14話 バッドエンドのその後の
この書物は特殊な魔法がかけられており、使用者が心に思った内容を(意識、無意識関係なく)自動で記録するものである。
記録のための手間を省くためである。
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▲月★日
歩みを始めて何ヶ月経ったかわからないがようやく街が見えて来た、チルド王国だ。
使い魔によるとここに来るまでの間何度もパーティを開いて遊んでいたようだ、それが勇者の意思なのか国王の都合なのか知らんが随分暇らしい。
そこらへんで見つけた洞窟を適当な拠点とし、荷物を置いて王国を訪れる。
厳重な警備を潜り抜け、王城に潜入する、パーティ会場天井裏、ここなら勇者パーティを監視できる。
暗殺、1人になったところを確実に始末していく、今の俺にはその方法しか太刀打ちできそうにない、簡単な食料と水分を持ち込んで数時間張り込む事にする。
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●月◼️日 運命の夜
パーティが始まった、会場で確認できたのは勇者、魔法使い、老公、武闘家、僧侶の5人、各々が有権者と会話を交わしたり豪華な食事を堪能している。
魔法使いマンダカミアと武闘家のドリンク=バァは魔力を探知できるので極限まで魔力を抑える、普段魔力垂れ流しの魔族にとってこれがかなりキツかった。
数時間とパーティを楽しんでいると突然勇者が体調を崩し始める、部屋に戻って休むと言っている。これはチャンスだ、寝静まった所を仕留める、暗殺だ。
遠距離からの狙撃が得意な俺ではあるが今回は弓は置いてきた。経験上、遠距離狙撃は勇者パーティのような強者には効かない...または対策されている場合が多く、近接での一撃の方が確実なのだ。
気配と魔力を完全に断って後をついて行く、フラフラとよろけながらなんとか部屋へと到着した勇者はベッドへ潜り込む、ここで仕留めてもいいが油断はしない、確実に寝付いた時に殺す...寝静まるまで待機していた。
何十分経っただろうか、魔力遮断、気配遮断を解いて彼の前に姿を現し、懐からヒュドラダガー(毒のナイフ)を抜く
狙うは首...ではなく頭部だ、魔族の腕力なら人間の頭蓋など容易くかち割ることができる。勇者とて人間、頭蓋を叩き割られたら即死だし、仮に即死でなくても脳みそに毒を直接流し込むのはきついだろう。
ヒュドラダガーを振り上げる、これで終わりだ、そう思った。
しかし、ある違和感に気付いて手を止めた。
何かが変だ、その違和感を確かめるために勇者の寝るその姿をまじまじと見つめるとすぐに判明した。
人間は呼吸をする生き物だ、寝ている際も四六時中呼吸は続く、そのため腹部が布団越しでもわかるくらいに僅かながら動くはずなのだ、しかし彼の腹部は越しでも全く動いてない。
疑問を晴らすために彼にかかった布団を勢いよくひっくり返すと信じられない光景を目にした。
ーーーー勇者が死んでいたのだ。
俺は激しく動揺した、バカな、いつ殺された?
呪いの類は感知されなかった、食事に毒を盛られたわけでもなかった(そんなので死ぬようなタマじゃない)。勇者一行全ての動向を監視していた中違和感は何も感じなかった、体温を確認すると勇者は既に冷たくなっていた。
パーティが始まる前に何かをされたのかもしれない、しかしどの説を立てようとも確証が持てない。
ドアを叩く音が聞こえる。誰かが勇者の身を案じて様子を見にきたのかもしれない、俺は急いで部屋を後にした。
しかし、俺はこの選択を一生後悔する事になる。
王城の屋根の上、夜風にあたりながら状況を整理している時だった。城の様子が変だ、歓談や笑い声がいつのまにか悲鳴に変わっている。
窓から中を覗いてみると、なんと人が人を食べているではないか。
赤く血走った目の貴族が血のついた歯を剥き出しにメイドの女を襲っている光景を目にする。それだけではない、メイドが複数で貴族の内臓を抉り出していたり、複数の貴族が淑女の四肢に喰らい付いている、このような食べ方は流石に魔物も魔族もやらない、まさに「獣」のそれだ。
「獣」と化した人間達は城の外へと駆け出し、その街の住民を次々と喰らい始める、その国が阿鼻叫喚の地獄絵図と化すにはそれほど時間はかからなかった。
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●月▲日
魔物も人間も同じ「獣」となった世界で俺達魔族は生き残った人間と手を組む事にした。
魔物と魔族の違いは意思疎通ができるかどうかだけであり、意思疎通が不可能な魔物は皆「獣」に噛まれ感染した。 魔族は魔王の意思である種の存続を優先する、人間はかつては食糧程度にしかならなったが、「獣」が支配するこの世界これからの時代、人間の力も必要となるだろう。
最初は受け入れる人間は殆どいなかった。無理もない、相手は人間を食う魔族だ、中には俺に殺された人間の遺族もいるだろう、共に拠点で暮らす中でいくつもの派閥が生まれたし、魔族の一部は人間に迫害を受けたりもした。
しかし、魔族と人間の架け橋となる者が現れた、シオン=エシャロットだ。
彼女は強かな女性だ、「獣」を殺すためなら何もかもを利用する、例え魔族と手を組む事になっても、彼女は眉一つ動かさなかった。
シオンと俺とドリア、その他複数の力を借りてかつて勇者が攻略をしたダンジョンを生活が可能な拠点に作り変えた。魔族や冒険者が防衛と管理を担う事で魔族と人間、持ちつ持たれつな関係の構築に成功した、俺は発案者である彼女とドリアには一生頭が上がらないだろう。
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★月◼️日
物資の不足と避難してきた魔族と人間の増加によりこの数年で複数回物資の調達を目的とした遠征を実施した。
しかし今回の遠征では痛手を被った、シオンの負傷だ。この拠点の精神的要でもある彼女を失えばたちまち拠点の均衡は崩れ争いが起きかねない、「秘薬草」だ、彼女を治すにはこれしかない。
そんな中、拠点の入り口に人が倒れているのをミーク=キャメル、後から避難してきた魔法使いの娘が発見する。感染している可能性もあるため細心の注意を払い接近を試みる。
血まみれだが擦り傷以外に「獣」につけられたであろう傷がない、感染の可能性が限りなくゼロに近いため保護する事にした。
しかし妙な格好をしている、遠方から来た旅芸人だろうか。
少年の名前は藍村咲太郎、この名前は大陸を超えた先、南方にある「シャクシ」という国で聞くような名前だ。ここの
人間にとって彼らの名前の発音は難しい、なので「アイザック」と名乗るように勧めておいた。
そういえばあの国ではこことは違う別の世界へ渡る「異界渡航」の研究をしていたのを思い出す、魔王アンタクティカもこの国の研究を取り入れようと実験をしていたんだっけな。
アイザックが水浴びをしている間、ミークが彼の着替えを洗濯していた。水も風も日の光も使わずに汚れを落とす魔法だ、便利だな魔法使いは。(俺も使えるけども)
彼女もシオンの看病が必要のため着替えと洗濯済みの妙な服を俺が渡しに行く事になった。
水辺へ足を運ぶとアイザックが震えながら冷たい水で汚れを落としているのが見える。あれ、あいつもしかして水を温水に変える魔法知らないのか?俺やミークに言ってくれればやってあげたのに。
いや、それよりも俺は彼の背中にある紋様を見て驚愕した。
ーーー「魔王刻印」だ。
背中にまるで嵐を模ったような禍々しい紋様が刻まれている、あれは魔王アンタクティカが無限の魔力を得るために研究していた刻印だ。
研究は中止したと魔王本人から聞いたはずだが、いつのまに完成していたのか。
しかしなるほど、アレがあるなら彼から満ち溢れている魔力も納得だ。
しかしそれと同時に疑問が出る、なぜあんないかにも素人な子供が刻印を持っているのか。いや、仮にアレが本物の「魔王刻印」だとしたら...魔王は今も生きているという事になるのか?
もしそうだとしたら部下として一刻も早く魔王の捜索に当たらねばならない、生きているとはいえ勇者との一騎打ちで相当重症なはずだ、この時世「獣」の脅威も無視できない。
まだまだ謎が多いが確かな事と言ったら、彼...アイザックは昔魔王が失敗した実験で呼ばれた人間である事、自分の背中にある魔王刻印に気付いていない事、それと彼がなんの能力も持っていないただの人間である事くらいだ。
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★月▲日
前回の遠征により王国周辺に魔法使いマンダカミアの情報が確認されている。
チルド王国より遥か先に位置するマナタン帝国周辺に武闘家ドリンク=バァの姿を見た者がいるそうだが、かなり距離がある為今回の遠征では気にしなくてもいいだろう。
「魔王刻印」の事を彼に話すべきだろうかと数時間悩んだが、結局今の間は心のうちに留めておく事にした。
彼と話してわかったが、彼は戦闘において素人なんてレベルではない、「戦い」を知らずに育った子供だ。
この世界では人間誰もが幼少の頃から魔物と遭遇した場合の対処法を習う、いつ魔物に襲われても生き残れるように。しかし彼はそれすらも教わった事がないと言うのだ。
きっと彼のいた世界は争いのない平和な世界なのだろう。やはり彼を元の世界に送り返すべきだ、そんないい世界に生まれ落ちたのだ、わざわざこんな所で辛い目に遭う必要はない。
魔王捜索もしなければならないがドゥルセ=デ=レーチェに頼めば紋様の抽出ができる。必要なのは彼の背中に刻まれた紋様であって彼自身ではない、目的は同時に遂行はできる。
俺がいなくてもシオンとドリアなら上手い事拠点を運営できるだろう、この遠征が終わったら隙を見て紋様を抽出し、彼を「シャクシ島」まで送り届けよう、あそこなら帰還の手がかりくらいはあるかもしれない。
やる事は決まった、あとはこの遠征で無事に帰ればいいのだが。
...まぁ、なんとかなるだろう。
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⬛︎月●日
ア タマ
カ イ
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次回投稿は11/11 18:10!!
次回から『反撃編』始まります!アイザックくんも修行を始めます!
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