第19話 きっともう、私の気持ちは
鱗……?
そういえば力の強い竜人は、竜に変化することができると聞いたことがある。
おとぎ話かと思っていたけれど、もしかしてシリウスは竜になれるの?
でも、そうしたら、自分の鱗を剥いだということ?
「鱗を剥ぐなんて……痛かったでしょう」
私は鱗を剥ぐ時に怪我をしたのではないかと、シリウスを見た。
さっき、喉元にあるものを贈りたかったと言っていたけれど、それは断念したのよね。
染み一つない滑らかな喉元には、怪我らしきものは見当たらなくて少しほっとする。
それでも服で隠れる場所の鱗を剥いだのだろうけれど。
「大した痛みではない。それよりもこれでクリスティアナを守れるのであれば、鱗など惜しくはない」
これほどに私を思ってくれるシリウスに、何を返せばいいのだろう。
少しずつ、少しずつ、シリウスの真心に触れて、婚約破棄をされて凍り付いていた心が溶けだしていくのが分かる。
婚約者だったデイモンドには感じた事のない温もりが、粉雪のように胸のうちに降り積もる。
きっと、もうシリウスを好きになっている。
それをはっきりと言葉に出せないのは、まだどこか臆病になってしまっているから。
でも、言葉に出せなくても、少しでも思いを返したい。
「ありがとうシリウス様。あの……つけていただける?」
思い切ってそう言うと、シリウスは驚いたように目を見張り、そして次の瞬間にはとろけるような目で柔らかく微笑んだ。
「もちろんだとも。このままつけてもいいか?」
「ええ、お願いします」
ネックレスをシリウスに渡す時、白銀の鱗に触れた。
冷たく硬い鱗は、不思議と彼の温もりを宿しているように感じられた。
ネックレスを受け取ったシリウスが、そっと私の前に体を寄せる。
ぴたりと耳元に彼の存在を感じた時、吐息がそっと触れるように頬をかすめて、心臓が一気に跳ね上がった。
あ、近い……こんなに近くにいるなんて……。
初めての距離感に、胸の鼓動が自分でも聞こえそうなほど早くなる。
細く深い息遣いが耳元に響き、まるで触れられているかのように背中がざわりと震えた。
恥ずかしさに思わず顔を伏せるけど、それが逆にシリウスの手を首筋に導く形になり、さらに意識が集中してしまう。
シリウスの手が柔らかな鎖を首筋に通し、白銀の鱗が胸元に触れる。
その時、指先がほんの少し肌に触れた気がして、心臓が一瞬止まるような感覚に陥る。
どうしよう……ドキドキして、まともに息ができない……。
意識すればするほど、シリウスの息遣いを感じて、全身の血が一気に巡るように熱くなる。
首筋にそっと触れる彼の手は慎重で、それだけで彼が大切に扱ってくれているのが伝わってくる。
嬉しさと恥ずかしさが入り混じり、どうしていいのか分からなくなる。
「似合っているよ、クリスティアナ」
低く甘い声が耳元で囁かれると、頬がますます熱くなる。
顔を上げる勇気もなく、ただ小さく「ありがとうございます」と呟くのが精いっぱいだった。
その一言を返すだけでも、喉が詰まってしまいそうなほどの緊張感を感じてしまうのが、自分でもおかしいくらいだった。
シャロンとアダムはいつのまにか退室していて、部屋の中には私とシリウスだけしかいなくなっていた。
焦った私は、反射的にシリウスから離れる。
途端に悲しそうな顔になったシリウスに罪悪感を覚えて、それを誤魔化すように、お酒の造り方や、思いついたシアバターのクリームの製品化について話した。
話しているうちに距離が縮まって、シリウスの顔がほころんで。
その表情を見て、ああ、私はもう既にシリウスのことが好きなんだと自覚した。
でもそれを言うのはもう少し待ってほしい。
私がアーダルベルト家から離籍して、しがらみのない、ただのクリスティアナになったなら、この気持ちを伝えるから。
だから、もう少しだけ。
心の中でそう呟きながら、私は贈られたネックレスの白銀の鱗に、そっと手で触れる。
さっきかすかに感じたシリウスの体温が、まだそこに残っているような気がした。
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