第750話 アイテムボックス探索隊5 ――さくさく探索
「まぁ冗談です」
「そうなのか……」
冗談らしい。ナナさんは別に男性陣を人柱にするつもりはないらしい。
「むしろ私は、男性に対しても女性に対しても平等に接したいと考えております」
「なるほど、それは良いことだね」
「マスターを反面教師にして、今の時代にふさわしい価値観にアップデートしていきたいです」
「…………」
あくまで僕の男性陣への扱いは雑だという認識は改めないつもりらしい。ついでに僕は時代に取り残されているとダメ出しされてしまった。
「……まぁいいや。じゃあえっと、とりあえずナナさんもアイテムボックスに付いてきてくれるのかな?」
「そのつもりです」
「そうか、ありがとうナナさん」
そういうことらしいので、二人でアイテムボックス探索に繰り出そう。
もう今の時点で予定から一週間も遅れているからね。いい加減に話を進めようではないか。
「じゃあさっそく――いや、その前に移動かな」
「移動ですか?」
「僕達をアイテムボックスに収納してくれるよう、ミコトさんかヘズラト君に頼まないと」
ミコトさんに頼もうかヘズラト君に頼もうか――まぁどちらにせよ、向かう先は決まっている。
「そういうわけで、まずはダンジョンに向かおう」
「ほう。二人とも今はダンジョンに?」
「うん、ミコトさんはすでにアレクハウスで生活を始めているし、ヘズラト君も今日はダンジョンに向かうと言っていたから」
「なるほど、ヘズラト君が一人でダンジョンに向かったということは――」
「今も温泉エリアにいるはずだね」
「ハマってますねぇ」
「そうだねぇ」
心から温泉を楽しんでくれているようで、何よりである。
カピバラさんへの道を着実に歩んでいるヘズラト君なのであった。
◇
「やぁやぁ、いらっしゃい」
「お邪魔しますミコトさん」
温泉でのんびりしているヘズラト君の邪魔をするのも申し訳ないので、今回はアレクハウスのミコトさんを訪ねた。
そうして久々に訪れたミコトさんのミコトルームだが……なんだろう。なんかちょっと雰囲気が変わったような気がする。
「ふむ。模様替えとかしました?」
「あー、そうだね。前はもっといろいろ物があったんだけど、アイテムボックス能力を貰えたこともあって、少し整理したんだ」
なるほど、確かにアイテムボックスがあれば不要になる物も多そうで――というか、冷蔵庫だ。
そういえば冷蔵庫が変わっている。前はバカでかい魔道具の冷蔵庫が設置されていたはずだが、アイテムボックス能力取得で不要になったらしい。
……そもそも女性のひとり暮らしで、あの大きさの冷蔵庫はいらないよね。
「さて、今回はアレク君とナナさんのアイテムボックス移送か。どうする? もうさっそく移動するかな? それともお茶でも飲んでからにするかな? お菓子もあるよ?」
「ありがとうございます。ですが探索に時間が掛かるかもしれませんし、ここは移動を優先させていただきたいと考えています」
「ん、そうか。じゃあさっそく移送を始めよう」
と言いつつ、ミコトさんはアイテムボックスからお茶とクッキーを取り出した。そっちはそっちで食べ始めるらしい。
「では二人とも、準備はいいかな?」
「お願いします」
「前と同じように、5秒前からカウントダウンを始めて、ゼロになったら二人を移送しようと思う」
そう言って、ミコトさんが僕とナナさんの肩に手を置いた。
そして始まるカウントダウン。いよいよ二人でアイテムボックス突入である。
「5、4、3、2、1――」
「……カウントダウン怖いですね」
ポツリとつぶやく声が隣から聞こえた。
うん、気持ちはわかるぞナナさん……。
◇
「よーし、無事に到着」
一週間ぶりのアイテムボックスだ。四つの扉があってペナントが飾られている例の部屋に到着した。
ナナさんも無事に移動できただろうか。そう思って隣を見ると――
「おぉ……」
とりあえず移動はできたっぽい。なんか格好いいポーズをしてる。
うつむき加減で片膝をついて拳を床に立てて……。どこかで見たようなポーズだな……。
「というか、大丈夫?」
「ええ、問題なく移動できたようですね」
「そっかそっか、それは何より」
すっくと立ち上がり、ナナさんが返事をした。
どうでもいいんだけど、やっぱり移送前にそのポーズで待機してたのかな。
「なるほどなるほど――どうということはなかったですね。余裕でした。これだけのことなのに、一週間も掛けて魚やらニワトリやらの移送実験を繰り返し行って……。いやはや、心配性のマスターには困ったものです」
「ああ、うん……。まぁナナさんにもしものことがあったら大変だからね……」
あきらかにナナさん主導で万全を期した感じもするけど……。
……まぁいいや。それでナナさんもある程度は安心して挑めただろうし、実際無事に移送できたわけで、僕としてはそれだけで十分だとも。
「そしてここがアイテムボックスの中ですか。あれほど執着して焦がれ続けたアイテムボックス能力ですが、まさか能力を取得する前に、アイテムボックス内に自分が突入することになるとは思いませんでした」
「あー、そうだねぇ……」
ナナさん的には、どんな感情なのだろう。自分が使えないアイテムボックスに入るというのは、わりと複雑な心境だったりするのだろうか……。
「これは――私のアイテムボックス能力取得も近いと言わざるをえません」
「え?」
「実際にアイテムボックスに触れることで――全身で余すことなく触れることで、能力取得の可能性が飛躍的に高まっているはずです」
「おぉ、そうなのか……。えぇと、そうかもね。確かにその可能性はあるかもね……」
わりとポジティブだなナナさん……。
「さておき、それでは探索を始めましょうか」
「そうしよう。頑張ろうねナナさん」
「頑張りましょうマスター。これから探索を――さくさくと探索していきましょう」
「うん? さくさく?」
「さくさく探索です。正直なところ、マスターの探索は進行が遅く、焦ったい気持ちがありました」
「む、それは……」
それを言われてしまうと、なんとも……。
「まぁマスターはマスターなので仕方がないのかもしれませんが」
「どういう意味かな?」
なんか以前にディアナちゃんからも似たようなことを言われたな。『そんなだからアレクはアレクなんだよ?』とかなんとか……。
というか、僕の探索が遅かったのはナナさんのせいもあるけどね? ナナさんがDメールでろくでもない指示ばかり出したのも原因のひとつだからね?
◇
兎にも角にも、僕とナナさんのアイテムボックス探索が始まった。
まずは手始めに、通路を進み十字路を右に曲がり、前回訪れた保管庫までやってきた。さくさくである。ここまではさくさく探索だ。あっという間に前回の探索地点まで追いついてしまった。
そして現在、僕とナナさんが何をしているかと言うと――とある実験を行っていた。お鍋とスプーンとヤギのミルクを使った実験だ。
まず棚に置かれている鍋の取っ手を掴み、アイテムボックス効果の時間停止を解除する。それから鍋に張られたミルクをスプーンですくって、一滴だけを鍋の中に落とす。
そして一滴のミルクが鍋のミルクに落ちた瞬間に――鍋から手を離して時間を止める。
「お、これはいい感じじゃない?」
「綺麗にできましたね」
――ミルククラウンである。
粘性のある液体に一滴を落とした瞬間、そのしぶきが王冠のように広がる現象。
というわけでアイテムボックスの時間停止を使って、僕とナナさんはミルククラウン作製に挑んでいた。何度もチャレンジして、ようやく納得のいくものが――
「――って、そうじゃないよナナさん」
「はい? どうかしましたか?」
「さくさく探索はどこへ行ったのか」
さくさくと探索を進めるはずが、何故ミルククラウンチャレンジをすることになったのか……。
さくさく探索とはかけ離れた現状だ。というか、たぶん今の状況は探索ですらない。なんか二人で遊んでいるだけだ。
「おかしいですね……。間違いなく私はさくさく探索を目指していて、その気概を持って挑んだはずなのですが……。これはおかしい――というよりも、もはや恐ろしい。マスターに付き合っていたら、いつの間にかぐだぐだ進行に巻き込まれてしまいました。なんて恐ろしい。我がマスターながら、恐ろしい能力です」
「僕のせいなのか……」
なんならナナさんもそういう能力ありそうだけどな……。僕とナナさんの相乗効果なのではないだろうか……。
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