第745話 アイテムボックスの中
「おぉぉ……」
「おぉぉ……」
「おぉぉ……」
……出てきた。とりあえず謎の白い部屋から脱出できたようだ。自分の部屋まで戻ってきた。
いやー、焦ったね……。本当に焦った。僕も焦ったし、ミコトさんとナナさんもだいぶ焦ったようで、なんだか三人で『おぉぉ……』などと悲鳴を漏らしながらうろたえてしまった。
「なんとか戻ってこれたようで……。あ、えぇと、とりあえずもう大丈夫そうですミコトさん」
「うん? ああ、すまないアレク君」
「いえいえ、ありがとうございました」
たぶん僕はアイテムボックスの中に入ったのだろう。そしてミコトさんが僕を引っ張り出してくれたのだろう。
そのため先程まで僕はミコトさんに顔面を鷲掴みにされていたのだが、ひとまずその手を離してもらった。
「それで、やはりマスターはアイテムボックスの中に?」
「うん、たぶん入れたんだと思う」
「そうですか……。マスターの感覚的にはどうです? 中に入ってから、どれくらいの時間が経過したと?」
「時間? あー、わりとすぐだったね。入ってすぐ、ミコトさんに外へ出してもらえたみたい」
「なるほど、つまり時間停止はなかったわけですか」
「……そうみたいだね」
ナナさんからは『時が止まった空間で永遠に救出を待ち続けることになる』などと脅されたからな……。
そのことが一瞬頭によぎったけれど、不安を覚える前に救出してもらえた。うん、良かったよね。本当に良かった。ナナさんの恐ろしい予想が現実のものにならなくて良かった……。
「ちなみに、中はどうなっていたんでしょう? どのような構造でした?」
「中の構造は……とりあえず部屋っぽかったかな。白い部屋。すぐ外に出してもらえたから、そこまで詳しく見れたわけじゃないんだけど――あ、でも扉があったね」
「扉ですか?」
「扉が――四つかな? うん、確か四つの扉があったと思う。それで、そのうちのひとつが開いたと思ったら、その瞬間ここへ戻ってきたんだ」
「ほうほう。謎の白い部屋で、扉があって、扉が開くと帰ってこれたと……。なんでしょうね。なんだか臨死体験した人の胡散臭い眉唾証言みたいですねぇ」
「…………」
まぁ確かにそんな話に聞こえなくもないけど……。
「でも別に、そんなスピリチュアルな話じゃなくて……」
「三途の川やら、手招きするお婆ちゃんなどはいませんでしたか?」
「いなかったよ……」
というか、誰よそのお婆ちゃん。なんで僕をそっち側に引きずり込もうとしているのよ。普通そこは『まだこっちへ来てはいかんぞアレク』とか言ってくれるんじゃないの?
「それにしても興味深い。非常に興味深い現象です。普通に入れるものなのですね」
「そうだねぇ。わりとあっさり出入りできたね」
「しかしまだまだ検証が必要そうで――とりあえずもう一回行ってきますか」
「えぇ……? また行くの……?」
「それはそうでしょう。もっと調べなければ」
確かにそうなのかもしれないけど……。
いやでも、また行くのか……。やっぱりちょっと不安で、ちょっと怖いのだけど……。
「あ、それじゃあナナさんも一緒に行かない?」
「私も?」
「たぶんナナさんも入れるよね? 回収担当のミコトさんには残ってもらうこととして、僕とナナさんの二人で中を探索してみようよ」
「イヤですよ。何が起こるかわかりませんし、戻って来られる保証なんてどこにもないのですから」
「…………」
そんな保証もない危険な行為を、涼しい顔で僕に勧めるのはどういうことなのか。
◇
「また来てしまった……」
ナナさんに説得されて、またアイテムボックス内にやってきた。さっきと同じ白い部屋だ。
「やっぱり怖いな……。あまりにも謎空間すぎて怖い。保証もなければ説明もないし、普通に未知の領域だものな……」
そんな場所を一人で探索しなければいけないとは……。
誰か説明してくれる人とかいないのかな。案内人とかいてくれたらいいのに。ダンジョンナビゲーターのナナさんみたいに、そういう新キャラとかいないのだろうか……。
まぁ正確にはナナさんはナビゲーターじゃなかったみたいだけど、そんな感じのアイテムボックス案内人とか、アイテムボックスナビゲーターとか、あるいは――
「アイテムボックスの精霊さんとか、いたらいいのに」
精霊さん。ここにはいろんな荷物が送り込まれてくるわけで、そういう荷物をせっせと運んで整理している精霊さん。
うん、なんだか想像すると楽しい。とてもほのぼのする。
「いないのかなぁ。いたらいいのにねぇ」
そんなことを呟いてみる僕だったが――
そんなことを呟いてから、しばし待ってみる僕だったが――
……ふむ。出てこないな。いないのか。
もしかしたらいるかもしれない精霊さんに呼び掛けるように台詞を喋ってみたのだけれど、普通に出てこなかった。やはりいないのか。
「まぁそうだよね。いないか。そりゃあいないよね。いるわけなかった」
そんなことを呟いてみる僕だったが――
そんなことを呟いてから、しばし待ってみる僕だったが――
……やっぱり出てこないな。これでもダメか。『いるわけない』と逆に言ってみてもダメなのか。
僕としては、とても良い振りをしたつもりだったのに。出てくるタイミングとして絶好の機会を提供したつもりだった。それでも出てこない。やはり本当にいないのか。
「じゃあ仕方がない。自分で調べるとしようか……」
そんなことを呟きながら、なんとなく振り返ると――
……うん。出てこない。
今度は台詞に加えて、後ろを振り返るという動作まで入れてみたけれど、やっぱり出てこない。
……まぁ振り返ったタイミングでの登場は、相当怖いのだけどね。このタイミングでの登場は、ホラー映画のタイミングなのよ。
正直振り返るのが怖かった。本当にホラーっぽい何かがいたらどうしようかと、無駄に怖い思いをした。むしろ出てこなくて良かったと思ってしまった。
いやはや、僕はいったい何をしているのか。自分で勝手にホラーの雰囲気を演出して、さらに怖くなっちゃって、とても怖くて心細くて……。
どうしたものかな。まだ中に入ってから何もしていないけど、怖いので一旦外に出してくれないかな……。
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