第746話 アイテムボックス探索隊
「どうしようかな。一旦帰ろうかな……」
二回目のアイテムボックス突入を果たした僕であったが、なんか怖くなっちゃって、もう帰りたくなってきてしまった。
「帰ろうと思えば、すぐ帰ることはできるんだよね……」
帰ろうと思えば帰れる。外で待っているナナさん達にお願いして、呼び戻してもらえばいいだけだ。そして僕には――ナナさん達と連絡を取る方法がある。
その方法とは――
「――Dメールだ」
Dメールを使ってメッセージを送ればいい。単純な話だ。
ちなみに、このことは事前に話し合っていて、Dメールで密に連絡を取り合おうと約束していたのだ。
「……いやでも、本当に使えるのかな?」
そこがちょっと不安。こんな謎空間でDメールが使えるのだろうか? しっかり繋がるのだろうか? たぶん普通の機器なら繋がらない。スマホなら圏外だと思う。
果たしてDメールが使えるのか。というより、そもそもダンジョンメニューが開くのかどうか……。
「『ダンジョンメニュー』――お、出た」
試しに呪文を唱えたところ、僕の手元にはスマホサイズのダンジョンメニューが開いた。
そうか、出るのか。それは助かる。ではさっそくDメールのメッセージ欄を開いて――
「おや? すでにナナさんからメッセージが届いているじゃないか」
見た感じ、僕がここへ転送された後で送られたメッセージだと思われる。だとするとDメールのやり取りはできるのかな?
ふむ。とりあえず読んでみよう。なんか妙に長いし、もしかしたら重要な内容かもしれない。
さてさて、ナナさんから送られてきたDメールの文面は――
『お気をつけくださいマスター。アイテムボックス内は未知の領域。どんな危険が潜んでいるかわかりません。何が潜んでいるかわかりません。もしかしたら、今もマスターの背後には……。しかし振り向いてはいけません。何の気なしに振り向けば、その瞬間――マスターは『それ』と目を合わせてしまうでしょう』
「…………」
こいつほんま……。
やっぱり僕とナナさんは発想が似ているのだろうね……。僕も似たようなことを考えて怖くなってしまったばかりだけど、ナナさんはさらに恐怖を煽るような文面を送り付けてきた。『それ』って何よ。
というか、このメッセージを見る前に振り向いておいてよかった。そうでなければ、もう絶対に振り向けなかったと思う。怖いよナナさん……。『それ』ってなんなのよ……。
「だけどこうなると、もう帰るわけにはいかないな……」
このDメールの後で、『一旦帰ろうと思う』なんて返信をしたら、怖くなって逃げ出したいのだと思われてしまう。
……いや、実際その通りなのだけど、ナナさんにそう思われるのも癪である。別に僕はナナさんのメッセージで怖くなったんじゃない。一人で勝手に怖くなったのだ。
とりあえずナナさんには、『しっかり探索を続ける』と伝えておこう。これでも僕は勇者の息子。自らの勇気を誇りに思い、ナナさんの言葉なんかで臆するものかと決意を示しておこう。
そうしてポチポチとDメールを打ってから、ようやく探索開始。本格的に調査を進めていこうではないか。
「さて、改めて部屋を見渡してみると――」
それでもちょっとだけ怖さを覚えながらも振り返って、部屋を確認してみる。
広さ的には十五畳くらいかな。家具も何もないので、かなり広く感じる。そして壁も床も白い。なんの素材だろう。わからん。継ぎ目もなくて、合成樹脂っぽい感じ。そんでもって天井は――お、ちゃんと照明が付いてる。円盤状のシーリングライト。
ふむふむ。とりあえず部屋の構造としてはこんな感じか。
「それにしても……ずいぶんと殺風景な部屋だよね」
物がなにもないし、壁も床ものっぺりとした白一色で統一されていて……。まぁ誰かが住むための部屋ではないんだろうし、別にいいんだけど、それにしても無機質で味気ない部屋だ。
「なんか飾り付けとかできないかな……」
例えば壁とかを……いや、でもどうだ? この合成樹脂の壁は、どうにかできるのか?
「例えば釘とハンマーで……あ、いけるか。いけるのか。まさかいけるとは」
というわけで壁に釘を立ててハンマーを振るってみたところ、見事に釘を打ち込むことに成功した。
そして壁に刺さった釘に――いつもの三角ペナントを引っ掛けてみた。
「よし」
あんなに殺風景だった部屋も、ペナントを飾ることによって――
「……なんだか急に残念な部屋になってしまった」
殺風景ではあるが、謎に満ちた不可思議な部屋だと感じていたところを、ペナントを一枚貼るだけで、こうも残念な部屋に変わってしまうとは……。元々は謎の部屋だったのに、今は謎のペナントが一枚貼られた部屋になってしまった……。
なんだか僕も少し残念な気持ちになりながら、使い終わったハンマーをアイテムボックスにしまった。
「……って、あれ? 使えるのか」
アイテムボックス内でも、アイテムボックスを使うことができるらしい。これまた新たな発見。
うむ。無駄な作業かと思いきや、発見はあった。しっかりと探索は進んでいる。ここへ入ってから、まったくもって何も進んでいないように見えるけど、一応はちょっとずつ探索は進んでいる。きっとそう。そうだと思いたい。
「とりあえず部屋自体の調査はこんなところでいいだろう。次はこの部屋の――さらに先を調査していきたい」
やはり気になるのは正面の四つの扉。なんて意味深な扉なのだろう。もちろんこの扉は気になる。気になるが――だがしかし、その反対側も気になる。
扉がある壁の、反対側の壁には――
「通路が続いているね」
通路が見える。こっちには扉がなくて、ずーっと道が続いているのがここからでも確認できる。
はてさて、これはどうしたものか。四つの扉を調べてみるか、それとも反対側の通路を探ってみるか……。
「なんだろう。この世界に転生してからの二十一年で、初めて冒険らしい冒険をしているような気がする」
まぁ自分のアイテムボックスだし、それほど危険はないと思うのだけど、それでも未知の領域でドキドキする。冒険しているなってワクワク感もちょっぴり湧いてきたりする。
「――そうだ。せっかくだし、ナナさんやミコトさんにも冒険のワクワク感を共有してもらおう」
とても良いことを思い付いた。なのでさっそくDメール起動。
ちなみにDメールのメッセージ欄では、ミコトさんが僕の勇気を称賛してくれていたり、ナナさんが先ほど語った背後の『それ』についての妙に凝った設定や世界観を解説していた。
とりあえずミコトさんには感謝を伝え、ナナさんに対して『それ』の話はもうやめるよう忠告した上で、こちらからメッセージを打ち込んだ。そのメッセージが――
『正面には四つの扉があって、その反対側には先へと続く通路がある。――これから僕はどうしたらいいと思う?』
――てな感じのメッセージを送ってみた。
きっとこれで、待っているだけのナナさん達も僕を通して冒険の興奮を味わえるはずだ。
さてさて、ナナさん達はどんな返信をくれるのか。僕をどう導いてくれるのか。これからどんなストーリーを描いてくれるのか。楽しみに待とうではないか。
でもなんというか、ナナさんの返信はちょっぴり不安……。何を書いてくるかわかったものではないからな……。
僕と同じ発想を持つナナさんだし、『とりあえず壁にペナントを飾りましょう』などと、ろくでもない指示が飛んでくる可能性もなくはない……。
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