第755話 フリードリッヒ君を労ってあげたい回
『第755話 ヘズラト君を労ってあげたい回』の予定でしたが、都合により予定を変更してお送りいたします。誠に申し訳ございません。
「よしよし」
「キー」
「よーしよしよし」
「キー、キー」
「よーしよしよしよしよし」
「キー、キー、キー」
というわけで、大シマリスのフリードリッヒ・ヴァインシュタイン二世君とスキンシップの時間である。
部屋の床にゴロンと仰向けで寝転がったフリードリッヒ君のお腹を、優しく愛でるようにわしわしと撫でてあげていた。
先日行ったアイテムボックス探索にて、フリードリッヒ君の並々ならぬ献身性や忠義心に触れた僕は、居ても立っても居られず、探索が一段落したところでアイテムボックスから撤収し、自室に戻ってからフリードリッヒ君をひたすら愛で続けていた。
ちなみに、そのあたりの事情はフリードリッヒ君には話していない。いくら共有のアイテムボックスとはいえ、『フリードリッヒ君の私物を見て感激したんだ』とは少々伝えづらい。
なのでフリードリッヒ君の立場からすると、急に感極まってお腹を撫で始めた僕がいたりするのだけれど――それでもフリードリッヒ君は喜んでくれている。さすがはフリードリッヒ君である。並々ならぬ忠義心である。
「しかしフリードリッヒ君の忠義に応えるには、これだけでいいのかという疑問も残る……」
「キー?」
これだけ尽くしてくれるフリードリッヒ君に対し、お腹を撫でるだけで済ませていいものか――いや、よくない。
もっと他にフリードリッヒ君が喜ぶことをしてあげたい。もっとフリードリッヒ君に感謝を伝えたい。もっとフリードリッヒ君を労ってあげたい。
そこで、僕に何ができるかというと――
「やっぱり人形なのかな。やっぱり僕と言えば人形作りだよね」
やはり最初に思い浮かぶのは人形製作。フリードリッヒ君の人形を作ってみてはどうだろう。ここはひとつ気合いを入れて――等身大人形を作ってみるのもいいかもしれない。
等身大フリードリッヒ君大シマリス像は今までに作ったことがなかったはずだ。せっかくだし、この機会に――
「うん? いや、なんなら等身大にこだわる必要もないのかな? あるいは実物よりも、もっと大きなサイズで作ってみたり……?」
ふむ。それも面白そうではある。これは他の人ではできないことだ。フリードリッヒ君以外ではできない試みだろう。
「例えばだけど、実物より2倍大きい父の人形とかは作れないよね。なんかちょっと面白くなってしまいそうじゃない?」
「キー……」
2倍大きい父ってだけで、なんかちょっと面白い。
あるいは1.1倍くらいの父も悪くない。『なんかちょっと大きくない……?』ってくらいのサイズ感が、妙な笑いを誘いそう。
そしてそんなサイズ変更も、フリードリッヒ君ならば問題ないと思われる。フリードリッヒ君なら2倍でも可愛らしさを維持できるはずだ。
「2倍や3倍――あるいはドーンと20倍まで大きくしてもいいかもしれない。20倍のフリードリッヒ君だ」
「キー!?」
ぼんやりお腹を撫でられながら話を聞いていたフリードリッヒ君が、大層驚いた声を上げた。
まさか自分の話だとは思っていなかったらしい。しかもそれが20倍とは思いもよらなかったらしい。
「キー……?」
「ん? あー、うん、まぁなんというか……日頃からフリードリッヒ君にはお世話になっているから、僕も何か恩返しをしたいと思っていたんだ」
「キー……」
「うん、そうなんだ。それでお腹を撫でたり、20倍のフリードリッヒ君を作ってみようかなって思ったんだ」
とりあえず悪いアイデアじゃないはずだ。それだけの物を作れば、僕の感謝がどれだけ大きいものなのかフリードリッヒ君にも伝わるはず。20倍の感謝を受け取ってほしい。
しかも20倍フリードリッヒ君なら、別の問題も回避できる。――例の『思い出の棚』の件だ。
残念な贈り物をして、思い出の棚が残念な棚に変わってしまうことをナナさんは危惧していたが、20倍フリードリッヒ君ならば問題はない。
そのサイズなら、アイテムボックスに収納することなんて――
……あ、いや、できるのか。そんなサイズでも、アイテムボックスなら難なく収納してしまえるのか。
恐ろしいなアイテムボックス。そうなると思い出も何もない。棚に置かれた過去の思い出の品が目に入らなくなってしまう。20倍フリードリッヒ君しか目に入らない棚になってしまう。
「……まぁ改めて考えると、そもそも収納しちゃダメなのかな? なにせ20倍だし」
作るとしたら外で作ることになるだろうし、それからどこかへ移すこともできない。もしも移したら、あのでかいフリードリッヒ君はどこへ行ったのかとみんなから驚かれてしまう。
なので村のどこかで作って、そのまま設置されることになるだろう。村の新たなシンボルになりそうな予感がするね。イメージとしては、奈良の大仏みたいな感じで……。
「キー……」
「あー、そうだね。確かに20倍は作るの大変そうだよね。果たして完成はいつになるのか。そもそも完成させることができるのか……」
「キー」
「ありがとう。でも大丈夫。いつか必ず完成させるから」
「…………」
僕のことを心配して、20倍フリードリッヒ君を遠慮しようとする原寸大のフリードリッヒ君。
だけど安心してほしい。いつか必ずやり遂げてみせる。そのときを楽しみに待っていてほしい。
「あとはそうだな――温泉とかかな? 最近フリードリッヒ君がハマっている温泉の改良とかもやってみたいかな」
「キー」
おや、こっちの方が反応が良さそうだね。
まぁあれだけのハマりっぷりだ。温泉施設がより素晴らしいものに改良されたら、それはフリードリッヒ君も大喜びだろう。
「一応すでにアイデアは浮かんでいるんだ」
「キー?」
「温泉のお湯が出てくる部分、湯口って言うんだけど――あれをフリードリッヒ君の顔にしてみたらどうだろう? フリードリッヒ君の口からお湯が流れてくる感じで」
「…………」
気のせいかな? なんか微妙に喜んでいるふうではないかもしれない。
「キー」
「そう? まぁフリードリッヒ君がどうしても遠慮すると言うのなら――父の顔にするけれど」
「…………」
前々から、湯口には手を加えたいと思っていたんだ。よくあるライオンの顔にしてみるか、それともフリードリッヒ君の顔にしてみるか、あるいはいつものように父の顔にしてみるか。
ここでフリードリッヒ君が遠慮するなら、当初の予定通り父の顔に――
「父の口から、ダバダバお湯が流れてくる感じに――」
「いったい何を企んでいるんだいアレク……」
「おぉ? 父?」
背後から父に話し掛けられた。いつの間に背後を取ったのだ父よ。
「ノックをしたんだけど気付いてもらえなかったみたいで、それで扉をちょっと開けたら、なんだか不穏な会話が聞こえてきて……。僕の口から温泉っていうのはいったい……」
「父の口から温泉が出るのはダメかな?」
「ダメでしょ……」
「いや、だって、鼻から出るよりはマシじゃない?」
「…………」
口がダメなら鼻だろう。そっちの方がいいと言うのか父よ。確かにそれもちょっと面白そうではあるけども。
「父の口からお湯が出るか、父の鼻からお湯が出るか――父はどっちを選ぶのさ」
そんな二つの選択肢を提示してみた。二つから選ぶようにお願いしてみた。
これが俗に言う――肯定的ダブルバインド。
こうして選択させることで、上手く相手を誘導しようという交渉テクニックで――
「まず口か鼻という二択がおかしい」
「…………」
あっさりと破られてしまった……。やるな父……。
「それはそうと、父はどうしたの? 何かあったのかな?」
「『それはそうと』で済ませられる話題じゃないんだけど……えぇと、アレクに荷物が届いたんだ」
「ほう。荷物とな」
なんだろう? 誰からだろう? 父はわざわざマジックバッグを持っているし、わりと大きめの荷物なのだろうか?
そんなことを考えながら父を見ると、父はマジックバッグに手を伸ばし――取り出した荷物をテーブルにどさりと置いた。
「これは……手紙?」
「手紙だね。アレクが書いた手紙」
「おー、ついに届いたんだね」
世界旅行中、僕がメイユ村とルクミーヌ村の人達へ向けて書いた手紙のようだ。ようやくここまで届いたらしい。
「でもさ、僕がみんなに書いてみんなに送った手紙を、僕の荷物だと言われて僕に届けるのも違うと思うのだけど……」
「そんなことを言われても……」
◇
さておき、手紙がここまで届いたので、これからみんなに届けなければいけない。
そうなると、やはり出番となるのが――
「よろしくねフリードリッヒ君」
「キー」
フリードリッヒ君の出番である。
紺色の制服と帽子に、郵便記号っぽいマークが貼り付けられた特注のポシェットタイプのマジックバッグ。この郵便屋さんスタイルで、今回も村のみんなに届けていただきたい。
「……ごめんねフリードリッヒ君、大変な役目を押し付けてしまって」
「キー」
「うん、ありがとうフリードリッヒ君……」
きっと村のみんなも、郵便屋さんフリードリッヒ君が手紙を届けてくれることを待ち望んでいるはずだ。なにせとても可愛らしいから、きっとみんな喜んでくれるはず。
とはいえ、フリードリッヒ君を労ってあげたい回だったのに、むしろさらにフリードリッヒ君を働かせる流れになってしまったことについて、それは大変申し訳なくもある……。
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