第23話 久しぶりの王宮とニーナとの再会
馬車が正門に到着すると、門番が恭しく頭を下げて私たちを迎え入れた。
見上げるほど高い王宮の扉が、ゆっくりと開かれる。
妃教育のために何度も通った扉を、こんなにも穏やかな気持ちでくぐる日が来るとは思わなかったわ。
馬車は王宮の正面に到着した。
まずアランとシャロンが馬車を降りる。その後でシリウスの手を借りて下りると、目の前にニーナが立っていた。
「お姉様、お待ちしておりましたわ」
柔らかく微笑むニーナの金色の髪は陽光を受けて輝き、その輝きが彼女の輪郭を優しく縁取っている。
そして長いまつげが青く美しい瞳を際立たせ、見る者に儚げな印象を与えていた。
淡いピンク色の頬は、私たちを待つ間に冷たい風に当たったのか、ほんのりと赤みを帯びていて、その様子がさらに守ってあげたくなるような愛らしさを引き立てている。
「ここで、お母様のものを返してもらえるのかしら」
ニーナが何も手に持ってはいないのを分かっていて、あえて尋ねる。
「お姉様の大切なものですから、デイモンド様に頼んで王宮の一室を借りておりますの。そこでお渡ししますわ。屋敷でも良かったのですけど、母の妨害が入るかもしれなかったので」
まるでお母様の遺品を盗ったのが、ニーナの母ノーラだけのような言い方だ。
だがここで押し問答をしていても仕方がない。
お母様の遺品――それは真珠のイヤリングだった。
柔らかな乳白色の光を放つ二つの真珠が、繊細な銀の細工に囲まれている。
幼い頃、お母様がそのイヤリングをつけて微笑んでいた姿が記憶の中に鮮やかに蘇る。
日差しの差し込む窓辺で、静かに髪を結いながら私に語りかけてくれたお母様の姿。
その耳元で揺れていた真珠の輝きは、私にとって愛情そのものだった。
私にとっては隠し持って身に着けることのなかったアキテーヌの星よりも、よほど思い出が深い。
だからこうして、罠だと分かっていても、取りかえしにきたのだ。
「さあ、こちらですわ」
ニーナが王宮の扉をくぐる。
扉を守る門兵たちの顔にはなんとなく見覚えがある。それだけ、王宮に通っていたのだ。
不思議なことに、案内役はニーナだけだった。
廊下を進む間、目に飛び込んでくるのは豪奢な装飾の数々だ。
天井には見事なフレスコ画が描かれ、深紅の絨毯が足音を吸い込んでいる。
壁に並ぶ歴代の王家の肖像画は、いつものように、まるで値踏みでもしているかのように、こちらを見つめているような錯覚を覚える。
「ああ、こちらにいらした」
突然後ろから声をかけられる。
誰だろうと思って振り返ると、そこには国王の侍従がいた。
「失礼いたします。国王陛下がシリウス皇太子殿下に内々にお話があるとこのことで、申し訳ありませんがこれからいらして頂けないでしょうか」
その言葉に、思わずシリウスと顔を見合わせてしまう。
明らかに罠だと分かっていて私たちがその誘いに乗るはずがないのに、そこまで国王は愚かなのだろうか。
「断る」
「……は?」
即答された侍従が、目を丸くする。
私は目を細めて侍従を見た。
国王は一体どういうつもりなのかしら。この国とドラゴラム帝国では、国力が違いすぎるから命令することなんてできないのに。
しかもデイモンドの罠に加担するなんて……。
デイモンドの兄で優秀なマキシム王子に譲位して引退すべきじゃないかしら。
「いや、しかしその……。アーダルベルト伯爵令嬢がドラゴラム帝国に行かれるに当たり、手続きが必要なのでぜひシリウス皇太子殿下に書類を見て頂きたいのです」
汗を拭きながら説明する侍従は明らかにおかしい。
シリウスもそう思ったのか、不機嫌そうに侍従を追い払った。
「今でなくてはならないということもないだろう。書類を見るだけならばいつでもできる。用事を済ませてクリスティアナと一緒に行くと伝えるがいい」
鋭い言葉を浴びせられて、侍従が一歩後ずさった。
きっと、シリウスの威圧に気おされたのだろう。
「さあ、行こう、クリスティアナ」
そう言って侍従を無視して私に手を差しのべる。
私は笑顔でシリウスの手を取った。
「ええ、シリウス様」
そんな私たちのやり取りを、ニーナがじっと見ている。
いつものニーナなら「お姉様ばかりずるい」と言ってシリウスにまとわりつくのに、これはどういう事だろう。
警戒しつつも、まだ何も仕掛けられていないので大げさに騒ぐ事もできない。
十分に注意しなくては――。
私は気を引き締めて、再び歩き始めたニーナの後を追った。
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