第749話 アイテムボックス探索隊4 ――人柱
――アイテムボックスから脱出し、自室へと戻ってきた。
それからすぐトイレに向かい、無事に自らの尊厳を守り抜いた後で、再び自室へと戻ってきた。
そして僕とナナさんとミコトさんの三人で、アイテムボックス内の探索について、あれやこれやと話し合っていたわけだが――
「そろそろ僕一人じゃなくて、他の人とも一緒に探索していきたい所存」
そんな提案をしてみた。
さすがに僕一人ではそろそろ限界だ。一人で散策して、一人で調査して、一人で考察して――さすがにそろそろ間が持たない。
一応Dメールでのやり取りはあるけど、できたら他の人と直接話したい。話しながら探索したい。
「というわけで、ナナさんとミコトさんにも同行してもらって――ついでに大シマリスのトラウィスティアさんも誘って、アイテムボックスのことを知っている人達全員で行くのはどうだろう」
それだけ人数がいたら、探索も一気に進むはずだ。ついでに僕も寂しくない。どうかな? 良い案なのでは?
「……それは大丈夫なのですか?」
「ん? 何か問題が?」
ナナさんが不安そうな顔をしている。はて、何を心配しているのだろう。
「アイテムボックスを利用できる全員がアイテムボックス内に入ったことで、中の人を引っ張り出す人がいなくなってしまい、全員が閉じ込められる可能性はないですか?」
「…………」
……あるね。確かにその可能性はある。
なんて恐ろしい流れだ。危ないところだった。いきなり詰むところだった。
「ありがとうナナさん……。それじゃあダメだね。全員はダメだ。誰か残ってもらわないと」
「あるいは――私だけ外に残りましょうか?」
「え? いや、ナナさんだけ残っても……」
アイテムボックスを使えないナナさんでは、中の人を引っ張り出すこともできないし……。
「マスターとミコト様とトラウィスティアさんの三人がアイテムボックスに閉じ込められているところで、外の私がアイテムボックス能力に目覚めて三人を救出するというのも、なかなか美しいストーリーだとは思いませんか?」
「……まぁ感動的ではあるかもしれないけどね」
とはいえ、そもそもナナさんが本当にアイテムボックス能力に目覚めるかもわからんし、そんな可能性に掛けて勝負するのもどうなのかなって……。そこは普通にミコトさんかトラウィスティアさんに残ってもらった方がいいんじゃないかなって……。
「そういうことなら、やっぱり私は残ろうかな。一応トラウィスティアさんにも残ってもらって、アレク君とナナさんの二人で探索するのが良いと思う」
「なるほど……。そういうことみたいだけどナナさん」
「そうですか。そうですねぇ……」
そう呟いてから、これまた難しい顔で考え込んでいるナナさん。
まぁナナさんは最初からイヤがっていたからな。『何が起こるかわからないし、戻って来られる保証もない』と、そう言いながら僕を送り出したナナさんだから……。
「やっぱりナナさんは気が進まない? 実際にアイテムボックスに入るのは不安だったりする?」
「それもありますが、マスターが不安そうにアイテムボックス内を探索しているところを、安全な場所からDメールで適当な指示を出すのが楽しかったのですよ」
「…………」
うん、そうなんだろうな。楽しかったんだろうな。そんな雰囲気は伝わっていた。
「ですが――わかりました。マスターにそこまで深々と頭を下げられて、涙ながらに懇願されたら、私も了承せざるをえません」
「そこまでは頭を下げていないし、別に泣いてもいないけど」
「というわけで、私もアイテムボックス内に同行しましょう」
「おぉ、ありがとうナナさん」
なんやかんやで同行してくれるらしい。
うん、ありがたいね。ナナさんがいてくれたら百人力だ。ナナさんと一緒なら、きっと探索も順調に――
……いや、どうなんだろうね。なにせナナさんだからな。なんと言ってもナナさんなのだ。どんな探索になるか、むしろちょっぴり不安もある。
「ではさっそく――と言いたいところですが、もう時間も時間ですし、今日の探索はここまでとして、明日から二人で探索を進めましょう」
「ん、そうしよう。明日から頑張ろうナナさん」
「ええはい、明日から」
◇
――それから一週間経った。
「一週間だねナナさん」
「そうですねマスター」
一週間である。
明日からという話はなんだったのか。そう思ってしまいそうなところだが、一応は理由があるのだ。
そもそも今までアイテムボックスに入ったのは僕だけで、無事にアイテムボックスから出てきたのも僕だけであった。
他の人も無事でいられる保証はない。あるいは元々のアイテムボックス能力所有者である僕だから無事だったという説もあり、本当にナナさんも入ることができて、無事に戻ってこられるかの調査は必要だと思う。
そしてこの調査に、一週間という期間が必要だったのだ。
「何気に大変だったねナナさん」
「そうですねぇ。やはり時期が問題でした。なにせ今の季節が冬なもので、時期が悪かったです」
だいぶ冬の終わりも近づきつつあるが、まだまだ寒さが残るこの時期。何がまずいかと言うと、この時期は――昆虫がいないのだ。
昆虫である。生物のアイテムボックス移送実験に、昆虫を使おうと考えたのだ。試しに昆虫を入れてみようと考えた。それで昆虫を探してみた。しかし時期が時期だけに昆虫を見付けられなかった。
――そして二日無駄にした。
二日ほど昆虫採集に費やし、そして何も得られなかった。
「それでも一応、虫ならいないこともなかったのですが」
「いやいや、虫ならなんでもいいわけじゃあないから……」
アイテムボックスに入れてみて、あんまり小さいと見失うことも考えられるし……。あと、できたら僕が触れるような昆虫がよくて……。
で、昆虫を諦めた僕達が、次に何をしたかと言うと――
「まぁ魚でよかったですよね」
「そうだね。それにナナさんが気付いてくれて助かったよ」
魚でいいのではないかとナナさんが提案してくれた。とても良いアイデアだと思った。もっと早く気付けたらよかった。……そもそも何故あれほど虫に執着していたのか。
「そして魚を川で釣って、生きている魚をアイテムボックスに移送してみて――」
「普通に生きてたね。ミコトさんにお願いして、僕もアイテムボックスの中まで追いかけてみたけど、最初の部屋の床でピチピチ跳ねていたよ」
無事に実験成功。何気にこの成功は大きいと思う。その後も、いろんな小動物を入れてみて、ニワトリを入れてみたりと検証を重ね、ひとまず生物のアイテムボックス送りに問題はないと確証が得られた。
そんなこんなで一週間が過ぎて、ずいぶんと時間は掛かってしまったが、ようやくすべての準備が整ったという状況だ。
「よし、じゃあ次はいよいよナナさんだね。ナナさんをアイテムボックスに送らせてもらおう」
「…………」
「ナナさん?」
「いろいろと検証はしましたが、それでもいざ自分の番となると、やはり躊躇してしまいますね」
「あー、そっか。それはまぁそうだよね……」
怖いものは怖いか。やっぱりいざ自分がアイテムボックスに入ってみるというのは――
……そう考えると、なんの確証もなく、そもそも検証すらもなく、それでいきなりアイテムボックスに突入した僕は、本当に勇気ある行動だったのでは? 勇者の息子として本当に立派だったのでは? なんならもはや勇気ではなく蛮勇と言えるレベルだったのでは?
「これまで大丈夫だったわけで、まず問題はないとは思うのですが……」
「うん、それはそうだと思う。一週間掛けて、じっくり検証を繰り返したからね」
「しかしここは、ひとまず別の誰かで――セルジャンお祖父様や、ジェレパパさんやジェレッド君、もしくはカークおじさんあたりで試してみませんか?」
「…………」
誰か別のやつを人柱にせよというナナさんの提案。しれっとなんてことを言い出すのか。
「というか、なんで男性ばかりなのよ? しかもその言い方は、どうにも男性陣へのあたりが強いというか、男性陣への扱いが雑じゃない?」
「おそらくマスターの教育の賜物でしょう」
「…………」
僕を見て、男性陣への対応を学んだと? 僕は男性陣へのあたりが強いと? 僕は男性陣への扱いが雑だと?
いや、そんなことは……。別にそんなことは……。たぶんそんなことは……。
next chapter:アイテムボックス探索隊5 ――さくさく探索




