第744話 アイテムボックスのパラドックス
あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします(ΦωΦ)✧
――アイテムボックスに生き物は入れられない。
このお約束を、我が身をもって検証することとなった。
というわけで人体実験である。人体実験と考えると、ちょっとだけ怖さはあるような気もするけれど――でもまぁ問題はない。なにせお約束だから。アイテムボックスがアイテムボックスである以上、中に人は入れないものなのだ。
「……本当に大丈夫ですかマスター」
「ん? まぁ大丈夫でしょ。結局何も起こらないよ」
何やら神妙な顔でナナさんが話しかけてきた。心配してくれているらしい。アイテムボックス関連のやり取りでは、始終ささくれ立っていたナナさんだが、それでもちゃんと僕のことを心配してくれているらしい。
ありがたいね。うん、そこはありがたいけど、でも何も起こらないってわかっているわけだしさ。
「ええまぁ、何も起こらなければよいのですが……とはいえ、もしも本当にアイテムボックスに入ってしまった場合、いったいどうなるか……」
「もしも入れた場合……?」
「とりあえず空気がなくてすぐ死ぬかもしれません」
「…………」
あー、えっと、それはまぁ……確かに空気があるかはわからんし、なかったら死んじゃうけど……。
「他に懸念されることとしては……これまでの検証で、アイテムボックス内は時間が停止しているという結論が得られましたから、そうなると中に入ったマスターがどうなるのか……」
「あぁ、うん、時間が……。時間が停止していて……」
「もちろんミコト様は、アイテムボックスに入ったマスターをすぐに引っ張り出すことでしょう。しかしマスターは、時が止まった空間で永遠に救出を待ち続けることになる。――そんなパラドックスが発生したりするわけです」
「…………」
すごく怖いことを言う。ナナさんがすごく怖いことを僕に言う。
「すごいなアレク君……。私はその話を聞いて怖くなってきてしまったが、それでもやると言うのか」
言ってない。僕も怖くなった。もう無理だ。もうイヤになってしまった。もうやりたくない。
「すごい勇気だ。さすがは勇者セルジャンの息子と言ったところか。その勇気に敬意を払い、すぐにでも検証を始めるとしよう」
待って、それは待って、父の名前まで出して僕の逃げ道を塞がないで。
「お待ち下さいミコト様、すでにマスターはビビって及び腰になっている様子。それでいて今さらやめたいと申し出ることもできずに、まごまごしている様子。やはり検証は中止しましょう」
さすがナナさんだ! 僕のことをよくわかっている! ありがとうナナさん!
「ん、そうなのか? ――そんなことはないだろう。アレク君は自分の勇気を誇り、この程度の些事に臆するものかと決意を示している。そもそもアイテムボックスに人が入れるわけがないと断言しているわけで、こうなったら実際に検証をするまでアレク君は梃子でも動かないぞ」
なんもわかってないなこのポンコツ女神は!
◇
「準備はいいかなアレク君」
「ええまぁ……」
結局我が身をもって検証する羽目になってしまった……。
正直だいぶ怖いのだけど、もうここまで来たら仕方がない。何も起こらないことを祈ろう。お約束がお約束であることを信じよう。
「マスター、ご武運を……」
「お、おう……」
その声掛けはどうなんだろう……。なんか怖いんだけど……。
「しかしご安心ください。少なくとも命の心配はありません」
「ん、そうなの?」
「何かあっても、すぐに蘇生薬で復活させます」
「…………」
怖いなぁ……。
「それじゃあ始めようかアレク君」
「ええはい、いよいよですか……」
「5秒前からカウントダウンを始めて、ゼロになったらアレク君がアイテムボックスに移るよう試してみたいと思う」
カウントダウンか……。んー、確かにカウントダウンの方がいいのかな。一応は心の準備ができそうな気がする。
……いやでも、心の準備できるのかな。そもそも検証をすること自体への心の準備が全然できていないような気がする。
「5、4、3、2、1――」
おぉ、もう始まってしまった。いつの間にか肩に手を置かれて、カウントが進んでいる。
まだなのに。やっぱり心の準備が全然なのに……。
「――ゼロ」
「ぐぬぬ……」
ミコトさんがゼロを告げる瞬間、僕は思わず体を強張らせ、固く目をつむってしまったが――
「……お? おぉ? おー」
――ふむ。なんだなんだ。やはり何も起こらなかったか。
体も動くし、呼吸もできる。とりあえず時間が停止しているわけでもなくて、空気もあるみたいだ。
というより、予想通りアイテムボックスに人は入れなかったみたいだね。お約束が守られたみたいだ。
「いやー、やっぱり何も起きなかったですね。正直ちょっと怖かったんですけど………………は?」
瞳を開くと、辺りは一変していた。
さっきまでいたはずのミコトさんとナナさんの姿は消えており、目の前には見たことのない景色が広がっている。白い部屋だ。無機質で純白の空間。
「え、いや、あれ……? えっと、ここは……どこ?」
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