第752話 アイテムボックス探索隊7 ――ミコトさんの私物
――さくさく探索である。
木材部屋の探索だけはさくさくと終わり、再び十字路へと戻ってきた。
「では、最後に直進ですね」
「そうしよう」
この十字路を右に曲がった先には僕の荷物部屋があって、左に曲がった先には木材部屋があった。二部屋の探索が終わり、残るは直進のみ。
ナナさんと二人で通路を真っ直ぐ進んでいくと――
「ほう。また十字路ですか」
「そうみたいだね」
少し進むと、再び十字路に差し掛かった。
さてどうしたものか。右に行くか左に行くか直進するか。……ミコトさんなら後退を指示するかもしれないけれど、さくさく探索を目指す僕達にその選択肢はない。
「どうしようか?」
「では、また右から行ってみましょう」
「よしきた」
というわけで、二つ目の十字路を右に――
うん、なんだか道案内の台詞っぽくなったけど、とりあえず二つ目の十字路を右に曲がり、先へと進んでいく。
すると、またしても新たな部屋が見えてきて――
「はて、ここは?」
「わりとこじんまりとした部屋ですね」
「うん、棚の数も少なくて――おや?」
なんだか見覚えのある道具を見付けた。
ハンマーだ。木工用ではなく、武器としての木製ハンマー。柄が長く、遠心力を利用して思いっきりぶん回してぶん殴るためのハンマー。
しかしこのハンマー、そんじょそこらのハンマーではなくて――
「世界樹の槌だ……」
間違いない。以前に僕が作って、ミコトさんにプレゼントした世界樹の槌。
これがあるということは、もしかしてこの部屋は――
「ミコトさんの保管庫なのかな?」
「他の荷物からしても、そのようですね」
やっぱりそうだよね。全部ミコトさんが収納した私物っぽい。
武器の他にも、お金とか日用品とか、服とかも置いてあって――
「待って、これは……どうなの? なんかダメじゃない? なんだかいけないことをしている気分になってきた」
あんまりこの部屋はじっくり見物してはいけないような……。
なんというか、ミコトさんの私物ばかりってのがよろしくない。いろんな人の荷物がごちゃ混ぜだったらそういうこともないんだろうけど、この部屋にはミコトさんの私物しかなくて、これではまるでミコトさんの部屋とか棚とかバッグの中を盗み見ているような感覚になってきてしまって……。
「なるほど、知人女性の家に忍び込んで、タンスの下着を物色している変態の気分になってきましたか」
「さすがにそこまでじゃない」
さすがにそこまでのことはしていないはずだし、さすがにそこまでの気分にはなっていない。
「とりあえず出よう。部屋の様子はわかったし、あんまり見なくてもいいはずだ」
「なるほど、さすがですマスター。紳士的な対応ですね」
「当然だよナナさん。僕は他人のプライバシーを尊重できる紳士なんだ」
なにせプライバシーを……うん? プライバシー?
「というか、今って天界から見られているのかな?」
「はい? 急になんの話ですか?」
「僕って基本的に天界のディースさん達に見られているじゃない? 今もなのかな? こんな不思議空間でも、天界からはしっかり見られるんだろうか?」
プライバシーの話をしていて、ふと思い付いた。
アイテムボックスの中とかいう不思議空間なら、僕の姿を見ることができないのでは? 今だけは僕のプライバシーも守られているのでは?
「不思議空間と言えば不思議空間ですが――とはいえ、その不思議空間を作ったのもディース様本人ですよ?」
「む……。そう考えると、あんまり期待できないような……」
じゃあやっぱり見られているのか……。今度こそ本当の自由を手に入れたかと思ったのに……。
「――なるほど、そういうことですか」
「うん?」
「ミコト様の部屋を前にして、妙に紳士ぶった振る舞いをしているかと思ったら、天界の目があったり私が近くにいるからなのですね?」
「え? いや、別にそんなことは――」
「監視の目がなく、マスター一人であれば、また違った反応だったことでしょう。もっとじっくり見物して、軽く拝借なんてことも……」
「しないよ……。軽く拝借って何よ……」
「以前にマスターも、『そもそも共有アイテムボックスなのだから、中に入れた物を着用されても文句は言えない』とおっしゃっていた記憶があります」
「言ってないから」
捏造だ。僕じゃない。それを言ったのはナナさんだ。
なんなら僕は『それでも文句は言える』と伝えた記憶がある。
「バカなことを言っていないで、もう行くよナナさん」
「そう言って、後ろ髪を引かれながらも部屋を後にする僕なのであった……」
「勝手に変なナレーションを付けないでくれるかな……」
そう言って、後ろ髪を引かれることもなく部屋を後にする僕なのであった。
「それにしても、ミコトさんの保管庫はだいぶ小さめだったね。もっと積極的にアイテムボックスを活用している印象だったけど」
「あー、そうですね。しかしそれは、おそらく理由があって……」
「理由?」
「まぁそのあたりの謎は、次の部屋を調査したらわかるのではないでしょうか」
「ふむ?」
◇
というわけで、次の部屋へやってきた。
二つ目の十字路を左に進んだ先の部屋だ。
そうして訪れた新たな保管庫だが、先ほどの部屋とは一転し、途方もなく広い空間が広がっていて、しかもそこに置かれている物は――
「なんか大量の食料が並んでいるけど……」
「ミコト様の第二の保管庫で間違いないでしょう」
「なるほど……」
僕の木材部屋と同じように、ミコトさんの食材部屋も別で管理されているらしい……。
見渡す限りの食料品……。いったいどれだけ溜め込んでいるのだミコトさん……。
「これらがすべてミコト様の血肉になるわけですね」
「そうだねぇ……」
ミコトさんの血となり肉となってしまうのだねぇ……。
「それはそうと、この部屋はどうしたものかな。さっきの部屋とは別の意味で、あんまり見回る気にならないよね……」
プライバシー的な配慮はいらないのかもしれないけれど、食べ物が並んでいるだけだしさ……。
美味しそうな物は並んでいるけど、でも別に食べられないという……。いや、まぁ僕の食料は勝手に食べているミコトさんだし、逆に僕が食べても怒られるってことはないんだろうけど、でもたぶん微妙な顔はしそうだよね……。
「では今回もさくさく探索ということで、スキップして次の部屋に向かいましょうか」
「そうだね。そうしよう」
というわけで、通路を引き返して次の部屋を目指す。
ここまで僕の部屋、ミコトさんの部屋と続き、そうなると次の部屋は――
「次は、ヘズラト君の部屋でしょうか」
「流れ的にはそうなるよね。ヘズラト君の保管庫はしっかりしていそう」
僕もミコトさんも、なんだかちょっと残念な感じだったからな。その点ヘズラト君ならば心配はない。スマートでそつのない結果に落ち着くだろう。
「確かにそんな予想は立ちますが――しかしどうですかね、案外驚くような物が保管されているかもしれませんよ?」
「驚くような物?」
「いつも真面目で誠実なヘズラト君ですが――意外や意外、エッチな写真集などが保管されているかもしれません」
「え、エッチな写真集……?」
いや、そんなまさか、ヘズラト君に限って……!
「どうします? 裸のシマリスの写真集なんて物が出てきたら」
「……それはただの動物図鑑では?」
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