第747話 アイテムボックス探索隊2 ――指示待ちエルフ
『正面には四つの扉があって、その反対側には先へと続く通路がある。――これから僕はどうしたらいいと思う?』
――てな感じのDメールをナナさん達に送ってみた。
ナナさんやミコトさんも一緒に冒険している気分を味わってほしいという、僕なりの心遣いである。
「さてさて、二人はなんて返すだろうか」
アイテムボックス内でぼんやり返信を待っていた僕だったが、そうこうしているうちにナナさんからメッセージが届いた。
その内容が――
『大量の水をアイテムボックスに収納する実験をしてみたいので、そのままお待ちいただけますでしょうか』
「やめろナナさん」
いきなり何をしようというのか。水攻めじゃないか。何故ナナさんはそこまで水攻めに執着しているのか。しかも標的は僕だ。僕を相手に水攻めしようとしている。
「いや、そうは言っても、この部屋に水が流れ込んでくるとも限らないけど……」
実際この部屋には収納した荷物も置かれていないし、たぶんここへは来ないはずだ。さすがにこの部屋が水没するってことはないはずよね……?
……というか、それで言うとさっきの僕の行動は軽率だったかもしれないな。深く考えず、軽々しくアイテムボックスを使ってしまった。何の気なしにアイテムボックスからハンマーを取り出し、何の気なしにアイテムボックスへハンマーを収納してしまった。
もしかしたらそのハンマーが、この部屋に戻って来ることも考えられた。そして僕の頭上に振り下ろされる可能性も考えられたわけだ……。なんて恐ろしい……。
「さておき、とりあえずナナさんの案は却下しておこう」
それ以外の行動を指示してほしい。できたら扉か通路かの二択でお願いしたくて――おっと、ミコトさんからも返信が来た。
『通路を進んでみてはどうだろうか』
「あ、そうなんだ。そっちに行くのね」
扉も扉で、だいぶ意味深な扉だとは思うんだけど、それでもミコトさん的には通路優先らしい。ではまぁ、それで進めてみよう。
というわけで、扉を背にして通路へと進み始めた。扉とペナントの部屋を抜けて、通路を歩く。
しばし歩くと――
「十字路だ」
通路はそのまままっすぐ伸びているが、左右にも道が伸びている。そんな十字路に差し掛かった。
「ふむふむ。それじゃあまた二人に指示してもらおう」
今の状況を伝えて、指示を待つ。
なんかこれ楽でいいな。自分で選択しないのは楽でいいと思ってしまった。決断や責任から解放される。気が楽だ。そんな指示待ち人間。そんな指示待ちエルフ。
「……まぁナナさんの指示はあてにならないから、ここもやっぱりミコトさん頼りかな」
先程の回答からもわかる通り、ミコトさんは真面目に協力してくれているようだし、基本ミコトさんの選択肢に沿って進むことになりそうだ。
そして、そのミコトさんの選択が――
『そんなふうに道が分かれているとは思わなかった……。迷子になるのも避けたいし、ここは一度最初の部屋まで戻ってみてはどうだろう……』
「そんなことある……?」
ここで引き返すとかあるのか……。その選択は予想していなかった……。
心配してくれるのはありがたいけど……あるいは僕の能力を過剰に低く見積もっているのかもしれない……。
えっと、ちなみにナナさんの意見は……?
『では最初の部屋に戻って、最初の選択肢からやり直しですね』
――との返信。
んん? どういうことだろう。最初の選択肢とは?
『大量の水を収納するか、通路に行くかの選択です』
……え、その選択に戻って来るの?
でも、それだとどうなるの? 最初に水攻めか通路を選んで――通路を選んだら十字路で引き返して――それからまた水攻めか通路を選んで――通路を選んだら十字路で引き返して――そんな無限ループ?
そうなると、実際に僕が水攻めをくらうまで繰り返されることになるのでは……?
◇
十字路と最初の部屋を何往復かした後、ようやくミコトさんが十字路を右に行くよう指示してくれた。
ようやくだ。ようやく先へ進むことができる。まさか本当にループするとは思わなかった。
そして十字路を右に曲がり、そのまま進んでいくと――
「部屋だ」
部屋があった。ここも扉は付いていないので、そのまま中へ――
「……あ、でもこれも聞いた方がいいのかな?」
その選択も二人に委ねた方がいい? さすがにこれは中に入る一択だと思うけど……。
でもまぁ、一応聞いておこうか。ここまで来たら、もう全部聞いてしまおう。
僕が二人にDメールを送り、しばし待つと――ナナさんから返事が届いた。
『さすがに入りましょうか』
まぁそうだよね。さすがにね。
ちなみにミコトさんは――
『うーん……』
ここでも迷っている……。だいぶ慎重派だなミコトさん……。
ひとまずここはナナさんの選択を採用し、部屋の中へ進むことにした。
一応僕もミコトさんに倣って、慎重に警戒しつつ中へ入ると――
「おー、ようやく収納した荷物の保管庫に到着したっぽい。こんな感じになっていたのか」
棚だ。棚がある。最初の部屋とだいぶ様子が違っていて、ところ狭しと棚が並んでいた。そしてその上に、ずらりと荷物が並んでいる。
「この棚は――壁とか床と同じ素材っぽいな。合成樹脂の棚だ。床がそのまま棚の形にせり上がっているのかな?」
なんなら床にそのまま並べてもいいのだろうけど、一応棚を作ってくれる辺りに配慮を感じる。
で、その上に荷物が並んでいるわけだが――
「ふむ。これは僕の荷物か」
僕が収納した物ばかりが置かれている印象。共有のアイテムボックスだけど、保管庫は分けられているっぽい?
「……なんというか、何気に仕事が丁寧だな。ちゃんと人ごとに分けられているし、棚ごとに大まかな分類もされているみたいだ」
木工道具が多めの棚とか、木工作品が多めの棚とか、剣や弓の武器が置かれた棚とかで分けられている。
「それでこっちは……おぉ、セルジャンシリーズがたくさん……」
棚の上に数々のセルジャンシリーズが綺麗に並べられていた。なんてシュールな棚だろうか。
というか、こんな仕分けをさせているかと思うと、なんだか少し申し訳なくなる……。
「こっちは食品の棚か。こうして見ると、僕もそれなりに食料を溜め込んでいるね。ラフトの町で買ったミートサンドとか、結構な量が並んでいる」
美味しかったので買い溜めしたやつだ。たくさんのミートサンドが並んでいて――
「……え?」
消えた……。並んでいたミートサンドのうち、ひとつが忽然と消えてしまった……。
何? いったい何が起こったんだ? なんでだ? いきなり消えたぞ?
「まるで神隠しにあったように…………うん?」
あ、でもそうか、神隠しだわ……。紛れもなく神隠し……。きっと神様の胃袋に隠されてしまったのだろう……。
このままいくと、この溜め込んだミートサンドは近いうちに全部神隠しにあってしまいそうだ……。
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