第754話 アイテムボックス探索隊9 ――ヘズラト君の私物2
「まぁ冗談です」
「まったく、質の悪い冗談だよ……」
というわけで冗談らしい。アイテムボックス内の保管庫にて発見されたヘズラト君の日記帳だが、別にナナさんも本気で盗み見ようとは考えていないらしい。
「さすがに私も他人の日記帳を覗いたりはしませんよ」
「まぁそれはそうだよね」
「他人の日記を覗くなんて許されないこと――ですが、マスターならどうです?」
「うん? 何? どうって……?」
「少なくともマスターとヘズラト君は他人ではないでしょう? マスターなら許されるのでは?」
「いやいや、僕でもダメだから……」
「しかしマスターも気になりますよね? 他でもないヘズラト君の日記帳ですよ?」
「それは確かに気になるけど……」
ヘズラト君の日記なぁ。なんか時々書いているのは見るんだよね。
果たしてどんなことを書いているのか。やっぱり僕のことも書いていたりするのかな……。
「どうします? マスターへの愚痴なんかがびっしり書かれていたら」
「心が打ちのめされて、もう立ち直れないと思う」
いつも僕に尽くしてくれるヘズラト君が、そんなことを書いていたらと思うと……。
でも愚痴かぁ……。愚痴くらいなら仕方ないのかな。普段から何かと迷惑を掛けているものね……。
まぁ愚痴じゃなくて、ツッコミとかなら耐えられそうなんだけどね。やっぱり僕もツッコミどころの多い人生を送っている自覚はあるわけで……。
「でも、できたら良いことを書いていてほしいな」
「良いことですか? 例えば?」
「例えば? えぇと、そうだな、例えば――『アレク様パーティーハット似合う』とか『アレク様乗せるの嬉しい』とか『アレク様は妹思い』とか、そんなことを書いていてくれたらいいなって……」
そんなふうに僕のことを思って、そんなふうに日記に残してくれたなら、僕としてもこれほど幸せなことはない。
「なるほど、それはいいですね。なんだか心が和む日記です。ほっこりします。――まぁ実際はマスターが自分で自分を褒めているだけで、自画自賛の自己肯定でしかないのですが」
ナナさんが言わせたんだろうに……。
「どちらにせよ、たとえ誰であろうと勝手に日記を見るなんて許されるわけないよ」
「では、やはり見ませんか?」
「見ないとも」
「そうですか。さすがですね。さすがは自称紳士のマスターです」
「自称……。うん、まぁいいや。とりあえず日記はそのままにしておいて、そろそろ戻ろうよナナさん」
「そうしましょうか」
てな感じで、いつものようにナナさんと取り留めのない会話を繰り広げつつ、通路に戻ろうと部屋を引き返したところで――ふとナナさんが足を止めた。
「ナナさん?」
「ああ、すみません、ちょっと気になる棚があったもので」
「気になる棚?」
「なんでしょうね。この棚だけ、並んでいる物がバラバラな気がしたのです」
「ふむ?」
そんなナナさんの意味ありげな言葉に興味を引かれて、ついつい僕も足を止めてしまった。
そして、その棚に置かれた物というのが――
「ふーむ。なんだか全体的に、長いこと使い込まれた古めの道具が並んでいるような気がするね」
お財布とか筆記用具とか服とかマジックバッグとか、種類としてはバラバラだけど、どれも若干くたびれている印象を受ける。
「ヘズラト君が昔使っていた物でしょうか」
「そんな感じじゃない?」
「しかし同じ棚に、木彫りのヘズラト君なども置かれていますが」
「おや、本当だ」
こじんまりとした可愛らしい木彫りのヘズラト君。
今はもう懐かしい大ネズミバージョンのヘズラト君と、現行の大シマリスバージョンのヘズラト君の木像が置かれていた。どっちも僕が作ってプレゼントした物だ。
「あれ? でもそうなると……。これはもしかして……」
ふと、思い当たる節があった。
お財布も筆記用具も服もマジックバッグも大ネズミ像も大シマリス像も、この棚の物は全部――
「……僕がヘズラト君にプレゼントした物だ」
間違いない。どれも見覚えがある。僕のプレゼントだ。
このお財布もそうだ。以前にプレゼントした物だ。やっぱりちょっとくたびれていて、それを見て新しいのを買ってあげたんだ。だからもう昔のは捨てたのだと思っていたんだけど……。
でもそうか、捨てていなかったか。ヘズラト君は全部大事に取っておいてくれたんだな……。そうかぁ……。
「マスター?」
「…………」
いかん。なんだか目頭が熱くなってきた。ずるいよヘズラト君。さすがにこれはずるいってば。
参ったな。こんなところをナナさんに見られたら、いったい何を言われるか――
「たとえ日記を読まなくても、マスターに対するヘズラト君の気持ちはしっかり伝わってきましたね」
「おぉ……」
泣きそうな僕を茶化すでもなく、むしろ温かい言葉を掛けてくれた。そして僕は、その言葉で余計に泣きそうになってしまって――
……ふむ。あえて温かい言葉を掛けることで、本格的に僕を泣かせてやろうというナナさんの企みを感じなくもない。
「でもまぁ、ありがとうナナさん」
「いえいえ、なんなら私もこの棚には感動したくらいです。ヘズラト君とマスターの思い出の棚ですね。マスターもヘズラト君の気持ちに感動して、このままおいおいと泣き崩れても構いませんよ?」
「泣かないけども」
とりあえずナナさんの前では意地でも泣かんけども。
「それにしても、どうせならもっとたくさんプレゼントをしてあげたらよかったねぇ」
「そうですか? この棚を見る限り、わりと頻繁にプレゼントしている印象ですが」
「でもこんなに喜んでくれて大切にしてくれたわけでしょう? それならもっとたくさんプレゼントをしておけば――あ、いや、別に今からでも遅くはないのかな?」
「はい? 今から?」
「うん、そうだよね。まだ間に合うよね。これからはもっと盛大に、もっと景気よく、もっと気持ちがこもったプレゼントをヘズラト君にどしどし贈ってあげよう」
それがいい。そうしよう。とてもいい考えだ。これからはヘズラト君にどしどしプレゼントを――おや?
「どしたのナナさん」
「ええまぁ……」
なんか妙に複雑な表情をしているけれども?
「何やら少し不安になりまして……。マスターが気合いを入れると、大抵は空回りして失敗することが多いため……。それを思うと、きっとろくでもない物をどしどし贈りつけるような気がして……」
「…………」
そうか……。そうすると、その残念なプレゼントもこの棚に送られて……。ナナさんすら感動した思い出の棚が、ただただ残念な棚になってしまう可能性を危惧しているのか……。
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