり、全員が彼女のために死を覚悟していたのだ。それは拠点に住む人達も知っているし納得はしている、だが唯一の生き残りであるこの2人にも何か思う所が各々あるようだ。
「...」
視線が痛い、思い込みかもしれないが、それでも痛い。
「...あいつは大丈夫かな」
ふと立ち寄った小さな部屋、ここはシオン=エシャロットの自室だ。ダンジョンの一つの階層、その端にひっそりとある小さな扉。
「...」
そっと扉を開いて中の様子を見る。この拠点でもそれなりの立場にいるはずなのに部屋は物置きと間違えるほどに小さい。
「ぅ...んぅぅぅ...ぅぅぅ」
そんな部屋の真ん中でシオンは啜り泣いている。
「どうして...どうして私を助けたの...!私なんかのために...なんで命かけてるのよ...!!」
「...」
「ドリアもセルシもいない...!私...どうすればいいの!」
「....」
「私...みんなの命を背負える自信...ないよぉ...」
「...」
彼女のために17人も死んだ、この拠点の要を担っていたセルシは死亡、ドリアは壊れた。彼女の大切な仲間だったのだろう、急に孤独に晒され責任を負う立場に立つのはまだ少女である彼女にはとても耐えられるものではない。
「...」
ギッ...
「誰!!」
ーーガァンッ!!
「ひぇぁ!?」
扉の音が少し鳴ってしまったと思ったら、刹那、金属音と共に丸盾が自身の真横を通過した。彼女が投げたものだと後から理解する。
なぜか頭がズキズキするが、今はそれを気にしている時ではない。
「お前キャプテンアメリカかよ!!」
「はぁ!?意味わかんない!何しに来たのよ!」
「お、お身体は大丈夫ですかぁ〜?」
アイザックの脇からミークがそっと顔を覗かせる、ミークの方が年上と聞いているが立場の都合もあってか少し萎縮している。
「アンタ達に心配される筋合いは無い!」
「でもお前泣いてるじゃねぇか」
「泣いてないッ!泣いてないわよッ!!」
濡れた顔を必死で拭い否定する。
「ご、ごめんなさい〜!」
「ふんっ、んでアンタ誰よ、新人?」
「え?」
アイザックは以前彼女に命を救われている、アイザックにとっては感謝をしてもしきれないがシオンにとっては記憶に残す価値もない出来事のようだ。
「藍...アイザックだ、覚えてるかわからねぇけど俺、お前に命救われてんだ」
「あっそう」
「あっそう、って...」
「アンタ達が遠征の生き残りってのは聞いてるわ、んで...ミーク、貴方...よく出る気になったわね」
「わ...私、シオンさんみたいに強くなりたくって...」
「私は...強くないわよ...」
「強いです!みんなのために命張って、それで「墜ちた獣」に臆する事なく戦える貴方は皆んなの憧れです!それに比べて私は...」
「貴方はマンダカミア様の妹でしょう?焦る事はないわ、突出した姉の才能はきっと貴方にもあるはず、でも遠征に行けるようになったのは素晴らしい一歩だわ、そして...私のために...ありがとう」
シオンがミークの頭を撫でる、ミークの緊張で引き攣っていた顔はほぐされ、満足そうにしている。なんというか、褒められて撫でられている犬のようだ。
「え...えへへ〜」
「...」
「それで、これからどうするんだ?何かできることがあれば手伝わせてくれよ」
「アンタ何ができるのよ」
「とくにないです」
「じゃあ引っ込んでなさい」
「ごめんなさい...」
悔しいが彼女の言う通りだ、魔法も使えない戦闘もからっきしのアイザックができる事は限られている。
「ミークは隠密魔法の調整をしてきて、他の魔法使いもいるけど数は多いに越したことはないから」
「わかりました〜」
「それと...心配してくれるのは嬉しいけど...今は一人にして頂戴...今後の方針はまた後で通達する」
「...わかった」
部屋を出るとミークと顔を見合わせる。
「...相当無理してますね〜」
「あぁ......」
「ど、どうかしましたか...?」
「なぁ、ミーク」
「俺に魔法の稽古をつけてもらう事ってできるか...」
次回投稿は11/13 18:10!!
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